2025参議院選挙 各分野の政策
41、エネルギー
気候危機打開、自給率向上のエネルギー政策へ
原発・石炭火発から省エネ・再エネへ転換します
2025年6月
エネルギーは食料とともに経済・社会の存立の基盤ですが、日本のエネルギー自給率は1割余と先進国で最低クラスです(OECD38カ国中37位。エネルギーの今を知る10の質問)。原油価格の高騰、ロシアのウクライナ侵略、中東情勢の緊迫など、エネルギーを外国に依存している日本経済の危うさが浮き彫りになっています。ほぼ100%輸入にたよっている化石燃料の国際的な供給量や価格の変動に振り回されないように、エネルギー自給率向上が急務になっています。
同時に、気候危機とよばれる非常事態が進んでいます。すでに世界各地で、異常な豪雨、台風、猛暑、森林火災、干ばつ、海面上昇などが大問題になっています。国内でも猛暑による熱中症の増加や、線状降水帯・ゲリラ豪雨など風水害による災害によって、国民の命が脅かされ、農業や水産業にも大きな被害を与えています。2024年の世界の平均気温は、1850年の気象観測開始以来、もっとも暑い年で、産業革命前に比べると1.55度上昇しました(世界気象機関(WMO))。このままでは、パリ協定の温暖化抑制目標である「1.5度目標」(2020年平均)を超えて、後戻りできない破局的な事態に陥る危険があります。今後の10年間に、全世界の温室効果ガス(GHG)排出を6割削減できるかどうか、ここに人類の未来がかかっています。
原発推進・石炭火発延命に固執するエネルギー基本計画
ところが自公政権のエネルギー政策は、気候危機対策の要である「1.5度目標」とは整合していません。
石破茂内閣が閣議決定した第7次エネルギー基本計画(2025年2月)は、東京電力福島第一原発事故後に掲げてきた「原発依存度を低減させる」を削除し、原発の「最大限活用」と新たな原発建設を明記しました。事故の教訓を投げ捨て、再稼働や新規建設を求めてきた財界要求をまるのみした露骨な原発回帰であり、言語道断です。
政府は、“脱炭素”、“化石エネルギーからの転換”を掲げたGX(グリーントランスフォーメーション)をすすめていますが、GX電源法(2023年通常国会で成立)では、60年を超えて原発を運転できる仕組みを導入するとともに、原子力基本法に、原発推進、原発産業支援、原発への投資環境整備を明記しました。原発の建設費の回収を保証するために、「長期脱炭素電源オークション」が導入され、4基(島根3号、泊3号、柏崎刈羽6号、東海第二)が採択されました。
有数の地震国・津波国である日本での原発の再稼働・新設は、昨年の元旦の能登半島地震や、お盆の時期の南海トラフ地震の「巨大地震注意」の政府発表などをみても、国民の安全をリスクにさらすものです。すみやかに原発ゼロを実現すべきです。
➡原発については、各分野の政策「40、原発問題」をごらんください。
国連から2030年までに撤退するよう求められている石炭火発については、廃止期限を設けずに国内建設をつづけてきただけでなく、第7次エネルギー基本計画で、2040年度の電源構成で火力発電を3割~4割とし、石炭ガス化複合発電などあらたな石炭火発の開発をすすめています。
石破茂内閣が“脱炭素”、“化石エネルギーからの転換”を掲げてすすめているGX(グリーントランスフォーメーション)の実態は、脱炭素の名のもとに、経済界の要求を受けて、原発を推進し、石炭火発を使い続けようというものです。
GX電源法(2023年通常国会で成立)では、60年を超えて原発を運転できる仕組みを導入するとともに、原子力基本法に、原発推進、原発産業支援、原発への投資環境整備を明記しました。脱炭素電源への投資促進のためとして、建設費等の回収をあらかじめ保証する「長期脱炭素電源オークション」が導入され、原発4基(島根3号、泊3号、柏崎刈羽6号、東海第二)が採択されました。今後、石炭火発での水素・アンモニア混焼やCCS追設など火力発電も対象とされる予定です。
LNGの国内消費量が減少するもとで、政府は、世界市場での日本の公称交渉力や影響力向上のためとして、「外・外取引」(外国から買って別の外国に売る)を含む総量1億トン維持に取り組むとしています。化石燃料を使い続け、海外にも押し付ける政策は、化石燃料使用事業への公的支終了という2022年のG7合意(首脳コミュニケ)にも逆行するものです。
