自衛隊の統合幕僚監部が戦死した自衛隊員の遺体取り扱いマニュアルを作成し、訓練を重ねていることが21日、本紙が入手した開示文書で分かりました。これまで自衛隊・防衛省は戦死した隊員の遺体取り扱い訓練について実施の有無すら「答えられない」と回答拒否してきました。その裏で、戦死者を想定した態勢づくりを急速に具体化している実態が浮き彫りとなりました。(矢野昌弘)
(写真)「戦没者取扱い業務参考(暫定版)」と題した2025年7月に統合幕僚監部が作成した文書。表紙には戦死した兵士のひつぎを運ぶ兵士たちと、敬礼する軍幹部や政治家らしき姿が写っています
7人の兵士たちに担がれた棺(ひつぎ)。奥では、棺に敬礼する政治家や軍幹部らしき人々の姿―。
2025年7月に統合幕僚監部総務部が作成した「戦没者取扱い業務参考(暫定版)」と題した戦死者取り扱いマニュアルの表紙です。同文書によると、このマニュアルは暫定版。26年3月に予定する改定で、初版として完成させる計画となっています。
81ページからなる同マニュアルはほとんどが黒塗りで、内容は不明です。わずかに内容がわかるページは、「作成書類の参考例」と「関係法令」などのごく一部でした。
このうち「参考例」では、死亡診断書(死体検案書)の書き方を記載したとみられるページがありました。
「関係法令」のページでは、民法や戸籍法、船員法、医師法などの条文を抜すいしています。
例えば、引用している船員法15条は、航行する船内で死者が出た際、水葬ができるとした条文です。
また自衛隊法115条の4では、出動した隊員らが行動地域で死亡した場合、墓埋法(指定された墓地以外での埋葬禁止や、埋火葬には市町村長の許可を要するなど)を適用しないとする規定です。これらの条文はいずれも、特別な状況下での死者への対応に関するものとなっていました。
戦死者の取り扱い訓練を巡っては、「琉球新報」が23年に同年11月にあった自衛隊統合演習(JX)で、防衛省・自衛隊が対外的に公表しないまま訓練を行う計画を報じました。
これに対し、木原稔防衛相(現、官房長官)は「事柄の性質上、答えられない」と、訓練の有無すら回答を拒んでいました。
有事の対策急ピッチ 演習に向け文書次々と
(写真)「作成書類の参考例」としてマニュアルに掲載されている死体検案書(上)と、その記入例とみられる黒塗りされたページ
自衛隊の統合幕僚監部が作成した「戦没者取扱い訓練」に関わる情報公開文書―。本紙が入手した4点の文書からは、有事における戦没者対策が急ピッチで進められていた実態が浮かび上がります。
開示された文書の一つ、「■戦没者取扱い訓練■(準備/検証/訓練)」と題する文書は2025年10月6日に作成されました。訓練を行った演習名を黒塗りにした同文書には「戦没者取り扱い【使用用語の統一】」というページがあり、戦没者の定義を明確にした文書であることが分かります。
作成からわずか2週間後の同月20日からは、自衛隊統合演習(実動演習)が始まりました。同文書はこの演習に向けて作成されたとみられますが、統幕が公表した統合演習のプレスリリースには「戦没者取扱い訓練」の記載はありませんでした。
非公表の中で進む戦死者対策―。同年12月には統幕が「最適解(案)」と題する文書を作成しており、短期間で検討が推し進められていたことが分かります。
葬祭業界との協定と並行で
(写真)井上正信弁護士
安保法制に詳しい井上正信弁護士の話 四つの文書から、組織的かつ継続的に検討され、「暫定版」から「最適解」を踏まえて「初版」まで仕上げてきたことが分かります。昨年、陸上自衛隊の幕僚監部や各方面隊が葬祭業者の業界団体と協力協定を結んでいましたが、その協定締結と同時並行で自衛隊内部の戦没者対応を整備していった形です。
「戦死者」ではなく「戦没者」という用語が用いられている点も、旧日本軍の伝統的な表現の継承なのか、前線の戦死者だけでなく後方支援や輸送業務に従事した人々まで含める意図なのか、注視する必要があります。
19日から、米軍と自衛隊あわせて約5万7000人が参加する日米共同統合演習「キーン・ソード27」が始まりました。今回の演習では、負傷者の搬送訓練で民間医療機関が大規模に動員されています。
自民党安全保障調査会が今年4月、大量の傷病者発生を念頭に「民間医療機関との連携強化が必要」との提言を出していましたが、その提言が演習に即座に反映された格好です。国民に伏せられたまま、有事を想定した準備がひそかに進行していることに警戒が必要です。

