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- 2026.03.15
イラン攻撃激化どう見る
千葉大学教授(中東現代史) 栗田禎子さん
中東支配狙った無法な戦争 暴挙許さぬ国際世論へ声を
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栗田禎子さん
米国とイスラエルが2月28日、イランに一方的な先制攻撃を開始してから2週間。トランプ米大統領は、イランの体制転覆も公言し、戦禍が広がっています。第2次世界大戦後の国際的な平和秩序を破壊する武力行使の拡大をどう見るか、千葉大学教授の栗田禎子さん(中東現代史)に聞きました。(伊藤紀夫)
―学校への攻撃で児童ら175人が殺害されるなど、被害は深刻です。武力の行使や威嚇を禁止する国連憲章に反する蛮行ですね。
米国とイスラエルによるイラン攻撃は、国連憲章をはじめとする国際法に完全に違反しています。外交交渉の最中にいきなり「不意打ち」で攻撃を開始し、最高指導者のハメネイ師を殺害するという前代未聞の行動で、国際法違反はもとより、明らかな戦争犯罪でもあります。主権国家をこの世からなくしてしまうような異常事態といえます。
イランは一貫して核兵器保有の意図を否定しているのに、「核兵器を開発しようとしている」と言いがかりをつけられ、米国に長年圧力をかけられ、経済制裁を科されてきました。2015年にはいったん問題解決のための合意が成立したのに、18年に第1次トランプ政権がこの合意から一方的に離脱したわけです。中東で唯一核兵器を保有しているのはイスラエルですが、そのイスラエルと米国が「核疑惑」を口実にイランに戦争を仕掛けるという奇妙な状況が生じています。
―米国とイスラエルの狙いは何でしょうか。
今回の事態の根底には、中東最大の問題であるパレスチナ問題があります。23年10月以降、イスラエルは占領下のパレスチナ・ガザ地区に対する全面的弾圧に着手し、無差別攻撃、ジェノサイド(集団殺害)で、これまでに7万2千人以上が死亡しました。
その時からイスラエルは抵抗するガザのハマスやレバノンのヒズボラの背後には悪の元凶・イランがいるとし、イランをつぶさないと問題は解決しないと言い続けてきました。イスラエルのネタニヤフ首相は24年の国連総会演説で、ガザをはじめとするパレスチナ、レバノン、シリア、イランまでを真っ黒に塗りつぶした地図を示し、「呪われた中東」の悪の源泉はイランだとのべ、「文明を守るために戦っている」イスラエルへの支持を訴えました。
作戦の青写真はその時からはっきり示されていたわけで、今回の攻撃はイスラエルが米国の力を借りて、この目的を実現しようとするものだと思います。
―パレスチナの歴史から何を教訓とすべきですか。
パレスチナ問題は基本的に、形を変えた植民地支配の問題です。20世紀後半は、むき出しの植民地支配の時代が終わったかに見えました。ところが、中東では英国の支配下にあったパレスチナに、英国が去った後も周辺ににらみをきかせる基地を築くという発想で、欧米から移民を導入して入植者国家建設が始まっていました。
その入植者国家が1948年にイスラエルとして建国宣言したわけです。建国後は米国の中東戦略の要として、米国をはじめ先進諸国に都合の悪い国をたたく先兵の役割を果たしてきました。67年の第3次中東戦争では、それまでパレスチナ解放闘争を最も熱心に支援していたエジプトのナセル体制に決定的打撃を与えるとともに、ガザ、ヨルダン川西岸を含むパレスチナ全域を占領したのです。
その後、正面からパレスチナ支援をする国がなくなる中で、その役割を買って出たのが、79年の革命で生まれたイラン・イスラム共和国です。国内では人権抑圧もあり一概に美化することはできませんが、パレスチナ解放闘争の側に立ってきたことは評価できます。
これをつぶし、米国とイスラエルの言いなりになる中東をつくろうというのが、今回の攻撃の狙いです。
―この攻撃に対する日本や欧州諸国、中東諸国の対応をどう見ますか。
英国、フランス、ドイツは最初、この攻撃には参加しないとしていました。しかし米軍基地などへのイランの反撃が始まると、3国は共同声明を出してイランを批判し、共同防衛に参加すると言い始めています。
深刻なのは、国際法違反の米国とイスラエルを糾弾しないどころか、国際法上は正当な権利である自衛権を行使しているイランの側を批判するという動きになっていることです。加害者を批判せず、被害者を加害者に仕立て上げて罰するという、逆転した論理がまかり通っています。
中東の中でも、周辺諸国に置かれている米軍基地がイランの標的になって被害が及び、イランへの抗議が出始めています。米国は80年から88年のイラン・イラク戦争でも、アラブのイラクを支援し、非アラブのイランとの対立をあおるなど、中東諸国の分断による支配を進めてきました。今回も中東諸国を分断して弱体化させるやり方に域内の国々が巻き込まれている点も深刻だと思います。
―歴史を逆行させる事態をとめるために、国際社会はどうすべきでしょうか。
今回のイランへの侵略は1月のベネズエラ侵攻、マドゥロ大統領拉致に続くものです。こんなことを見過ごせば、国連憲章、国際法に基づいた平和な世界を築こうとしてきた人類の営為は水の泡になってしまいます。困難があっても、国際法を守らせる動きをつくりださなければなりません。
国連では安保理決議は米国が常任理事国なので難しいですが、国連総会には果たすべき役割があるはずです。ガザの場合も安保理の停戦決議は米国の拒否権で否決され続けましたが、総会では停戦決議をあげて、イスラエルに圧力をかけてきました。
イラン攻撃に反対して米軍の基地使用を拒否しているスペイン、グローバルサウスと呼ばれる南アフリカやブラジル、アジア等の国々とともに、アラブ諸国もイランと連帯する立場を選び取り、米国とイスラエルによる侵略をやめさせるために立ち上がってほしい。

国際法違反のイラン攻撃に抗議し即時停戦を求めて声を上げる人たち=3日、青森市
―高市早苗首相はイラン攻撃について「自衛のための措置かどうかも含め詳細な情報を持ち合わせない。法的評価は差し控える」とのべる一方、「イランの行動を非難する」といっています。米国とイスラエルの代弁者のような日本政府の姿勢をどう見ますか。
米国の国際法学会も「国連憲章が定める武力行使の禁止に違反する不当な軍事攻撃」という声明を出しており、「法的判断をする材料がない」との言い分は通用しません。またイラン攻撃に横須賀の米軍基地のイージス艦も参加していることが明らかになり、日本政府がこれを黙認することは侵略のほう助にあたるのではないでしょうか。
ホルムズ海峡封鎖も現実の問題となっています。日本政府は15年に安保法制を成立させた際、集団的自衛権を行使して自衛隊を海外派兵する要件の一つである「存立危機事態」の代表例として「ホルムズ海峡封鎖」を挙げており、高市政権がトランプ政権の派兵要請に応じる恐れもあります。
米国・イスラエルによる暴挙を糾弾する国際世論をつくり出すと同時に、日本がこの侵略に加担することがないよう、市民が声を上げていく必要があります。
くりた・よしこ 1960年東京都生まれ。千葉大学教授。専門は中東現代史。2013~15年に日本中東学会会長。著書に『中東革命のゆくえ―現代史のなかの中東・世界・日本』(単著)『中東と日本の針路―「安保法制」がもたらすもの』(共著)など。

