2005年1月31日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

アニメ

高い文化、輸出産業、そして…


 文化的にも高く評価され、輸出産業としてもますます注目されている日本のアニメーション。このアニメを町おこしに活用する動きが各地で起きています。一方、アニメの中小プロダクションは劣悪な労働条件に置かれています。東京・三鷹市の岩田康男市議に「三鷹の森ジブリ美術館」を誘致した経験を、松村友昭都議にアニメ産業振興への取り組みを寄せてもらいました。


ジブリ美術館で街は 東京・三鷹

駅からトトロのバスも走ってるよ

240万人来館 「風の散歩道」 商業振興

地図

 三鷹市は東京二十三区に接した三多摩の入り口に位置し、人口はマンション急増で十七万三千人になりました。それでも周辺に農地や公園があり静かな住宅都市です。

 二〇〇一年十月一日、井の頭公園西園の中に「三鷹の森ジブリ美術館」(正式名称は「三鷹市立アニメーション美術館」)ができました。来館者は年間六十八万人を超え、これまでに二百四十万人が見学しました。

 美術館は、宮崎駿監督の「作品のイメージにあった場所探し」と三鷹市の美術館構想が一致して東京都立公園内に民間会社ムゼオ・ダンテ・ジブリが建物を二十五億円で建設し、三鷹市に寄付、運営は三鷹市とジブリ関係者でつくるアニメ文化財団があたる方式でスタートしました。

 展示はジブリの宮崎駿監督や高畑勲監督作品などが中心で、特別展やこの館だけのオリジナル短編アニメの上映もあり人気を呼び、全国各地や海外からも見学者が来ています。

激論

 この美術館の誘致建設には、公園内の施設と自然保護、民間会社との協働のあり方、アニメの評価、商業振興やまちづくりとの関連などさまざまな課題がありました。

 私は、市議会での美術館検討委員会で調査と議論をしてきました。手塚治虫記念館(兵庫県宝塚市)や石ノ森章太郎ふるさと記念館(宮城県中田町)を視察研究し、特に民間との協働のあり方については、行政と企業のメリット・デメリットを明確にし、市立の施設であることは当然として市の方針で運営されることを契約書に明記するなど公共性確保のルールを確立してきました。この課題では、最近発刊した三鷹市議会史に記述されるほどの激論を交わしました。美術館も公園にマッチした自然を取り入れたものになり、入館は混雑と事故を避け完全予約制にしました。

 党議員団は、市民アンケートで市民の意見・要望を聞くとともに、青年たちと懇談し、「アニメ美術館づくりに自分たちの提案をしたい」との要望を生かし、市とジブリ関係者と青年たちの懇談会も開き、案内板やチケットの工夫などにその提案がいくつか生かされています。

名称

 苦労したのは通称名に「三鷹」の名前をつける問題です。当初は「つけない」という回答でしたが、党議員団の「全国に三鷹をアピールして三鷹の駅から来てもらい商業振興やまちづくりに生かしたい」との提案に最終的にジブリも同意して、「三鷹」をつけることになりました。その結果、約50%が三鷹駅から「トトロ」のキャラクターが描かれたジブリバスの利用か徒歩での来館となっています。駅から美術館までの歩道は「風の散歩道」として整備され、周辺に喫茶店や洋食店、パン屋さんなどが次々とできています。

 さらに、市民枠のチケット販売や市民招待日の設定、全小学三年生と全幼稚園・保育園児の見学も行いました。宮崎監督作品のマスコットの「ポキ」とそれを使った商品を扱う店舗などもあって、商業振興にも手がつき始めました。

 いま私は、アニメ文化財団の評議委員の仕事をしていますが、開館して三年を超え、この施設を核に本格的なまちづくりや商業振興をはかること、アニメ文化の発信を発展させ文化活動を旺盛にすることなどに取り組んでいます。

 岩田康男・三鷹市議


劣悪な制作現場、改善へ支援策ぜひ

「発祥の地」練馬では

写真
松村友昭都議

 東京・練馬区は日本アニメの発祥の地で、多くのアニメ関連事業所が集積しています。この間、アニメミュージアムをつくる運動やアニメで地域おこし・産業おこしをと、区内アニメ事業所五十社の加盟で「練馬アニメーション協議会」が発足するなど、産業界から活発な活動が展開されています。ところが、このままでは日本のアニメに明日はないといわれています。

 昨年十一月、「だれがつくるの?日本のアニメ アニメーションの現状を考える集い」が区内で開かれ、アニメ労働者が業界改善を訴えました。

 「多くの優秀な青年が夢と希望を持ってアニメの門をたたいても、長時間労働や低賃金で生活が成り立たず、ほとんどの人が去っていく、そのためにアニメーターが極端に人材不足となって、テレビ放映数日前の声を吹き込む段階でも作画ができていないままアフレコを行うことが日常化している」との報告に大きなショックを受けました。

 私も直接、青年アニメーターたちと幾度か懇談しました。「アニメ専門学校を出ても、アニメに就職するには、『実家から通う』『仕送りがある』『交通費が出ないので職場に近い』の三つの条件がいると面接の時いわれた。家族がもて、普通の生活ができる労働条件がほしい」と訴えられ、胸が痛む思いでした。

 この解決には、アニメ業界全体の不安定な受注環境、取引慣行、低額な下請け代金の横行など中小零細業者や労働者の努力の限界を超えるものであり、国や都の指導などが強く求められています。

 日本共産党都議団は、私が、二〇〇二年第三回定例都議会に文書質問を提出し、アニメ産業振興プランの作成、アニメ労働者の実態調査、人材育成、アニメミュージアムの建設などを提案しました。

 これに対し都は、アニメ産業振興方策検討委員会を設置し、アニメのさまざまな課題と対応策について検討していると回答。翌年三月にはアニメ産業振興方策にかんする報告書が出され、優秀な人材の育成やアニメ産業の振興拠点の整備など振興策を掲げました。

 私はその後も、アニメミュージアムへの都の支援を求める委員会質疑や交渉で、都のアニメ振興策の取り組みの現状をただしてきました。都の新年度予算案には、これまでのアニメフェア開催に加え、アニメ・映像作品等発信支援、資金、販路開拓の支援への仕組みづくり等、新たな取り組みも盛り込まれました。しかし、いま最も目を向けなければならない劣悪な制作現場を改善するための産業支援策はありません。

 引き続き、アニメーターが人間として生きられる労働環境づくりを国や都に働きかけ、アニメ産業育成・発展に全力を尽くします。

 松村友昭都議


進む空洞化

 日本のアニメは世界市場の六割を占めます。国内のアニメ制作会社の七割以上は東京に集中しており、アニメ関連産業は東京の地場産業となっています。

 経済産業省アニメーション産業研究会報告書(二〇〇二年)は「日本から海外へ輸出できる数少ないコンテンツ」と評価すると同時に、「業界全体の将来像としては必ずしも楽観視できるものではない」と指摘。動画などの制作の韓国、東南アジアへの発注が増加し、「アニメーションクリエーター育成の過程が空洞化しつつある」と警鐘を鳴らしています。

 アニメ関係の主要な労働組合で結成しているアニメ共闘会議のアニメ労働者の実態調査(一九九九年)によると、平均年齢は二十八・六歳。一日平均労働時間は十・八時間。平均年収は二百四十七万円、アニメ労働者の49%が年収二百万円以下で、雇用保険未加入者も55%という状況です。



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