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日本共産党

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赤旗

83、カジノ問題

カジノ導入中止せよ ギャンブル依存症(賭博中毒)問題

2022年6月

誘致前から破たんが明らかなIR=カジノ

 現在、大阪と長崎でカジノを誘致する具体的動きが進行中ですが、日本政府をはじめ関係2府県は、カジノ導入をただちにきっぱり中止すべきです。

 カジノ政策は、実際にカジノを誘致する前から文字通り破たん寸前に追い込まれています。かりに誘致が実現したとしても、経営の見通しの甘さや国民の金銭的打撃、ギャンブル依存症の増加などによって、失敗することは火を見るよりも明らかです。

3地域の計画見通しが実際は2地域だけに

 日本政府は、カジノを導入する場所を国内の3地域とする計画を立ててきました。その計画を具体化するため、2022年4月28日を期限として、カジノの誘致を希望する自治体と企業から事業申請(区域整備計画)を受け付けてきました。

 この申請には、当初、大阪と和歌山、長崎の3府県が応じるとみられてきました。

 ところが、実際に申請したのは大阪と長崎の2府県だけで、和歌山県議会は同県の申請案を否決しました(4月20日)。否決の理由は、「事業者(カジノ企業)の資金計画が不透明」「資金計画がないに等しい」というものでした。

 実際に導入に足を踏み出していた自治体で計画がとん挫したのは、横浜市についで2例目となりました。横浜市では、カジノ誘致の是非を問う住民投票の実施が市議会で否決されたものの、2021年8月の市長選挙によってカジノ誘致反対を主張する新市長が誕生し計画が覆されました。

 カジノ推進法が強行されたのは2016年12月でしたが、それまでにカジノ導入に一度でも手をあげていた自治体は、23都道府県にのぼっていました。しかし、地元住民の反対にくわえ、あまりに主観主義的で安直な見通しのために、次つぎと誘致計画を断念。最終的に名乗りを上げたのは上記3府県1市だったものの、結局、大阪と長崎だけになったという経過です。

 このように、計画段階ですでに大半の自治体が脱落したところに、カジノ実現の不透明さが示されています。

大阪、長崎の見通しも計画倒れ。失速は時間の問題

 大阪と長崎のカジノ計画(事業申請=区域整備計画)について、政府(国交相)は2022年秋以降にも認定する予定です。ここで厳格な審査がおこなわれるならまだ希望がありますが、カジノ導入をしゃにむに推進してきた自公政権には一片の期待も持てません。どんなにずさんな計画や見通しだったとしても、そのまま申請が通ることは明白です。

 しかし、以下にみるように、2つの地域のカジノ計画は、あまりに無茶無謀な内容です。

大阪――多額の税金投入、甘い見通しの事業計画
液状化・土壌汚染対策だけで790億円

 日本維新の会代表で大阪府の松井一郎知事(当時、現大阪市長)は2016年12月22日の住民向け説明会で、参加した市民から「カジノ誘致に税金を使っていいのか」などと詰問されると、次のように〝カジノに税金は1円も使わない〟と断言していました。

 「これだけははっきり言っときます。IR、カジノに税金は一切使いません。民間事業者が大阪に投資してくれるんです」

 ところが、この間、カジノ予定地である大阪市・夢洲の液状化・土壌汚染対策に790億円もの公金を投入することが判明。その他の夢洲インフラ整備費用も含めて総額4,000億円超の費用がかかることも見込まれ、府民・市民のお金がどれだけの規模で投入されるかまったく不透明です。

過大な訪問客の見通し

 大阪の誘致計画では、カジノを含むIR(統合型リゾート)施設への年間の来場客数を2,000万人と見込んでいます。そのうちの6割、1,200万人がカジノ以外の国際会議場やイベントに足を運ぶと想定しています。

 しかも、カジノ業者は、このほとんどが日本人客で占められることを明らかにしています。大阪カジノに進出する企業のパートナーであるオリックスは、「客は全員日本人、日本人だけでどれだけ回るか、その前提でプランニングを作っている」(2021年11月4日、決算説明会)とのべています。

 カジノ客を除いての来客数1,200万人という数字は、日本国内のこれまでのイベントと比べてもけた外れに大きな数字です。たとえば、今年(2022年)6月6日に新国立競技場で開かれたサッカーの試合は、日本対ブラジルというまれにみるビッグゲームだったこともあり、観客数は約7万人となりました。1,200万人という数字は、こういうゲームを1年の約半分――2日に一度の170日間開催して初めて達成できる数字です。

