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「スパイ活動」強化の自民提言

国民監視 戦争と一体

 

「スパイ防止法」、国家情報局法案に反対するペンライト行動=4月12日夜、国会前

自民党のインテリジェンス戦略本部が5日に発表した提言は、外国のスパイ活動に対処する防諜(ぼうちょう)と外国へのスパイ活動である諜報(ちょうほう)を強化するものです。自民党と日本維新の会の連立政権合意に盛り込まれた「スパイ防止関連法制」と「独立した対外情報庁の創設」を目的に今夏にも発足する政府の有識者会議に向けた提言です。タイトルにある「『情報防衛力』の強化」「開かれた社会を、隠れた工作から守る」のうたい文句は本当か―識者とともに考えました。(伊藤紀夫)

  同戦略本部は「情報防衛力とは、国民を監視するための力ではなく、外国勢力による隠れた工作から、国民の自由な判断と民主主義の公正を守るための力です」と宣伝しています。

 

白藤博行さん

これについて行政法学者で専修大学名誉教授の白藤博行さんは指摘します。「情報防衛力という新たな言い方は、インテリジェンス(情報の収集・分析)も軍事化・兵器化する高市早苗政権の姿を象徴しています。その一方で、監視社会になるのではないかという国民の不安や懸念を意識して、監視機関をつくって外からチェックするから心配ないぞとアピールする。戦争する国づくりと一体の防諜・諜報体制の危険性を逆に浮き彫りにした形です」

  提言が第一の柱とする防諜法制については、外国代理人登録法(外国勢力の透明化)と外国干渉防止法(罰則による抑止)をあげています。防諜の運用体制については、豪州を参考に、警察庁、公安調査庁など政府情報機関が緊密に協働できる合同タスクフォース(特別チーム)の常設を提言しています。

  米国や英国、フランスなどを例に資料も示し、同盟諸国にある制度だから日本につくるのは当然という組み立てになっていますが、果たしてそうなのか―。

 表現の自由 国家が侵す

 

小澤隆一さん

「日本は憲法9条で戦争をしないし、軍隊も持ちませんと宣言した国です。だから、軍事秘密、それに伴う防諜や諜報のようなものは、憲法のもとでは基本的には正規に存在しようがありません。そういう憲法の前提に立てば、高市政権がやろうとしていることは違憲と言えます。そこが米国や英国など軍隊を持っている国と根本的に違います」

  憲法学者で東京慈恵会医科大学名誉教授の小澤隆一さんは強調します。

  しかも、外国代理人登録法を制定している米国、英国、フランス、ロシアなどの諸国では、人権侵害などの弊害が指摘され、NGO(非政府組織)や市民団体、野党などから反対の声があがっています。

  米国の外国代理人登録法(FARA)は、外国の政府、政党、団体・企業の代理人として米国内で政治活動する個人・法人に対し、司法省への登録と活動開示を義務づけています。

  しかし、「外国代理人」の定義が広く、どんな活動が「政治的な働きかけ」や「広報」に当たるか基準が明確でなく、合衆国憲法修正第1条が保障する「表現の自由」を侵害する危険も指摘されています。

  米中央情報局(CIA)分析官だった朝鮮問題の専門家は2024年、未登録で韓国国家情報院の工作員から情報を得て論説を発表したとして逮捕・起訴されました。

  米国では「外国の情報源から取材ヒントを受けた記者が、その時点でFARA登録を要する『外国代理人』になりうるのだ」(記者保護委員会)「過去10年間、政府はFARAを、気に入らない主張を持つ人々を汚名化し、黙らせ、抑圧するためにますます活用してきた」(米国市民自由連合)と批判されています。

  小澤さんは「憲法9条だけでなく、19条の思想・良心の自由、21条の表現の自由を国家から侵害される問題です。フランスの思想家ヴォルテールは『私はあなたの意見には反対だ。だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守る』と言いました。人権を一緒に守るという精神を日本の国民が発揮できるかが決め手だと思います。『国家に盾突く輩(やから)』が摘発されるのは構わないよとなったら、戦前の日本と同じです」。

  第二の柱は、シギント(通信・電波情報の収集)やヒューミント(スパイ活動)など情報収集能力の強化に向けた対外情報庁の設置です。スパイ活動に公然と乗り出すのは、戦後初めてのことです。シギント能力の強化では、対外情報収集法の制定と能動的サイバー防御法(ACD法)の改定をあげています。

  犯罪捜査のために裁判所の令状をもとに行われている通信傍受法の対象を拡大し、安全保障目的で令状なしで可能にする改定(行政傍受)も盛り込んでいます。これらは憲法21条の通信の秘密やプライバシー権を侵害する危険があります。

  こうした人権侵害の恐れがあるため、第三の柱では、監督の強化をあげ、衆参両院の情報監視審査会の対象拡大と独立した監察組織の検討を求めています。独立監察組織については、今年設置されたACD法に基づくサイバー通信情報監理委員会のような組織を有力な選択肢としています。

  しかし、これが人権侵害の歯止めとなるのか―。

 人権侵害にゴーサイン

「サイバー通信情報監理委員会は、サイバー攻撃に対して警察・自衛隊が事前に行う侵入・破壊措置に、お墨付きを与え、規制どころかゴーサインを出す機関になりかねません。これを有力なモデルにしているところに、人権侵害を覆い隠す狙いが垣間見えます」

  そう批判する白藤さんは、ドイツ連邦憲法裁判所(最高裁に相当)が20年、連邦情報局(BND)の外国間通信偵察活動について、違憲判決を言い渡し、厳格な法規制と独立した監視機関の導入を求めたことの重要性を指摘します。

  判決は▽国外にいる外国人であってもドイツの国家権力が及ぶ以上、基本法(憲法)が適用され、通信の秘密と報道の自由の保護は国外にも及ぶ▽特にジャーナリストや弁護士のような秘匿関係には厳格な保護が必要だ―としています。

  「判決で大事だと思ったのは、BNDによる通信監視は秘密裏に行われるので、それを確実に監督する独立した強力な機関が必要だとしたことです。ドイツ連邦議会ではこの判決に基づく監督機関を議論しています。自民党提言は人権侵害を規制する実効ある監督機関さえ具体的に示せないわけだから、そんな法案づくりはやめるべきです」

提言は、5月に成立した国家情報会議設置法に基づいて7月末に設置された国家情報局と政府情報機関の連携強化や人材育成、技術開発などもあげ、防諜・諜報国家への道に前のめりです。これは、米国の要求に追随した大軍拡、長射程ミサイル配備による列島要塞(ようさい)化と一体の「戦争国家」への動きです。

小澤さんは「日本は憲法9条に基づいて平和外交に徹しようと言うと、『お花畑だ』と攻撃する政治家もいます。しかし、諜報・謀略を駆使して軍事に頼る米国やイスラエル、ロシアなどは戦闘の応酬で、むしろ泥沼に陥っています。憲法9条の方向でこそ、現実に平和も基本的人権も守れると自信を持って訴え、国民の中で反対運動を盛り上げていくことが大切です」と語っています。