2005年1月24日(月)「しんぶん赤旗」

NHK番組改ざん 問題の核心は

官房副長官が「公正・中立に」といえば、当然、強い圧力になる


 政権中枢をふくむ政界の介入・圧力で、公共報道機関であるNHKの放送内容が改ざんされた――。これが「従軍慰安婦」にかかわるNHK番組改ざん問題で問われる核心中の核心でした。いま、NHKや政治家側も認めざるをえない事実をもとにして、問題の根本をあらためて検証してみましょう。

NHKも認めた 安倍氏の発言内容

 焦点の番組は、二〇〇一年一月三十日夜にNHK教育テレビで放送された「シリーズ戦争をどう裁くか 第二回 問われる戦時性暴力」。「従軍慰安婦」問題をテーマにした「女性国際戦犯法廷」を扱った内容でした。

 最初に報道した「朝日」。続いて告発した長井暁NHKチーフプロデューサー。反論したNHK。そして介入が指摘され、否定する安倍晋三内閣官房副長官(現自民党幹事長代理)、中川昭一衆院議員(現経済産業相)。これらのなかで、まずNHKが認めた事実は次のとおりです。

 ――放送前の二〇〇一年一月二十九日、NHKの松尾武放送総局長(当時、以下同)、国会などを担当する野島直樹担当局長が安倍官房副長官を訪れた。予算、事業計画の説明が目的だった。

 ――松尾氏は「女性国際戦犯法廷」に関し、国会議員の間でさまざまな議論があることを認識していたので、この機会に安倍氏にも説明しておこうと思い、番組の趣旨を概略説明した。

 ――安倍氏は、概略の説明を受けたうえで、「番組は公平・中立であるべきだ」との感想をのべた。

「明確に偏った内容」と判断した上での発言

 安倍氏自身は、このNHK側との面談内容をもっとくわしくのべています。

 「朝日」報道直後の一月十二日の日付がある同議員のホームページのコメントではこうしるされています。

 戦犯法廷について「主催者側の意図どおりの報道をしようとしているとの心ある関係者からの情報がよせられたため、事実関係を聴いた。その結果、裁判官役と検事役はいても弁護士証人はいないなど、明確に偏った内容であることが分かり、私は、NHKがとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した」。

 ここでは「明確に偏った内容」という判断をもとに、「公正中立」の報道を、という安倍氏の立場がきわめて鮮明です。事実、面談後の二十九日に番組は一分削られ、さらに放送当日にも三分削られ、「従軍慰安婦」の証言などが消えてしまうというきわめて異常な改ざんがおこなわれました。

 安倍氏は十九日になって、テレビ朝日系「サンデープロジェクト」のなかで、問題の面談では、NHKから「非常にバランスのとれた番組になっている」という説明を聞き、「じゃあ公平公正にお願いしますと(いった)」とのべています。

 NHK側が放送前の番組で“バランスをとりました”と官房副長官に報告に及ぶこと自体、報道機関の自主性をそこなう異常な姿勢ですが、仮に「バランス」をとったというなら、安倍氏にも評価され、“終わり”だったはず。なぜその後に「絶対ありえない」と放送関係者が指摘するような異常な改ざんがおこなわれたのか―という疑問には納得できる説明がありません。

「若手議員の会」の幹部だから説明したとは

 重要なポイントがまだあります。

 NHKの宮下宣裕理事は十九日の記者会見で、安倍、中川両氏に番組内容を説明した理由について、両氏が「『日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会』の幹部だったため」と答えました。

 この「若手議員の会」とはどんな集団か――。

 一九九七年に自民党議員で設立したこの会は、中川氏が会長、安倍氏が事務局長。歴史教科書問題で活動し、教科書から「従軍慰安婦」にかんする記述をなくすことなどを主張しました。会が編集した本『歴史教科書への疑問』には、安倍氏らが教科書協会会長を呼び、なぜ「慰安婦」を取り上げるのか、としつように追及する場面も出てきます。

 問題になった今回の番組についても、中川氏は、「これをNHKが放送するのは放送法にてらしてどうなのかという、(会の)仲間うちの話はした」(二十三日フジテレビ系「報道2001」)と認めています。実際、NHK側は安倍、中川両氏以外にも「若手議員の会」のメンバーである下村博文衆院議員らに番組放送前に説明していました。NHKが会を強く意識していたことは明らかです。こうした集団の幹部だった官房副長官が「慰安婦」問題を扱うNHK番組の放送前に「偏った内容」と判断し、「公平公正に」とNHK幹部にいえば、それは、一般論ではない、特定の意味―強い圧力という意味になるのは明らかでしょう。



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