昨年の通常国会で、二酸化炭素貯留(CCS)事業法が成立しました。CCSバリューチェーン構築のための支援(適地開発等)のため、GX経済移行債で官民投資4兆円以上を充てます。事業開始の見通しは2030年度の実用化に程遠く、「1.5度目標」達成に必要な30年石炭火力全廃や35年の電源の脱炭素化(2023年G7宣言)に、まったく整合しません。CCSは、もともと石油や天然ガスを取り出すためにCO2を地中に圧力をかけて注入する技術です。現在、火力発電用のCCSが世界でわずかしかない(「Global Status of CCS 2024」)のは、CCSコストが高く、CCS付火力発電では採算が合わないからです。しかも試掘や貯留事業を許可する際の事前の環境影響評価はなく、住民や自治体が意見を述べる機会が保障されていません。安全面、環境影響の重要な懸念があります。
さらに、政府と日本企業は、こうしたGXのもとで、化石燃料延命にかかわる事業を、アジアを中心にした海外でも展開しようとしています。石炭力でのアンモニア混焼やCCSなどを、日本が主導している「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想」を通じて各国に導入しようとしています。
しかも政府は、海外でのCCSやアンモニア混焼事業を支援するなかで、その温室効果ガス削減分の一定割合を、日本の削減分にカウントする二国間クレジット(JCM)を推進しています。このJCMは、率先して削減を進めるべき先進国である日本が、発展途上国の削減分を自国の削減とするのは問題です。しかも日本の火力発電関連業界やJERAが、アジアでのCCSやアンモニア混焼により火力発電の延命させることを、政府が推進することになります。化石燃料の延命を、アジアなどの発展途上国を巻き込んで推進するとなれば、国際的な批判はさらに高まります。
第7次エネルギー基本計画では、2040年度の発電量の2割程度を原発で賄うとしとしています(2023年度の実績は8.5%)。これはほぼすべての原発を再稼働させることになります。また国連から2030年までに撤退するよう求められている石炭火力についても、廃止期限を設けずに国内建設を進めてきただけでなく、2040年度の火力占有率を3割~4割とし、石炭ガス化複合発電など新たな石炭火力発電の開発を明記しています。
こうした石炭火力発電延命、原発推進に巨額の国費を投入するGXには反対です。
日本政府は、原発の電力を再生可能エネルギーの電力と合わせて「非化石エネルギー」とひとくくりに名付け、市場づくりをすすめるなど、世界でも異例な施策をとっています。さらに第7次エネルギー基本計画では、再エネ「最優先の原則」という表現が消えました。石炭火力、原発にしがみつき、再生可能エネルギーを後景に押しやっていることが、温室効果ガス削減や自給率で大きく立ち遅れている最大の要因です。あい変わらず原発と石炭火力に依存するこのようなエネルギー計画では、全世界平均より低い目標である政府の温室効果ガス排出「2013年度比60%削減」も、さらにその先の「2050年実質ゼロ」の達成も見通せません。
純国産エネルギーともいうべき再生可能エネルギーについて、環境省の調査でも、再生可能エネルギーの潜在量は、現在の電力使用量の7倍(環境省「再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS)に係る利用解説書」)にもなると見積もられています。現時点では、発電量の25%ですが、30年度の再生可能エネルギー電源の比率は36~38%にすぎません。これは現在のオーストラリア(39%)の水準であり、イギリス(47%)、ドイツ(55%)などは、さらにその先に行っています(自然エネルギー財団)。これらの国々は2030年までに7割~8割台をめざしており、日本はますます水をあけられることになります。
省エネと再エネの組み合わせで、35年度までに GHG排出75%~80%削減を―――気候危機打開に正面から取り組む
石破内閣の2035年度目標(2013年度比60%削減。19年度比53%削減)では、世界第5位の排出大国としての責任をはたすことはできません。
日本共産党は2021年、「気候危機打開の日本共産党の2030戦略」を発表しました。2030年度までに、省エネと再エネを抜本的 に強化して、CO2(二酸化炭素)を50 ~ 60% 削減するという提案です。気候危機の進展を踏まえ、対策の遅れを抜本的に打開し取り組みを加速させる必要があります。
先進国・排出大国の責任にふさわしい削減目標を確立するとともに、原発依存、石炭火力温存、再エネ後回しというエネルギー政策の歪みをただし、再エネ・省エネを軸としたエネルギー政策に転換します
――2035年度までに温室効果ガス(GHG)排出量を2013年度比で75%~80%削減(2019年度比71%~77%削減)することをめざします。
――削減目標と計画は、閣議で決定するやり方を根本的にあらため、気候危機打開基本法を制定するなど、専門家の英知を結集し、市民参加を保障して、国会で審議・決定するようにします。
