現場Note

辺野古の米軍新基地建設軟弱地盤データ隠ぺいスクープの裏側

「赤旗」日曜版

藤川良太(日曜版編集部)

 沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設で、予定地の軟弱地盤にかかわる「不都合」な地盤強度データを防衛省が隠ぺいしていた─。私が書いた、赤旗日曜版(2月9日号)の記事は大きな反響を呼びました。

設計が根本から覆る事態に

 米軍新基地建設で焦点となっていたのは、予定地の大浦湾側に広がる「マヨネーズ並み」ともいわれる軟弱地盤でした。記事で明らかにしたのは、この軟弱地盤が最も深い海面下90メートルに達する「B27」地点の地盤強度です。その数値は、防衛省が設定する地盤強度を大きく下回り、3分の1しかない場所も見つかりました。

 データをなぜ隠したのか。

 防衛省はこれまで、70メートルまでの地盤改良で新基地建設は可能と主張してきました。「根拠」としてきたのが、70〜90メートルの地盤は「非常に固い」というものです。その根拠が崩れるため、「B27」地点のデータを隠したのです。

 防衛省は有識者でつくる「技術検討会」を設置しました。ここで地盤改良工事のお墨付きを得たとして4月21日、軟弱地盤の改良のための設計変更を沖縄県に申請しました。

 しかし、元中堅ゼネコンの土木技術者は「この地盤強度では、安定して施工できない」と指摘します。日曜版のスクープで、防衛省の現在の設計が根本から覆る事態となっています。

 私は、これまでも多くの新基地建設関連の記事を書いてきました。その中でも、今回のスクープに対する反響は大変、大きなものがありました。

 日曜版のツイッターで記事を告知すると、リツイートは2000件を超えました。そこでは「この埋め立ては粘土の中に税金を捨てると同じ」「このままだと湯水の如く金を使って自然破壊を行っているだけ」などの書き込みが添えられました。

 一般紙も日曜版スクープを追いました。

 「東京」(2月8日付)は1面から「辺野古、70メートル超も『軟弱』 地盤調査、防衛省伏せる」の見出しで報道。沖縄県の地元紙である沖縄タイムスや琉球新報、さらには「朝日」や「毎日」も日曜版が明らかにしたデータの存在を伝えました。

 「朝日」は社説(2月14日付)でも取り上げました。「不都合なデータに目をつぶり、埋め立て工事を止めようとしない。『辺野古ありき』で突き進む政府の強権ぶりが、また明らかになった」

原点は不条理への怒り

 私は日曜版で、新基地建設を含む米軍基地問題にこだわって取材し、記事を書いてきました。米軍基地が集中する沖縄で県民は、常に外国の基地があるが故の事件や事故、問題と隣り合わせでの生活を強いられています。しかし、安倍政権は、それを解決するどころか、逆に新たな基地を押し付けようとしています。その米軍基地による痛みを押し付ける不条理に対する怒りが私の取材の原点です。

 2019年2月24日、沖縄県では県民投票が実施されました。問われたのは、辺野古の米軍新基地建設に伴う埋め立ての賛否。結果は、「反対」が43万4273票に上り、投票総数の7割を超えました。

 沖縄県内では新基地建設に反対する「オール沖縄」が14年11月の県知事選を皮切りに、同年と17年の衆院選(小選挙区)、16年の参院選(沖縄選挙区)などで勝利を重ねていました。18年9月、翁長雄志前知事の急逝により行われた県知事選では、遺志を受け継ぐ玉城デニー知事が史上最高の約39万6000票を得票して当選しました。

 何度も示された「新基地建設ノー」の沖縄県民の民意。しかし安倍政権は新基地建設を強行し続けました。当時の岩屋毅防衛相は記者会見(19年2月26日)で「沖縄には沖縄の民主主義があり、しかし国には国の民主主義がある」と言い放ちました。

 新基地建設反対の県民と思いを一つに、何とか止めたい─。そんな思いで取材を続けてきました。

1万ページを読み込む

 日曜版(18年6月3日号)では、軟弱地盤を示す報告書を防衛省が2年間、隠して工事を強行してきたことを明らかにしました。隠したのは、このままでは新基地がつくれないことを国民、県民に知られないためでした。

 安倍政権が新基地建設を強行する際のやり方は、ウソとゴマカシ、そして情報の隠ぺいです。私の取材の大半も安倍政権のウソ、隠ぺいを明らかすることにありました。

 ウソを暴くため私は、約1万ページの新基地建設に関する防衛省の報告書を独自に検証することにしました。そのために、設計に関して専門的な知識を有する土木技術者の協力を得ました。

 そして今回のスクープで明らかにしたのが、軟弱地盤の海面下70〜90メートルの地盤は「非常に固い」というウソでした。

 土木技術者がまず見つけたのは、防衛省のゴマカシのからくりでした。地盤強度が低く出ていたデータを棄却し、高く出ていたデータを重複させていたのです。

 さらに検証を進めるなかで見つかったのが、海面下90メートルに達する軟弱地盤がある「B27」地点の地盤強度を調べたデータでした。データは、報告書の巻末資料として、すべて英文で掲載されていました。防衛省が実施していない、と説明していた地盤の強さを調べる試験が行われていたのです。このデータは、防衛省の「70メートル以深は非常に固い」「安定的な施工ができる」という主張の根拠を突き崩すものとなりました。

多くの協力─信頼が土台

 なぜ今回のスクープをすることができたのか。

 そこには、ともに独自の検証を進めてくれた土木技術者の存在があります。記者は、どんなことにも精通していることが求められます。しかし、私は、約1万ページの報告書を手に途方に暮れていました。地盤調査や設計の報告書は専門的すぎて、まったく分からなかったからです。協力してくれる土木技術者がいなければ、読み解くことはできませんでした。

 土木技術者が協力してくれたのは、日曜版が新基地建設反対の立場から記事を書き続けていることへの信頼からでした。「赤旗」には、問題解明のために信頼して力を惜しまず協力してくれる人たちが大勢います。市民団体や専門的な知識を有しながら現状の社会を批判的にとらえている人たちと手を携えて取材していくからこそ、スクープにつながるのです。

オール沖縄のたたかいへの連帯

 なぜ、「赤旗」は新基地建設反対の立場で一貫しているのでしょうか。

 日本共産党は綱領で、現在の日本社会について「対米従属と大企業・財界の横暴な支配を最大の特質とするこの体制は、日本国民の根本的な利益とのあいだに解決できない多くの矛盾をもっている」と規定しています。今年1月に開かれた第28回党大会では「辺野古新基地建設の中止、日米地位協定の抜本改定のために、国民的共同を広げ最大の力をつくしていく」とした決議を採択しました。

 そういった立場から、取材に当たるからこそ、「赤旗」は、新基地建設に反対するオール沖縄のたたかいに連帯する唯一の全国紙となっています。そして、安倍政権がいかに民意も法律も無視して新基地建設を強行しようとしているのかを告発しています。その道理のなさとともに、立ち向かう沖縄の人々のたたかいを、全国紙のなかで、いちばん詳しく報道しています。立場がはっきりしているからこそ、今回のスクープ記事は生まれました。

 アメリカが求めれば全国どこにでも軍事基地を置くことができ、在日米軍に対して基地に立ち入る権利もなく、国内法を適用することもできない。こんなアメリカいいなりの政治を続けていいのかという根本的な問いを今後とも記事を通じて伝えていきたいと思っています。(ふじかわ・りょうた)

『前衛』2020年9月号から