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日本共産党

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赤旗

44、観光

大企業・インバウンド優先の観光政策から地域・住民最優先の政策へ

2022年6月

新型コロナ禍で破たん明白――インバウンド頼み、大企業、富裕層を優遇する観光政策を転換します

 2020年、新型コロナウイルス感染症が確認されました。以降2年半の間、新型コロナウイルスの日本国内での感染が広がり、繰り返し感染拡大を続けています。

 観光・交通産業をめぐっては、「不要不急」の外出や会食、帰省の自粛など、移動や密集の抑制が呼びかけられました。国内外の観光客は激減し、宿泊施設や旅行会社をはじめ、交通会社や土産物店など地域の観光関連企業の経営状況は急激に悪化、観光地は様変わりしました。

 新型コロナ禍の前、安倍・菅政権は、観光を成長戦略・「稼ぐ力」の柱として位置づけ、訪日外国人客数を20年に年間4,000万人、30年で6,000万人受け入れるという目標を掲げ、インバウンド重視の観光政策を推し進めてきました。日本に観光やビジネスで訪れる訪日外客数は、19年には3,118万人を超えていました。

 ところが、新型コロナ感染症の拡大による入国制限等の水際対策により、20年の訪日外客数は年411万人(前年比-87.1%)まで落ち込み、21年は24万5,862人(同-94.0%)まで激減しました。(22年は5月末で14万7,000人)

 また、2020年の東京五輪・パラリンピックで訪日客の増加を当て込み、首都圏空港(羽田空港・成田空港)の発着容量を100万回/年に拡大し、国際線の枠を増やしてきました。ところが、新型コロナ禍で五輪は1年延期されたうえ、21年夏、「緊急事態宣言」の最中に強行開催したものの、無観客開催となり観戦客は増えませんでした。

 新型コロナ禍のもとで、政府の目論見はことごとく崩れ去り、インバウンド頼みの観光政策は根底から破たんしたのです。

 さらに、政府の観光政策は、首都圏空港の機能強化に加え、カジノを含むIR事業誘致の推進を「観光ビジョン実現プログラム2019」に掲げていました。空港の増便やアクセス道路整備、IR(統合型リゾート)施設や国際会議等の誘致(MICE)、大規模ホテル建設や大型クルーズ船の受入港湾整備等、外資系企業や大企業への税制優遇や規制緩和など、住民を置き去りにした政策を強引に推し進めてきました。

 それだけではありません、2019年12月、当時、官房長官だった菅義偉前首相は、「世界レベルのホテルを50カ所に新設する」と発言。スイートルームを多数完備する外国人富裕層向けの超高級ホテルだったことから、国民の批判が噴出しました。公的資金である「財政投融資」を使って、これほど露骨な超高級ホテルの誘致をめざしていたのですから驚きです。

 こうした結果、各地で深刻なオーバーツーリズム(観光公害)を引き起こしてきました。国内有数の観光名所を誇る京都では、違法民泊施設の増加、深刻な交通渋滞や騒音、ゴミ問題や写真撮影などのマナーに関するトラブルが多発し、安心安全を損なう住環境に地域の住民の不満が噴出していました。

 インバウンド頼みや大企業、富裕層を優遇する政策をあらため、観光立国基本法の理念である「住んでよし訪れてよし」の安全安心の地域住民目線での観光政策へ転換が求められています。

都心低空の羽田新飛行ルートの運航はただちに中止を

 インバウンド目標数達成に向け、羽田空港や成田空港の増便や新滑走路建設を計画し、受け入れ機能を拡大しています。羽田空港の国際線は、都心上空を飛行する新ルートが20年3月から運用開始しました。また成田空港では、夜間飛行制限を緩和し、深夜に航空機を飛ばせない時間を7時間から4時間半に短縮しました。近隣住民や飛行ルート下の住民は、騒音や航空機の落下物、墜落の危険など生活環境の悪化を強いられることになっています。新飛行ルートの運用を開始した20年3月には、訪日外客数は、19年3月比93%減の193,700人まで大幅に減少、20年4月には、99.9%減の2,900人とほぼ消失しました。訪日外国人観光客の受け入れを6月に開始しましたが22年3月で66,121人と現在も外客数は激減の状態です。その中でも継続している危険な飛行ルートは運用する理由がなく即時運用停止するべきです。