――削減目標は、省エネルギーと再生可能エネルギーの本格的推進で達成できます。2035年度までに、エネルギー消費を6割減らし(電力消費量は3割削減)、電力の再エネ比率を8割にします。40年度には再エネ比率100%をめざします。
――すみやかに原発ゼロ、石炭火力からの計画的撤退をすすめ、2030年度はゼロとします。
――再生可能エネルギーの優先利用の原則を確立 し、大手電力会社が再エネ電力の導入にブレーキ をかけることや、太陽光をはじめ再エネ発電の出 力抑制を中止します。送配電の東西日本規模での 運営を念頭に、再エネを最大限活用できる電力網 などのインフラを整備します。
――農地でのソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)、小規模バイ オマスの発電の普及など、脱炭素と結びついた農業・林業の振興をすすめます。
――省エネの取り組みを産業、都市・住宅など、あらゆる分野ですすめます。
――CO2排出量が大きい業界、大規模事業所に、CO2削減目標と計画、実施状況の公表などを「協定」にして政府と締結することを義務化します。
――気候危機への対応を迫られている中で、炭素税などのカーボンプライシングは、化石燃料の使用を抑制する効果があるとして注目されています。炭素税ではすでに、スウェーデンではCO2に1トン当たり約2万円、フランスでは約7,100円を課しています。日本では現在、1トン当たり289円と極めて低額にとどまっています。当面の財源にもなりますが、炭素税は脱炭素が完了するまでの一時的な財源ですから、脱炭素に必要な公的な事業、支援策の財源としても検討していきます。同時に、原油・ガスの国際価格急騰などの際には、炭素税の高負担がなくとも化石燃料の使用抑制効果が高まることを考慮し、柔軟に対応する制度を検討します。
➡詳しくは、各分野の政策「45、気候危機」をごらんください。また「気候危機を打開する日本共産党の2030戦略」(2021年9月1日)もごらんください。
データセンターの計画は、省エネ・再エネで気候危機対策との両立を
データセンターの建設計画が急増し、それによる電力消費の増加を口実に、原発の再稼働を進めようという動きがあります。
データセンターによる電力消費の増加は、国内だけでなく世界的な問題となっています。台湾、アイルランド、シンガポールでは新設が停止され、ドイツでは新設計画でエネルギー効率の上限を設定し省エネが義務化されています。国連貿易開発会議(UNCTAD)の「デジタル経済報告書」2024年版では、デジタル化は歓迎すべきものであり、世界の経済成長に必要な原動力だが、急速なデジタル化は環境への懸念を高めるため、包括的かつ持続可能なものでなければならないとしています。デジタル技術の地球環境への負荷を軽減するため、環境規制の強化と再生可能エネルギーへの投資を求めています。グテーレス国連事務総長はこの報告書の序文で「気候変動へのコミットメント(公約)を尊重するデジタル政策の枠組みを求めています」と明記しています。
これを考慮すれば、次のような条件を満たす必要があります。
(1)使う電力は、再生可能エネルギー電力とし発電時CO2を出さない
(2)立地は、冷房に要する莫大なエネルギーを節約するため、できるだけ寒冷な地域にする(ヨーロッパなら北欧で)
(3)データセンターの省エネを徹底して、消費電力量や発熱量を減らすこと(ドイツの規制の例)
データセンターによる将来にわたる電力需要の見通しについては、これまでの需要抑制の経験や開発中の省エネ技術によって需要増は限られ、大勢に影響はないという批判も出ています。現にEUは、省エネなど適切な対策をとることによって将来は、電力需要が減る可能性もあるという報告書を出しています。今の技術で、拙速にデータセンターを乱立させれば、エネルギー効率が悪いままの施設が大量に残って、環境への悪影響だけでなく、運営コストが高いままくユーザー負担が重くなります。
さらに立地の問題で、今ある立地計画の面積でみると、8割以上が東京圏・大阪圏に集中し、再生可能エネルギーが豊富に存在する場所ではありません(経産省ワット・ビット連携官民懇WG資料1)。また巨大な建物が居住地域に隣接して建設する計画など、住環境に悪影響を及ぼす恐れがあるものもあります。膨大な排熱でヒートアイランド化を促進することも懸念されます。自治体の気候危機対策を台無しにすることがないよう、企業に地球環境保全での責任を果たさせるルールをつくります。
再生可能エネルギー電力の最優先使用ルールを確立し、「出力抑制」をやめさせる
気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28。2023年)は、再生可能エネルギーの発電能力を2030年までに3倍化することで合意しました。
