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日本共産党

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赤旗

81、ODA

貧困の解消と、経済・社会・環境保全の調和をめざす経済協力へ転換します

2022年6月

 2015年9月の国連首脳会合で、2030年までに達成を目指す「持続可能な開発目標(SDGs)」を全会一致で採択しましたが、そのなかで、今日の世界の切迫した状況を次のように述べています。

 「依然として数十億人の人々が貧困のうちに生活し、尊厳ある生活を送れずにいる。国内的、国際的な不平等は増加している。機会、富及び権力の不均衡ははなはだしい。ジェンダー平等は依然として鍵となる課題である。失業、とりわけ若年層の失業は主たる懸念である。地球規模の健康の脅威、より頻繁かつ甚大な自然災害、悪化する紛争、暴力的過激主義、テロリズムと関連する人道危機及び人々の強制的移動は、過去数十年の開発の進展の多くを後戻りさせる恐れがある」

 加えて気候変動(地球温暖化)による影響で状況は悪化しており、さらに一昨年来の新型コロナウイルスのパンデミックによる死者は全世界でわかっているだけで635万人に達します。

 今年の2月からのロシアによるウクライナ侵攻によって、多くのウクライナ市民を死傷させ、住宅・建物の破壊、暴力による人権侵害、国内外への多くの避難者を生み出しました。この侵略によってウクライナやロシアで生産される食料を輸出ができず、国連世界食糧計画が「第二次世界大戦後、最悪の食料危機」と警告する事態を生み出し、アフリカなどで多くの人々が飢餓に直面しています。ロシアへの経済制裁の一環として、化石燃料の貿易を規制し国際価格の高騰がおきたために、後発の途上国などでは国民生活が窮迫しています。

 ミャンマーの軍事クーデターやアフガニスタンの混乱など、深刻な人権侵害や大量の避難民が発生する事態が各地でおきており。きわめて深刻な状況といわなければなりません。

 こうした切迫した状況で、日本政府の取り組みやODAに求められる役割はいっそう大きくなっています。

 [SDGsについては「82、SDGs」をご覧ください。]
  https://www.jcp.or.jp/web_policy/2022/06/202207-bunya82.html

政府の開発協力大綱のさらなる改悪をやめ、ODA政策の転換を求める

 岸田文雄首相は6月10日のアジア安全保障会議でインド太平洋地域での支援強化のためにODA拡充に言及しました。中国の無法な海洋進出に対抗して、軍事費増額による軍拡と合わせて、ODAなどを使って巡視船といった海上安保設備の供与など今後3年間で約20億ドルの支援をインド太平洋諸国に行うことを打ち出しました。来年度予算案での実現を目指すとしています。

 自公政権は2016年2月、それまでの政府開発援助(ODA)大綱を見直し、「開発協力大綱」を閣議決定しました。この開発協力大綱は、2013年12月に当時の安倍政権が閣議決定した「国家安全保障戦略」を踏まえたものであり、「戦略」は、"米国と肩を並べて外国で戦争できる国づくり"をめざすもので、防衛大綱、中期防衛力整備計画など軍事分野とならんで、政府開発援助(ODA)も「国家安全保障に関連する分野」と位置づけて、「指針を与える」ものとされました。

 現在、政府が国家安全保障戦略の年内改定を進めており、アメリカとともに「自由で開かれたインド太平洋」の名で、中国を仮想敵国にして軍事同盟と軍事的対抗の全面的強化を進めようとしています。その戦略の改悪内容に合わせて、特定の世界観で世界を分割しつつ、開発協力大綱も「軍事対軍事」の力の論理に沿ったもの、支えるものに改悪されることが懸念されます。

 本来、ODAの第一の目的は、援助対象国の自立的発展の実現と貧困・格差の解消です。そこからはずれて、日本の「戦略的重要性」などを目標にするのは、本末転倒です。現在、国際的にもODAの本来の目的から外れて、自国(援助国)の利益を優先しようという潮流があるなかで、日本が率先してODAの本来の姿を追求する努力こそ求められています。