 また、日本のプロ野球の観客動員数が過去最高となったのは、コロナ禍前の2019年ですが、1試合平均では約3万人でした。かりに2019年と同じ規模の観客で1年365日毎日試合をしたとしても、合計でようやく1,095万人となるだけです。

 こうした数字と比較しても、1,200万人の来客数がいかに過大で非現実的な見積もりかは明らかです。

24時間営業する日本最大の〝パチンコ店〟の登場

 大阪へのカジノ進出を申請したMGM・オリックス企業連合が2021年12月23日に提出した計画によれば、「電子ゲーム約6,400台をゲーミング区域内に適切に設置する」としています。ここでいう電子ゲームとは、大規模集積回路(LSI)によって制御されるソフトウェア内蔵型のゲーム機のこと。子どもたちがゲーム場で遊ぶ射撃(シューティング)ゲームや、レーシングゲームなども電子ゲームですが、カジノのゲーム機は、〝多額の掛金を伴うゲーム〟、すなわちパチンコ、スロットマシンなどを指します。

 インターネットで検索すると、現在、日本最大のパチンコ店はさいたま市にあり、ゲーム機は3,030台(パチンコ1,584台、スロット1,446台)となっています。一方、大阪で最大のパチンコ店は約1,000台とされます。

 しかも、これらのパチンコ店の営業時間は、県によって異なりますが、ほとんどの場合午前9時から、午後11時までです(一部の県は24時まで)。

 ところが、大阪・夢洲のカジノでは、日本最大のパチンコ店の2倍以上のゲーム機をもち、営業時間も終日の24時間営業です。

 これらの数字を比較しただけでも、どれだけの〝お化けパチンコ場〟になるかは明白です。

カジノを推進してきた自民党の機関紙でさえ大阪カジノ批判

 この間、熱心にカジノを推進してきた自民党が、大阪のカジノを批判していることも注目されます。この動きは、カジノ推進に大義も道理もないことをあらためて浮き彫りにしています。

「自由新報」3月29日号の1面(左)と7面(右)に掲載された大阪カジノ批判

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 なお、大阪ではカジノの是非を問う住民投票を求める署名が20万人分以上集められ、6月6日には府内72市区町村の選挙管理委員会への本提出が完了しました(住民投票を知事に直接請求するために必要な法定数は約15万人)。今後、議会で住民投票の是非が府議会で議論されることになりますが、署名の扱われ方しだいでは、カジノを拒否した横浜市と同様の展開も考えられます。

専門誌でさえ経営見通しを危惧する長崎・佐世保のカジノ
大阪のカジノと同じ構図

 長崎のカジノについても、来客数、ゲーム機の数など、どれをとっても大阪と同様の問題を抱えており、事業が始まる前から「カジノの末路」という言葉が飛び交っています。

 たとえば、来客数について、カジノ企業(カジノ・オーストラリア・インターナショナル・ジャパン=CAIJ)が提出した計画では、年間673万人、1日あたりでは1.8万人が来場する見込みです。

 一方、カジノの設置場所となる佐世保市「ハウステンボス」の過去最高の入場者数は、2015年の309万人(1日当たり8,500人)でした。(現在の経営形態になった2010年以降)

 カジノの登場によって現在の2倍以上の集客がはたして可能なのか、明確な保障があるわけではありません。

 設置する電子ゲーム(パチンコ、スロットマシン)については、3,000台と計画されています。台数が大阪カジノの半分以下とはいえ、現在ある日本最大店とほぼ同規模のパチンコ店が、長崎・佐世保に登場することになります。

不透明な資金調達――計画が否決された和歌山とまったく同じ構図?

 さらに問題なのは、カジノ導入を否定された和歌山と同じか、それ以上の資金問題が浮上していることです。前述のように、和歌山でカジノ計画がとん挫したのは、「資金計画が不透明」だったからということでした。ところが、長崎のカジノも、現在にいたるまで資金調達先が明らかにされていません。「〔長崎〕県は、資金計画4,383億円のうち2,630億円を金融機関から借り入れるとしているが、実は幹事銀行すら決まっていない」(「デイリー新潮」5月23日配信)と指摘されています。

カジノ専門誌も危惧する長崎カジノの先行き

 早くも10カ月ほど前には、専門家の間から長崎カジノの先行きを危惧する具体的な声が上がっていました。カジノ問題の世界的に著名な専門誌である「インサイド・エイジアン・ゲーミング」(IAG)ジャパンが、2021年9月に5回にわたって掲載した長崎カジノについての特別レポートです。

