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7月新連載「偏った植生活」岩谷美苗(1)
きらいな食べ物は「松」

紙面の画像

2026年7月7日

 世の中にはトマトやピーマンがきらいな子どもがいますが、わが家の息子(20代)のきらいな食べ物は「松」です。

事の始まりは、私が木の剪定(せんてい)ゴミを片付けるアルバイトに行ったときのこと。トラックに枝を積む仕事をしながら、最高のご褒美を手に入れました。大量の松葉です。

この松葉をどうするかって? もちろん「松葉サイダー」を作ります。

不思議グルメ

材料は洗った松葉(葉元の柄は切る)と、一度沸かした砂糖水(濃度10%)、そしてペットボトルだけ。松葉に付いている野生の酵母菌が、糖をエサにして発酵します。

果物の皮などに比べると酵母が少ないようで、ボトルにギッシギシに詰めないとプクプクしてくれません。

テーブルの上に置いて3日目、ペットボトルが破裂しそうなほどパンパンに膨らみました。キャップを緩めると、「プシュッ!」と泡があふれ出します。さっそく冷やして飲んでみると、炭酸はどこか遠くに感じるものの、爽やかなハーブ飲料といった風味で悪くありません。

いつもこういう不思議グルメは家族に避けられているのですが、今回は珍しく興味を示したので、夫と娘に飲ませてみました。

娘「ハイハイ、って味だねー」

夫「ナチュラルな炭酸としては、かなり頑張ってるよ」

娘「そうそう。頑張ってはいる!」

夫「気は抜けまくっているけれど、悪くない」

いつもよりは褒められて、私は調子に乗りました。「そういえば、ヒマラヤスギもマツの仲間じゃん。サイダーができるよね?」

ヒマラヤスギは「スギ」と名が付いていますが、実はマツ科の樹木です。短い松葉をペットボトルに詰めるのは一苦労でしたが、数日後、やはりボトルはパンパンになりました。

まずは私だけでテイスティング。「ん? キクのような柑橘(かんきつ)系のような甘酸っぱい香りで、おいしいんじゃない?」と思い、息子に感想を求めてみました。コップを口にした息子は、一瞬で顔を曇らせました。

息子「最初すごく爽やかで、森林の風が吹いているんだけど…同時に不快なにおいがする。まるで便所で森林のVR(仮想現実)を見てるみたい」

しつこいお味

さらに「普通、飲み込んだら味は終わるでしょ? なんで飲み込んでからがまずいの!?」と。それこそが、マツ特有の「ヤニマジック」です。しつこく舌をコーティングしてくるヤニの味。一度捕まったら最後、1日は口の中にいらっしゃいます。

普通の人ならここで諦めるのでしょうが、私は偏った植(しょく)生活を送る樹木医です。喜んで深みにはまります。ダイオウマツやカラマツでも作りました。微妙に香りが違います。冬でもコタツに入れれば発酵します。とりあえず毎回息子に「飲む?」と聞きましたが、息子は決まって「松はきらいなんだよ」と答えます。

きらいな食べ物、松? そもそも自分が誘っといてなんですが、食べ物に格上げ?「松、特にヒマラヤスギは最低!」と言う息子に、さすがに「好ききらいはダメだよ」とは言えません。

ちなみにローズマリーでもサイダーを作りましたが、私でさえマズくて飲めなかったことをお伝えしておきます。

(樹木医・森林インストラクター)

(火曜掲載)