目次
綱領一部改定案の基本的な考え方について
□第五章・未来社会論--04年の改定の画期的意義を踏まえ、さらに発展させた
□綱領の全体を現時点で考え得る最良の記述に発展させるという立場で
第一章「戦前の日本社会と日本共産党」--二つの点にしぼって改定を行った
□侵略戦争と植民地支配の起点を明確にする補強を行った
□家父長制のもと差別と無権利状態におかれた女性解放のためのたたかいを補強した
第二章「現在の日本社会の特質」--情勢の変化にそくして修正・補強を行った
□戦後日本の変化にかかわって--「形を変えて天皇制の存続を認めた」を削除した
□異常な対米従属--日米地位協定、自衛隊の米軍指揮統制下への組み込みの問題を補強した
□日本独占資本主義の現状規定(1)--新自由主義の強行と深刻な行き詰まりを明記した
□日本独占資本主義の現状規定(2)--軍国主義の全面的復活の危険を明記した
第三章「二一世紀の世界」--ごく部分的な修正・補強を行った
□用語の問題--「民族の自決(権)」を「人民の自決(権)」にあらためた
□国際連帯の課題--排外主義との闘争、気候危機打開、AIへの対応を補強した
・「排外主義に反対する闘争」を国際連帯の課題に明記した
・深刻化する気候危機を抑制する国際的なとりくみの強化を補強した
・AI(人工知能)にたいする対応について補強した
第四章「民主主義革命と民主連合政府」--情勢の変化にそくして修正・補強を行った
□〔国の独立・安全保障・外交の分野〕--「二重のとりくみ」の立場で補強した
□〔憲法と民主主義の分野〕--排外主義反対、「SRHR」を補強した
□〔経済的民主主義の分野〕--雇用と労働、「SRHR」、財政と税制で修正・補強した
・経済改革の基本--国民の生活と権利を守る「社会的ルール」をつくる
・労働者の自由な生活時間の拡大、労働条件改善、ケア労働者の待遇改善を補強した
・「SRHR」を尊重することを真ん中にすえて政治が責任を果たす
・財政と税制--「空前の大軍拡」、「教育、住宅」、「消費税減税・廃止」などを明記した
第五章「社会主義・共産主義の社会をめざして」--探究と実践をふまえて改定した
□第五章の全体の構成を整理した
□社会主義・共産主義社会の基本的特徴--現綱領の叙述を全体的にあらためた
□マルクスの未来社会論の中心点、その輝きの核心部分を、党綱領の規定にすえた
・マルクスは、未来社会を語るときに、必ず「自由」という言葉を強調している
・「生産手段の社会化」を「人間の自由」を実現する条件・手段と位置づけている
・万人が十分な「自由な時間」をもつことこそ「各個人の完全で自由な発展」の保障
・一部改定案の理論構成は、『資本論』の理論構成に即したものになっている
□2004年の党綱領改定の積極的意義と過渡的制約について
・積極的意義--この解明があったからこそ、今回の一部改定提案が可能になった
・三つの点で問題点を残すものとなった
・当時の党の理論的探究の発展過程の一断面を反映した、過渡的な制約
□社会主義・共産主義の社会における生産力について
・物質的生産力の飛躍的な発展を無条件に肯定する規定は適切とはいえない
・マルクスは生産力についてどのように捉えていたか
・未来社会では、新しい質での生産力の発展をめざす
・マルクスは『ゴータ綱領批判』で、未来社会における富をどう理解していたか
□社会主義・共産主義の社会と国家権力について
□資本主義社会から社会主義・共産主義の社会への過渡期について
・現綱領の内容を生かし、合理的な整理を行った
・支配・被支配のなごりを一掃し、真に自由で平等な人間関係をつくる変革を補強した
□発達した資本主義国での社会主義的変革について
「自由な時間」--「自由に処分できる時間」論の今日的意義について
□現代の労働者・青年の切実な願いにこたえ、民主的結集を進める力に
□労働時間短縮を求める現代のたたかいは、未来社会に「地つづき」でつながっている
□「自由な時間」論は、21世紀のさまざまな課題を解決するキー・コンセプトに
□旧ソ連流の社会主義論を根底から克服するうえで大きな力
改定綱領を力に、日本を変え、世界に働きかけ、強く大きな党をつくろう
日本共産党の志位和夫議長が第10回中央委員会総会開会日の12日に行った綱領一部改定案についての提案報告は次のとおりです。
(写真)綱領一部改定案の報告をする志位和夫議長=12日、党本部
中央役員のみなさん、インターネット中継をご覧の全国のみなさん、こんにちは。私は、幹部会を代表して、来年1月の第30回党大会に提案する日本共産党綱領一部改定案についての提案報告を行います。綱領一部改定案は、文書で配布しておりますので、それを見ながらお聞きください。
現行の党綱領は、1961年の第8回党大会でその原型となる綱領路線が確立し、何回かの一部改定を経て、2004年の第23回党大会で全面的に改定され、2020年の第28回党大会で一部改定されたものですが、今日の世界と日本の進路を照らす羅針盤として、全体としてたいへんに大きな生命力を発揮しています。
同時に、この間の情勢の発展、党の認識の発展にそくして、改定が必要となっている部分があります。綱領一部改定案は、そうした必要にこたえて作成したものであります。
綱領一部改定案の基本的な考え方について
まず今回の綱領一部改定案の基本的な考え方について、報告します。
第五章・未来社会論--04年の改定の画期的意義を踏まえ、さらに発展させた
第30回党大会に綱領一部改定案を提案する直接の契機となったのは、綱領の第五章「社会主義・共産主義の社会をめざして」について、この間の党の理論と実践の発展を踏まえて、全体的な改定が必要だと考えたからです。
2004年に行われた党綱領改定は、未来社会論も一新するものとなりました。それは、第一に、それまで「国際的な定説」とされてきた生産物の分配の仕方--「労働におうじて」の分配から、「必要におうじて」の分配への変化によって未来社会の発展段階を区分するという理論を乗り越えたこと、第二に、「労働時間の抜本的な短縮」によって「社会のすべての構成員の人間的発達を保障」するという、マルクスの未来社会論の最大の核心部分に光を当てたという点で、画期的な意義をもつものとなりました。
同時に、その後の22年間の党の理論的探究と実践を踏まえて、綱領の規定をさらに発展させることが必要になっています。この間、日本共産党は、2024年1月に開催した第29回党大会で、「人間の自由」の全面的な開花を中心にすえて社会主義・共産主義論の大きな発展を行いました。さらに、党大会決定にもとづいて一連の理論的探究--『Q&A 共産主義と自由』(「青本」)、『Q&A いま「資本論」がおもしろい』(「赤本」)、それらの理論的背景を明らかにした『自由な時間と「資本論」』(「緑本」)--などにとりくみ、党の内外で広く学習・対話運動を進めてきました。さらに、国際的にも理論交流にとりくんできました。
そうした探究と実践を踏まえて、一部改定案は、綱領第五章で、「社会主義・共産主義の社会の最大の特徴・目的は、人間の自由をあらゆる意味で豊かに保障し開花させることにある」という命題を正面から押し出し、わが党の未来社会論の全体的な改定にとりくみました。資本主義社会から社会主義・共産主義社会への変革の過程--過渡期についても、この間の党の理論的探究の到達点を踏まえて、必要な補強・整理を行いました。
綱領の全体を現時点で考え得る最良の記述に発展させるという立場で
同時に、2004年の党綱領改定から22年が経過し、綱領のその他の章--第一章~第四章についても、情勢の進展にともなって修正と補強が必要な問題、新たに綱領上の課題として明記すべき問題が出てきています。そこで、現綱領の記述を最大限に引き継ぎながら、必要不可欠な問題について改定を行うことにしました。
2020年の第28回党大会で行った綱領一部改定は、綱領第三章・世界情勢論を中心に行い、それとの関係で第五章・未来社会論に部分的な補強を行い、さらに、第四章・民主主義革命論について第三章の改定にともなって必要最小限の改定を行うというように、改定の対象を限定したものでした。
今回の一部改定は、改定の対象とする範囲を限定することなく、綱領のすべての章を対象にしました。綱領の全体を現時点で考え得る最良の記述のものに発展させるという立場で作業を行いました。
以下、綱領にそくして、一部改定案の内容について報告します。
第一章「戦前の日本社会と日本共産党」--二つの点にしぼって改定を行った
まず綱領第一章についてです。
