2025年参議院選挙各分野政策
47、国民のための公共事業政策
大規模開発優先から安心・安全の防災・減災、老朽化対策に公共事業の大転換を
2025年6月
甚大な被害をもたらした能登半島の大地震と記録的大雨
震度7を記録した能登半島大地震から1年6か月が経過しました。死者592人(うち災害関連死364人)、行方不明者2人、負傷者1,395人、住宅の全壊6,520、半壊23,600、一部破損134,520、断水約136,440戸の甚大な被害をもたらしました(2025年5月13日現在)。住民の命と身体や家屋、ライフラインへの被害とともに、国道249号線への土砂崩れやのり面崩壊、段差など、40区間が通行止めになり、輪島港や飯田港など地盤が1~1.5m隆起した港湾などインフラも相当な被害にあいました。復旧と生活再建に取り組んでいるときに、9月に記録的な大雨が襲い、被害がさらに広がりました。
激甚化、頻発化する気候変動による風水害
気候変動による豪雨や大雪等の自然災害は、年々激甚化、頻発化し、国民の命と暮らし、財産、生業が奪われる危険に脅かされています。この3年間をみても、2022年8月東北豪雨とスーパー台風14号、23年7月大雨、9月台風13号、2024年7月東北大雨など、毎年「かつて経験したことのない」降雨量を記録し、甚大な被害を発生させています。また、2021年7月には、熱海市伊豆山で記録的な大雨による盛土の崩落で土石流が発生するという人災まで起きています。
老朽化を原因とする事故―事態は深刻
今年1月28日に発生した埼玉県八潮市での下水道破損が原因と推定される道路陥没事故は、穴に落下したトラックドライバーが死亡し、12市町の住民約120万人が下水道利用の自粛を強いられるなど深刻な被害をもたらしました。
2012年に発生した中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故(ドライバーなど9人死亡)や21年の和歌山県水管崩落事故(6万世帯138,000人が1週間にわたり断水)など、インフラの老朽化を原因とする事故によって、国民の命と生活が脅かされています。
笹子トンネル崩落事故を受けて、政府は、5年間で1巡する道路や橋りょう、トンネルの点検を進め、23年度に2巡目が終了し、点検実施状況は、概ね100%となっています。しかし、1巡目点検で判定区分Ⅲ(早期に措置を講ずべき状態)、判定区分Ⅳ(緊急に措置を講ずべき)の施設への修繕の着手率は、国、高速道路は100%の一方、地方自治体は83%で、約2割が未着手と低水準になっています。また、修繕等措置の完了率は、全体で67%と約3割で未完了、跨線橋は59%と低水準になっています。さらに、2巡目点検終了時で、1巡目点検終了時と比較して、判定区分Ⅲ、Ⅳの橋梁数は約6.9万橋から約5.6万橋に減少していますが、建設後50年を経過する橋梁数が約13万橋から約21万橋へと増加しており深刻です。
内閣府は2018年に、インフラの維持補修・更新のためにかかる費用が、総事業費で2015年度から2054年までの40年間に、道路などの土木インフラで399兆円、学校・文教施設や公営住宅などの公共建築物で149兆円、合わせて547兆円に上るとの「試算」を発表しています。この試算は、単純事後更新をした場合の試算で、耐震化等のための費用は含まれていません。この試算をした時期からすでに7年が経過し、この間の資材高騰の現状や、耐震化等の費用も含めれば、さらに膨らむことは間違いありません。
大規模開発優先でなく、国民の命と財産を守る公共事業への転換を
災害やインフラ老朽化を原因とする事故が多発する日本列島で、国民の命と財産を守ることは政治の要諦であり、従来の延長線上ではない防災・減災、老朽化対策の抜本的な強化が求められています。
ところが自公政権がとっている防災・減災、老朽化対策は、災害の規模や頻度、更新時期を迎えているインフラの数や規模に対して全く不十分と言わざるを得ません。
2012年度補正予算で創設された防災・安全交付金は、地域住民の命と暮らしを守る総合的な老朽化対策や、事前防災・減災対策の取組み等を集中的に支援するために地方自治体に交付されるお金で、2024年度でみると1兆2,212憶円の予算が計上されていますが、地方自治体の要求額1兆4,000憶円に対して8,563億円(配分率0.61)しか配分しておらず、配分率はこの5年間下落し続けています。
