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AI活用の学習指導要領改定案
法政大学教授(教育学) 児美川孝一郎さん
思考力奪い教育壊す危険 デジタル化見直し規制を

児美川孝一郎さん

中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の教育課程部会が5日に了承した学習指導要領の改定案(「審議まとめ」)には、AI(人工知能)を使った学習など情報教育の拡充が盛り込まれました。子どものAI使用やデジタル教育の弊害に懸念が広がるなか、改定案をどう見るのか、法政大学教授(教育学)の児美川孝一郎さんに聞きました。(伊藤紀夫)

―改定案は「デジタル技術を含むあらゆる資源を総動員」することが「我が国の未来のために不可欠」として、デジタル教育に前のめりですが、どんな内容ですか。

学習指導要領の改定案では、「デジタル学習基盤」という言い方をしています。情報科などの特定の教科だけでなく、全教科がデジタル学習基盤を活用します。デジタル機器やICT(情報通信技術)、AIが使えることを前提に授業をし、子どもの学習も促してくださいということです。デジタルと一体化した学びをつくります。

その上で、情報活用能力を固有に育てる分野も格段に広げて、小学校でも3年生以上は「総合的な学習の時間」を「総合的な探究の時間」に変え、そこで情報教育をします。情報モラルなども教えますが、プログラミングにつながる発想・思考法を小学校でも学んでいきます。

中学校では、技術・家庭という今の教科を解体して家庭科を単独にし、情報・技術科という科目を新たにつくります。今は家庭と技術が一緒で週2時間ですが、情報・技術科だけで週2時間で、2倍になります。情報・技術科では、技術の方も昔のようなものづくりではなく、情報技術との関連でそれぞれの分野の技術を学ぶというものになります。すべて情報系なのです。

高校の情報科は、当然、小中から学習を積み上げてきますから、今よりも高度になります。「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」がおかれますが、「情報Ⅰ」は国立大学を中心に大学入試にも出題されます。

全体に情報教育シフトが起きていて、情報に焦点をあてた教育だけでなく、全教科で情報・ICTを活用する方向に前のめりです。

―子どものAI使用については、依存やトラブル、発達への悪影響など弊害が指摘されていますが、どう考えますか。

AI自体を否定はしませんが、使い方を間違えると、教育が破壊されるし、子どもの思考力が育たないような事態が起きると思います。今でさえ先生が何か課題を与えると、子どもたちはまず生成AIに聞き、答えを書いてくるようなことが起きています。AIは聞けば何でも答えてくれるので、自分が知らないことをいちいち調べなくていいわけです。一回その味を覚えたら、便利だから使うでしょう。今どきの学生は地図を読めなかったりします。スマホのアプリを検索すればすむからです。学習面でも同じです。自分で調べたり考えたりしなくても、問いに答えられる時代です。本当に怖いですね。

―デジタル教科書を正式な教科書にする改定学校教育法が6月に成立しました。問題が多いのに、AIを使用したICT教育の流れが強まる背景には、何があるのでしょうか。

 

「教育DX」を推進する文部科学省のホームページから

もともと、ICT教育は財界主導で経済産業省が推進してきました。子どもたちが1人1台の端末を持ち、AIドリルも活用して、能力や適性に応じて「個別最適化された学び」を実現するという構想です。公教育に民間企業が参入して商品やサービスを提供する市場化と、財界の意向に沿ったデジタル社会に対応する人材育成が狙いです。

学習指導要領は今のところ「個別最適な学び」と「協働的な学び」の2本柱です。しかし、今後、「個別最適な学び」により重点をおく流れになるのは間違いないでしょう。おそらく、単元の中での自由進度学習が今よりも推奨されます。子どもたち一人一人が自分の進度でばらばらに学ぶ時間が増えます。

「協働的な学び」は二の次になりかねず、教育基本法が掲げる「人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者」の育成という教育の目的が実現できるのか危惧されます。

―改定案が指導要領自体をデジタル化する点は、どうですか。

指導要領には教科・単元ごとにコードをつけ、全体をデジタル化します。生成AIに読み込ませれば、いとも簡単に指導要領に準拠した授業の指導案をつくることができます。

指導要領に完全準拠した形でAIがつくった単元や1時間の授業ごとの指導案やプリント教材、試験問題などがバンバン出てきます。教師は最初からAIに依拠し続けていたら、自分では授業がつくれなくなります。教師の専門性が危うくなるのではないでしょうか。

事実、文科省は来年3月に予定される学習指導要領の改定にそって教員養成制度も変えようとしています。一番大きいのは、教科専門の単位数をこれまでのように必修化しないという改定です。AIが教えるから、教員は教科の専門知識などは深めなくてもいいと文科省は考えているのでしょうか。

先にあげた内閣府の政策パッケージでは、従来の教師による授業を子ども中心の学びに変えるとして、教師の役割はティーチングからコーチングに変わると書いています。教えに導かれてこその学びなのですから、子どもにだけ任せてしまうのは大きな問題だと思います。

―AIの活用を含むデジタル教育が拡大することで教育が壊される危険に、どう対抗していけばいいのでしょうか。

子どもに最初からAIを使わせるのはすごく危険なので、学校でも家庭でも規制する必要があります。規制しても抜け道はあるでしょうが、野放しにしないという社会の姿勢が大切です。欧州や韓国などでは、デジタル教育による子どもの学力低下や教師の力量の低下などが問題になり、紙の教科書に戻したり、デジタル教科書を格下げにしたりする動きが出ています。

日本もデジタル教育一辺倒ではなく、世界の動きに学ぶ必要があります。教育の場がICTやAIに頼り切るような状況は、やめさせなければなりません。

指導要領改定の方向は、出たばかりでもあるので、問題点が十分には知られていません。デジタル化の推進による子どもや教師への悪影響、教育が壊される危険性を、パブリックコメントなども使って伝え、市民が声をあげる状況にしなければならないと思います。

こみかわ・こういちろう 1963年、東京都生まれ。法政大学キャリアデザイン学部教授。著書に『「教育改革」は何を改革してきたのか 学校と教育の現在(リアル)』『新自由主義教育の40年 「生き方コントロール」の未来形』など多数。