綱領第一章「戦前の日本社会と日本共産党」は、天皇中心の専制政治による残酷な迫害に正面から立ち向かい、国民主権と反戦平和の旗、人間解放と社会主義・共産主義の旗を掲げて不屈にたたかった、“日本共産党の立党の原点”を明らかにした章であります。
一部改定案は、二つの点にしぼって改定を行っています。
侵略戦争と植民地支配の起点を明確にする補強を行った
第一に、綱領第一節--戦前の日本社会の特徴と、その社会を変革する党の基本方針についてのべた節の最後の文章を、「この体制〔天皇絶対の専制政治〕のもと、日本は、アジアで唯一の帝国主義国として、アジア諸国にたいする五〇年余におよぶ侵略戦争と植民地支配の道を進んでいた」と補強しました。
日本が行った侵略戦争と植民地支配の起点をどこにおくかは、たいへんに重要な問題であります。現綱領で「侵略戦争」という用語を使っているのは、1931年以降の中国などにたいする侵略戦争となっています。
しかし、戦前の歴史は、日本が領土拡張と外国支配を目的とした本格的な侵略戦争に乗り出したという点では、1894年~95年の日清戦争、1904年~05年の日露戦争という二つの戦争を起点として、「五〇年戦争」ともいうべき連続した侵略戦争が行われた歴史でありました。日本が最初に植民地支配のもとにおいたのは、1895年に中国から強奪した台湾と澎湖(ほうこ)諸島であり、1910年の韓国併合が続きました。こうした「五〇年余におよぶ侵略戦争と植民地支配」を、1922年に党をつくった最初から命がけでそれに反対を貫いた党として、綱領でも明確に告発する必要があります。
このことは、戦後70年の年に出された「安倍談話」が、韓国の植民地化を進めた日露戦争を、「植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけた」などと露骨に美化したこと、日本軍「慰安婦」問題や「徴用工」問題など、植民地支配と結びついた重大な人権侵害が解決にいたっていないこと、歴史を偽造するさまざまな逆流が台頭するもとで、重要な今日的意義をもつものであります。
家父長制のもと差別と無権利状態におかれた女性解放のためのたたかいを補強した
第二に、綱領第二節--戦前、日本共産党が、どんな要求、政治的旗印を掲げてたたかったかについての基本点をのべた節に、「家父長制のもと徹底した差別と無権利状態におかれていた女性の解放」のためにたたかったことを補強・明記しました。
戦前の絶対主義的天皇制は、国民を無権利状態におき、なかでも女性への徹底的な差別を特徴とした体制でした。女性は、家父長制のもと、独立した人格をみとめられず、男性に従属する地位におかれました。いっさいの選挙権、被選挙権をみとめられず、治安警察法で女性は政治結社への加入を禁止されていました。
こうしたもとで日本共産党は、創立当初から、女性差別に反対し、女性選挙権の獲得をかかげ、女性が入党し、活動した、ただ一つの政党でした。さまざまな時代的制約があったとはいえ、わが党は、女性の人権と尊厳を大切にする点では、当時の政党のなかで抜きんでた立場にありました。『日本共産党の百年』では、この時代に、日本共産党に参加した女性たちの不屈の青春について、新たに一項を起こして叙述し、飯島喜美、高島満兎、田中サガヨ、伊藤千代子--いずれも24歳の若さで弾圧にたおれた4人の女性党員のたたかいについて明らかにしています。こうした先人たちのたたかいは、わが党にとっての誇りにとどまらず、日本国民にとっても誇るべきことといってよいのではないでしょうか。そうした思いを込めて、一部改定案で補強を行いました。
第二章「現在の日本社会の特質」--情勢の変化にそくして修正・補強を行った
つぎに綱領第二章についてです。
綱領第二章「現在の日本社会の特質」は、2004年の改定後の情勢の変化にそくして、部分的な修正・補強を行いました。
戦後日本の変化にかかわって--「形を変えて天皇制の存続を認めた」を削除した
綱領第四節は、戦後の日本に起こった情勢の変化の基本点として3点をのべています。現綱領には、その2番目の変化--「天皇絶対の専制政治から、主権在民を原則とする民主政治への変化」のなかの記述に、現在の日本国憲法の天皇条項について、「形を変えて天皇制の存続を認めた」ものという記述があります。これは現行の天皇の制度が、戦前の絶対主義的天皇制と連続性をもつかのような誤解を招く表現であり、削除します。
現行の天皇の制度は、戦前の絶対主義的天皇制--天皇が国家体制の頂点に君臨し統治権の全権を握っていた体制とはまったく違って、国民主権の国家体制のなかに政治的権能をいっさいもたない制度として天皇の制度が存在しているというものです。
すなわち、現行の天皇の制度は、「天皇」という同じ呼称を使ってはいるものの、戦前の絶対主義的天皇制とはまったく別の制度が、日本国憲法のもとで新たに創設されたものと、とらえるべきであります。
このことを明瞭にしておくことは、「日本の皇室が男系男子を貫いてきたことは2600年以上におよぶ歴史と伝統を踏まえてのもの」などという、近代の天皇制政府がつくりあげた“神話”にもとづく間違った議論が、まことしやかに横行していることなどを考えても重要であります。現行の天皇の制度は、日本国憲法が発効してのちの79年の歴史しかもっていないのであります。
さらに、日本国憲法第一条は、「この(天皇の)地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」と明記していますが、これは憲法前文につづいて主権在民を明記している条文となっています。この間の皇室典範改定をめぐる議論などをふりかえっても、天皇の制度を論じるうえでも基本にすえるべき条文であり、一部改定案では、憲法第一条について綱領にも明記することにしました。
異常な対米従属--日米地位協定、自衛隊の米軍指揮統制下への組み込みの問題を補強した
綱領第五節は、日本とアメリカとの関係を明らかにした節であり、日本の現状をとらえるうえでの「根幹中の根幹」とよぶべき重要な節であります。この節でのべられている「きわめて異常な国家的な対米従属の状態」は、今日、いよいよ深刻なものとなっています。一部改定案では、この間の情勢の進展を踏まえて、つぎの2点の補強を行いました。
第一は、日米地位協定への批判であります。現行の日米地位協定は、アメリカ側に日本国内のどこにでも望む場所に基地を置く権利を認めたうえに(全土基地方式)、在日米軍に日本の国内法が適用されず、日本政府の警察権さえ及ばないことをはじめ、アメリカ軍に異常な治外法権的な特権を与えた、世界の他に類のない屈辱的なものとなっています。一部改定案ではその批判を明記しました。
第二は、自衛隊が、海外派兵体制の強化のもとで、アメリカ軍の指揮と統制のもとに、いよいよ深く組み込まれていることです。この間、わが党が告発してきたように、2022年12月に閣議決定された「安保3文書」のもとで、米軍と自衛隊の指揮統制のかつてない連携強化、一体化が進行しています。アメリカ軍が公表している統合防空ミサイル防衛(IAMD)の基本方針にも明瞭にのべられているように、自衛隊を指揮統制下においている米軍が、国連憲章と国際法に違反した先制攻撃を公然と方針に掲げていることは、とりわけ重大であります。さらに、自衛隊が米国製AI(人工知能)を使用しようとしていることは、指揮統制における従属をいっそう危険なものにしています。一部改定案では、これらの動きを踏まえて、その危険性への告発を補強しました。
日本独占資本主義の現状規定(1)--新自由主義の強行と深刻な行き詰まりを明記した
綱領第六節は、日本独占資本主義の現状を規定した節ですが、一部改定案では、この20年余の情勢の進展を踏まえた改定を行いました。
まず経済面での規定の修正・補強であります。現綱領は、「大企業・財界の横暴な支配のもと、国民の生活と権利にかかわる多くの分野で、ヨーロッパなどで常識となっているルールがいまだに確立していないことは、日本社会の重大な弱点となっている」として、そうした「ルールなき資本主義」ともいえる日本経済の構造的弱点を、労働と雇用、女性差別、中小企業、農業、環境、経済・財政政策、政治腐敗、アメリカの介入、アメリカ式経営・経済モデルの持ち込みなどの諸点で明らかにしています。これらの批判は、どれも今日いよいよ重要となっているものです。
ただ、税制と財政の問題点について、現綱領では、大型公共事業への支出が優先され、社会保障への支出が最低水準という「逆立ち財政」との批判を行っていますが、現在ではこの批判は当てはまらなくなっています。大企業の利益優先による「逆立ち」という点では、税制面での「逆立ち」--消費税増税と大企業・富裕層減税が一体に進められたことと、財政面での「逆立ち」--大企業中心の施策や空前の大軍拡に巨額の税金を投入しながら、社会保障や教育への支出を最低水準に抑えているという形で、いわば二重にあらわれています。一部改定案ではそうした認識にたって修正・補強を行いました。
