おすすめ
- くらし家庭
- 2026.09.29
【9月連載】小さな生き物とともに リー智子(5)

玉川上水「奇跡の5キロ」
2026年9月29日
玉川上水の中でも、小平市内の上水小橋から小川水衛所跡までの5キロは大きな緑のトンネルです。土木遺産を象徴し、人が掘ったことを物語る土の法面(のりめん)も続きます。橋からの眺めは渓谷のようです。隣接する畑や雑木林もかろうじて残り、武蔵野の面影を伝えます。
緑道は、上水と用水路の二つの流れに挟まれ、真夏の朝もひんやりとしています。生態系も豊かで、私はここを「奇跡の5キロ」と呼んでいます。

土の法面が深く、緑豊かな玉川上水=加藤嘉六さん撮影、東京都小平市
60年前の道路計画
60年以上前の高度経済成長期、多くの「都市計画道路」が計画されました。
その一つが、小平市を南北に貫く幅36メートルの大型道路「都道328号線」で、建設予定区域には「奇跡の5キロ」の中の大切な場所も含まれます。
計画が動き出していた2013年、小平市民は見直しを問うため、署名を集めて住民投票条例の直接請求を行いました。ところが、条例は制定されたものの、投票率が50%以上でなければ開票しないという条件を市が追加。結局、叶(かな)わず開票されませんでした。
以後、土地買収は進みましたが工事は着手されず、「あの道路計画はなくなったのか」と思う人もいるくらいでしたが、とうとう再び動き出しそうな状況となっています。
私はこの間、「道路反対」と主張するのではなく、玉川上水の価値を伝えてきました。24年の4月に「生き物の宝庫、史跡・玉川上水を未来の子どもたちへ」という署名活動を始め、年末には3万筆超を都に提出。いまも継続しています。(オンライン署名のリンク)

玉川上水に咲くフデリンドウ
心配なのは、最近よく枯れ木を目にすることです。玉川上水の豊かな生物多様性が失われてきているようにも感じます。
植物が次々に枯れ始めても、人にはどうすることもできません。これから先どんなことが起きるか予測できません。林をアスファルトにしてしまうときではないと思います。60年以上動かなかった道路計画、いま進めるべきでしょうか?
私の夢ですが、この道路予定地が森になったら、玉川上水の緑とクロスして、東京のほぼ真ん中に緑の十字ができます。「東京ほぼへそ緑の十字作戦」という生き物たちのサンクチュアリー(楽園)を、東京のど真ん中につくる。もしそれができたら、きっと世界中に影響を与えるでしょう。

羽村から新宿までの玉川上水の流れと小平の「ほぼへそ」の位置
人がこの先、生きていけるかどうかの瀬戸際に、どういう選択をするのか。いまある緑を守り増やし、生き物を守る。ものを大切にし、消費活動に変化を起こす。私は、それを軸に活動を続けています。

子どもたちと描いたアオバズクの絵=道路建設予定地の雑木林で
勇気と自由くれた
こうした私の活動に、いつも勇気を与えてくれるのは、現代美術家で亡き夫のリー・ウェンです。私は、「間違っていても、目上の人や男の人には従いなさい」と母に育てられました。そんな私に、夫は自由を教えてくれました。
息子が中学生になるとき、「制服が高すぎる」と夫に相談したことがあります。「自分が負担するよ」と言うかと思ったら、「同じ考えの親たちと運動を起こすべきだ」と言われ、そういう考えもあるのかと驚きました。こんな些細(ささい)な言葉が、私に影響を与えました。
そして、これまで支えてきてくださった方たちは数えきれません。お一人お一人に感謝を伝える機会を逃しているかもしれず、ここで改めて、お礼の気持ちをお伝えし、締めくくりとします。
(ちむくい〈ちいさな虫や草やいきものたちを支える会〉代表)
(おわり)