ところが日本は、3倍化どころか、今ある再エネ電力さえ大量に無駄にしています。太陽光を中心にした再エネによる発電に取り組む事業者の発電を、送電を担う大手電力が一方的に止める出力抑制が急増し、2022年度の再エネ出力抑制量は6億kW時から2024年度見通し約21億kW時へと拡大しています(系統WG第51回資料1)。45万世帯分の年間電力消費量に相当します。この抑制には、なんの補償もないため、多くの事業者で経営が悪化し、撤退の危機にもさらされているのが現状です。しかも政府は、出力制御の順番を、FIT電源(※)→FIP電源(※)としようとしています。FIT電源の出力制御確率が増加し、そのしわ寄せをもろにかぶる中小のFIT対象事業者は、経営存続がますます危うくなります。
(※)FIT=再エネ電力を固定価格で買い取る制度。FIP=再エネ電力を市場価格に一定の上乗せをした価格で買い取る制度。FIP導入に伴い、風力を除く一定規模以上の新規再エネ電源は、FITの対象外となった。
経済産業省が定めた出力抑制の順番(「優先給電ルール」)では、①火力発電の出力抑制、揚水・蓄電池の活用、②他地域への送電、③バイオマスの出力抑制等で対応し、④それでも供給が需要を上回れば太陽光・風力の発電を止める、⑤原発を止めるのは最後の最後――となっています。その実態は、原発は出力抑制の実績はなく、火力発電の出力抑制も不十分なまま、再エネにしわ寄せされています。
再生可能エネルギー電力の拡大のためには、再生エネルギー電力の出力抑制をやめ、EUのように再エネ電力の最優先使用のルールに転換すべきです。
再エネの普及にとって蓄電機能が有効です。原発のために作った揚水発電も再エネ電力のための蓄電設備として、最大限利用すべきです。また地域で地産地消を促進するため自主的に蓄電施設を設けようという取り組みにも公的な支援を強めます。しかし中小の再エネ事業者に蓄電設備の設置を強いれば経営が圧迫されてしまいます。送電網レベルの需給調整は蓄電機能を含めて、送配電事業者が責任を持つべきです。
再エネは燃料を輸入に頼る原発や火力発電と違い、エネルギー自給率向上にも寄与し、世界的にも最も安価な発電手段です。政府は、「脱炭素」を口実に原発の「最大限活用」と石炭火力の延命に固執しています。危険で高コストな原発はゼロに、石炭火力発の廃止期限を決め、若い世代も安心して暮らせる社会の実現に向け、思い切った省エネと再エネを最優先にしたエネルギー政策に転換すべきです。
国民の立場から、電力システムを抜本的に見直す
2011年3月の東日本大震災・東京電力福島第一原発事故をきっかけに進められた「電力システム改革」によって、2016年4月には電力の小売り「全面自由化」が始まり、20年4月には、大手電力会社の送配電部門が法的分離されました。
消費者側では、原発の電気を買いたくないと思う人も多く、地球温暖化の原因となるCO2を出す石炭や石油などの化石燃料ではなく、再生可能エネルギーの電力を使いたいと思う人もおり、新たな電力小売りへの参入企業=新電力への期待もありました。しかし消費者は自分が望む電気を、自由に買うことができたわけではありません。さまざまな業種の企業が小売電気事業者として登録し、多数の新電力が参入しましたが、その新電力は発電所をもっている一部の事業者を別として、自分で発電所を持っていない小売業者の多くは、電力卸市場から電気を調達して販売しています。その供給構造の下で、市場価格の高騰によって苦境に立たされ、契約停止や撤退・倒産が急増しています。今も国際的な化石燃料の値上がり、円相場の急落に直撃されています。市場からの調達価格が販売価格を大きく上回り、赤字が拡大しているためです。
電力市場の不透明さも問題視されています。需給が緩むはずの時間帯になっても価格が下がらず、高値に張り付いているのです。大手電力会社による市場外の相対取引が大部分をしめ、しかも実際上は内部取引です。
大手電力会社の不正が相次いでいます。2023年には、関西電力による顧客情報の不正閲覧、中部・関西・中国・九州のカルテル(電気料金を上昇させた)が発覚しました。2024年には、国内最大の発電会社JERA(東京電力と中部電力が出資)が、電力市場の相場を操縦し、最大1日1億円の不当利益を上げ、取引価格の上昇分は全体で約40億円に上ることも明らかになりました(岩渕友参院議員による電力・ガス取引監視等委員会への聞き取り)。
実態として、発電・販売を事実上一体でおこなっている大手電力会社は、依然として圧倒的な市場支配力をもっています。公正な市場ルールの確立が迫られています。