さらに、今日の金権腐敗政治が、一部の反動政治家や一部の大企業の問題にとどまらず、政党ぐるみ、財界ぐるみの腐敗の構造がつくりだされていることを踏まえ、一部改定案では、現綱領の表現に一部修正をくわえました。
一部改定案でまとまって補強を行ったのは、日本独占資本主義が陥っている激しい矛盾と危機、深刻な行き詰まりについての記述であります。現綱領は、綱領改定を行った2004年の時点での情勢を反映して、経済面の規定の結びは、「これらすべてによって、日本経済はとくに基盤の弱いものとなっており、……日本独占資本主義の前途には、とりわけ激しい矛盾と危機が予想される」となっています。しかし、今日では、「激しい矛盾と危機」は「予想」の問題ではなく、まさに現実のものとなっています。一部改定案では、四つの点で、その特徴を明らかにしました。
--第一に、「ルールなき資本主義」というかねてから日本経済が抱えている構造的弱点のうえに、1990年代以降、新自由主義と呼ばれる弱肉強食と自己責任を押しつける経済政策が強引に進められ、社会的ルールがいっそう弱体化させられました。とくに労働法制の規制緩和と社会保障の連続改悪が日本社会に与えた破壊的影響は甚大であります。
--第二に、大企業の経営行動が大きく変化しました。この間、大企業は、売上高が増えていないのに、利益と内部留保は大きく拡大し、増えた利益の8割は株主に回りました。「株主資本主義」ともいうべき、株主の利益を最優先し、労働者と中小企業にコストカットを強いる企業経営が支配的になりました。
--第三に、それは、一握りの大企業と大株主・大資産家への富の一極集中をつくりだすとともに、貧困と格差をいちじるしく拡大し、国民生活と日本経済の長期にわたる停滞・悪化を引き起こしています。日本は、長期にわたって「賃金があがらない国」、「経済成長ができない国」に転落しました。
--第四に、以上の諸要因の帰結として、日本独占資本主義は、世界資本主義の矛盾の深まりともあいまって、激しい矛盾と危機、深刻な行き詰まりに直面しています。
この四つの点で行き詰まりを規定いたしました。これは逆に言いますと、ここに経済の民主的改革のポイントがあるということになります。
新自由主義の経済政策は、ほぼ同じ時期に、ヨーロッパ各国でも進められてきていますが、日本経済の行き詰まりは、「賃金があがらない国」、「経済成長ができない国」に落ち込んだという点で、欧州各国と比較しても特別に深刻であります。1990年を起点に、実質賃金の推移をみますと、直近の数字で、アメリカは150・9%、イギリスは146%、フランスは133・2%、ドイツは132・4%に対して、日本は99・3%に落ち込んでいます。ここには、「ルールなき資本主義」という従来の構造的弱点に、新自由主義が加わったことの深刻な結果があらわれています。
一部改定案が端的に明らかにした日本独占資本主義の深刻な行き詰まりは、もはや財界・大企業中心の政治が持続可能なものとはいえなくなっていること、わが党綱領が明らかにしている国民の暮らし最優先の政治への根本からの転換が強く求められていることを示すものとなっていることを、強調したいと思います。
なお、用語の問題ですが、現綱領の第二章、第四章、第五章で「ルール」と表記しているものを、欧州などでの国際的表記も参照しつつ、「社会的ルール」という表現に置き換えました。雇用、社会保障、教育、税財政、中小企業、農林水産業、エネルギー、ジェンダー、住宅、交通、防災など、社会的な規範・規制・制度の全体を含むものとして、綱領では、今後、「社会的ルール」という用語を使うことにしたいと思います。
日本独占資本主義の現状規定(2)--軍国主義の全面的復活の危険を明記した
日本独占資本主義と日本政府の対外活動の問題では、軍国主義復活の現段階をどう捉えるかについて明確にしました。
わが党は、これまで、軍国主義について、「公然と海外出兵によって対外侵略をしうる政治・軍事体制」(1970年の第11回党大会)などと規定し、その時々に、日本の軍国主義復活がどんな段階にあるかを明らかにし、軍国主義のいっさいのあらわれに反対するとともに、その全面復活を許さないたたかいの先頭に立ってきました。
とくにこの10年余、2015年の集団的自衛権行使容認の安保法制(戦争法)の強行、2022年の「安保3文書」と、それにもとづく「専守防衛」さえ投げ捨てた空前の大軍拡、武器輸出の解禁など、軍国主義復活に向けた重大な危険が進展しています。国旗損壊処罰法の強行など国民を軍国主義に誘導しようとする政治体制づくりが進められていること、軍需産業の拡大など経済の軍事化という事態が進行していることも重大です。
こうした事態を受けて、一部改定案では、現状について、「対米従属の深まりと一体に、公然と海外派兵によって対外侵略をしうる政治・軍事・経済体制づくり=軍国主義の全面的復活の危険が生まれており、憲法第九条の改定をはじめとする憲法改悪は、その最大の焦点となっている」との規定を行いました。
現状は、安保法制の強行と空前の大軍拡などによって、自衛隊の一定の海外派兵の体制がつくられ、「公然と海外派兵によって対外侵略をしうる政治・軍事・経済体制づくり」の危険が生まれていますが、なお憲法九条による平和の制約が働いており、そうした体制づくりが実現するにはいたっていません。すなわち、軍国主義の全面的復活の危険が生まれているが、全面的復活にまではいたっていない。これが現状であります。
たとえば、集団的自衛権について、安保法制によって、「存立危機事態」という特別な場合に限って一部行使容認への穴が開けられましたが、いわゆるフルスペック--全面的な集団的自衛権の行使はできないとされています。また、いわゆる「海外派兵」--「武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することは、憲法上許されない」というのが、政府の現時点での見解となっています。
憲法九条は、いまなお「公然と」した--おおっぴらに、誰の目にも明らかな形での「海外派兵」によって、「対外侵略をしうる政治・軍事・経済体制」の実現を食い止める大きな壁となって立ちはだかっているのであります。憲法九条改定は、侵略戦争に対する痛苦の反省を踏まえて日本国民が手にした、かけがえのない平和の防壁を破壊することで、軍国主義の全面的復活をはかるくわだてにほかなりません。
一部改定案の規定には、憲法九条改定と軍国主義の全面的復活を絶対に許さないために断固たたかうという、“日本共産党の闘争宣言”という意味を込めたということを訴えたいと思います。
第三章「二一世紀の世界」--ごく部分的な修正・補強を行った
つぎに綱領第三章についてです。
綱領第三章「二一世紀の世界」は、2020年の綱領一部改定で全体的な改定を行った章であり、その全体が、今日の世界をどうとらえ、どう働きかけるかについて、大きな生命力を発揮しています。とくに、「植民地体制の崩壊と百を超える主権国家の誕生という、二〇世紀に起こった世界の構造変化は、二一世紀の今日、平和と社会進歩を促進する生きた力を発揮しはじめている」という世界論は、複雑さや逆流が台頭する現在の世界の動きを、深いところからつかみ、未来への希望を見いだす羅針盤となっています。一部改定案では、ごく部分的な修正・補強を行っています。
用語の問題--「民族の自決(権)」を「人民の自決(権)」にあらためた
まず用語の問題であります。第三章で使われている「民族の自決(権)」は「人民の自決(権)」という用語にあらためました。
ただしレーニンにかかわっては彼の使った「民族自決権」を歴史的用語として残しました。当時は、ロシア帝国やオスマン帝国などの帝国の支配下に置かれていた被抑圧民族の国家的独立が焦眉の課題でした。
第2次世界大戦を前後して、それまで植民地支配下に置かれていた、多くは複数の民族からなる植民地人民が、ひとつの国民として独立して主権国家をつくりあげる過程が急速に進みました。そうした経過のなかで、国連憲章をはじめ国連文書では「民族(ネーション=nation)」の自決ではなく「人民(ピープルズ=peoples)」の自決という用語がもっぱら使われるようになりました。