政府は、総事業費7兆円規模の「防災、減災、国土強靭化3か年緊急対策」に取り組み、2018~2020年度の3か年で約3兆5,678億円(うち公共事業関係費1兆6,550億円)の予算を投じました。現在は、総事業費15兆円規模の「防災、減災、国土強靭化5か年加速化対策」(21~25年度)に取り組み、すでに事業規模約14.3兆円、国費約7.4兆円を投じています。政府の対策にもかかわらず、その後も毎年豪雨等による災害が後を絶ちません。
防災、減災、老朽化対策が不十分な一方で、自公政権は、不要不急の大型開発事業には多額の予算を支出しています。競争力・産業インフラ機能強化や国際競争力強化などを名目に、毎年、高速道路建設に2.5兆円、新幹線や首都圏空港、巨大港湾建設などに約5,000億円、ダム建設に約2,000億円など、三大都市圏環状道路や巨大ダム事業、整備新幹線延伸、国際コンテナ戦略港湾などの大規模開発事業に巨額の財政が投入されています。
公共事業は、国民の命と財産を守り、国民が安心して安全に暮らし、生活を豊かにするための基盤整備を第一義とするものでなければなりません。
―――大規模開発・新規建設を抑制し、防災・減災のための事業、インフラや公共施設の維持・更新・耐震化事業に予算の重点的、優先的な配分を行い、人的資源も、優先的に投入できるように、公共事業政策を根本的に転換します。
防災対策
流域全体を俯瞰した流域治水対策のさらなる促進を
政府は、気候変動の影響により激甚化・頻発化する水害・土砂災害や高潮・高波への対策として、流域全体を俯瞰した流域治水を推進すると治水対策を転換しました。
これまでは、河川の流水量をコントロールすることを基本に、ダムや堤防などの整備を中心にしていました。これを転換し、堤防・ダム・砂防堰堤・下水道・ため池の整備、森林整備・治山対策、ダムの事前放流・堆砂対策、線状降水帯等の予測精度向上、グリーンインフラの活用、災害リスクも勘案した土地利用規制等を含むまちづくりとの連携などを推進するとしています。
川辺川ダムの復活などダムに依存する姿勢を残したままですが、「流域治水」への転換は、党としても、かねてから求めてきたことです。確実な実施が求められます。
西日本豪雨では、広島県はじめ各地で、土砂災害危険区域に指定されていない区域での土砂災害がありました。愛媛県肱川の野村ダムや鹿野川ダムの下流、県管理河川ではハザードマップが策定されておらず、ダムの緊急放流による洪水から避難できず犠牲を生みました。洪水ハザードマップは、洪水予報河川及び水位周知河川の未公表が21市町村、中小河川で355市町村が未公表となっています。北海道地震の厚真町などの山崩れは、軽石、火山灰の堆積地で、地震の揺れにより、広範囲で土砂崩れが起きました。全国に火山がある国土で、同様の地質、地盤の地域は多くあります。震源地は、活断層が発見されていない地域でもありました。2019年、台風19号で決壊した71河川142箇所のほとんどが完成堤防で、前年の緊急点検の対象から外れていました。
―――市民目線でのインフラ総点検など実態・現状把握をすすめ、危険個所の指定公表、ハザードマップ作成など全国ですすめます。
西日本豪雨など「経験したことのない記録的大雨」による被害が相次ぎ、河川整備計画の欠陥、不十分さが露呈しました。倉敷真備町の浸水被害は、氾濫した小田川と高梁川本流との合流地点の付け替えが10年後で、堤防補強、河道掘削など河川改修の計画が後回しにされてきたため、防げませんでした。
―――気候変動による激甚化・頻発化する災害に対応した河川整備計画や防災計画を見直し、まちづくり計画に反映させます。
2018年7月西日本豪雨では、異常洪水時防災操作(緊急放流)を余儀なくされたダムが全国で8ダムありました。記録的な大規模広域豪雨で、ダムの洪水調節機能が働かず、下流の流下能力を超える急激な放流を余儀なくされました。
肱川の野村ダムでは、ダムが洪水から守ってくれるという「安全神話」から、浸水ハザードマップも策定されていませんでした。また、ダム操作も、中小洪水対応の操作規則のまま操作し、大洪水に備えて事前放流して治水容量を増やしていたのに、そのための操作規則を策定していませんでした。ダムの洪水調節機能には限界があり、緊急放流すれば、下流に甚大な被害をもたらしかねません。肱川では鹿野川ダム改造、山鳥坂(やまとざか)ダムに対しては、2018年度までの5年間に、376億円の予算を投入していました。いっぽう、堤防など河川改修等には5分の1の約70億円しかなく、堤防等の整備が遅れ、甚大な被害をもたらしました。