電力は、水道やガスと同様に、私たちの生活や経済活動を支える不可欠の公共インフラです。新電力の減少で、一部の大手企業に再び集中し、競争が消え、大手企業優位に立って消費者が料金設定などを受け入れざるを得ない事態も懸念されます。現時点では電気料金に関する規制は残っていますが、消費者側が参加できる公的なコントロールが大事です。
自公政権は、福島の原発事故の賠償費用2.4兆円を2020年から40年間に渡り、沖縄電力以外のすべての電力消費者に負担させる仕組みを導入しました(託送料金に上乗せ)。再生可能エネルギーの電力を選択している電力消費者にも負担を強いるものであり、「自由化」の看板に逆行し、発電部門内の原発のコストとして計上されるべき賠償費用を、送配電部門に移し替えるものです。このような原発優遇は、やめるべきです。
政府は、送配電網の電気料金(託送料)の値上げ認可申請を公聴会の対象から外すなど、料金コストの情報公開を一層後退させています。従来でさえ、電気料金には放射性廃棄物の処理・処分費用をはじめ、隠れた「原発賦課金」が電力料金の明細書への記載もなく、上乗せされるなど、批判のある電気料金の根拠がいっそう不透明になりかねません。
今求められているのは、消費者・需要家の選択肢の拡大と、系統運用など情報の全面的開示を両立させることのできる電力システムの制度設計です。そして、国民に開かれた公正な市場と競争条件の整備を進め、さらに新しい独立した強力な民主的規制機関の創設による国民的な監視の強化です。それによって、電力大企業への民主的な規制と再生可能エネルギーの本格的な推進、地域にメリットが還元される電力システムへの転換を進めます。
――東電福島第一原発事故が起きた2011年3月の東日本大震災や、北海道全域が停電(ブラックアウト)した2018年の北海道胆振東部地震の教訓だった大規模電源の集中リスクや、遠隔地電源への依存リスクを軽減します。そのためにも再エネなどの分散型エネルギーシステムへの転換を実施します。
――電力の安定供給を確保するために、太陽光や風力など再エネのポテンシャル(潜在量)が大きい地域と、大都市圏のエネルギー大量消費地をつなぐ送電線を増強します。九州電力は太陽光の発電抑制を繰り返し実行していますが、本州へ電力を送る連系線(関門線)の増強は行われていません。他地域の発電抑制を解消するためにも、送電線の強化と一体運用を図ります。
――周波数の違う日本の東西の間での電力融通のため、連系線の設備能力の強化を実施します。
――蓄電システムの整備とともに、ヨーロッパで導入が進んでいる需要側のタイミングの調整による電力需要のピークカットのためのデマンドレスポンス制度の導入、蓄電システムの強化を図ります。
再エネ小売業者の負担で、原発や石炭火力を支援する「容量市場」の廃止を
「電力システム改革」のなかで「容量市場」が2021年にスタートしました。4年後の電源確保を目的に電源設備の供給力(キロワット)を取引するしくみですが、既存の原発、石炭火力、大型水力に有利に働き、再エネ小売業者に重い負担がかかるものです。経済産業省は、容量市場の必要性を、①電力価格の低下により投資意欲が減り、将来の容量が不足すること②容量が不足することで卸電力市場価格が高止まりするリスクと説明します。
容量市場で確保する電源設備の総容量を決め、オークションを実施し、入札できる電源は、政府が「安定電源」だといっている火力、原子力、大規模水力に極めて有利な条件になっています。低い価格で入札されたものから順に落札され、目標調達量に達した価格が約定価格になります。容量市場の最大の問題は、この約定価格が、落札した電源全てに支払われる仕組みになっており、1兆円を超える規模になる点です。
大手電力会社の減価償却済み電源にも、一律の約定価格で支払われます。ここには CO2排出量の大きさなどへの考慮はありません。石炭火力などの設備を持つ事業者にとって、容量市場は老朽火力もできるだけ長く維持しつづけようという動機づけになります。容量確保のための費用は全ての小売電気事業者、送配電事業者が支払う仕組みになっており、その料金は電力料金に転嫁され、原発や石炭火力の電気を購入したくないと再エネ新電力に切り替えた消費者までもが、そのコストを支払わなければなりません。再エネ新電力にとっては極めて不利な制度で、過重な負担となります。なぜなら、原発や石炭火力、大型水力を持っている大手電力会社は容量市場から得た費用で拠出金を相殺できるのに対して、再エネ新電力にはそれができず、電力料金に加算するしかないからです。
容量市場は、気候変動対策、再生可能エネルギーの普及などの流れと矛盾し、極めて問題の大きな仕組みであり、廃止を求めます。
再エネの豊富な地域に送電網を整備し、再エネの優先使用を義務付ける
