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- 2026.09.25
ガザ攻撃3年 パレスチナは今
中東ジャーナリスト 川上泰徳さん
続く人道危機 暴力で住民追い出し 軍事占領やめさせるのは市民の力

川上泰徳さん
2023年10月7日のイスラエルによるガザへの攻撃から3年、昨年10月10日のイスラエルと武装組織ハマスの停戦合意から1年の節目を迎えます。今、パレスチナ自治区のガザとヨルダン川西岸で何が起きているのか、どうすれば危機を打開できるのか、24年夏にヨルダン川西岸を取材した中東ジャーナリストの川上泰徳さんに聞きました。(伊藤紀夫)
―ガザの現状は、どうなっていますか。
停戦合意後も、イスラエルの封鎖は解除されず、人道物資も制限されています。学校や病院を含め8割以上の建物は破壊されたのに、復興のための資材が入ってこない。いまだに病院は機材も薬も不足し、がん患者や人工透析患者らは窮地にたち、戦争前には、重症の患者はヨルダンやエジプトなどで治療することができたが、今はできない。子どもは学校にも行けず、多くの人々はテント生活を余儀なくされ、人道危機が続いています。
昨年の停戦合意以降、ハマスはイスラエルを攻撃していないのに、イスラエルのガザ攻撃は続き、死者は1000人を超え、その多くは民間人です。ガザ攻撃が始まってから7万3千人以上が殺害され、そのうち2万1千人が子どもです。
まさに戦争犯罪で、国連人権理事会の独立国際調査委員会は昨年9月、ジェノサイド(集団殺害)であると認定し、国際刑事裁判所(ICC)は24年にイスラエルのネタニヤフ首相とガラント元国防相に逮捕状を出しています。
戦争犯罪は処罰されなければならず、犠牲になったパレスチナ人は救済されなければなりません。ところが、戦争犯罪が処罰されず、救済されず、国連も国際社会も止めることができなかったわけです。戦争と戦争犯罪は世界のどこでも起こり得る問題で、もうガザの惨状はなかったかのようにされるのは、市民社会、国際法、世界の安全の問題として許してはならないと考えます。
―イスラエルはヨルダン川西岸の間に700キロに及ぶ分離壁を建設しています。川上さんは昨年、ドキュメンタリー映画「壁の外側と内側―パレスチナ・イスラエル取材記」を上映しましたが、西岸の状況はどうですか。

マサーフェル・ヤッタのスファイフォガ村で学校が破壊された丘を背景に立つ二人の男の子(川上泰徳さん撮影、下も)
私はヨルダン川西岸最南端のマサーフェル・ヤッタに行きました。そこでは、日常的にイスラエル軍が住居や学校、道路を破壊し、イスラエル政府の後押しで入植者がパレスチナ人の村を襲撃して家に火をつけ羊を盗んだり、暴力を振るったりしている現実がありました。
パレスチナ人を日常的に苦しめているのがイスラエルによる軍事占領です。私が行ったところでは、パレスチナ住民は武器を持っていないから、警察や裁判所に訴えたりして抵抗をしていましたが、「何もしてくれない」のが現実です。この占領が結局、パレスチナ人の武装闘争の原因となるわけです。ハマスの越境攻撃によるイスラエル市民の殺害は戦争犯罪で非難すべきですが、その原因をつくっているのは占領です。

洞窟住居で野生のバラを部屋に飾る女性。5人の子どもを抱えて暮らしている
ところが、イスラエルの国民の多くは自分たちがそういう暴力の原因をつくり出していることを見ようとしていません。ガザと西岸の占領は1967年の第3次中東戦争後から続き、多くのイスラエル国民にとっては、それ自体が日常になっているからです。
ヨルダン川西岸では、ガザの戦争が始まってから、イスラエル軍による侵攻もあり、入植者による襲撃・暴力も過激化しました。西岸の北部では約3万人の住民が強制避難で住む場所を奪われるなど、状況は悪化しています。
―ネタニヤフ政権は25年、西岸のE1入植地に3401戸の住宅建設計画を承認し、今年8月には1234戸の入札を開始しましたね。
これは西岸を南北に分断し、パレスチナが将来の首都と考える東エルサレムを切り離す「西岸のイスラエル化」を狙うものです。パレスチナが独立してイスラエルと平和共存する「2国家解決」を困難にする計画といえます。
この計画は1990年代から始まりましたが、歴代米政権を含む国際社会の反対で凍結されてきました。今回も欧州やアラブ諸国など20カ国以上が共同で計画の撤回を求めています。
そもそもイスラエルのパレスチナ占領と西岸への入植は国際法違反で、国際司法裁判所(ICJ)は勧告的意見(24年)で「イスラエルには西岸と東エルサレムで続くユダヤ人の入植活動を停止する義務がある」との判断を示しています。
米国とイスラエルによるイラン攻撃の背景には、核開発問題とともにパレスチナ問題があります。イスラエルのパレスチナ占領は歴史的に紛争の火種となっており、中東の平和と安定のためには、この問題を解決しなければなりません。
イランがホルムズ海峡を封鎖したため、日本に石油が入ってこなくなり、石油や関連製品が高騰して大変な騒ぎになっています。中東の石油に依存する日本にとってもパレスチナ問題の解決は重要な課題です。
―川上さんは10月6日から12日まで東京で開く「パレスチナのいま」展の実行委員を務めていますが、企画の目的は何ですか。
この3年間にガザと西岸で何が起きたのか、現状はどうなっているかという点に目を向けてもらい、私たち日本ともつながる世界の平和と安全の問題として考えようという展示です。
イスラエルによる軍事占領は、パレスチナ住民が自由に社会生活を営む権利を奪い苦境に陥れ、それは結局、国際紛争の原因になります。この根底にある問題を放置すれば、中東の平和は実現できず、いつか日本を含め世界のどこかで同じようなことが起こってもおかしくありません。
今、パレスチナの悲惨な状況を救済すること、和平に向けて国際社会が動くことが大事です。昨年、欧州諸国がパレスチナ国家承認の姿勢をとった背景には、市民のデモの広がりがありました。
日本でも多数の市民がこんなことは許せない、政府はきちんと対応すべきだと声をあげれば、高市政権だっていつまでもガザ攻撃はイスラエルの自衛権だと言っていられないでしょう。そのためにも、パレスチナの現実をまず見てほしいと思います。
かわかみ・やすのり 1956年、長崎県生まれ。中東ジャーナリスト。元朝日新聞記者・編集委員、カイロ、エルサレム、バグダッド特派員。著書に『ハマスの実像』『シャティーラの記憶 パレスチナ難民キャンプの70年』『中東の現場を歩く』など。
「パレスチナのいま」展
○10月6日(火)~12日(月)
○目黒区美術館区民ギャラリー(東京都目黒区目黒2―4―36 目黒区民センター敷地内)
○入場無料