洪水調節機能に限界のあるダム新設や既存ダム再開発に頼った治水対策は根本的に改め、無堤地区の早期解消、堤防強化、河道掘削、樹木伐採などの河川改修、遊水池など流域全体を対象にした治水対策に予算を集中することが必要です。
―――治水対策の在り方を、ダム建設に頼るやり方から、河川改修等を優先した流域治水対策への転換を確実に実行します。
2018年西日本豪雨で、倉敷市真備町の浸水被害は、高梁川水系の小田川とその支流の堤防が破堤し、急激な浸水により被害を拡大しました。急激な浸水を避けるため、越水してもすぐに破堤しない耐越水堤防を整備し、避難する時間が確保できる対策を強める必要があります。
2019年台風19号で、71河川142カ所の堤防が決壊しました。これをうけ、千曲川流域治水プロジェクトなどでは、越水しても破堤しにくくねばり強い河川堤防(耐越水堤防)の整備を位置付けました。
―――河川堤防の強化へ、ハイブリッド堤防など耐越水堤防の整備をすすめとともに、支流と本流の合流地点付け替え、排水場施設整備などバックウォーターや内水氾濫対策、浸水箇所の嵩上げ、遊水池、貯水池の設置など流域治水対策を強化します。
土砂災害・土石流対策
全国66万箇所と推定される土砂災害警戒区域や山崩れ想定箇所の危険区域の指定、公表が遅れ、被害を受けた地域が豪雨による土砂災害でも多く見られました。
土砂災害、山崩れの危険箇所の調査、区域指定を全国で総点検し、危険性の高い箇所については、山の地盤変動を常時観測し、住民に知らせ、早期に避難できるように情報公開を徹底することが必要です。特に危険な箇所からの移転を促すため、移転先のあっせん、費用の支援など援助とともに、危険地の公有化など移転しやすい環境を整える必要があります。また、危険区域への新たな宅地などの開発、住宅等の建築を禁止するとともに、危険区域の管理を個人所有者まかせにせず、土地の買取りを含め、公的管理を強めます。
避難計画などソフト対策と同時に、砂防ダム等のハード対策を、より効果的に見直し、緊急対策箇所への集中配分など必要な予算確保が必要です。
―――土砂災害危険箇所の調査・情報公開を徹底し、危険区域からの移転を、補助制度の拡充や危険地の公有地化などの支援で促進します。
住宅の耐震化、液状化対策
能登地震で被害拡大の一因と指摘されているのが木造住宅の耐震化の遅れです。珠洲市では、市内約6,000戸のうち耐震基準を満たした住宅は、2018年度末時点で51%、輪島市は2022年度末時点で46%にとどまっています。「国土強靭化年次計画2024」では、2030年までに住宅の耐震化、2025年までに耐震診断義務付け対象建築物の耐震性の不十分なものを概ね解消するとし、「住生活基本計画」は、耐震基準(1981年基準)が求める耐震性を有しない住宅ストックを2030年に概ね解消との目標をたてていますが、さらにテンポを引き上げる必要があります。
今回の能登地震での建築物の被害は、耐震化の低さと同時に液状化が広範に起こったことに特徴があります。液状化による面的な宅地被害は約1万7,000件と推定されています(今年1月現在)。
液状化ハザードマップを作成している自治体は、全国で458市区町村です(2024年12月現在)。内陸部での液状化は、川沼等を埋立て、盛土して宅地開発された地盤で発生しており、ハザードマップの作成とともに、地盤改良に対する公的支援の取組みを強化することが大事です。
―――住宅の耐震化を加速させるための国の支援を強化します。
―――地方自治体での液状化ハザードマップ作成を国が援助します。
―――住宅・建築物安全ストック形成事業、宅地液状化防止事業とその効果促進事業(社会資本整備総合交付金)、さらに地方自治体の独自支援を組み合わせ、一体的に活用できる取り組みを促進します。
―――液状化対策強化へ宅地造成法等の見直し、公的支援の取り組みを強化します。
上下水道施設の耐震化
能登地震では、上下水道施設が甚大な被害を受けたことにより、被災者にいっそう過酷な避難生活をもたらしました。
政府は能登地震を受けて、上下水道施設の耐震化状況の緊急点検を行い、その結果を2024年11月に公表しました。23年度末時点での耐震化率は、取水施設約46%、導水管約34%、浄水施設約43%、下水道管路約72%などとなっていますが、避難所や病院などに接続する上水道管路、下水道管路ともに耐震化されている重要施設は、約15%にとどまっていることが明らかになりました。