どの地域であれ、カジノIRの導入・設置に反対する

 「日本の成長戦略の目玉」として、カジノ解禁を強引に進めた安倍政権を「継承」した菅前首相は、「日本型IRは、(中略)家族で楽しめるエンターテイメント施設とする予定であり、わが国が観光先進国となる上で重要な取り組みである。今後ともIR整備法(カジノ実施法)などに基づき必要な手続きを進める」(20年10月28日、衆院本会議)と答弁しました。

 しかし、最有力と目された横浜市では、カジノの是非を問う住民投票実施を求めた市民団体の署名が、法定数の3倍を超える19万余筆が集まりました。また、8月22日に実施された横浜市長選挙では、民意を無視しIRを推進してきた林氏や急遽IR反対を掲げた小此木元防災大臣を退け、IR誘致反対の山中竹春氏が当選しました。世界有数のカジノ事業者は撤退を決めました。

 一方で、大阪府・市はオリックスグループ、MGMリゾーツ・インターナショナル連合を9月28日に正式に選定しました。他企業が撤退を決めたことも大きな理由です。3月に確定された実施方針には、カジノ事業者と35年の長期契約になること、自治体側から契約解除を申し出た場合は賠償金支払い義務などが明記されています。大阪府の試算では、カジノ客の7割が日本人と見込んでいますが、国民の投じた金額は外国企業の利益となります。また、インバウンドに依拠した場合、コロナ禍のように訪日客が激減することによるMICEなどの大規模施設の維持費負担、チップに交換することで資金の出どころが不明となるマネーロンダリングの危険など課題は山積したままです。

 21年、大阪市は誘致予定地である湾岸の埋立地を地盤改良するとして約790億円をかけると発表しました。 カジノ誘致の賛否を問う住民投票実施を求める署名運動は、今年3月25日~5月25日までの62日間で「直接請求」に必要な法定数約14万6,500筆を超える20万筆以上が集まりました。

 また、和歌山県はカナダのクレアベストニームグループをIR設立運営事業者と選定し8月25日に基本協定を締結しました。長崎県は、カジノオーストリアインターナショナルジャパンを8月6日付で選定しました。

 20年1月に朝日新聞社が実施した世論調査では、「政府は整備の手続きを凍結する方がよい」が64%に上り、「このまま進めるほうがよい」の20%を大きく上回りました。大阪でも推進派は30%にとどまり、住民はIRを望んでいないことが明らかです。各地具体的に動きを見せていますが、住民が不要としているIR施設誘致はやめるべきです。

 岸田政権でも、IR担当は斎藤鉄夫国土交通大臣(公明党副代表)に引き継がれました。自公政権と維新がカジノにしがみつくなか、日本共産党を伸ばし政権交代を実現することこそ、日本へのカジノ上陸を阻む確かな力です。

「2022参議院選挙/各分野の政策 83、カジノ問題参照

新型コロナ禍で疲弊する観光・交通産業の活性化支援を

新型コロナ禍で深刻な観光・交通産業の疲弊

 新型コロナウイルスの長引く影響で観光・交通産業は深刻な状況にあります。1年以上にわたって繰り返されてきた緊急事態宣言など未曾有の甚大な影響で、旅行など人の移動、密集が抑制され、観光客が激減し、観光地の疲弊は深刻さを増し、多くの事業者が事業継続の危機に見舞われています。

 新型コロナウイルスの影響を受けた倒産は、全国で3,549件確認されています(6月16日現在)。そのうち1億円未満の小規模倒産が2,083件(構成比58.7%)にのぼる一方、負債100億円以上の大型倒産は6件(同0.2%)にとどまっています。その業種別内訳は、「飲食店」が最も多く、続いて「建設・工事業」、「ホテル・旅館」、「食品卸」となっています。観光関連事業者の倒産は204件です。(帝国データバンク 特別企画:「新型コロナウイルス関連倒産」動向調査)

 新型コロナ感染が拡大するもとでは、移動抑制等の影響を受け、売り上げ減収を補填し、事業の継続を可能にする直接給付の支援が必要です。

 また、感染が収束したのちには、観光客を呼び戻すための需要喚起策により、観光産業と観光地の再活性化が必要です。

新型コロナ感染症が収束までの観光産業等への直接支援
観光産業持続化給付金(仮称)の支給など

 事業継続の危機にある観光関連事業者に対しては、雇用調整助成金の特例措置の期限を延長することや観光産業に特化した持続化給付金の支給を実施するなど直接支援が必要です。

