先日、1冊の同人誌が届きました。右遠俊郎(うどお・としお)記念会が発行する『白桃』です。『小説朝日茂』などで知られた作家の右遠俊郎さんの死後、彼を師と仰ぐ人たちが創刊し、24号になります。今年は右遠俊郎生誕100年です▼日本共産党員作家だった右遠さん。記者も生前、自宅で何度も話を聞きました。着流しの和服姿で文学論や思い出話、政治の現状への批判まで幅広く。いずれも深みのある話で「最後の文士」を見る思いがしました▼「よい紙面をと思えば悩みは尽きないようですが、論より記事に徹した方がいいと思います」と、書いた記事の感想のはがきもいただきました。ちゃめっ気もあり「僕のあらすじの方が、元の小説よりいい」とにやっとする姿も▼『白桃』編集の作家の佐田暢子(さた・のぶこ)さんは自作について、右遠さんから「精神の水位が下がったね」と言われたことがあります。「『精神の水位』ということを初めて教わりました。今でも小説を書く時に一番心がけています」▼右遠さんが気にかけていたのが、民主主義文学の行く末です。「仲間ぼめばかりではだめだ」と文学に対する厳しさを、なにより自らの姿勢で示していました▼「梶井基次郎のように短編集を1冊出して死ぬのが理想なのに、書きすぎた」と笑っていた右遠さん。でも右遠さん、ご安心を。「ベストセラーを出すより、数少ない読者に死後も読み継がれていく方がいい」と言っていた理想は実現しましたよ。
2026年10月23日

