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裁量労働制拡大狙う
首相 労働時間の規制緩和検討指示 / 財界要求受け労政審で具体化議論

自民党の高市早苗首相が厚生労働相に労働時間の規制緩和の検討を指示しました。財界・大企業が一貫して求め続けてきたものです。1月から始まった労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関、労政審)の分科会では規制緩和に向けた議論が進められ、使用者側が裁量労働制の対象拡大を強く求めています。(玉田文子)

今回の労働時間規制の緩和をめぐる議論は、「新しい時代の働き方に関する研究会」(厚労省の有識者研究会)が多様化する働き方に「労使の選択の尊重」を求める報告書(2023年10月)を出したことや、経団連が「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」(24年1月)を発表したことから始まります。経団連の提言は「労働時間規制のデロゲーション(適用除外)の範囲拡大」を打ち出しました。

労基法骨抜き

このもとで24年1月、厚労省は有識者研究会「労働基準関係法制研究会」(労基研)を発足させ、労働基準法を骨抜きにすることを狙った議論を開始し、今年1月、最終報告書をまとめました。最終報告書を受けて経団連は今年の「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)で、「裁量労働制の拡充を強く求めたい」と踏み込み、「裁量労働制の対象業務について、過半数労働組合など企業労使が話し合って決定できる仕組み(デロゲーション)を創設すべきである」としました。

写真。労働基準法改悪反対の宣伝

東京都内で行われた労働基準法改悪反対を訴える宣伝の参加者=2025年2月6日

高市首相が厚労相に指示した「心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制の緩和の検討」と重なる内容です。

労基研報告書に基づいて1月、労政審の労働条件分科会で審議が始まり、使用者側は、労基研報告には一言も触れられなかった裁量労働制の対象拡大に向けて意見を集中。「現在の裁量労働制は対象業務が厳格で手続きも煩雑。見直しについて必要な議論を進めるべきだ」「国際競争力の向上や付加価値創出の観点からも裁量労働制拡充が必要だ」などと発言し、「手続きの煩雑さ」や「国際競争力」を口実に規制緩和が狙われています。

厚労省の調査では、裁量労働制の適用労働者の割合は1・6%。適用労働者の労働時間は週60時間以上が8・4%に対して、非適用者は5・1%で、裁量労働制の方がより長時間労働になる傾向があります。1日の平均のみなし労働時間は7時間38分に対して実労働時間は9時間とかい離しています。

経団連が主張

裁量労働制は1987年に導入され、専門業務型1種類だったものが98年に企画業務型が加えられるなど対象が拡大。2018年の「働き方改革」関連法でさらなる対象拡大が狙われましたが、厚労省のデータねつ造が発覚し、頓挫しました。対象拡大に固執する経団連は「労使合意による対象拡大」を強引に主張し、労政審の取りまとめにねじ込もうとしています。

労働者側は、「通常の労働時間規制の逸脱を認めるものについての手続きや運用が厳格であることは当然だ」「国際競争力の向上は産業政策などで実現すべきであり、労働法制の緩和で実現すべきではない」と反対しています。

現在の残業時間の上限は原則月45時間、年360時間です。特別な事情がある場合は例外として単月100時間未満・複数月平均80時間まで認めています。これまで事実上の青天井だったものに18年の「働き方改革」で上限が設けられましたが、「過労死ライン」を認める上限であり過労死を防ぐ役割を果たしていません。

実際に過労死等の労災請求件数は20年度の2835件から24年度の4810件に増加、支給決定件数は802件から1304件に増加しており、残業上限の引き下げこそ急務です。

しかし労基研報告書は、残業上限の引き下げについては「社会的合意がない」と見送り、労政審で使用者側は、「中小企業は慢性的な人手不足で時間外労働の上限引き下げは難しい」「より働きたい、より稼ぎたいというニーズを抑制している」などと主張しています。

労働者側は「いまだ過労死等がなくならない現状を直視し、上限の短縮に向けた議論をすべきだ」「希望する労働者に限定して長時間労働を認めた場合、長時間労働者が評価され、結果的に職場が長時間労働に引っ張られるのではないか」と規制強化を求めています。

厚労省の調査では、労働者の残業に対する思いは「減らしたい」が26・1%、「このままでいい」が63・1%、「増やしたい」10・9%です。政府や経団連は「より働きたい」労働者のニーズがあるように主張しますが、現在でも月100時間未満の残業が容認され、求められているのは過労死を防ぐ残業上限の規制強化や賃金の底上げです。

労働界は反対

労働時間の規制緩和に労働界は一致して反対しています。全労連や全労協など幅広い労組が参加する雇用共同アクションは「現行の時間外・休日労働の上限は『過労死ライン』そのものであり、引き下げることが急務」「裁量労働制は『過労死・過労自死』の温床と言うべきであり、もはや廃止すべきだ」と強調(8月28日、「労政審分科会の審議事項に関する意見」)。連合の芳野友子会長は、「『豊かな生活時間』を保障する観点で言えば、むしろ上限規制のさらなる縮減こそ必要ではないか」(10月23日、会見)と語っています。

長時間労働は、健康の確保を困難にするだけでなく、女性に家事・育児などの家庭責任を押しつける要因となって女性の社会での活躍やキャリア形成を阻み、仕事と家庭生活の両立を困難にしています。既存の労働者が長時間労働することで、新規雇用が必要とされなくなり雇用機会を奪います。

「月100時間未満」まで認める特別条項は直ちに廃止し、残業の上限は原則の月45時間、年360時間を超えないものとすることが必要です。

長時間労働さらにまん延 全労連厚生労働局長の土井直樹さんの話

写真。。全労連厚生労働局長の土井直樹さん高市早苗首相は労働者が労働時間を選択できるかのような政策を打ち出そうとしています。「働きたい人は働ける選択ができたらいい」という風潮がネットを中心に広まっていますが、労働者は労働時間を自由に選ぶことなどできず、今でさえ残業を余儀なくされ過労死が増えています。

また、「働きたい人が働ける」ことを認めれば長時間労働できる人が評価され、長時間労働が期待される社会になりかねません。自分の時間を大事にしたい人や、育児・介護など家庭の事情がある人なども「長時間労働しなければ」という風潮に引っ張ら れ、多くの人を巻き込む問題です。

使用者側が求めている裁量労働制の緩和が行われたら、さまざまな業務に適用されかねず仕事量が増やされ長時間労働となっても自己責任にされてしまいます。

私たちは賃下げなしの労働時間の短縮、法定労働時間1日7時間・週35時間を求めており、労働時間規制の強化こそ必要です。誰もが安心して働ける社会を実現するために「規制緩和でなく時短を」と声を上げる人を広げたいと思います。