日本では、国連憲章をはじめ国連文書の訳語は「人民の自決」となっていますが、一般には「民族自決」という言い方がなお通用しています。しかし、民族と国民の範囲は一致しないことが多く、日本も複数の民族が共存する国家となっています。
そこで、綱領の表現としては、国際的な用語に合わせるとともに、国民と民族の混同を避けるためにも、「人民の自決(権)」という表現で統一することが適切だと考えました。
国際連帯の課題--排外主義との闘争、気候危機打開、AIへの対応を補強した
綱領第一一節の国際連帯の課題として、この間の情勢の進展を踏まえて、重視して位置づけるべき三つの点について補強しました。
《「排外主義に反対する闘争」を国際連帯の課題に明記した》
第一は、「排外主義に反対する闘争」を国際連帯の課題に明記したことであります。一部改定案では、社会に差別と分断を持ち込む排外主義とたたかうことを、綱領第四章--国内の民主的改革の課題としても位置づけていますが、同時に、これは国際連帯の課題としても重要であります。2024年8月~9月に党代表団が、欧州各国を歴訪したさいに、欧州で極右・排外主義の勢力が台頭するなかで、左翼・進歩諸党は、この逆流とのたたかいを重要な課題にすえて奮闘しており、連帯したたたかいを行うことを確認しました。
いま日本でも、欧州でも、米国でも、極右・排外主義の流れが起こっていますが、この逆流は、資本主義の末期的な行き詰まり、とくに新自由主義とそれにもとづく「グローバリゼーション」の失敗の反動的な表現であります。新自由主義が、貧困と格差の途方もない拡大を招くなど、その破綻が明らかになるなかで、それに対する不満と批判が、極右・排外主義に一つの「出口」を求めているのであります。こうした人々の不満と批判をしっかりと受け止め、それにこたえる民主的対案を大いに語ることと一体に、この逆流を克服するための日本でのたたかいを強めるとともに、国際的な連帯に力をそそごうではありませんか。
《深刻化する気候危機を抑制する国際的なとりくみの強化を補強した》
第二は、深刻化する気候危機を抑制する国際的なとりくみの強化であります。2020年の綱領一部改定後の6年間をとっても、気候危機は、人類の生存にとっていちだんと深刻な脅威となっています。今年の夏をとっても、欧州では万を超える人々が熱波によって死亡し、ネパールの氷河融解による土石流で多数の人々が犠牲になり、日本でも豪雨災害が連続して大きな被害が出ています。
気候変動抑制のパリ協定が目標としているのは、産業革命前に比べて地球の平均気温の上昇を1・5度以内に抑えることですが、この3年間の平均では1・52度まで上昇しています。9月2日に発表された国連環境計画(UNEP)の報告書は、1・5度を一時的に超過する--オーバーシュートすることは避けられないとし、そのピークを低く抑え、低下させるための「前例のない行動」が必要だと呼びかけを行いました。
いま強く懸念されているのは、気温上昇が、一連の重要な事象で「ティッピング・ポイント」(臨界点)を超えると、地球全体の環境が、急激に、大規模に、不可逆的に悪化して、人間の力でコントロールできなくなることです。グリーンランドの氷床融解をはじめいくつかの事象では、「ティッピング・ポイント」を超える危険が迫っています。まさに人類は、コントロール不可能な道に落ち込むか、理性の力でこの災厄を抑えるかの瀬戸際に立っているのであります。こうした事態を踏まえて、一部改定案に、つぎのように明記しました。
「深刻化する気候危機を、後戻りが不可能な限界点を超える前に抑制し、地球環境を守るための国際的なとりくみを強めることは、人類の生存がかかった急務である」
《AI(人工知能)にたいする対応について補強した》
第三は、AI(人工知能)への対応であります。AIは、人間の脳(知性)を代替する点で、これまでの技術の発展とは質的に異なる特徴があり、その急速な発展は、人類の前途に巨大な影響を与える可能性をはらんでいます。
AIが、労働時間短縮、医療や健康、科学の進歩など、さまざまな面で人類に大きな恩恵をもたらす可能性をもつ技術であることは明らかです。
同時に、二つの深刻なリスクが存在します。
第一は、AIの資本主義的利用--利潤第一主義の利用がもたらすリスクであり、雇用破壊、労働強化、環境破壊、人権侵害、巨大AI企業への富の集中と格差拡大など、すでにさまざまな形で問題となっています。とくに軍事、戦争への利用は重大な危険であり、許してはなりません。
第二は、より深刻なもので、資本主義の利潤第一主義のもとでのAIの無秩序な開発競争の結果、その開発者の意図にも反して、人間がAIを制御できなくなる危険であります。その危険は、この数カ月で、急速に顕在化し、AIが人間の指示に背く危険な行動をとるなど、制御不能の前兆となる事件が相次いでいます。今年(2026年)7月の国連の報告書では、人間による制御が追いつかなくなる可能性があること、人類に「破滅的な結果」をもたらす危険があることを警告しました。専門家からはあいついで「人類絶滅のリスク」が警告されています。この危険から人類を守るための国際協定を緊急に締結することは、国際政治の熱い焦点となっています。そこで、一部改定案に、次のように明記しました。
「AI(人工知能)を巨大企業が利用するもとで生まれている雇用、労働、環境、人権などへの害悪をただし、軍事への利用をやめさせ、人類がAIを制御できなくなる破滅的な危険を回避し、技術的発展の恩恵をすべての人びとのものにするための社会的ルールを国際協調でつくることは緊急の課題となっている」
この問題は、日本の民主的改革だけでは解決できず、国際的対応が不可欠な問題であり、綱領第三章に位置づけました。AIがもたらす二つの深刻なリスクは、そのどちらも、現代資本主義がつくりだした深刻な矛盾の一つとして位置づけるべきものです。それは、人類に破滅的結果をもたらしうる点では、気候危機や核兵器と並ぶ危険をもっています。同時に、この技術は、賢く使いこなすならば、人類に大きな恩恵をもたらしうるものであって、危険性だけを強調することはもとより正しくありません。そこで、一部改定案では、国際連帯の諸課題の後に、それに関係する内容をもつものとして、独立したパラグラフを設けてこの問題を位置づけることにしました。
科学的社会主義の党として、核兵器の問題でも、気候危機の問題でも、AIの問題でも、現状を科学の力で冷静に分析し、地球的な規模でその解決のための行動を起こし、人類的危機を打開するために力をつくそうではありませんか。
第四章「民主主義革命と民主連合政府」--情勢の変化にそくして修正・補強を行った
つぎに綱領第四章についてです。
綱領第四章「民主主義革命と民主連合政府」は、2004年の改定後の情勢の変化にそくして、綱領第一三節--「現在、日本社会が必要とする民主的改革の主要な内容」について、部分的な修正・補強を行いました。全体として、綱領第二章における一部改定案による修正・補強と対応する内容となるように仕上げました。
〔国の独立・安全保障・外交の分野〕--「二重のとりくみ」の立場で補強した
〔国の独立・安全保障・外交の分野〕での改革は、現綱領では、日米安保条約を廃棄した新しい日本がとりくむ課題として規定されています。
綱領の規定として、日本の民主的改革の最大の要の課題である日米安保条約の廃棄を正面から押し出して、それにともなう改革の課題を整理していることは重要であります。日米安保体制の異常な従属性、その危険性を広く明らかにし、日米安保条約を廃棄し、対等・平等・友好の日米関係への抜本的改革を求める世論を多数にしていくための、独自のとりくみが強く求められます。
同時に、この整理の仕方ですと、日米安保条約を廃棄する前でもとりくむべき緊急の課題が、綱領で規定されないという問題もあります。異常な対米従属を打破するためには、この間の一連の党の決定でも明らかにしてきたように、国民多数の合意で日米安保条約を廃棄するという大目標を揺るがずに追求しつつ、安保条約廃棄の前でも実現すべき緊急の課題に、安保条約に対する態度の違いを超えてとりくむという、「二重のとりくみ」が重要になります。そうした立場から修正・補強を行いました。
第2項として、「沖縄をはじめとするアメリカ軍の軍事基地の縮小・撤去をすすめ、日米地位協定の抜本的な改定をはかる」ことを明記しました。
第4項に、「安保法制など海外派兵立法を廃止」することを明記しました。
第5項でのべている「平和外交」の課題は、「新しい日本」--安保条約廃棄後の日本の課題となるだけでなく、安保条約廃棄前にもとりくむべきものです。そのことを明確にするために「新しい日本は」という言葉は削除しました。そのうえで、わが党が2024年4月に発表した「東アジア平和提言」の立場を、「紛争の平和的解決を原則とした平和の地域協力の包摂的な枠組みを東アジアに築く」という表現で綱領に位置づけました。核兵器の廃絶をめざし、「核兵器禁止条約に参加する」ことを明記しました。