 安倍政権の改悪以前のODA大綱は「軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避」としていました。改悪では文言を残しつつも、新たに「開発協力に相手国の軍又は軍籍を有する者が関係する場合には、その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」と書き込まれたのです。「実質的意義」というあいまいな基準で、従前のODA大綱が認めていない他国の軍や軍籍保持者への支援に道を開きました。さらに現在の大綱は、「海上保安能力を含む法執行機関の能力強化、テロ対策や麻薬取引、人身取引対策等の国際組織犯罪対策を含む治安能力維持強化」などへ「必要な支援を行う」としています。こうした「支援」が、地域の緊張を高めたり、軍や警察への支援、軍事転用につながったりする恐れが指摘されていましたが、岸田政権は「戦略」の名でいっそう強引に推し進めようとしています。こうした事態は、現地でのNGOの活動に対して、住民の不信や拒否的な態度を招き、せっかくのODAの効果を弱体化させることにつながると懸念されていいます。

 ODAは、軍事的利益や短期的な外交上の利益に従属するものであってはなりません。日本のODAのあり方をいっそう歪める内容となっている現行の開発協力大綱の撤回、岸田政権によるさらなる改悪に断固反対します。

 日本共産党は、憲法9条にもとづく自主・自立の平和外交に転換することで、国連憲章の「平和のルール」を本格的に実践し、「人間の安全保障」の実現に向けて、飢餓、貧困、人権侵害を克服し、基礎的社会サービス、環境保全、防災などの課題を達成する平和で公正な国際社会の実現に力を尽くします。こうした転換を図ることで、日本のODA(政府開発援助)を、これまでのアメリカの戦略に奉仕し、大企業の海外進出の条件を整備するものから、発展途上国の自主的・自立的発展と世界の平和に寄与するものに変えるようにします。

―――途上国の市民組織と連携し、基本的人権の保障、貧困の解消、格差の是正、男女平等、社会的に立場の弱い人々の保護、環境の保全といった課題に優先的に取り組みます。

―――憲法9条を持つ国として、従前のODA大綱で原則の一つであった「非軍事主義の原則」を堅持し、最上位の規範として、軍事転用につながるあいまいさを排除すべきです。

―――日本のODAは、経済インフラ分野が4割(2020年、二国間)を占めます。経済インフラ偏重をあらため、教育、保健、上下水道など社会セクターへの支援(24%)をODAの中心にします。

―――後発開発途上国(LDCs)への援助の比重を高めます。

―――日本のODAの規模については、GNI(国民総所得)比では0.26%(2020年)で、先進国の目標として国際的に合意されているGNI比0.7%の実現に向けて努力します。

―――ODAを増額するため、「為替取引税」をはじめ、国際連帯税、タックスヘイブン課税の強化も含め、財源を広く検討します。

―――世界銀行など支援にかかわる国際機関において、途上国の発言権拡大を求める取り組みを支持します。

―――日本の都合を優先したODAでは、相手国で期待された目的を十分に達成することができないケースが多くみられました。日本と支援先国の双方の専門家チームによって、相手国の主体性を尊重し、住民のニーズに第一義的に応えているか、ODAで使用する資器材かどうかなどの観点から、客観的な評価を実施します。その結果を両国で公表し、透明性を確保して、説明責任を十分に果たすようにします。

―――ODAの基本理念や、ODAに関する国会の責任と権限を明確にし、NGOの関与の仕方とそれへの支援などを盛り込んで、ODA基本法を制定します。多数の省庁にまたがったODAの内容や予算は統合・整理しつつ、発展途上国のニーズや国際的課題を一元的に受け止め、責任の所在を明らかにして透明性や一貫性を確保する見地から、ODAの実施体制を抜本的に見直すべきです。

―――日本の経済協力における官民協力では、民=企業という場合が多く、ODA予算のごくわずかしか、NGOが参加できる案件がありません。NGOの持つきめ細かい対応や、情報、政策提言などを生かせるよう、ODAの計画から実施までのあらゆるレベルで、NGOの自立性を尊重しつつ、パートナーとして参加を位置づける体制(予算、協議や情報発信の場の提供など)を整えます。