政府は、今年6月「国土強靱化実施中期計画」を策定し、2054年に上下水道管路ともに耐震化した重要施設を100%にする目標をたてました。そして、地方自治体に対して上下水道耐震化計画を策定するよう指示しました。上下水道施設単体の耐震化率だけではなく、避難所などに接続する上下水道管路がともに耐震化されているかどうかの点検を行ったことは重要ですが、100%の目標が30年後では遅すぎます。
―――上下水道施設の一体的な耐震化を加速させるために地方自治体への交付金の増額をはじめ、国の支援を強化します。
老朽化対策
道路・橋りょう・トンネル
2012年に発生した笹子トンネル崩落事故を受けて開催された社会資本整備審議会道路分科会は、「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」を発表しました(2014年4月14日)。そこでは、「最後の警告-今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切れ」と強い口調で警告を発し「国は、『道路管理者に対して厳しく点検を義務化』し、『産学官の予算・人材・技術のリソースをすべて投入する総力戦の体制を構築』し、『政治、報道機関、世論の理解と支持を得る努力』を実行するよう提言する」として国が果たすべき役割を明確に提言していました。
しかし、自公政権は、同年に提出した道路整備特措法改定案、2023年に提出した同法改定案で、既存道路の老朽化対策のための更新費を考慮せず、高速道路の新規建設の「制約」となっている債務償還期限を先延ばしし、今後100年近く新規建設を続けられるスキームを作るなど、老朽化対策に背を向けてきました。こうした道路行政の根本的な転換が求められます。
―――今後100年近く高速道路の新規建設を続けられるスキームを撤廃し、老朽化したインフラ施設の修繕のための財源確保と修繕完了のための国の対策を強化します。
学校・公営住宅・公共施設
老朽化を理由に、学校や公営住宅、公立病院をはじめ公共施設の統廃合計画を強引にすすめようとする事態が起きています。
国は、各自治体に対して、公共施設の老朽化に対応した「公共施設等総合管理計画」を策定するように指示しましたが、その中で、「厳しい財政状況や人口減少」を数十年先まで推計し、公共施設の縮減を「数値目標化」することを求めています。その結果、学校も、保育所も、文化会館や体育館も、役所の庁舎も、いっしょくたにして「公共施設の床面積を70%に削減する」などという乱暴な数値目標が絶対化され、公共施設の統廃合に拍車がかかる状況が生まれています。「公共施設等総合管理計画」は、2024年3月31日現在100%の地方自治体で策定を完了したとされています。
もちろん、建設時から50年以上が経過すれば、公共施設をとりまく地域の状況や住民のニーズに変化があり、機械的にすべての施設をそのまま維持するために更新や大規模な改修をすることはできません。だからこそ、「上からの押し付け」でなく、住民に正確な情報を提供し、住民参加の点検と維持・更新の計画づくりをすすめることが必要です。
―――「公共施設等総合管理計画」は抜本的に見直し、各種の公共施設は、”住民が生活し、地域社会が存続していくうえで重要な役割を果たすとともに、地方再生の重要な基盤”という立場で、老朽化対策、維持・更新事業の計画づくりを住民参加ですすめます。
地方自治体の防災・減災・老朽化対策への国の支援の抜本的強化、住民参加で災害に強いまちづくりを
道路、橋りょう、トンネル、河川、上下水道などの土木インフラや、学校、社会教育施設などの公共建築物は、ほとんどが地方自治体の管理です。これらの防災・減災対策は、地方自治体の姿勢と取り組みがカギとなります。
しかし、地方自治体には、これら対策に取り組むための予算も体制も現場の技術力も決定的に足りていません。特に、技術系職員の減少が著しく、一人もいない地方自治体が、25%にものぼります。国が押し付ける自治体リストラとともに、建築確認など従来、行政が行ってきた業務を民間に開放する規制緩和が現場の技術力を低下させる原因となっています。
―――インフラの総点検を繰り返し実施するために、市町村に対し、計画策定と点検費用を国が全額補助するとともに、必要な建設・土木技術者を国の責任で確保し、総点検ができる体制をつくります。
―――地方の要望額の6割程度にすぎない国の防災・安全交付金の配分率を100%にするとともに、交付金の総額も大幅に増額します。