 持続化給付金は、「感染症拡大により、特に大きな影響を受けている事業者に対して、事業の継続を支え、再起の糧となる、事業全般に広く使える、給付金を支給する制度」として、約424万件の中小企業・個人事業者に約5.5兆円を支給して、2021年2月15日までに終了しました。しかし、その後も、緊急事態宣言やまん延防止措置など、休業や時短を強いられる事業者が相次ぎました。観光産業に至っては、移動の抑制が続き、観光客は激減したままです。

 観光客が戻らない限り、観光産業が事業を継続するのは困難です。観光産業持続化給付金(仮称)の支給はまったなしです。

新型コロナ感染症の収束後、地域の観光を再活性化する需要喚起を
「GoToトラベル」事業の抜本的見直しを

新型コロナ収束前提に、全国一律やめ、地方中心の「地域観光事業支援」に切り替える

 政府は、新型コロナ感染症の流行収束後の観光需要喚起策として、「GoToキャンペーン」事業を20年度補正予算に約1兆6,794億円計上しました。これはトラベル、イート、イベント、商店街といずれも観光・文化関連事業、サービス事業に対する喚起策です。そのうちトラベルに割り当てられた当初予算の充当分約8,000億円は20年12月までに約9割を配分、その後予備費から約3,119億円、さらに第3次補正予算では1兆311億円を計上しました(総予算約2兆6,400億円)。予算の事業目的には「新型コロナウイルス感染症の流行収束後には、日本国内における人の流れと街のにぎわいを創り出し、地域を再活性化するための需要喚起が必要」としていました。

 そのうち7,000億円は返納とし、残り約8,300億円を新たな観光需要喚起策として全国を対象に7月上旬に実施予定です。

 コロナ禍において深刻な状況にある観光業への需要喚起策は大変重要です。しかし、事業実施にあたっては、感染拡大が収束していること、地域の住民要求と合致しているか、観光関連企業間での利益偏在が生じないかなど政策の合理性が問われます。

 「GoToトラベル」事業にはいくつも問題や課題が山積しました。

新型コロナ感染症の収束が大前提なのに・・・

 なによりも、新型コロナ収束後の需要喚起策としていたにもかかわらず、収束が見通せていない段階で、強引に実施したことから、旅行等の人の「移動」を加速させることになりました。新型コロナ対策は、人の密集を避け、「移動」を抑制することが基本ですが、旅行やまつりなど観光振興は、多くが「移動」と密集を伴うもので、新型コロナ感染症の収束が明確になっていないもとでは、感染を拡大することにしかなりません。

 しかも、当時、感染症は、東京はじめ大都市部に集中したのに、全国一律というやり方をとったため、地方部に拡散させてしまいました。

 実際、新型コロナ感染拡大に歯止めがかからず、同年12月に「GoToトラベル」事業は延期されました。政府は「GoToトラベル」事業と感染拡大とはエビデンスがなく因果関係はないとしています。しかし、人の移動に伴う感染拡大リスクを最小限にするためとして、トラベル事業を停止し続けている現状が、因果関係がないとは言えないことを示しています。こういう「GoToトラベル」事業のような需要喚起策は、やり方を含め間違いです。

全国一律の実施で地方に感染拡散か・・・

 もうひとつの問題は、全国一律に実施したというやり方です。

 この「GoToトラベル」事業については、巨額の事務委託費が批判を受けました。再公募した結果、運営事務局として「ツーリズム産業共同提案体」が1,895億円で再委託されました。これは、JATA、ANTA、日本観光振興協会、JTB、KNT-CTホールディングス、日本旅行、東部トップツアーズから構成されています。ここから民間事業者への再委託により、地域の観光関連事業者や商工会などが減額されてしまう仕組みとなっています。

 また、「GoToトラベル」事業は当初8月からの実施としていましたが、急遽7月22日からの連休前日より始めたことで、様々なトラブルが発生しました。全国規模での登録手続きのため、申込ができない、登録手続きが進まないなどが続出。そのため、多くの宿泊施設事業者は、未登録のままでトップシーズンを迎え、登録済の宿泊施設との予約差が生じました。インターネット予約サイトで広告費用を捻出することができる施設が選択上位に表示されるなど格差が生じました。また、収束が見通せないとして東京都を事業対象から除外するとしたために生じたキャンセル料の補填、割引額を定率ではなく定額としたため、上限まで補助が受けられる高額な宿泊費のホテルや旅館等に偏っているとの指摘等が相次ぎました。