エネルギー政策の重点を、日本の地域それぞれの条件にあった再生可能エネルギーの開発・利用を計画的に拡大することにおきます。太陽光・熱、小水力、風力、地熱、波力、海洋深度による温度差、あるいは畜産や林業など地域の産業とむすんだバイオマス・エネルギーなどは、まさに地域に固有のエネルギー源です。この再生可能エネルギーの活用を地元の中小企業の仕事や雇用に結びつくように追求し、そこから得られる電気やガスを販売することで地域に新たな収入が生まれます。事業の成果や副産物を地元に還元したり、雇用や技術、資金の流れを地元に生み出すことで、地域経済の活性化に役立ちます。ドイツでは、地域の電力供給を担う公的企業「シュタットベルケ」が各自治体に設立され、地元の住民が地域の再生可能エネルギー開発に関与し、収益を公共サービスで還元するなど、地域で生み出したエネルギー資源を地域の財産として生かし、エネルギーの「地産地消」、地域の活性化、地域経済の発展に重要な役割を果たしています。
再生可能エネルギーによる発電が期待できるのにもかかわらず、人口が少ないために送電網が不十分な地域もあります。十勝地方の畜産にかかわるバイオマス発電では、送電網が使えないために、せっかくの発電能力が生かせないという悩みも出されています。国がイニシアチブを発揮して、こうした地域に送電線の建設を進め、既存の送電網の有効利用を図ります。そのさい、再エネ電力を全国で融通できるように、必要な送電網の整備をすすめます。9電力(沖縄電力を除く)に区切られた送配電体制を東西2つの体制にするなど、送配電体制の整備・統合をすすめます。
再エネ発電の普及には、長期的な採算の見通しが重要であるため、再エネ電力を固定価格で買い取る制度(FIT)があります。FIT・FIPための経費は電気代に上乗せする賦課金で賄っています。電力多消費業種として賦課金を減免される対象範囲や、買い取り対象の規模、買取価格の水準の見直しなど、国民への情報提供と論議をつくすべきです。
――送電網を運営する一般送配電事業者には、送電網を増強する「系統拡張義務」を課します。ドイツでは、前項の優先接続と系統増強の義務や、送変電設備の容量不足などの解消の責任を課されており、容量不足で再生可能エネルギー電力の接続を拒否できないことになっています。ところが日本では、接続拒否だけでなく、送配電網への接続を求める際に、送電線や変電施設の整備の費用を負担するよう要求され、小規模な再生可能エネルギー発電事業者には参入への高いハードルになるという事態が起きています。2016年のFIT法の改定にあたり、日本共産党は、ドイツの例をみならって、送電会社に送電網の増強義務を課す修正案を提出しました。引き続き、実現を目指します。建設コストを抑えるためにも、情報公開と多面的な検討を国が進めるよう求めます。
――電力利用者の負担を軽減するために、電源開発促進税を系統強化費用に充てるようにすべきです。すでに電気料金には電源開発促進税という 電源を生み出すための税金が含まれており、電力使用者は年間3,000億円余りを負担しています。この税収は、主に原発のために使われています。日本共産党は国会でも提案したように、この税収を系統増強に充てることで、ユーザーの負担を抑えるように使います。
――買取価格を低減するとして、入札制度が導入されました。条文上は、「一定の導入量」を低い価格で落札した事業者から順番に調達する仕組みになっています。拡大されると地域密着型・中小規模の再生可能エネルギー事業社の参入を阻害する恐れがあります。2019年11月以降順次、余剰電力買取制度の適用を受けた住宅用太陽光発電設備の買い取り期間10年が満了となっています。地域にとっては「地産地消」の電源の典型であり、各家庭にとっては再エネへの関心をたかめ、電力消費の節約意識の喚起や災害時の電源確保としても重要です。住宅や小規模工場の屋根への太陽光パネルの設置、自治体主導や住民の共同による事業、屋根貸し太陽光発電事業などを推進します。そのために、再生可能エネルギー電力の固定価格買取制度を地域の多様な取り組みを促進するように改善します。住宅用太陽光発電、市民の共同による取り組みをFITの重要な柱として、位置づけます。
地域密着型・「地産地消」型の再生可能エネルギー利用をすすめるために、大規模開発や大型太陽光発電(メガソーラー)の偏重是正も考慮して、買取対象を見直すべきです。地域・自治体主導の取り組みで、地域経済への寄与を評価して、優遇する仕組みを導入すべきです。
アメリカの世界的な投資銀行であるラザードのレポートが示すように、世界では太陽光発電、風力発電を中心に1kW時あたりの発電単価の低下が大幅に進んでいます。日本でも買取制度導入以来、低下していますが、それでも日本の発電単価は、海外と比べると高くなっています。発電パネルや発電タービン、建設費や建設の熟練度合いなど、分析的に評価し、発電単価の削減にむけて誘導していくことが大事です。それによって、買取価格は下がります。廃止された小型風力の買取価格を、復活させます。