―――市町村への国の補助率のかさ上げと、市町村の単独事業となっている維持管理費を補助対象に拡充し、財政難による必要な修繕や防災対策の「先送り」が起きないようにします。
―――災害危険個所の調査、防災インフラの緊急点検を行い住民に公開するとともに、ハザードマップの作成、見直しをすすめます。
―――災害の頻発化、激甚化などの教訓をふまえ、これまでの防災安全対策を検証し、地域防災計画を見直します。とりわけ、ダムに依存した河川整備計画は根本から見直します。
―――まちづくり計画を防災優先にし、浸水想定区域や土砂災害危険区域など災害リスクが的確に反映されるようにします。
大規模開発・新規事業は中止・凍結を
高速道路
高規格幹線道路整備状況は、総延長計画14,000㎞のうち12,320㎞が開通し(2025年3月末時点)、整備率は約88%です。大深度地下で建設中の東京外郭環状道路(関越~東名)の建設費は、当初1兆2,820億円でしたが、2016年5月に1兆5,975億円に増額、2020年7月には、2兆3,575億円され、当初の約2倍に膨張しています。さらに国交省は、新たに東京外郭環状道路(東名~湾岸)の検討だけでなく、2000年初めに凍結された第2東京湾岸道路(新湾岸道路)まで、復活させようとしています。
首都高速などの地域高規格道路は、「計画路線」186路線、約6,950㎞のうち約3,336㎞が開通し(2025年3月末時点)、整備率は約48%となっています。濃飛横断自動車道中津川工区などリニア中央新幹線へのアクセスを名目にした高速道路にも新たな予算をつけています。また、阪神高速の淀川左岸線延伸部や大阪湾岸道路西伸などは、17年度から事業化しています。
―――高規格幹線道路計画は、白紙を含め抜本的に見直します。事業中区間を含め、情報公開、住民参加の徹底を前提にして、計画の不必要なもの、急がないものなど検証します。
―――地域高規格道路でもある首都高速や阪神高速など都市高速道路は、新規・新設を抑制し、大規模修繕・更新など老朽化対策を優先させます。
整備新幹線
2012年に認可された整備新幹線の事業区間は、北海道新幹線の新函館-札幌、北陸新幹線の金沢-敦賀、九州新幹線長崎ルートの武雄温泉-長崎の3区間で、その総事業費は、その後の工事実施計画変更を経て約5兆2,000億円に膨れ上がっています。
国土交通省は2022年、北海道新幹線(新函館北斗―札幌)について、総事業費が当初の計画より、6,459億円増え、2兆3,159億円になり、費用対効果(B/C)が1を切って、0.9になると公表しました。政府は、「貨幣に換算できない効果がある」としてB/Cが1を切っても事業を継続する姿勢ですが、このような詭弁は通じません。すでに開通している「新青森-新函館北斗」間で毎年約100億円もの赤字を出しています。延長212㎞のうちトンネルが17ヵ所、169㎞にのぼり、工事で発生する残土は2,000万㎥の見込みで、そのうち約3分の1がヒ素などの有害物質を含む「要対策土」であることが明らかになり、建設中止を含めた道民的な議論を求める住民の運動が広がっています。
➡参考に、日本共産党北海道委員会「道民生活を一番に支える鉄道とするために(2025年4月18日)」をごらんください。
国交省は2024年8月7日、「敦賀-新大阪」間の延伸計画について、当初の2.1兆円から、5.3兆円に膨れ上がることを与党に提示しました。しかも、その約8割がトンネルで、京都市街地は大深度地下で通すとされています。事業認可がおりていないうちから、国が調査費をつけ、ボーリングなどの地盤調査を強引にすすめています。一方、政府が保有しているそれらのデータについて、住民が開示を求めても道理ある説明もなく拒否しつづけ、建設推進派にとって都合のいいデータを使って地方自治体への説明を行っています。建設残土の処理、地下水や活断層への影響など、京都のまちと自然を破壊する計画に住民の不安と怒りがわき起こっています。
➡参考に、日本共産党京都府委員会「声明『北陸新幹線延伸計画(小浜ルート)』は直ちに『断念』、『延伸計画(敦賀~大阪間)』そのものの中止をーー在来線の強化や耐震化をはじめ地域公共交通の整備・充実こそ」(2024年7月26日)をごらんください。
九州新幹線(西九州ルート)も、1,188億円(24%増)の追加費用が発生し、「武雄温泉-長崎」間(66㎞)の総事業費は6,197億円となっています。ここに接続する佐賀県の「新鳥栖-武雄温泉」間(50㎞)の整備方式をめぐって、地元合意のない国・与党の「フル規格」方針に対し、佐賀県の財政負担が約660億円、JR九州からの貸付料を考慮しない場合は1,140億円となることが明らかとなり、さらに在来線の利便性が後退するとして佐賀県は反対し続けています。
