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「スパイ防止」の名に隠された真実
ジャーナリスト・社会学者 小笠原みどりさん
米国に奉仕する諜報機関の創設 会話も盗聴 物言えぬ社会許すな

写真は本人提供

 「スパイ防止法」制定に向けた各党の競い合いが激しくなっています。自民党と日本維新の会の連立政権合意や、国民民主党、参政党が国会に提出した法案から見えてくるのは、米国にならったスパイ機関の創設です。米国の世界監視システムを内部告発したエドワード・スノーデンに2016年、単独インタビューしたジャーナリストで社会学者の小笠原みどりさんに同法案の狙いについて聞きました。(伊藤紀夫)

 ―各党の「スパイ防止法」案をどう見ますか

 それぞれ違う政党のはずなのに、基本的に米国のスパイ体制とうり二つの内容です。日本の独立を守るのではなく、米国の諜報(ちょうほう)機関や防諜体制のコピーであることに、まず驚きました。

 内閣情報調査室を局に格上げするとか、外国の代理活動する人たちに登録を義務付けるとか、要するに国内の監視体制の強化です。先進国に追いつくという名のもとに、実は米国を中心とするファイブ・アイズと言われる旧大英帝国系の国々(米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)がつくる諜報体制に日本が奉仕する内容になっています。

 ―スノーデンは小笠原さんに「日本の秘密保護法は米国が下書きしたものです」と発言しましたね。

 そうです。スノーデンが教えてくれた視点で見ると、今回の動きも露骨に米国の意向を反映しています。外国代理人登録法に一番最初に登録しなきゃいけないのは参政党とか日本維新の会、国民民主党なんじゃないか(笑い)と思うほどです。各党が使っている言葉が全部、米国の制度に基づくもので、米国のスパイ機関か、その代理人から吹きこまれて法案を書いている、としか私には見えないからです。

 今度の法案は、いかにも外国のスパイを防止することが目的のようですが、中央集権的なスパイ機関の創設が主眼です。5月に成立した「能動的サイバー防御法」も、「防御」とは裏腹に、本質は日本によるサイバー攻撃とサイバー・スパイ行為を解禁する内容でした。外国代理人登録制度によって、日本政府を批判する日本人も外国勢力だとして犯罪化される可能性に注意する必要があります。

 

 

   ―米国の「スパイ防止法」でスノーデンも訴追されていますね。

 これは米国が第1次世界大戦に参戦した時にできた法律です。こういう法律は戦争によって恐怖があおられるとできるのです。外国の利益に資するように見える人たちを「内なる敵」としてあぶり出していく。でも実際には、戦争に反対したり、政府を批判したりした人たちが訴追されてきました。

  米国のスパイ防止法で訴追されると、訴追された人には公平な裁判を受ける権利は保障されません。通常の刑事裁判では法廷で証拠が開示され、なぜその人が犯行に及んだのか、または犯行と無関係かを説明できます。しかし、この法律で訴追されると、国家機密に触れるとして裁判自体が非公開となり、被告人は公の場で自分を弁護する権利も奪われます。いったん「国家の敵」とみなされると、人権はない。

 だから、日本で「スパイ防止法」ができれば、外国の利益に資すると見なされた人はスパイ行為を働いたとされ、裁判も一部公開されない中、証拠もあいまいなまま、厳罰を受ける可能性があります。本来なら、行政、立法、司法という三権のチェック・アンド・バランスが民主主義の原則ですが、スパイ機関が違法な情報収集をしても国家機密として守られ、司法がそれを止めることができない状態になるのです。

「スパイ防止法」や大軍拡に反対する人たち。訴えるのは日本共産党の吉良よし子参院議員=10月19日、衆院第2議員会館前

 通常の刑事事件であれば、被疑者を逮捕した時から警察は発表し、報道機関が伝え、市民がそれを知り、公開の裁判になるので司法と市民による検証もできますが、それも難しくなります。

 民主主義が前提としているのは国民の知る権利です。表現の自由、言論の自由、集会・結社の自由、報道の自由を通じて国民の知る権利が保障されなければ民主主義は成り立ちません。

 ところが、国民の知る権利は2013年に特定秘密保護法が成立して以降、確実に狭められ、政府による秘密の領域は拡大しています。この法律を犯したら懲役10年以下の重罪ですから、日本のメディアは大幅に萎縮していると海外で評価されています。

 そのうえ、「スパイ防止法」ができると、たとえば戦争に関することや自衛隊が何をやっているかということを話すこと自体が防諜の対象になるので、さらに市民的自由が萎縮していく。日本でも戦争中は戦争や軍の動きについて話したりすること自体が特高警察などに監視され、「壁に耳あり、障子に目あり」だから話してはいけないと沈黙を強いられました。学校も「皆さん、防諜意識を高めてスパイがいたら密告しましょう」と教え、家族や隣人同士が監視し合う怖い状況がつくられました。

 ―「スパイ防止法」と国民監視システムが結びつく危険性をどう見ますか?

 今回の法案と戦前の治安維持法との最大の違いは、政府が収集できる情報の量がデジタル化によって飛躍的に増えたことです。

 スノーデンが明らかにしたように、米国はデジタル通信のインフラに侵入して、世界中のオンライン上の個人情報をすべて手に入れようと、今も日々、そのルートを開拓しています。

 そういう時代には、特高警察が尾行をしなくても、インターネット・プロバイダーなどと連絡を取るだけで、スパイ機関は私たちの日常的な会話を盗み見ることができます。

 パソコンについているカメラや携帯電話のマイク、そういうものを全部使って人々のメールのやりとりから会話、位置情報、心拍数、検索内容、心理状態までわかるようになってしまっています。今日のスパイ機関は特高以上に巨大な力を手に入れ、市民の側からその活動は見えないのです。

 ―悪法を阻止するために今、何が必要でしょうか?

 私が話しているような内容は、9割の人たちは知らないと思います。「スパイを防止する法律」という名前自体が問題の本質を分からなくし、自分には関係ないと思いますよね。

 しかし、この法律ができれば、外国のスパイと見なされる行動はやめておこうとか、自分の隣に住んでいる外国出身者をスパイかもしれないというまなざしで見るとか、社会の価値観が変わり、コミュニティーの多様性や創造性は大きく傷つきます。

 最終的には愛国心や忠誠心を競い合う単色の社会へ向かうでしょう。これは日本がかつて歩んだ滅びの道にほかなりません。

 だから、みんなを息苦しくさせ、世の中を暗くする危険な法律だということを知らせていくことが今、一番大事だと思います。

 おがさわら・みどり 社会学者、ジャーナリスト。カナダ・ビクトリア大学で監視について研究・教育。著書に『スノーデン・ファイル徹底検証 日本はアメリカの世界監視システムにどう加担してきたか』など。スタンフォード大学出版より『植民地の監視 日本帝国における識別と管理の技術』を来年1月に刊行。