乱開発を規制するため、環境アセスメントなど法体系の強化と住民合意の義務化を
再生可能エネルギーの普及の大きな障害になっているのは、メガソーラーや大型風力発電のための乱開発が、森林破壊や土砂崩れ、住環境の悪化や健康被害の危険を広げていることです。目先の利益追求での乱開発・環境破壊を放置するなら、再生可能エネルギーへの大胆な転換を阻害し、気候危機も打開できなくなってしまいます。
それを打開するには、①環境を守る規制を強化し、乱開発をなくす、②「新たな開発」ではなく、既存の施設・建築物・未利用地などの活用を推進する――という2つの方向での解決が必要です。
2021年の地球温暖化対策推進法改正の審議のなかで、日本共産党は、法案にある促進エリアに加えて、自然環境や生活環境を「保全するエリア」を指定する必要があると求めていました。また2021年の熱海市での大規模な土石流の発生のように、再エネ設備の設置によって、土砂災害や生活環境への影響が懸念されている各地域の実態をふまえ、地方議会でも国会でも、危険な地域や生活環境に影響がある地域などには再エネ設備は建設出来ないように規制するよう要求してきました。
2024年3月、総務省行政評価局による「太陽光発電設備等の導入に関する調査」の結果が公表され、太陽光発電設備の設置に起因する土砂の流出や、のり面の崩壊など地域住民の安全を脅かすトラブルが、調査した市町村の4割以上で発生し、2割弱の市町村で未解決のトラブルがあるという深刻な実態が明らかになりました。総務省は前出の調査結果に基づき、3月、経産省に対し勧告を行いました。その内容は主に以下の3点です。①トラブル等の未然防止に向け、経産省による現地調査を強化する、②地方公共団体に対し、設備情報、情報提供フォーム等を周知する、③法令違反等の状態が未改善の場合の経済産業局から経産省本省への協議基準を整理し、文書指導等を着実に実施し、改善されない場合は交付金の留保などの必要な措置を適確に実施する。
経済産業省の情報提供フォーム(資源エネルギー庁HP)への相談内容の取りまとめでも同様の実態が示されています。2024年3月末(2016年10月~)時点で1,180件の相談があり、そのうち9割以上を太陽光発電が占めています(地域社会における持続的な再エネ導入に関する情報連絡会第8回資料1)。経産省は「再エネ導入による地域住民の懸念が顕在化し、実際、法令遵守できていない設備や地域で問題を抱えている設備が存在」としています。
林野庁調査では、FIT導入後、太陽光発電設備に関わる林地開発許可が急増し、ピーク時には236件、面積では3,217ha(2019年度)にのぼり、2012年度から2023年度までの累計で1,959件、17,058haにも及びます(林野庁HP「林地開発許可制度」)。無許可開発・条件違反等の2割以上が太陽光発電施設に関わるもの(2023年度83件)となっています(同)。
再エネ導入をめぐる問題が各地で顕在化したため、国も「地域と共生する再エネ」導入に向けて動きを見せざるをえなくなりました。2022年4月、関係省庁(経産、農水、国交、環境)が共同で検討会を立ち上げ、制度改正をめざすことになりました。
再エネ特措法(以下、FIT)の省令改正(2023年10月施行)では、FIT申請の前に林地開発や砂防法、地すべり等防止法、急傾斜地崩壊による災害防止法、宅地造成及び特定盛土等規制法にかかる許可を取得する事を要件としました。
また、太陽光発電設備の設置を目的とした土地の形質変更を行う場合、都道府県知事の許可が必要な森林開発の面積を1ha以上から0.5ha以上にしました(2022年9月、森林法施行令及び施行規則等改正)。
再エネ導入による乱開発の是正のために、住民合意をFIT要件とすべきだとの岩渕友議員の質問に、齋藤健経産大臣(当時)は、住民合意の義務化については拒否しつつも、「再エネの導入に当たって、地域とのコミュニケーションの中で適切かつ十分な説明を尽くして、地域との共生を図りながら進めていくということは重要」と答弁(2024年3月22日参議院経済産業委員会)。改正再エネ特措法(2024年4月1日施行)では、FIT・FIP認定の際に周辺地域の住民へ向けた説明会の開催などを認定の要件とし、説明すべき住民の範囲や開催時期、説明項目などについて定めた「説明会及び事前周知措置実施ガイドライン」が策定されました。今回の法改正は全国の切実な声を受けて一歩前進であり、最大限生かすとともに、さらに住民合意の義務化をめざします。