整備新幹線の建設財源は、国・地方自治体の負担とともに、運行中の新幹線施設の貸付料収入などを充てます。この貸付料収入は、新たな新幹線建設費に充てるべきではありません。国の借金に付け替えられた旧国鉄の長期債務(約15兆円2022年度末現在)の返済などに充てるべきです。
また、国交省の試算でも新規建設に係る費用便益比(B/C)は、1を割り込むことが明らかとなっており、もはや建設継続の正当性が問われる事態になっています。高速道路や空港など既存の交通インフラとの関係をどう整理するかなど総合的な議論もないままです。
さらに、この3区間をめぐっては、JRからの並行在来線の経営分離に”同意”することを沿線自治体に強要し、並行在来線の存廃も、経営形態もあいまいなまま、多くの住民の批判を無視して建設着工を認めてしまいました。
―――整備新幹線3区間及び延伸計画は中止し、在来線を維持・存続させます。
港湾
国際貨物物流では、コンテナ貨物船やバルク(バラ積み)貨物船など船舶の大型化が急速に進むなか、これに対応できる国際コンテナ戦略港湾(京浜港・阪神港)を整備するとして、2024年1月までに1兆196億円が投入されています。総事業費は当初5,500億円から2025年1月時点の見込み額は1兆6,400億円に大幅に増大しています。国際コンテナ戦略港湾政策は、「我が国の『港湾力』を最大限に発揮し、アジア・世界からの成長を取り込むため」としていますが、近隣諸国の大型港湾に奪われた貨物を取り戻すことに、そのねらいがあります。
―――国際戦略港湾事業は中止を含め抜本的に見直します。新規の大型港湾開発事業から、既存港湾の耐震化・老朽化対策など維持・更新事業に重点を切り替えます。
情報公開と市民参加の公共事業へ
東京外環道や整備新幹線、リニア新幹線など、事前の地盤調査の結果や事故が起きた際の原因究明など、住民に十分な情報が開示されていません。このことが、住民の不安を一層広げるとともに、事業者に対する不信と怒りを増大させています。事業者はこうした態度を改め、住民への情報開示と納得のいく説明を行うべきです。
―――情報公開の保障、双方向性の市民参加の保障、環境保全優先性、国と地方公共団体の役割分担、審議会改革、独立・中立の「第三者機関」によるチェック、不正行為の禁止、費用便益分析算定データの公表などを内容とし、既存の公共事業を徹底検証できるようにします。
―――大規模開発事業の新規建設・事業化は、法律制定事項として、国会に諮ります。事業化に向けた事前調査段階から、公平性、透明性を確保するルールを定め、利益誘導や”忖度”など恣意性を排除します。
大深度地下使用法は廃止を
大深度地下使用法は、地下40m以深等の地下空間は「通常使用しない空間」であり、「地上に影響を及ぼす可能性は低い」との勝手な解釈を前提に、事業者が地権者の同意もとらず補償もしないままに、トンネル工事を行うことができる法律で、2000年の通常国会で、わが党を除く各党の賛成で成立した法律です。
わが党は、同法(案)は、リニア新幹線や東京外環道の建設を見込んで制度化しようとしていること、大深度地下は、十分な科学的、民主的な調査研究をしないまま事業推進を第一義にしていること、大深度地下使用の認可手続に土地所有者の意見が反映される保証がないことから反対しました。その後の国会でも、大深度地下工事の危険性を繰り返し追及してきましたが、国は、「地上への影響は生じない」などと安全上問題はないと強弁し続けてきました。
しかし、2020年10月、東京外環道トンネル工事中に調布市住宅地で陥没・空洞化事故が発生。2024年8月にはリニア新幹線北品川工区調査掘進が原因と疑われる目黒川での気泡が発生しています。シールドマシンの故障等も相次いでおり、わが党が指摘した通りの事態が進行しています。
「地上への影響は生じない」とした大深度地下トンネル工事の「安全神話」は崩壊したのであり、地権者・住民等の安全安心に生活する権利を侵害し、補償も必要ないとする大深度地下使用法は廃止する以外にありません。
また、2022年2月、東京地裁は、東京外環道トンネル工事について、シールド工法による地下トンネル工事は「具体的な再発防止策が示されていない」として、一部工事の危険性、違法性を認め、工事差し止めを命じる決定を下しました。違法で危険な大深度地下トンネル工事は中止し、工事のあり方そのものを見直すべきです。
