2005年2月13日(日)「しんぶん赤旗」

介護保険 現場から

ふらつく体で調理!?

「家事代行」ヘルパー廃止案


 政府が八日、国会に提出した「介護保険制度改革関連法案」では、介護度が軽いお年寄りの重度化を予防するためとして、従来の介護サービスとは別建ての「新予防給付」を新たに打ち出しました。ホームヘルパーがお年寄りに代わって家事をしていた「家事代行」サービスは原則廃止。ヘルパーに家事を頼む場合は、お年寄りも何らかの作業をすることが前提になるなど訪問介護に厳しい制限を加えています。高齢者の暮らしはどうなるでしょうか―。


お年寄り「暮らしていけない」

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自宅でホームヘルパーと語る吉井信弘さん=京都市北区

 「ヘルパーさんが家事をしてくれなくなったら暮らしていけません。特養ホームは申し込んでも百人以上待ってる言うし…。どうしたらええんか」。不安げに訴えるのは、京都市北区のアパートに一人で暮らす吉井信弘さん(75)です。

一番困る食事

 交通事故の後遺症で歩行が困難になり、室内でも家具につかまりながら歩くのがやっとです。風呂場で転倒しても起き上がれず、ヘルパーが来るまで五時間も裸のまま過ごしました。外出は車いすを使います。それでも要介護認定は要介護1。通所介護と週四回の訪問介護を利用し、へルパーに買い物と調理、掃除、洗濯をしてもらって暮らしています。

 ところが仮に吉井さんが新予防給付の対象になると、いままでのような訪問介護が受けられなくなります。「一番困るのは食事やね。前に給食サービスを頼んでいましたが一食五百円と割高なのでやめたんです」

 新予防給付の訪問介護になると、ヘルパーといっしょに家事をすることが求められます。吉井さんはどうでしょうか。「ふらふらして立っていられないから、いまはちょっと無理やね」。少し考えてから答えました。実際、ガスコンロでラーメンを作っていてよろけ、手にやけどを負ったこともあります。以前は洗濯物を一時間以上かけて部屋に干していましたが、最近はふらつきがひどくヘルパーにしてもらっています。

 「歩く練習はしたいんです」。吉井さんは新予防給付に組み込まれるという筋力向上トレーニングに意欲を見せます。でも「歩けるようになってからヘルパーさん減らすならいいけど、良くなっていないのに削るというのは話が違うと思う」といいます。

事業者が選択

 吉井さんのケアマネジャーで、京都市北区の在宅介護支援センター原谷こぶしの里施設長の北川裕之さん(40)は、「一人暮らしのお年寄りはヘルパーが訪問する以外の時間は、一人で頑張って生活しておられます。ヘルパーが利用者さんと会話しながらする家事援助は、精神的な意味でも在宅生活を支え自立支援につながっていると思います」と語ります。

 新予防給付の訪問介護で利用者がヘルパーといっしょに家事をすることになると吉井さんの場合、座って野菜を切るなどの方法が考えられます。しかしヘルパーが一人でするよりはるかに時間がかかり、利用時間が増えることになります。これでは厚労省が今回の見直しで掲げる給付費抑制の方針と一見矛盾するように見えます。

 この点について厚労省は、一定のサービスを何時間かけて行っても訪問介護の事業所には一定額の介護報酬しか払われない定額払いの導入も検討しているといいます。

 北川さんは「そうなるといっしょに家事をすると時間のかかるお年寄りが敬遠され、サービス事業者がお年寄りを選ぶようなことになりかねない。本当に困っているお年寄りが介護保険を使えないことになってしまいます」と批判しています。


 新予防給付と訪問介護 政府・厚労省は「新予防給付」に介護保険の要支援と要介護1の二百万人のうち、心身の状態が安定していない人などを除き七―八割を移行させるといいます。同給付では筋力向上訓練など新たなサービスを組み込む一方、これまでの介護サービスは内容や提供方法、提供期間を見直します。ホームヘルパーが利用者に代わって掃除や調理、洗濯などをしてきた訪問介護(「家事代行型」)は「生活機能を低下させる」として原則廃止。例外的に行う場合も必要性を厳格に見直し、利用期間を限定します。

 新予防給付の訪問介護(仮称・予防訪問介護)は、「サービスに頼らなくても自立した生活が送れるようになる」(厚労省)ことを目指し、お年寄りがヘルパーといっしょに調理や掃除等の家事をすることが基本になります。



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