2005年1月16日(日)「しんぶん赤旗」

NHK慰安婦番組

「修正台本」をもとに検証

放送直前 何が削られたか


 NHKの番組「戦争をどう裁くか(2)問われる戦時性暴力」(二〇〇一年一月三十日)。放送日の前日二十九日、安倍官房副長官と面会したNHK幹部はスタジオへ取って返し、作り直しを指示。編集作業は深夜に及び、四十四分ものだったのが四十三分になって完成しました。さらに三十日夕方、幹部から再度「カット」の指示が出て、編集は夜十時の放送まぎわまで続きました。放送されたのは四十分のものでした。何が消され、何が加えられたのか。実際に放送された番組と、四十四分版の修正台本を比較し、番組改変のありさまを見ました。


 高橋哲哉東大助教授(当時)と米山リサ・カリフォルニア大学準教授がスタジオ出演し、解説しました。テーマにかかわる重要な発言が大きく削られました。(カットされたおもな部分はゴシック)

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大幅につくり直されたNHK番組

論評丸ごと削る

 高橋さんは、「法廷」をどうとらえるか、と問われ、ベトナム戦争当時の民間法廷の試みを紹介します。その後、女性国際戦犯法廷の意義について述べた部分は、そっくりカットされました。

 「今回は90年代の初めに名乗り出てくれた、日本軍の元「慰安婦」の人達がですね、日本政府に責任をとってほしいということで、訴え続けているんですが、その声がまだ聞き届けられていないという状況の中で、…民間の力で、そういった被害者の人達に一堂に会してもらって、その声を国際法の専門家に届けて、改めて判断を示してもらうと、そういう場を作った…決して模擬裁判でもなく…当事者がこの裁判に参加しているということの意味は非常に大きい…市民の力で国際法にも影響を与えることができるという、1990年代に始まった流れを象徴するような出来事だったんじゃないかと、私は思っています」

 米山さんにいたっては従軍慰安婦の証言を直接論評した部分は、すべて消されていました。

 「やはり証言をされている方。一人の証言をされている方の背後に、何百人、何千人という死者、あるいは犠牲者の方がおられて、証言台に出てこれない方がおられる訳ですよね。あるいは証言をされている背後に、まだ語り尽くせない…というのは、ものすごく沢山あるということも感じられると思うんですね。…」

日本政府の対応

 日本政府の対応についてふれた部分も大きく削られました。

 高橋さんは、被害者が求めているのは、国家による個人補償だと述べたあと、それが決して理不尽な要求ではないと、説明していました。

 「それが成されない限り、お詫びをしても、言葉だけであると理解されてしまいますし、…国民基金の方は、これは政府ではなくて、民間の基金であるということなので、被害者の人達からは、政府、国家が責任を免れるためのものではないかというふうに理解されているわけですね。国家による補償ということが成されない限り、納得が得られないということだろうと思います」

 日本政府は条約で解決済みとの立場だが、と問われ、高橋さんは次のように続けていました。

 「…サンフランシスコ講和条約、それから二国間条約で、戦争被害に関する請求権は解決されたということをとっているんですが、これは…クアラスワア報告や、マクドゥーガル報告、…国際機関の国際法上の判断では、退けられている」

 米山さんについては「…日本軍あるいは日本政府が、かつて過去に犯した行為が、犯罪であったかどうか…つまり、裁きですね。それを下す手段も経ないまま、…処罰されず免責されたまま」が削られ、「許されることを前提とした謝罪を行って来た」という発言だけが残り、意味不明のものになりました。

 さらに米山さんの次のコメントも消されました。

 「法廷が和解を前提としたものではない…ということが大事だと思うんです。…和解などというものは、到底許されようのないものだ、それほど償いきれないものだ、謝罪しきれないものだ、ということをある意味でかいま見せている」

 昭和天皇の戦争責任と日本軍の従軍慰安婦問題という二つのタブーを裁いた女性国際戦犯法廷。意味が通らないほどズタズタにされた改ざんの跡をみると、安倍・中川両氏の圧力を受け、何が何でも法廷の意義を骨抜きにしたい、というNHK上層部の姿が見えてきます。

長井暁チーフ・プロデューサーが証言した改変内容

2001年1月29日

 (1)「女性国際戦犯法廷」が、日本軍による強姦や慰安婦制度が「人道に対する罪」を構成すると認定し、日本国と昭和天皇に責任があるとした部分を全面的にカットする。

 (2)スタジオの出演者であるカルフォルニア大学の米山リサ準教授の話を数カ所でカットする。

 (3)「女性国際戦犯法廷」に反対の立場をとる日本大学の秦郁彦教授のインタビューを大幅に追加する。

同30日(放送当日)

 (1)中国人被害者の紹介と証言。

 (2)東チモールの慰安所の紹介と、元慰安婦の証言。

 (3)自らが体験した慰安所や強姦についての元日本軍兵士の証言。



加えられたのは

 秦郁彦・日本大学教授のインタビューは二十八日に急きょ収録し、追加されました。二十九日には補充され、三分三十秒にもなりました。

 女性国際戦犯法廷について、秦氏は「法常識を絶した話」と決めつけ、次のように話します。

 「時効があります。したがってもう50年以上経っている。そうすると本人の申し立て以外にもう調べる方法がない。慰安婦だった人の証言に証人に立っている人がいないんですね」

 従軍慰安婦制度については、こういいます。

 「…当時の状況では、合法的な、売春は合法的に認められた存在だったわけです。…商行為なんですね」




異例の“部長試写”をへて

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2001年1月27日に完成したスタジオ収録用「修正台本」

 番組は、二〇〇〇年十二月二十七日、それまでに出来上がっていたVTRを見ながら、高橋哲哉さんと米山リサさんが話をするスタジオ部分を収録しました。これでほぼ完成し、〇一年一月十三日、十七日に局内試写がおこなわれました。

 しかし、十九日に異例の教養番組部長試写。以後、三回の部長試写が繰り返され、その都度、番組がつくり直しに。女性国際戦犯法廷を主催した市民団体バウネットの松井やより代表(当時)のインタビュー、天皇有罪の発表シーンが削られます。

 二十七日、NHKは高橋さんにスタジオ部分の撮り直しを申し出て、修正台本ができあがります。それに沿って、二十八日にあらたに収録されました。ところが二十九、三十日には高橋さんには断りもなく、NHKの独断で本人の発言を含めて大幅にカットされる異常な事態となりました。



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