改正再エネ特措法の施行で、一定の効果が出ているのが再エネ交付金の一時停止措置です。関係法令に違反する事業者には早期の是正を促すために、FIT・FIP交付金を一時停止することになりました。経産省は、森林法、農地法等の関係法令違反等が確認された太陽光発電事業(2024年度計370件)に当該措置を実施しています。他方、発電前で交付金が未交付の事業者には、指導・助言、改善命令などの対応にとどまっています。地元住民が一貫して求めているように、環境アセスメント逃れや贈収賄事件を起こし地域と共生ができないことが明らかな事業者に対しては、速やかにFIT・FIP認定を取消すべきです。
規模が大きく環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業は環境影響評価(アセスメント)手続が義務付けられています。しかし、事業を分割して制度の対象外としてアセスメント手続を逃れる事業者もいます。政府は2022年、太陽光発電、風力発電所の環境アセスメント逃れに対応する「事業の一連性の考え方」について公表し、都道府県・政令指定都市と太陽光発電、風力発電の関係事業者に対し正式に通知しました。同通知は広い敷地内の川で隔てられている場合や、風力発電など設備の距離がかなり離れていても事業が一体の場合があるなど管理の一体性を中心にみるとしています。
他方で風力発電の法対象規模要件が政令改正によって2022年10月から、5万kW以上へと引き上げられました(旧基準は1万kW以上)。
太陽光発電施設について、建築物や土地の区画形質の変更として扱うなど、法制度上の位置づけを明確にします。関連法令の整備や環境基準を制定で、環境アセスメントの手続きの中に組み込んでいくことが必要です。森林法などの現行法は、森林を伐採してメガソーラー発電所をつくるなどの事態を想定していません。環境保全のための森林法改正、土砂崩れの危険性も評価事項に加えるなどアセスメントの改善が必要です。
事業の立案および計画の段階から情報を公開し、事業者、自治体、地域住民、自然保護関係者、専門家など広く利害関係者を交え、その地域の環境保全と地域経済への貢献にふさわしいものとなるようにします。
風力発電も大規模化・集中化によって、騒音、低周波、シャドーフリッカー、基礎工事の巨大化による安全面や周辺環境への影響など、住民の不安・不満は高まっています。1基4,000kW以上の出力の風力発電計画が増えているもとで、「指針」の見直しが必要です。とくに集中立地にともなう累積的影響を検討すべきです。
地域での乱開発を防ぐ手法として、環境保全を優先するエリア、風力発電の導入促進が可能なエリアに区分けするゾーニングの導入も有効であり、環境省はマニュアルを作成していますが、国として住民の健康・安全や環境保全を脅かす恐れがある地域への立地を規制すべきです。
太陽光パネルの大量廃棄に備えて、リユース、リサイクルを含めた適切な処理が確実に行われるよう、関係省庁・自治体・業界団体で連携のとれた体制を構築します。
バイオ燃料の開発は、森林破壊を起こさず、環境保全を重視したものに
バイオ燃料の開発・導入は再生可能エネルギーの重要な柱です。地域の森づくり・林業と結びついた木質バイオ燃料の利用や、畜産業の廃棄物を活用したバイオガスの利用などは、地域経済の活性化にとっても重要です。
ところが木質バイオ燃料を取るためとして森林の植林抜きで皆伐したり、あるいは熱帯林を破壊して切り開いたヤシ畑から出たヤシ殻を輸入して焚くというのでは、陸上で最も大きな CO2の吸収源である森林を損なうことになります。EUでは再生可能エネルギーとしてバイオを認めるにあたって、その由来や炭素の循環周期を確認するなど厳しく対応しています。
国内産・地域産のバイオ資源を優先的に活用する(「地産地消」)、生産・加工・流通・消費のすべての段階で環境を悪化させない持続可能な方法を採用するなど、新たな環境破壊をひきおこさないためのガイドラインを設けます。エネルギーの利用効率をさらに引き上げるため、熱源としてバイオ燃料の利用も促進します。
地球環境と若者の未来を守るエネルギー政策への転換を
これまでも野党はエネルギー政策の転換のために協力して、原発ゼロ基本法案(2018年)やその実施法である再生可能エネルギー等の推進関連4法案(2019年)を国会に共同提出してきました。
人びとの暮らしを脅かす異常気象の頻発にかんがみ、また将来世代や未来の人々、地球上の生態系に対する責任を果たすために、気候変動と環境保全の対策を加速し、国際社会による温暖化対策の強化に向けて働きかけや共同を強めます。また、経済や国際政治での自立性を高めるためにも、原発にも化石燃料にも頼らないエネルギーへの転換を進め、脱炭素社会を早期に実現します。
市民のみなさんとともに、地球環境と若者の未来を守るエネルギー転換へ全力を挙げます。