〔憲法と民主主義の分野〕--排外主義反対、「SRHR」を補強した
〔憲法と民主主義の分野〕での改革にかかわって、第5項に、「差別と分断をあおる排外主義に反対する」と明記しました。
第6項に、「性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ)を保障する」--国際的には略称で「SRHR」の保障を明記しました。WHO(世界保健機関)をはじめとする国連や国際機関は、自分の体、性や生殖について、誰もが十分な知識と自己決定権をもち、必要な医療やケアを自分の意思で受けられることを基本的人権として保障するとりくみを行っています。日本でも若い世代を中心に運動が広がっており、この立場を明記しました。
〔経済的民主主義の分野〕--雇用と労働、「SRHR」、財政と税制で修正・補強した
〔経済的民主主義の分野〕での改革にかかわって、以下の諸点を修正・補強しました。
《経済改革の基本――国民の生活と権利を守る「社会的ルール」をつくる》
まず用語の問題ですが、現綱領には、第1項で、党が目指すべき経済改革の基本として「ルールある経済社会をつくる」という規定があります。これは「ルールなき資本主義」の対語として用いられてきたものですが、その意味するところが分かりづらいという問題があります。そこでこれを削除して、国民の生活と権利を守る「社会的ルールをつくる」という表現に直したいと思います。
《労働者の自由な生活時間の拡大、労働条件改善、ケア労働者の待遇改善を補強した》
第3項として、雇用と労働の問題を独立させて新たにつぎの一項を立てました。
「3 労働者の自由な生活時間を拡大し、人間的発達や社会的交流の権利を保障する。労働時間の抜本的短縮、最低賃金の大幅引き上げ、非正規ワーカーの待遇改善、一方的解雇の規制などを推進する。国の責任でケア労働者の待遇改善をはかる」
現綱領の「経済的民主主義の分野」での改革は、雇用と労働に関する独立した改革の項がないという問題があります。そこで一項を新たに起こし、労働者の切実な要求であり、マルクスも労働者階級の解放にとって「先決条件」と強調した、「労働者の自由な生活時間の拡大」を正面から打ち出し、それを「人間的発達や社会的交流の権利を保障する」ものと位置づけました。そのことと一体に、労働時間、最低賃金、非正規ワーカー、解雇規制などで労働条件を改善するための一連の改革の課題を明記しました。労働者は、労働時間短縮と賃上げの双方を、一体に、正面から求めるたたかいにとりくんでこそ、人間らしい生活を実現することができることを、強調したいと思います。
さらに「国の責任でケア労働者の待遇改善をはかる」と明記しました。医療、介護、教育、保育、障害者福祉などで働くケア労働者は、人間の生命・発達・尊厳を保障する、専門性と公共性が高い仕事に従事しています。にもかかわらず、その労働条件は低く抑えられています。ケア労働者の労働条件の水準を決めるのは国であり、国の責任でその待遇改善をはかることを綱領に位置づけました。
《「SRHR」を尊重することを真ん中にすえて政治が責任を果たす》
第6項にかかわって、現綱領にある「少子化傾向の克服に力をそそぐ」という記述は、事実上、政治が結婚と出産を奨励することにつながる記述であり、性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ)--「SRHR」との関係でも不適切な記述となっており、これを削除しました。現行の表現に代えて、「子どもを産むか産まないか、いつ、何人もつかを自分で決める権利、およびその土台となる健康を、すべての人が享受できる社会をつくる」と明記しました。
国や自治体などが、「少子化対策」として、「出生率を上昇させる」と、あれこれの政策目標に掲げて、事実上、出産を国民に押し付けることは、「SRHR」を侵害するものであって許されません。また、この権利を侵害する「対策」は、その意図に反して成功しないということも、明らかになってきています。世界人口白書2023年でも、「問題は、人口が多すぎるのか、また少なすぎるのかではありません。問うべきは、望む数の子どもを希望する間隔で産むことができる基本的人権を、すべての人が行使できているかどうかです」(国連人口基金のナタリア・カネム事務局長の声明文)と強調しています。ここでのべられている基本的人権を保障するための政策課題としては、雇用、住宅、教育などでの権利を保障するための施策を充実させることも必要です。
わが党が、2020年の第28回党大会で行った綱領一部改定で、「ジェンダー平等社会をつくる」「性的指向と性自認を理由とする差別をなくす」ことを明記したことは重要な意義をもつものでしたが、そのさいに「少子化傾向の克服」という規定が残ったことは、党として「SRHR」への理解が立ち遅れていたことを意味しています。
一部改定案では、「SRHR」を尊重することを真ん中にすえて、政治が必要な責任を果たすという立場を、綱領上も明確にするようにしました。
「人口減社会」への対応の根本は、日本に住むすべての人々の一人ひとりの人権、個性、尊厳がひとしく尊重され、ほんとうに住みよい、希望のもてる社会にしていく不断の努力を積み重ねることにおかれるべきであります。
《財政と税制--「空前の大軍拡」、「教育、住宅」、「消費税減税・廃止」などを明記した》
第7項の、財政と税制の改革についての記述は、綱領第二章での該当箇所の修正をふまえたものとしました。国の予算にかかわって、「空前の大軍拡」に反対する立場を明記するとともに、重点を置くべき分野として「くらしと社会保障」にくわえて「教育、住宅」を明記しました。税制の改革にかかわって「消費税減税・廃止を進め」ることを明記しました。
一部改定案が、〔経済的民主主義の分野〕での改革でまとめた8項目の改革は、綱領第二章で告発した「ルールなき資本主義」という日本経済の構造的弱点をただし、新自由主義による暮らしと経済の深刻な行き詰まりを打開する、抜本的な民主的対案の提唱となっていると確信するものであります。
以上が、綱領第四章にかかわる修正、補強箇所です。
第五章「社会主義・共産主義の社会をめざして」--探究と実践をふまえて改定した
つぎに綱領第五章についてです。
綱領第五章「社会主義・共産主義の社会をめざして」は、2024年の第29回党大会決定で行った社会主義・共産主義論の大きな発展、それにもとづく一連の理論的探究と全党のみなさんの実践、国際的な理論交流を踏まえて、全体的な改定を提案しています。
報告では、ことの性格上、理論問題にも立ち入って、その意義についてのべることになりますが、どうかご了解いただきたいと思います。
第五章の全体の構成を整理した
まず、一部改定案では、第五章の全体の構成をつぎのように整理しました。
第一六節は、わが党がめざす社会主義・共産主義の社会とはどういう社会か、その基本的な特徴を明らかにしています。
第一七節は、社会主義的変革の時期--資本主義社会から社会主義・共産主義の社会への革命的転化の時期--過渡期において、党がどういう方針でのぞむかについて明らかにしています。
第一八節は、発達した資本主義国での社会主義的変革のもつ意義と、その壮大な可能性について明らかにしています。
現綱領では、未来社会の本質的な特徴づけと、過渡期における党の方針が、やや未整理になっている部分もあります。そうした点は、以上のような全体の構成についての考え方にもとづいて整理を行いました。
社会主義・共産主義社会の基本的特徴--現綱領の叙述を全体的にあらためた
社会主義・共産主義の社会の基本的な特徴を明らかにした綱領第一六節では、現綱領の叙述を全体的にあらためました。
一部改定案では、綱領第一六節の第二段落で、「社会主義・共産主義の社会の最大の特徴・目的は、人間の自由をあらゆる意味で豊かに保障し開花させることにある」という命題を正面から押し出しています。それにつづいて、「その土台となるのは……生産手段の社会化」であるとのべ、これが未来社会の経済的土台における変革であることを明らかにしています。「人間の自由」の全面的な開花こそが社会主義・共産主義の社会の「最大の特徴・目的」であって、「生産手段の社会化」は、それを実現するための条件であり手段だという関係を明確にしました。