―――大深度地下使用法廃止措置法案を成立させ、東京外環道建設工事とリニア新幹線建設工事をストップさせます。
―――今後の地下における大規模開発については、開発禁止区域の設定や、工事をする場合の詳細な調査と国民への調査結果の開示と説明の義務付けなど、厳しく制限します。
➡大深度の公共的使用に関する特別措置法の廃止に関する措置等に関する法律案(参議院HP)を参照してください。
盛土対策
~熱海土石流被害を教訓に、盛り土規制、残土処理法(仮称)の制定を~
2022年に成立した盛土規制法に基づき、自治体による規制区域内での盛土は規制され、許可を受けた盛り土も土地所有者が管理責任を負うことになりました。しかし、規制区域の指定は、2024年6月現在でも、わずか4府県11市にとどまります。同法の規制は規制区域指定がなければ機能しません。そして、いまや国内どこでも、土砂災害による被害が生じる可能性は否定できません。そうであれば、本来は国内の全ての土地を規制するよう、盛土規制法を改正することが必要です。少なくとも、現行法のもとで、むやみに規制区域を限定せず、自治体が一刻も早く規制区域の指定を終えるよう、国が支援すべきです。
また、建設残土の排出量は膨大で、最終処分場は不足状態が続いています。そのため、トンネル工事などで排出した建設残土の最終処分場が確保できない状態のまま、工事を始めるのが実態です。公共工事は、発注者が最終処分場を指定して工事契約する指定処分制度を導入していますが、仮置き場を指定先とすることを認めたり、請負業者に最終処分を任せたりする事例が少なくありません。民間工事は、具体の搬出先を発注者が指定しない自由処分のままです。これでは、排出された残土がどこに運ばれるのか分からなくなります。
―――盛土規制法を、より実効性あるものに改正します。規制区域の指定をなくし、国内のすべての土地を包括的に規制の対象にします。一定規模以上の盛土等は、すべて届け出の対象とし、大規模なものは都道府県知事等の許可制とします。盛土等の工事の許可を行うに当たっては、審議会等の有識者及び関係市町村長、住民の意見を必ず聴取するものとします。
―――盛土規制法が規制の対象としていない建設残土について、建設残土処理適正化法を制定し、危険な盛土等につながる不適正処理を防止します。最終処分地が確定しないなど残土の処理方法が不確定なまま、工事着工、継続は認めないなど残土処理ルールをつくります。
➡日本共産党国会議員団「熱海土石流を受け、国民のいのち、財産を守るため、危険な盛土等の規制及び建設残土の適正処理をより実効あるものに――盛土規制法の成立受け、見直し検討に向けての提案」(2022年6月14日)(https://www.jcp.or.jp/web_policy/2022/06/post-920.html)
建設産業の健全化
官民ともに技術の伝承と後継者の育成に力を入れ、自治体の技術力確保を
建設従事者・労働者の長時間労働是正と一体に賃上げを
建設業では、時間外労働規制(罰則付)の適用が2024年4月1日から開始されました。また、長時間労働の是正や、建設労働者の技能に応じた賃金を確保するための標準労務費制度の創設を柱とする、改正建設業法が成立しました。しかし、この5年間で、建設業を取り巻く「人手不足」の問題はいっそう悪化しています。
例えば、大工の就業者数は、2000年から2020年までの20年間で64.7万人から30万人と半数以下に激減しました。2030年には20万人まで減るとの試算まで出されています。年齢構成を見ても、2020年現在で60歳以上が43%、30歳未満はわずか7%しかいません。住宅の修繕やリフォーム、災害時の補修を行う担い手の大工が足りず、建設業全体の持続可能性が失われかねない危機的状況です。建設労働者の労働条件を業界全体で改善し、働きがいも今後の持続可能性も希望が持てる建設業に変えていくことは急務です。
特に、長時間労働と低賃金が問題です。建設業界では、依然として長時間労働が蔓延しています。重層下請構造のもと、元請企業に工期を迫られた下請事業者や労働者が、長時間労働で対応せざるを得ないからです。他方、低賃金構造のため建設労働者の多くがその収入を時間外労働の手当に依存しているため、「残業がなくなるのは困る」「週休2日のうち1日は働きたい」など、他の産業では当たり前の週休2日制すら犠牲にしてまで長時間働くことを選ばざるを得ない実態が残されています。大幅な賃上げとセットで長時間労働を改善し、いのちと暮らしを守るために労働者自身が自由に処分できる時間を大幅に増やしていくことが必要です。
