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介護保険の報酬改定
介護給付費分科会委員 志田信也さん
人手減らせば職員に負担 サービス低下は当たり前

志田信也さん

来年4月に予定される介護保険の報酬改定。厚生労働省の審議会では、報酬のあり方をはじめ利用料引き上げの議論が本格化しています。同省の社会保障審議会介護給付費分科会委員で、公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事の志田信也さんに聞きました。(内藤真己子)

-介護保険の現状をどうみていますか。

介護保険が2000年4月にスタートし、それまで介護を担って大変な思いをしてきた家族は「これで仕事が続けられる」と喜んだわけです。しかし年々使いづらくなり、また家族介護に逆戻りしてきています。

とくに2015年以降は勢いをつけて悪くなりました。特別養護老人ホームの新規入所が原則要介護3以上になり、個室だけでなく多床室にも室料が必要になりました。要支援1・2の訪問介護と通所介護を「介護予防・日常生活支援総合事業」に移し、「保険給付」から「事業」に変えました。保険給付は必要な分だけサービスを受けられますが、事業は予算の範囲内なのでサービス量が限定されます。実際、要支援1、2の認定者数は右肩上がりに増えていますが、総合事業の利用率は減っています。

-利用料2割負担の対象拡大が検討されています。

利用料は原則1割負担ですが、2015年に「一定以上の所得」が2割、2018年には「現役並み所得」が3割負担になりました。2021年には「高額介護サービス費支給制度」の上限が見直され、実質的に負担が重くなりました。いま物価が高騰し家計を圧迫するなか、土、日のデイサービスの利用率が落ちています。「休みの日は家族でみよう」という意識が働いていると思われます。

2割負担の対象拡大は、社会保障審議会介護保険部会が昨年末にまとめた意見で「27年度の前までに結論を得る」と1年間先送りされていました。同部会で、2割負担拡大の議論が再開し、今度12月末までに決めようとしています。厚労省は2割負担の対象を、現行の所得上位10%程度から、上位20%~30%程度に拡大しようとしています。いまは、単身世帯で年金収入等280万円以上が2割負担(年金収入等340万円以上は3割)ですが、それを260万円~230万円まで拡大したい。

私たちは2割負担の対象拡大に反対です。現行の280万円以上でも2割負担が大変な方がいらっしゃいます。これ以上拡大すると、サービスの利用量を減らすしかなくなる。

「現役世代を大事にしなきゃいけないから高齢者に負担を」という議論があります。しかし現役世代には就職氷河期世代が含まれ、もう親の介護が始まっています。非正規雇用だと給料が少ないから高い利用料は払えない。だったら自分が仕事を辞めて親をみようとなる。介護保険が始まる前の状態に戻ってしまいます。安倍政権の時に「介護離職ゼロ」にと言っていましたが、介護離職は減っていません。年間9兆円の経済損失です。2割負担を拡大したら、これがもっと進む。現役世代を大事にするなら逆じゃないのかという話なんです。

-介護報酬の引き上げを求める意見が出ています。

介護給付費分科会では、介護事業者や職能団体などから介護報酬の引き上げが強く要望されています。私たちも、物価上昇に対応し、全産業平均と比べ月8・2万円も給与が低い介護職員の処遇を改善して、介護現場で働く人の確保策を講じるのは当然と主張しています。とりわけ人材不足が顕著なホームヘルパーやケアマネジャーを増やすためにあらゆる方策を検討してほしいと要望しています。そのためにも、前回の改定で軒並み2~3%引き下げた訪問介護基本報酬の引き下げは元に戻し上乗せすることが欠かせません。

しかし介護報酬が上がれば利用料が上がります。また在宅介護の場合、1カ月に利用できる介護サービスの上限を要介護度ごとに定めた「区分支給限度額」に引っかかる人が出てきます。低所得者層へきめ細かな負担軽減策と、「区分支給限度基準額の適切な引き上げ」を同時に検討することを強く求めています。

厚労省は介護給付費分科会に、訪問介護や通所介護の報酬について、地域を一軒一軒回る従来型と、有料老人ホームなど集合住宅の併設型と、報酬区分を分ける方針を示しています。従来型と併設型の利益率に大きな差異があることは事実です。片道30分以上かかる利用者宅への往復の移動コストなどは当然、介護報酬で考慮するべきです。他方で、併設型の介護報酬を引き下げた結果、有料老人ホームで暮らす高齢者の行き場がなくなるようなことはやめていただきたいです。

-先の特別国会で介護保険法の改悪がありました。具体化が進んでいます。

社会福祉法の一部改正案が6月に成立し、介護保険法が改正されました。住宅型有料老人ホームや、サービス付き高齢者住宅に入居している方の新しいケアマネジメント類型を作り、利用者に1割などの定率負担を求めることになりました。政府は、ケアマネジメント全体に拡大するつもりはないと言っていますが「アリの一穴」になりかねません。

高齢者人口が減少するなどの地域を「特定地域」に指定し、保険サービスの人員基準を緩和、月当たりの定額報酬にします。さらに在宅サービスを保険給付から外し、自治体の地域支援事業にして民間委託できる「特定地域居宅サービス等事業」を創設します。

月額報酬制は、先にのべた要支援1、2の「総合事業」で行われています。要支援1の人のデイサービスは週1回、要支援2は週2回などとされますが、運営基準で決まっているわけではなく事業者の都合です。総合事業の報酬や委託費は自治体により、地域差がすごくあります。

どの市町村や地域を「特定地域」にするかは都道府県が、市町村の意見を聞いて指定します。地域の事業所さんが「人手不足だから人員基準緩和してくれないと事業継続できません」となると、市町村は、特定地域に手をあげるように都道府県に言うわけです。人員基準緩和には、サービスの質を低下させないことが前提とされています。しかし人手を減らして低下させない方法などありません。ICTなどの機器を使うといっていますが、人手を減らしたら介護職員に負担が行くに決まっているじゃないですか。そしてサービスが低下するのです。

「特定地域居宅サービス等事業」では、要介護1~5の人まで在宅介護サービスを保険給付から外すことになります。資格要件はありません。しかし認知症の人に対応するには高い専門性が必要です。無資格者などあり得ません。

政府は長年、要介護1、2の訪問介護の生活援助を要支援1、2の「総合事業」に移行させることを計画してきましたが、反対が大きく、実現できませんでした。今回、「高齢者人口減少」に着目した「特定地域」を作ることで、この課題を成し遂げようとしています。政府が示す「特定地域」の要件には、全国の自治体の6割以上が該当すると言われています。大規模に「生活援助外し」が可能になります。悪知恵にあきれます。

市町村が「特定地域」に手をあげないよう、介護家族や住民が声を上げていくことが、いま、とても重要だと思っています。

しだ・しんや 1964年生まれ。2006年から25年まで、相次いで認知症を発症した父母を介護。23年、公益社団法人認知症の人と家族の会理事、25年から同副代表理事。