一部改定案では、第三段落で、未来社会における自由の特徴を、「資本主義の特徴である利潤第一主義からの自由」という角度から明らかにしました。そのことを、第一に、搾取からの自由、貧困と格差からの自由、労働の人間的性格の回復という側面と、第二に、経済の計画的な運営が可能になることによる不況、恐慌、環境破壊からの自由という側面--二つの側面から整理してのべています。どちらも「生産手段の社会化」が自由の条件となることを明記しています。「~からの自由」--資本主義がもたらすさまざまな害悪から自由になるという意味では、ここでのべている自由は消極的自由といえます。同時に、これらの自由は、どれもが人民が自らを解放するためのたたかいによってかちとるべき自由であることを強調したいと思います。
一部改定案では、第四段落で、未来社会における自由の特徴を、「各個人の自由で全面的な発展」という角度から明らかにし、ここに未来社会の「基本原理」があると明記しました。その保障となるのは、「労働時間が抜本的に短縮され、すべての人間が十分な自由な時間をもつことである」と規定しています。「自由な時間を使って、すべての人間がその能力をのびのびと発展させ、それが社会の発展につながる好循環が生まれる」ということ、「ここにこそ社会主義・共産主義の社会の真の自由の輝きがある」と強調しています。そして、ここでも「生産手段の社会化」が、搾取の廃止、社会的浪費の一掃という両面で、労働時間の抜本的短縮の条件となることをのべています。ここでのべている自由は、自分のもっている可能性を自分の意思で自由に実現するという意味では、積極的自由といえます。
マルクスの未来社会論の中心点、その輝きの核心部分を、党綱領の規定にすえた
ここで強調したいのは、いまのべた一部改定案の三つの段落(第二段落~第四段落)での規定が、マルクスの未来社会論の中心点、その輝きの核心部分を、党綱領の規定にすえたものとなっているということです。以下、四つの点を強調したいと思います。
《マルクスは、未来社会を語るときに、必ず「自由」という言葉を強調している》
第一に、マルクスは、未来社会を語るときには、必ず「自由」という言葉を強調しています。それは、搾取や抑圧からの自由とともに、各個人が十分な「自由な時間」をもち、この時間を使って自由で全面的な発展をかちとることが、重要な内容として含まれていました。
マルクス、エンゲルスが1848年に執筆した『共産党宣言』は、未来社会の特徴を、「各人の自由な発展が、万人の自由な発展のための条件である連合体(アソシエーション)」とのべています。
マルクスは、『資本論』第一部(1867年)で、未来社会について、「各個人の完全で自由な発展を基本原理とするより高度な社会形態」という特徴づけをあたえています。
「人間の自由」こそ、マルクス、エンゲルスが、社会主義・共産主義の社会の最大の特徴・目的としたことだったことを、まず強調したいと思います。
《「生産手段の社会化」を「人間の自由」を実現する条件・手段と位置づけている》
第二に、「人間の自由」と「生産手段の社会化」の関係をどうとらえるか。マルクスは、後者--「生産手段の社会化」を、前者--「人間の自由」を実現するうえでの条件であり手段と位置づけていることを、とらえることが重要であります。そのことにかかわって、ここでマルクスの二つの重要な文献を紹介したいと思います。
一つは、マルクスが最晩年の1880年に作成した『フランス労働党の綱領前文』です。マルクスは、フランスの党の求めに応じて、口述筆記で綱領草案をつくりました。それは「生産者は生産手段を所有する場合にはじめて、自由でありうる」という命題から出発して、「すべての生産手段を集団に返還させること」--「生産手段の社会化」という目標を導いています。
生産者が生産手段と切り離されて、他人の生産手段のもとで働かされる場合には、搾取と抑圧がおこり、人間の「自由」はありえない。生産者が生産手段を自分でもつ場合に、人間ははじめて「自由」でありうる。マルクスは、ここから出発して、資本主義の発展のもとでは、生産者が個人ではなく集団で生産手段をもつことが必然的な流れとなりつつあることを説き、「生産手段の社会化」を導き出しました。“人間が自由を得るためには、生産手段をもつことが必要だが、資本主義の発展のもとでは、個人ではもてないので集団でもとう”。これがマルクスが導いた結論でした。このように「生産手段の社会化」は、「(その)場合にはじめて、(生産者は)自由でありうる」と強調されているように、「人間の自由」という目的を実現するうえでの条件であり手段と位置づけられています。
いま一つは、マルクスが『資本論』第三部第48章「三位一体的定式」のなかでのべた未来社会についてのまとまった叙述です(執筆は1865年)。ここでマルクスは、社会における人間の生活時間を、「物質的生産の領域」--人間が生きていくうえで余儀なくされる物質的生産にあてる時間--「必然性の国」と、それ以外の時間--各人が思うがままに「自由に処分できる時間」--「真の自由の国」に分けています。マルクスがこの未来社会論のなかで、「生産手段の社会化」を、二重の意味で、「人間の自由」という目的を実現するうえでの条件であり手段として位置づけていることに、注意を払いたいと思います。
第一は、「物質的生産の領域」--「必然性の国」における自由についてです。マルクスは、「この領域における自由」は、「結合した生産者たち」が、生産手段の社会化によって、生産を「合理的に規制」し、「共同の管理のもとにおく」こと、すなわち、「みずからの人間性にもっともふさわしい……諸条件のもとでこの物質代謝を行なうこと、この点にだけありうる」とのべています。生産手段の社会化は、「必然性の国」における自由を実現するための条件であり手段と位置づけられています。
第二は、「真の自由の国」が開花する基礎となるものは何かという問題です。マルクスは、生産手段の社会化によって「必然性の国」でも自由が実現しうる展望をのべながら、そのうえで、それでもまだそれは、人間が生きていくうえで余儀なくされる物質的生産にあてる時間--「必然性の国」であることには変わりがないとのべ、この国を超えた先にこそ、「真の自由の国」が始まるとしています。人間があらゆる外的な義務から解放されて、完全に時間の主人公となり、人間の力の発達それ自体が目的となる時間。マルクスはこれを「真の自由の国」と呼びました。
ここで注意して読みたいのは、マルクスが、この論のなかで、「真の自由の国」は、「自己の基礎としての右の必然性の国の上にのみ開花することができる」と強調していることです。すなわち、生産手段の社会化によって「必然性の国」における自由が実現するが、そうした「必然性の国」を「基礎」として、「その上にのみ」、「真の自由の国」が開花すると強調しています。ここでも生産手段の社会化は、「真の自由の国」における人間的自由の開花という大目標の条件であり手段と位置づけられています。
このように、マルクスが社会主義・共産主義社会の最大の特徴・目的としたのは、「人間の自由」の全面的開花であり、「生産手段の社会化」はそれを実現するための条件であり手段にほかなりません。この関係を、はっきりとつかむことが大切であります。一部改定案では、こうした理解に立って両者の関係が明確になるように叙述を抜本的にあらためました。
《万人が十分な「自由な時間」をもつことこそ「各個人の完全で自由な発展」の保障》
第三に、マルクスは、未来社会の最大の特徴である「各個人の完全で自由な発展」を実現する保障をどこに求めたか。
マルクスは、経済学の本格的な研究を開始するなかで、1851年、一冊の匿名のパンフレットに出会います。のちに筆者は文芸評論家のチャールズ・ウェントワース・ディルクと判明したパンフレットですが、そこには、「富とは自由に処分できる時間のことなのであって、それ以外のなにものでもない」と書かれていました。マルクスは、この一節に強い感銘を受け、詳細な抜粋をノートに書き留めました。
彼は、1857年~63年にかけての二つの『資本論草稿』の執筆の過程で、この抜粋に繰り返し立ち返り、資本主義的搾取をなくすことによって、万人が十分な「自由な時間」--「自由に処分できる時間」をもつことにこそ、各個人が自らの潜在的能力を解放し、自由で全面的な発展をかちとっていく保障があることを突き止め、これを自身の未来社会論の軸にすえていきました。自由で全面的な発展をとげた各個人が、物質的生産の担い手となることで、社会全体の素晴らしい活力が生まれ、人間の発展と社会の発展の好循環が生まれる。これがマルクスが明らかにした未来社会の展望でした。一部改定案は、マルクスのこうした探究を端的に反映した内容としました。
