2005年1月15日(土)「しんぶん赤旗」

NHK従軍慰安婦番組改ざん

奇怪な弁明はじめた


 戦時中の従軍慰安婦たちの被害をテーマとしたNHK番組(二〇〇一年一月三十日放送)に、自民党の安倍晋三幹事長代理(当時内閣官房副長官)と中川昭一経済産業相(同、衆院議員)が圧力をかけて改ざんさせたとされる問題で、不自然な動きが出ています。問題発覚から沈黙を守ってきたNHKが十三日夜、「政治的圧力を受けて番組を変更した事実はない」と両氏のかかわりを否定する見解を発表。すると、両氏もNHK見解にそった弁明をしはじめたのです。



 中川氏

中止要求を認めつつ
会ったのは「放送後」

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番組改ざんで問題になっているNHK=東京・渋谷区

 今回の改ざん問題を最初に報じた「朝日」(十二日付)によると、番組放送前日の〇一年一月二十九日に安倍、中川両氏はNHK幹部に対し、「一方的な放送はするな」「公平で客観的な番組にするように」と発言。中川氏は「それができないならやめてしまえ」と放送中止を求めました。

 これは、当時、同番組にデスクとしてかかわった長井暁チーフ・プロデューサーが十三日の記者会見で、同時期にNHK幹部と両氏との間で同番組の内容についてやりとりがあったとする証言と一致します。何よりも、当の中川氏が「朝日」の取材に「『だめだ』と言った。まあそういう(放送中止の)意味だ」(十二日付)と答えていました。

 問題が明るみになった十二日も、「公平中立の立場で放送すべきであることを指摘したものだ」と、放送前に番組内容に関与したことを認めていたのです。

 ところが、奇怪なことに政治的圧力を否定するNHK見解が出された十三日になって中川氏は態度を一変。NHK幹部と会ったのは番組放送後の「二月二日」で、「先方がNHK予算に関して説明に来た際に、この番組についても話が出た」というのです。

 放送中止を求めるということは、憲法にかかわる重大問題です。中川氏はそのことを自ら認めておきながら、波紋が広がったからと言い分を変えるなどというのは到底通用しない不自然きわまりないことです。

 安倍氏

「ひどい内容」と知り
「話をした」と認める

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歴史わい曲教科書に抗議する韓国の元従軍慰安婦と支援の人たち=2001年4月27日、文部科学省前

 安倍氏は、放映前の一月二十九日にNHK幹部と会ったことはいまでも認めています。

 ところが、十三日夜に出演したテレビ朝日系番組「報道ステーション」で安倍氏は、「私が(NHK幹部を)呼びつけたわけではない」と繰り返し強調。NHK幹部が予算の説明に訪れ、そのなかでNHK側が「この機会ですから、ちょっと説明させていただきます」と問題の番組の説明をしたのだ、といいました。

 “語るに落ちる”とはこのことです。当時、安倍氏は官房副長官で、NHK予算を審議する衆院総務委員会には属していませんでした。安倍氏にわざわざ説明にくることも不自然ですが、「予算の説明」にきたのに、どうして数多くあるNHK番組のなかで、「従軍慰安婦」問題を扱った今回の番組だけが話題になるのでしょうか。それは、安倍氏が同番組を目の敵にしていたからにほかなりません。

 現に安倍氏は、一月二十九日の時点で改ざんされることになる番組が「当時、もう永田町で話題になっていた」「私は(NHKの)説明を聞いて、ずいぶんひどい内容になっていると聞いていたので、『ちゃんと公平公正にやってくださいね』と話した」と、自らの関与は否定していません。

 しかも、安倍氏は、「女性国際戦犯法廷」自体を「異常な集会」と敵視していたことを隠していません。その安倍氏が「公平公正に」といえば、「法廷」を正面からとりあげた番組の内容変更を迫るものだと受け取られても当然です。

 現に、大幅な改ざんがおこなわれたのは、その直後でした。

 「朝日」(十二日付)で安倍氏は「偏った報道と知り、NHKから話を聞いた。中立的な立場で報道されねばならず、反対側の意見も紹介しなければならないし、時間的配分も中立性が必要だと言った」とコメント。放送前から番組内容の時間配分も知りうるぐらいの立場にいたのです。

 右翼は番組放送前からNHKにおしかけており、安倍氏がどこで事前に番組内容を知っていたのかは、大きな疑問です。

 NHK

安倍氏と会った直後
異常な改ざん2度も

 NHKは十三日、関根昭義放送総局長の「見解」を発表しました。しかし、その中には多くのウソ、ほころびが目立ちます。

 見解は安倍官房副長官と面会したことは認めたうえで、「圧力で番組は変更していない」「予算の説明を行う際に合わせて番組の趣旨や狙いなどを説明した」といいます。しかし、なぜ、予算の説明に放送総局長まで同行する必要があったのか。安倍氏らと会ったあと、なぜ番組の改変を繰り返したのか。NHKの説明は矛盾だらけです。

 「見解」によれば「当時の放送総局長が、試写をして意見を述べたことは事実ですが、議論の分かれる問題を放送する場合にはしばしばあること」だといいます。「とんでもない」というのはNHKの技術畑の元職員。放送されるばかりになった「完パケ(完成した番組VTR)を放送総局長が試写し、注文をつけるなどは、異例中の異例だ」というのです。それは多くの放送関係者が口をそろえるところです。

 しかも、放送当日に、さらに三分間も縮めるなどは「技術的にもありえない」と。「しばしばある」はウソ。政治的圧力に屈した以外に説明がつくのでしょうか。

 もともと、NHKが通した当初の企画は「現代の性暴力の被害者から話を聞き、何が問われているか」を問うものだったはず。それをNHKはずたずたに改ざんしたわけですから、その責任はきびしく問われます。



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