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- くらし家庭
- 2025.11.11
路上園芸に晩秋を探して
路上園芸鑑賞家 村田あやこさん
季節の巡り感じ いつくしむ
2025年11月11日【くらし】
一気に秋めいて、冬の訪れさえ感じさせる季節となりました。通勤途上や散歩の道すがら、旅先の街で、植物をじっくり愛(め)でることができる時期でもあります。路上園芸鑑賞家の村田あやこさんに、晩秋の路上園芸の楽しみを書いてもらいました。
ゆで上がるような厳しい暑さがようやく過ぎ去り、ホッとしたのもつかの間。あっという間に上着が手放せない気候になりました。
1年がすっかり終盤に差し掛かっていたことに、まだどこか気持ちがついていかず驚いていますが、汗だくにならず、心地良い空気を浴びながら外を何時間でも出歩けるのは、うれしいことです。
装いを変えて
日々を慌ただしく過ごす中で、季節の巡りを知らせて、ふっと立ち止まるきっかけをくれるのが、秋から冬にかけて装いを変化させていく、道端の植物たちです。
夏の間にぐんぐんと背を伸ばしたセイタカアワダチソウは、あちこちで一帯を黄色に染めています。地べたに群生するヒメツルソバは、ピンク色のポンポンのような花で、地面の一角に華やかなじゅうたんを作り出しています。路傍の片隅で濃いピンク色の花穂を垂らすイヌタデも、見つけるとうれしくなる道端植物の一つです。

少し目線を上げてみると、建物の壁面や街路樹に張り付いたツタが紅葉し、グラデーションを生み出していることがあります。赤く染まった葉が描き出す壁画は、偶然の作品。落葉したあとの「線描」もまた、美しい。近づいて見てみると、壁にくっつく巻きひげの先端に、カエルの手のようなかわいらしい吸盤が見えます。
12月ごろになると、キダチアロエが真っ赤な花を咲かせるようになります。下町園芸でおなじみのキダチアロエ。「医者いらず」の別名があるほど、昔から家庭の薬代わりに愛用されている植物でもあり、私自身、幼い頃にやけどをした際、母が庭先のアロエをボキッと折って、傷口に塗り込んでくれたことがありました。
そんなアロエの花の艶やかさに気づいたのは、15年ほど前。当時住んでいたアパートの1階にキダチアロエが植えられており、普段はあまり目に留めることもなかったのですが、冬に真っ赤な花をつけて、その存在感に驚いたのでした。
それまで勝手に地味な植物という先入観を持っていましたが、異国情緒にあふれる華やかな花を見て、その先入観はすっかり覆されたのでした。調べてみるとキダチアロエは、南アフリカ原産とのこと。そのエキゾチックなたたずまいに、どこか合点がいきます。
普段はひっそりと街の風景に溶け込んでいるんだけど、開花すると一気に艶やかな姿に変身する。その二面性に憧れにも近い思いを抱いており、冬の間は、街なかでついつい、アロエの花を探してしまいます。
心がほぐれる
晩秋から年末年始にかけては、季節のイベントが続く時期。鉢植えの植物たちは、装いを次々と変えていきます。散歩中、住宅街の玄関先の鉢植えに、カボチャやおばけの装飾を見かけるようになったなと思ったら、ハロウィーン。それが過ぎてしばらくすると、今度はサンタさんや雪だるまが登場し、あっという間にクリスマスシーズンが到来します。
八百万(やおよろず)の神様を信仰してきた日本。路上でも、八百万のキャラクターたちが代わる代わる登場し、季節の巡りを告げてくれるのです。
こうした装飾が、道ゆく人の目にもしっかり届くように飾られていることも、珍しくありません。日々の暮らしに季節感を取り入れ、私のようないち通りすがりの人の目も楽しませてくれる。なんて豊かなことでしょう。
季節の巡りを繊細に感じ取り、生活をいつくしむ方々がいる。路上の鉢植えを通して、平和な暮らしが確かに流れていることを感じると、心がほぐれていくようです。
街の園芸家の皆さまの心遣いと遊び心に、生活を楽しむ気持ちの余裕をお裾分けしていただいている気分になるのです。
むらた・あやこ 福岡県生まれ。2010年ごろから「路上園芸学会」を名乗り、撮影・執筆を開始。「ボタニカルを愛でたい」(フジ系)に、タレントのいとうせいこうさんと出演中。著書に『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『緑をみる人』(雷鳥社)など。