「地域観光事業支援」に切り替えれば・・・

 一方、都道府県などの自治体では、観光支援策として県内旅行へ独自の助成制度を行っていました。

 日本共産党や立憲民主党は、国会で、「GoToトラベル」事業に関しては、自治体独自の取り組みに支援すべきであると訴えてきました。今年に入り「GoToトラベル」予算のうち3,000億円を「地域観光事業支援」として、都道府県が実施する旅行商品や宿泊サービスに対する割引に必要な支援を実施しました。1人当たり5,000円、クーポンは2,000円を上限として5月31日宿泊分までとしていましたが、その後ニーズも多く12月まで延長しました。多くの自治体が参加しました。しかし、コロナ感染拡大に歯止めがかからず、7月中旬以降は「地域観光事業支援」も延期を余儀なくされています。

 全国規模の「GoToトラベル」事業の予算は、約1兆3千億円が残っています。「地域観光事業支援」には約3,000億円を充てました。

 全国一律の「GoToトラベル」事業は、「地域観光事業支援」に切り替え、都道府県等の要望に基づき拡大すべきです。

「住んでよし、訪れてよし」の理念にそった観光政策を

 観光政策はどうあるべきでしょうか。

 日本文化や歴史遺産など日本の魅力が広がること、また日本の魅力を発信する取組みは歓迎すべきですが、インバウンドの目標数に固執し続け、住民の生活を犠牲にする政策では解決することはできません。

 総合保養地域整備法(いわゆるリゾート法)が1987年バブル期に制定されました。大型の会議場や展示場、大規模ホテル建設やゴルフ場、マリーナの整備等リゾート産業振興のため大規模開発に偏り誘致競争を煽りました。全国の自然環境を破壊し、開発を推し進めてきましたが、バブル崩壊とともに経営破綻・倒産が相次ぎ、各地に今なお深刻な爪痕を残しています。総務省が03年にまとめた「リゾート地域の開発・整備に関する政策評価書」で、「昭和62年から平成12年までの間についてみると、国民の自由時間は増大しているものの、国内の宿泊観光・レクリエーションの動向については、年次休暇取得の困難さ、不況の長期化による家計消費支出、自由時間関連支出及び旅行関連支出の伸び悩み等もあり、(中略)リゾート施設の整備を進めることは妥当でないと評価しました。

 06年に制定した観光立国推進基本法の基本理念には、こうした反省にたち「地域の観光資源を生かし、住民が誇りと愛着を持てる持続可能な観光まちづくり」が明記され、「住んでよし、訪れてよしの国づくり」として観光理念に盛り込まれました。

 ところが、「上質なインバウンド観光サービスの創出に向けた観光戦略検討委員会」が21年6月にまとめた報告書で、日本はインバウンド富裕旅行の受け入れに舵を切るべきだとし、地域の伝統工芸、高級衣服、宝飾品などの購買層は富裕層であり、VIP優遇政策により高級宿泊施設、高級食材等を提供する一部の富裕層向けサービス提供にスポットが当たる施策を推進しようとしています。また高額な宿泊施設の誘致に熱心な自治体へ規制緩和や助成等の支援を行っており、住民合意なしに宿泊施設の開発を促進しています。一部の富裕層客誘致のためだけの受入れ政策では、「住んでよし、訪れてよし」の観光政策の理念に反しており、かつてのリゾート法のように住民を置き去りにした政策となってしまいます。

 近年、観光は文化・歴史遺産巡りや美術への造詣を深める他、農業体験や地域伝統の織物や染色、工芸品作成の体験、海や川、湖でのアクティビティから森林ヨガなど多角的に発展してきています。またコロナ禍ですすんだテレワーク等を活用したワーケーションや出張の機会を利用して余暇をあわせるブレジャーなど新たな取組みも始まっています。観光を通じて地域の活性化が図られることで雇用を生み出し、地域住民の生活と自然・文化を守ることが観光客の満足度につながりリピーターを増やすというサイクル、いわゆるサスティナブルツーリズムが大変重要となっています。SDGs開発目標でも持続可能な観光の推進や生態系の保全、森林や自然生息地の保全、都市と農村の良好なつながりをターゲットとしています。

 憲法第25条が保障する健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有しています。8時間働けば誰でも普通の暮らしができることを実現し、生み出される自由時間を使う権利をすべての人が保障されるべきです。

 こうした観点から

―――新型コロナの流行収束までは直接支援で観光業界を下支えし、収束後はいわゆるマイクロツーリズムとして地域ごとの需要喚起策を推進します。

―――また、インバウンドや高額所得者のみをターゲットとした観光政策ではなく、観光地の住民のみなさんが望む形での観光客の受け入れができるよう住民と自治体と観光関連業界のみなさんとで検討することでサスティナブルツーリズム実現のための支援をしていきます。

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