資本主義的搾取によって労働者から奪われているのは、「モノ」や「カネ」だけではない、「自由な時間」が奪われている。労働時間の全体が資本家のもとにおかれることで、本来、人々がもつことができる「自由に処分できる時間」--「自由な時間」--労働者の知的・精神的発達の可能性が奪われている。「自由に処分できる時間」こそ、人間と社会にとっての「真の富」だ。労働者は団結して「自由な時間」を取り戻し、さらに搾取をなくすことで「自由な時間」を抜本的に拡大し、「各個人の自由で全面的な発展」--一人ひとりの個人の潜在的可能性を解放し、その能力をのびのびと発展させよう。これがマルクスの呼びかけでありました。
《一部改定案の理論構成は、『資本論』の理論構成に即したものになっている》
第四に、一部改定案のこの部分の理論構成は、『資本論』第三部でマルクスが展開した未来社会論--「必然性の国」と「真の自由の国」という理論構成に、即したものとなっていることを強調したいと思います。
すなわち、綱領第一六節の第三段落--「利潤第一主義からの自由」は、「物質的生産の領域」--「必然性の国」における自由の実現をのべています。第四段落--「各個人の完全で自由な発展」は、それを超えた先にある「真の自由の国」における自由の拡大をのべています。前者は後者を実現するための基礎であり、条件となっています。
こうして一部改定案は、マルクスが明らかにした未来社会論の中心点を、マルクスの論理に即して、党綱領の規定にすえたものとなっています。それはマルクスが明らかにした未来社会論の真の輝き、真の魅力を、わが党綱領に反映させたものとなったと確信するものであります。
2004年の党綱領改定の積極的意義と過渡的制約について
ここで2004年の第23回党大会で行った党綱領改定が明らかにした未来社会論の積極的意義と過渡的制約についてのべておきたいと思います。
《積極的意義--この解明があったからこそ、今回の一部改定提案が可能になった》
報告の冒頭にのべたように、2004年の党綱領改定は、党の未来社会論を一新するものとなりました。それは、第一に、それまで「国際的な定説」とされてきた、生産物の分配の仕方--「労働におうじて」の分配から、「必要におうじて」の分配への変化によって未来社会の発展段階を区分する理論を乗り越えたこと、第二に、「労働時間の抜本的な短縮」によって「社会のすべての構成員の人間的発達を保障」するという、マルクスの未来社会論の最大の核心部分に光を当てた、この二つの点で、画期的な意義をもつものとなりました。
さらに全党討論を踏まえて、第23回党大会で行われた綱領改定についての不破議長(当時)の結語で、「この(社会主義・共産主義の社会の)未来像の特質はなにか。一口に言えば、人間の自由、人間の解放であります」と締めくくったことも、重要な意義をもつものとなりました。こうした解明があったからこそ、今回の一部改定案の提案が可能になったということをまず強調したいと思います。
《三つの点で問題点を残すものとなった》
同時に、いくつかの問題点を残すものともなりました。
--第一に、現綱領の叙述では、「生産手段の社会化」を、「社会主義的変革の中心」と位置づけ、この変革が社会と人間にどういう変化をもたらすかを三つの角度から特徴づける--当初は「三つの効能」と規定した--という理論構成になっています。さきにくわしくのべたように、「生産手段の社会化」は、「人間の自由」という目的のための条件であり手段として位置づけられるべきものですが、逆に、「生産手段の社会化」を前提として、そこから社会と人間の変化が演繹(えんえき)的に導かれるという叙述になっています。
--第二に、現綱領の叙述では、未来社会の特徴づけが、「生産手段の社会化」を前提として、それが社会と人間にもたらす変化という理論構成によって描かれた結果、それが主として「必然性の国」--「物質的生産の領域」の問題として論じられています。それを「基礎」として、「その上にのみ」開花する「真の自由の国」が、綱領上は、十分に表現されているとはいえません。「社会のすべての構成員の人間的発達を保障」するという「真の自由の国」に属する命題が明記されたことは画期的意義をもつものとなりましたが、それも「必然性の国」--「物質的生産の領域」での変化のなかに埋もれてしまっているという問題を残しました。
--第三に、この綱領改定を提案した、2003年6月の第22回党大会第7回中央委員会総会での「綱領改定案についての提案報告」のなかで、マルクスが『ゴータ綱領批判』(1875年)で行った共産主義社会の段階的な発展論--「生まれたばかりの共産主義社会」から「共産主義社会のより高い段階」に発展していくという「二段階論」を、綱領改定にあたって「採用しなかった」と退けたことは、問題点を残すものとなっており、是正が必要です。
2004年の綱領改定で、未来社会を生産物の分配の仕方で二つの段階に区分した「国際的な定説」をのりこえたことは重要な意義をもつものでしたが、マルクスが『ゴータ綱領批判』で展開した共産主義社会の段階的な発展論それ自体には、私たちが未来社会論のなかに生かすべき大変豊かな内容が含まれています。
マルクスは、『ゴータ綱領批判』で「共産主義社会のより高い段階」の特徴として、次のような包括的規定付けを行っています。
「分業の下への諸個人の奴隷的な従属がなくなり、それとともに、精神的労働と肉体的労働との対立もなくなったあとで、労働が生きるための手段だけでなく、労働そのものが生活の第一の欲求となったあとで、諸個人の全面的な発達にともなって彼らの生産諸力も増大し、協同組合的富のすべての源泉がいっそうあふれるほど湧きでる」
この包括的な規定づけは、全体としてマルクスの未来社会論の真の輝きを豊かに表現するものとなっており、それを正面からうけとめた真剣な研究が必要であります。
《当時の党の理論的探究の発展過程の一断面を反映した、過渡的な制約》
いまのべた三つの問題点は、当時の党の理論的探究の発展過程の一断面を反映した、過渡的な制約でした。
2004年の綱領改定の責任者(綱領改定案の起草者)は不破哲三前議長でしたが、不破さん自身が、2004年以降も、未来社会論の探究をさらに発展させ、晩年には、これらの問題点を基本的にのりこえる到達点に達していました。「自由な時間」の重要性を『資本論草稿集』から明らかにするまとまった研究を残してくれたのも不破さんです。私たちが第29回党大会決定とそれにもとづいて行ってきた「人間の自由」を中心にすえた未来社会論の探究は、その全体が、不破さんの研究成果に支えられてのものであることを、私は感謝の気持ちとともに強調したいと思います。
2024年1月17日、第29回党大会のさい、伊豆学習会館で、私は、不破常任幹部会委員(当時)と会談をもち、今後の理論問題と外交問題の課題について、突っ込んだ意見交換を行いました。この大会で不破さんは中央役員を退任されるということもあり、最後にいろいろな問題を話し合っておきたいと考え、こういう会談をもちました。山口富男社会科学研究所副所長(当時)が同席し、詳細な記録をとってくれました。
そのさいに、私は、現綱領の未来社会論について、マルクス本来の未来社会論の核心部分が明快にはつかみにくい叙述となっていること、なかでも「生産手段の社会化」の効能の一つとして「人間的発達」を述べるという理論構成となっていることは大きな問題だと考えていると率直に提起し、不破さん自身のその後の研究の到達点、第29回党大会決議が明らかにした未来社会論の組み立てと内容を全面的に生かす方向で、綱領改定を行う必要があると考えていますと話しました。
不破さんは、「現綱領は、自分自身との関係でも、研究の途上で作成したものであり、人間の自由と全面的な発展をめざすというマルクス本来の見地から党綱領を改定することに賛成です」と表明され、「新しい指導部のもとですすめてください。党の理論的な見地の発展ということで、よく検討して諮るようにしてください」と託されました。私は、今回の綱領一部改定案は、不破前議長も存命ならば歓迎してくれる内容となったと考えるものであります。そういうやりとりもありましたので、今日こういう提案ができて、いささかほっとした気持ちもしているところであります。
社会主義・共産主義の社会における生産力について
現綱領の未来社会論は、さらに二つの点で改定が必要となりました。ここからさきもなかなか大事なところなんです。
一つは、社会主義・共産主義の社会における生産力についてであります。
《物質的生産力の飛躍的な発展を無条件に肯定する規定は適切とはいえない》