 IAGは、マカオに拠点を置くカジノ専門のメディアで、執筆したのは同メディアの代表者で、ゲーミング業界の専門家です。

 特別レポートの見出しは、「長崎とカジノオーストリアの今後とは?」。ここで長崎カジノについて、長崎に進出する「カジノ・オーストリア・インターナショナル」(CAI)が以下のような問題点をクリアできるかと指摘しています。

①CAIはヨーロッパスタイルの小さなカジノしか運営したことがなく、IR型カジノやMICE(大規模ビジネスイベントの総称)の経営をしたことがない。

②CAIは、日本の銀行との取引経験がなく、巨額の資金運用に知見のある人材の確保が必要だろう。

③オーストリアで独占的な運営をしてきたCAIが、「世界で最も潔白なIR産業」を日本で展開できるか。

 この指摘を受けて、福岡の経済メディアである「NetIB-News」(ネットアイビーニュース、2021年9月21日)は、次のように指摘しています。

 「結論からいうと、IR長崎で計画されている内容は、ほぼすべてが実行不可能と断言できる。従って、長崎県は少しでも早く、今回のRFP(事業者選定)のトラブルを理由に政治決断して撤退すべきだ。今後、訴訟問題を含めて、いずれ破綻するだろう。その時点での崩壊は、より多大で深い傷を負う」

カジノはギャンブル依存症をふやすだけ

パチンコ、公営ギャンブルも賭博性をめぐって問題の解決を

 カジノ導入にともなうギャンブル依存症の問題は看過できません。

 厚生労働省の研究班は2017年9月29日、「国内のギャンブル等依存に関する疫学調査」を公表しました。全国300地点から1万人を対象に面接調査をおこなった結果です。(回答者数は53.7%の5,365人)

 それによると、ギャンブル依存症の人の割合は成人の3.6%、約320万人と推計されます。(生涯にわたるギャンブル経験についての調査。1年以内に限れば0.8%、約70万人)

 問題は日本のギャンブル依存症の比率が他国と比較して、異常に高いことです。(表参照)

表 ギャンブル依存症が疑われる者の割合

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 この要因となっているのが、世界に例をみない遊技であるパチンコです(スロットマシンを含む)。前述の厚労省研究班の調査でも、ギャンブル依存の疑いのある320万人のうちの8割(約256万人)がパチンコ依存と指摘されています。

 上記の大阪のカジノのところで、夢洲にできるカジノは、日本最大のパチンコ店を2倍も上回るパチンコ、パチスロ台をもつことを指摘しましたが、一般的なカジノによるギャンブル依存症だけでなく、従来、日本で大問題となってきたパチンコ・パチスロによる依存症患者を激増させることになることは、あまりにも明らかといわなければなりません。

 ギャンブル依存の問題は、当事者や家族にとって重大な問題ですが、社会的にも大きな損失となります。しかし、往々にして「個人の問題」「自己責任」という形で矮小化されて、その解決が社会的な課題だと理解されてきませんでした。精神科医の立場からギャンブル依存の問題を告発してきた帚木蓬生氏は、「ギャンブルはひとつの産業です。ギャンブルをする人は、その消費者と言えます」としたうえで、ギャンブルの消費者が借金を背負い、会社を首になり、家庭崩壊に行き着くなどの例をあげながら、次のように指摘しています。

 「はたしてこの悲惨な結末が、ギャンブル消費者の自己責任のみと、断罪できるでしょうか。/少なくとも、ギャンブルにこのような悲劇が必然的に付随しているのであれば、ギャンブル企業側に、危険性を警告する義務があります。消費者の権利として、その警告を受ける権利は、厳として存在するはずです」(『ギャンブル依存国家・日本』)

 隣国韓国では、パチンコ依存症が社会問題化するなかで、2006年にパチンコの全廃に踏み切りました。日本でもパチンコの弊害を議論し、その存廃について国民的議論を行っていく必要があります。また、存廃の議論の以前に、少なくとも、1980年代以降に強まったパチンコの賭博性を改めることや、現行の換金システムである「三店方式」(※)を改める必要があります。

※「三店方式」とは、パチンコの景品を、①パチンコ業者(パチンコホール経営者)と②景品買い取り業者、③景品問屋――の3者の間で行き来させて、最終的に客に現金を渡す仕組みのことです。これによって、表向きはパチンコ玉を現金に交換しないことから、警察などは「パチンコは賭博ではなく遊技だ」などと主張しています。

 こうしたときに、新たな公然とした賭博であるカジノを誘致するなどというのは、とんでもない愚挙です。カジノ推進派のなかからさえ、「カジノを誘致すれば、かならずギャンブル中毒患者は増える」と指摘されています。カジノ解禁は、世界最悪の病的賭博患者の数字を、さらに悪化させる結果にしかなりません。

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