―――ミャンマー国軍がクーデターによって、民主的に選ばれた政権を倒したことは、民主主義を根本から否定する暴挙です。ミャンマーへの最大の援助国である日本が、国軍支配を認め支えていると国際社会に受け取られることがあってはなりません。その趣旨で6月に衆参両院で採択された決議を、政府は守るべきです。日本のODAはミャンマー軍が経営・所有する企業を利しており、国軍の利益につながるODAや開発投融資をきっぱり停止すべきです。同時に、国軍による市民の殺害・人権侵害、少数民族地域への空爆などのもとで、新型コロナ感染が広がり、国軍による医師らの逮捕・拘禁で医療体制がとれず、多くの市民が、生命の危機にさらされています。政府が緊急支援を強化するよう求めます。

―――20年間にわたって各国政府、国際機関、NGOなどがアフガンニスタンの復活のために、様々な支援を行い、日本のNGOも緊急人道支援、教育事業、農村開発、医療、平和構築のために支援・対話・提案を続けてきました。タリバンの支配が復活し、食料危機や経済危機、難民の発生など深刻な事態に陥っている中で、緊急人道支援や避難民の保護、援助関係者の安全の確保・退避支援を、各国政府や国際機関とともに取り組み、アフガニスタンの人々の人権が守られ、安心して暮らせる社会の実現へ進めるよう政府の対応を求めます。

新規感染症への全人類的対応の協力の強化を

 新型コロナウイルスのパンデミックは、新規感染症の中でも「異次元のグローバルな脅威」ともいうべきものであり、世界の社会・経済に深刻な悪影響を及ぼしています。開発途上国では、健康・生命の危機に加えて、経済危機による貧困問題の悪化が起き、多数の国際NGOが、緊急支援に取り組んでいます。

 アメリカをはじめとする先進国は、その資金力によって感染症対策の個人防護具や医薬品を大量に購入するとともに、製薬メーカーが開発するワクチンについて事前に大量に買い取る契約を結びました。その結果、世界の大半を占める途上国・新興国が、こうした資材・薬品・ワクチンを確保するのが困難になっています。

 富裕国でワクチンによってコロナを抑え込んだとしても、貧困国で際限のない感染が繰り返されるうちに、ワクチンの効かない感染力の強い変異株が生まれ、富裕国を含む世界を再び席巻してしまう可能性があり、「皆が安全にならない限り、誰も安全ではない」という認識を世界で共有する必要があります。

 WHOなどの国際機関や民間財団が連携して発足した「ACTアクセラレーター」(新型コロナ関連製品アクセス促進枠組み)や、新型コロナに関する新たな技術に関わる知的財産権を、途上国での安価な供給につなげる仕組みである「C-TAP」(COVID19関連技術アクセスプ-ル)は、前者では資金不足によって、後者は多くの先進国や製薬会社の反対で、機能が発揮できずにいます。

―――新型コロナ前の支援を維持できるよう、既存のODA予算の振り替えではなく、新たな追加資金を提供します

―――新型コロナのワクチン・検査・治療のための研究を、ODAの対象とします。

―――ワクチンに関するWTO(世界貿易協定)のTRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)の免除を発動します。

―――途上国のワクチン製造能力の強化を支援します。

―――全人類的な課題である感染症への対応や、新型コロナ禍で資金不足はいっそう拡大しており、そのための国際金融取引への課税などの国際連帯税の新設に取り組みます。

 新型コロナウイルスのパンデミックは、世界各地で保健システムが抱える多くの弱点を浮き彫りにしました。新種の感染症の発生間隔が短くなっているという指摘がされており、公衆衛生において、緊急事態のさいのプライマリ・ヘルスケア(実践的で、科学的に有効で、社会に受容されうる手段と技術に基づいた、欠くことのできない保健活動)の重要性が改めて注目されています。プライマリ・ヘルスケアの充実は、疾病の監視、検査、感染追跡、コミュニティでの啓蒙活動、ワクチン接種、重症者の発生抑制という一連の対応を可能にし、感染症による危険を抑制することができます。それは経済活動にとっても大きなメリットを生み、持続可能な発展(SDGs)の大きな支えになります。