2024年の改正建設業法では、設計労務単価が職種ごとに労働者に行き渡らせることを意図し、建設キャリアアップシステム(CCUS)に基づいて示された「レベル別年収」を確保するため、「標準労務費」の勧告制度が盛り込まれました。この制度に実効性をもたせ、賃上げと労働時間短縮をともに進めていくことが必要です。公共工事の設計労務単価は2012年比で70%上昇しましたが、それが賃上げに結びついていません。この構造的問題に切り込むためには、重層下請構造による中抜き等の弊害をなくしていくことも必要です。
―――現場での労働時間管理を徹底するために、発注者・元請け事業者の責任を明確にさせます。
―――週休2日制の導入、民間も含めた適切な工期設定による休日の拡大などの取り組みを推進し、建設工事従事者の長時間労働を是正します。その際、建設工事従事者の収入が減らないように、「標準労務費」は確実に確保させて賃上げにつなげるよう、発注者・元請け事業者の責任を明確にして取り組みます。
―――地域での建設産業の後継者の育成、職業訓練への公的支援–地域建設事業者の担い手不足は深刻、高齢化等による後継者不足がすすんでいます。後継者の育成は、建設業界の大問題であり、地域での建設職人の育成、職業訓練などへの公的支援強めます。
―――重層下請構造による「中抜き」など、賃上げを妨げる慣習をなくします。
―――公契約法、条例の制定を促進し、建設労働者の確実な賃上げ、労働条件改善をはかります。
―――政労使の協議会を設置するなど、建設産業労働者の適正な賃金等に関する話合いの場を設けます。
―――国土交通省の地方整備局でも市町村でも、土木・建築技術者が削減されています。現場の技術力が低下し、とくに地方での防災・減災対策、老朽化対策の大きな障害になっています。インフラ維持管理できる技術者が不足している地方整備局や市町村が、技術系職員の採用や育成できるよう国が支援します。
談合・ダンピングを排除し、重層下請構造を改善する公正民主的な発注を
地域建設業者、中小事業者への直接発注をすすめ、中小業者の受注機会を確保します。大手ゼネコンが地域の公共工事を受注する傾向が強まっています。大手が元請けとなり、実質的な工事施工する地域の中小建設業者が二、三次下請となる構造です。こういう発注を改め、地域の公共工事を地域の中小業者に直接発注すれば、受注業者だけでなく、地域の循環型経済効果を生み出すことになります。
―――発注方式を改善し、中小業者の受注機会を確保します。
―――談合やダンピング競争を防止し、公共工事の透明性確保、国民的な監視ができるよう情報開示を徹底することが必要です。リニア中央新幹線の談合事件も踏まえ、発注者が民間であっても公的支援される事業は、公共工事入札適正化法や情報公開法の対象にします。
―――談合やダンピング競争を防止するため、入札制度の透明性、情報開示を徹底します。
工事偽装防止へ、国が監督責任を果たす制度へ
建物用の免震・制振用装置をめぐるメーカーによる性能データの改ざん、レオパレス21などの大規模な建築基準法違反など、建築不正が相次いで発覚してきました。
いのちと安全にかかわる製品や工事の性能・品質を、儲けのために改ざん・偽装して販売や施工する企業体質は放置できません。安全に係る確認検査を民間任せにしてきた国の責任が問われます。
―――建築確認検査は、民間任せではなく、国が最終責任を負う制度に改めます。
―――不祥事が相次ぐ建設業界の体質改善のために、重層下請構造の是正、公正な取引環境の整備など、国の監査・監督を抜本的に強化します。国の「建設Gメン」の体制を抜本的に強化します。
建設現場の労働災害なくし、安心・安全に働く職場環境を
建設工事現場での痛ましい労働災害事故が相次いでいます。無理な工期のもとで仕事を強いられている現場が残されていることが要因となっています。一人親方も含め労働安全衛生対策の拡充など、労災事故対策を強化します。
―――労災保険等の法定福利費は、元請け企業が別枠で支払うよう徹底します。
―――建設職人、従事者の工事現場での安全を確保するために、改正建設業法の「著しく短い工期の禁止」などを踏まえ、設計段階から適正な工期を確保します。建設職人、従事者の工事現場での安全・安心を確保する対策を徹底します。