 コロナウイルス感染症だけでなく、現在も途上国で発生しながら「顧みられない病気」で治療法、とくに安全・安価な治療法が開発されていない病気が多数あります。年間3憶9000万人が感染し、気候変動によって急速に拡大しているデング熱もその一つです。蚊によってウイルスが媒介され、発症しない割合も高いのですが、突然の発熱、頭痛・筋肉痛・関節痛を伴い、発疹が現れ、二度目の感染で重症化する場合があり、同じウイルスで出血熱の症状になる場合もあります。こうした「顧みられない病気」への対応を支援する必要があります。

ODAにおけるジェンダー平等案件の比重を高める

 外務省は2016年にジェンダー平等に関わるODA政策を定めた「女性の活躍推進のための開発戦略」を策定し、20年以降に改定を予定しています。国際NGOが要望しているように、次のような改定を求めます。

―――具体的な指標と期限を定めた行動計画を策定します。

―――ODAに占める「ジェンダー平等主目的案件」の比率を現在の1%未満から4%へ引き上げる。とくにODAのジェンダー平等主目的案件に占める教育分野の比率を引き上げます。

―――改定の作業プロセスに、市民社会からのメンバーを参加させます。

 2019 年発表の OECD(経済協力開発機構) レポートによると 、途上国へのジェンダー平等を主目的とした案件は、OECDの下部組織であるDAC(開発援助委員会、29か国とEU)のODA支出総額に占める割合の平均値が約4%なのに、日本は2011年をピークに減少を続け、2019年には0.8%とDACの中で最下位レベルです。抜本的転換が必要です。

温暖化対策に反する石炭火力の「輸出」でなく、再エネの普及へ転換を

 日本の政府系金融機関による石炭火力発電輸出への支援額は世界トップクラスで、パリ協定以降も融資などを行ってきました。政府が100%出資する国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)による海外(インドネシア、ベトナムなど)での石炭火力発電事業への支援額は、15~20年度で計約1.2兆円(金額非公表の3事業除く)にも上ります。

 ドイツの環境NGOウルゲワルド、フランスのリクレイム・ファイナンス、国際環境NGO 350.org Japan(350 Japan)とその他25団体が発表した石炭産業への世界の金融機関・投資家に関する報告によると、民間金融機関のうち19~21年に、融資総額が最も大きい3金融機関は、日本の3大メガバンクです。3年連続3位独占という状況です。

 国連のグテレス事務総長は、地球の平均気温の上昇幅を産業革命前と比べて「1.5度」以内に抑えるという目標の達成のためには、OECD加盟国は30年までに、それ以外の国も40年までに石炭火力発電を廃止するよう求めています。このまま「輸出」を続けても、運転期間は短く、投資資金が未回収の「座礁資産」となり、借款で融資する日本にとっては「不良債権」となる危険が大きくなります。

 気候変動の危機的状況を受け、世界全体のCO₂排出量の約3割を占める主要7カ国(G7)の気候・環境相会合でも、石炭火力発電の全廃に抵抗する日本の姿勢が浮き彫りになり、海外メディアからも厳しい批判を受けました。

 こうした批判のなかで、政府はようやく、バングラディシュのマタバリ石炭火力の拡張案件(マタバリ2)とインドネシアのインドラマユ石炭火力案件へのODAによる支援中止を発表しました(6月22日)。地元住民、環境NGO、日本の市民・国会の共同による成果です。

 日本政府は、規制の対象は「排出削減対策が講じられていない」石炭火力発電であり、輸出支援もできるとして、たとえば水素やアンモニアを混ぜて燃やす方式なら「排出削減対策」をとったものだというような考え方で依然として輸出支援の道をさぐっています。しかしたとえ、混ぜて燃やしても石炭を燃やす限り大量のCO₂を排出します。

 また既に計画されているベトナムへの石炭火力輸出(ブンアン2石炭火力事案)も依然として推進しています。こうした石炭火力「輸出」はやめて、気候危機対策をすすめる国際的な取り組みにそって、途上国における再生可能エネルギーの普及を、住民の合意を前提に、住民・地域経済への経済効果を高める取り組みとして、日本も積極的に展開すべきです。

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