現綱領は、「生産手段の社会化は、経済を利潤第一主義の狭い枠組みから解放することによって、人間社会を支える物質的生産力の新たな飛躍的な発展の条件をつくりだす」とのべています。
しかし、物質的生産力の飛躍的な発展を無条件に肯定する規定は、地球環境の有限性を考えるならば適切とはいえず、気候危機が人類的な大問題になっているもとで国民的にも共感が得られるものとはいえないでしょう。そして、それはマルクスが到達した理論にてらしても適切なものとはいえません。
《マルクスは生産力についてどのように捉えていたか》
これはまた理論的な問題に立ち入ってお話をさせていただきたいのですが、マルクスは、『資本論』『資本論草稿』などのなかで、もともと生産力は、人間が労働によって自然に働きかけて、人間にとって役に立つものを生み出すための人間的な能力であって、本来、生産力は「労働の生産力」だとのべています。しかし、資本主義社会では、そうした「労働の生産力」が、資本の支配のもとにおかれてしまって、あたかも「資本の生産力」であるかのようにあらわれ、搾取を強化したり、環境を破壊する力をふるう。同時に、資本主義のもとでの生産力のかつてない規模での発展は、害悪をもたらすだけでなく未来社会の土台となる物質的諸条件を創造し、労働時間を短縮する条件をつくりだす。さらに、これが未来社会に進むことによって、生産力は「資本の生産力」から抜け出して、本来の人間的能力としての「労働の生産力」の姿をより高い質で取り戻すことになる。こうした分析と展望を語っています。
この問題にかかわるマルクスの考察から、四つの点を紹介したいと思います。
--1点目。マルクスは、『資本論草稿』で、社会主義に進んで搾取がなくなった場合には、資本主義が生み出した生産力の発展を考慮に入れるならば、「社会は、必要な物の豊富さを、いま12時間で生産している以上に6時間で生産するであろうし、同時に、万人が、6時間の『自由に処分できる時間』を、真の富を持つであろう」と書き付けています。マルクスが、無限の物質的富の拡大ではなく、「必要な物の豊富さ」を、できるだけ短い時間でつくり、「自由な時間」を拡大していくことに何よりもの重要性を見いだしていることは大変重要であります。
--2点目。マルクスは、『資本論草稿』で、十分な「自由な時間」をもつ人間の労働時間は、労働するだけの人間の労働時間よりもはるかに高度な質をもつということを強調しています。十分な「自由な時間」をもつ人間--全面的に発達した人間によって担われる生産力は、より高い質をもち、人間にとって「必要な物の豊富さ」を、より短い時間で生産することを可能にするでしょう。
--3点目。マルクスは、『資本論』で、資本主義のもとでの生産力の発展は、一方で社会の発展と未来社会の要素をつくりだしますが、他方で、つねに労働者の搾取の強化の手段とされることを明らかにしています。社会主義に進むことによって、こうした「資本の生産力」によってもたらされている、生産力の労働に対する敵対的な性格はなくなり、労働者の生活の向上と調和した質をもつことになるでしょう。こういう展望をもつことができると思うんです。
--4点目。マルクスは、『資本論』で、資本主義のもとで引き起こされた環境の破壊を人間と自然との「物質代謝の攪乱(かくらん)」という表現で分析するとともに、未来社会では、社会的生産の計画的な管理と規制のもとで、また、十分な「自由な時間」をもち全面的に発展した人間によって、「攪乱」された「物質代謝」が体系的に再建されるという展望を語っています。未来社会では、生産力は、環境保全と両立する質をもつようになるでしょう。
《未来社会では、新しい質での生産力の発展をめざす》
こうしたマルクスの考察をふまえるならば、未来社会は、資本主義のもとでつくられた高度な生産力を、ただ引き継ぐのでなく--「利潤第一主義」に突き動かされて「生産のための生産」に突き進んだ資本主義社会のような、生産力の無限の量的発展をめざすのでなく--、新しい質で発展させるものになるという展望をもつことができます。
すなわち、未来社会での生産力は、第一に、「自由な時間」をもち全面的に発展した人間によって担われ、第二に、労働者の生活向上と両立する質をもち、第三に、環境保全と両立する質をもつ--これらの新しい質で発展させられることになるでしょう。
以上を踏まえて、一部改定案では、現綱領の未来社会における生産力の規定--「生産手段の社会化は……物質的生産力の新たな飛躍的な発展の条件をつくりだす」という規定を削除し、綱領第一六節の第五段落に、未来社会における生産力について、つぎの規定を新たに書き込みました。
「社会主義・共産主義の社会は、資本主義社会のような生産力の無限の量的発展をめざすのでなく、全面的に発展した人間によって担われ、労働や環境と調和する、新しい質での生産力の発展をめざす」
《マルクスは『ゴータ綱領批判』で、未来社会における富をどう理解していたか》
どうして、現綱領には、「生産手段の社会化は、……物質的生産力の新たな飛躍的な発展の条件をつくりだす」という規定が残されたのでしょうか。その根源の一つは、マルクスが『ゴータ綱領批判』で「共産主義社会のより高い段階」の特徴としてのべた「協同組合的富のすべての源泉がいっそうあふれるように湧きでる」という一節を、「物質的な富があふれるように豊かになる」と解釈したことからきているものと考えられます。こうした解釈は、レーニンの『国家と革命』(1917年)に由来し、スターリンの一連の著作で固定化され、その後、「国際的な定説」とされてきたものでした。現綱領の規定には、未来社会の生産力にかかわる「国際的な定説」が未清算のまま残される結果となっているのです。
しかし、マルクスが『ゴータ綱領批判』で「協同組合的富」(協同的富)と呼んでいるのは、資本主義的な富ではないんですね。つまり『資本論』の冒頭に出てくる「巨大な商品の集まり」としてあらわれる物質的な富ではなくて、社会主義・共産主義的な富であることに注意を払う必要があります。
『資本論』と『資本論草稿』のなかで、また『ゴータ綱領批判』それ自体のなかでも、マルクスは、「富とは何か」について多面的な考察を行っています。それは、第一に、労働がつくりだす使用価値としての物質的な富を基礎としつつ、第二に、マルクスが「真の富」と強調した「自由に処分できる時間」--「自由な時間」、第三に、そうした「自由な時間」がつくり出す「各個人の完全で自由な発展」、そして第四に、すべての富の源泉としての自然の豊かさそのもの--それらの全体を含んでいます。
そしてこれらの要素はバラバラにあるのではなくて、互いに条件となり、関連しあっています。たとえば、労働がつくりだす使用価値としての物質的な富、衣食住やインフラも含めてこれは人間らしい暮らしを支える絶対的に必要な前提条件であり、必要な物質的な富があってこそ、「自由な時間」も意味があるものとなり、「各個人の完全で自由な発展」も現実のものとなります。同時に、たとえ物質的な富があふれるように豊かになったとしても、そのことによって、自由な時間、個人の発展が阻害された、そして自然が犠牲になるのであれば、それは真に豊かな社会とはいえません。これらの要素が、総体として、調和した形で、豊かに拡大してこそ、真に豊かな社会をつくることができるといえるでしょう。
そう理解するならば、『ゴータ綱領批判』でのべている「協同組合的富のすべての源泉がいっそうあふれるように湧きでる」の意味は明瞭になるのではないでしょうか。それは、「物質的な富があふれるように豊かになる」という意味ではありません。豊かで多面的な内容をもつ「富」--物質的な富、自由な時間、各個人の完全で自由な発展、自然の豊かさの全体が、総体として、調和した形で豊かに拡大し、「人間の自由」が全面的に開花する未来社会の一番の輝きを表現していると理解すべきではないでしょうか。
一部改定案での、未来社会における生産力について改定は、こうした立場を踏まえてのものであります。
社会主義・共産主義の社会と国家権力について
いま一つは、社会主義・共産主義の社会と国家権力の関係であります。
現綱領では、「原則としていっさいの強制のない、国家権力そのものが不必要になる社会、人間による人間の搾取もなく、抑圧も戦争もない、真に平等で自由な人間関係からなる共同社会への本格的な展望」が開かれるのは、「社会主義・共産主義の社会がさらに高度な発展をとげ、搾取や抑圧を知らない世代が多数を占めるようになったとき」のこととされています。しかし、この規定は問題点を残すものとなりました。
「国家権力そのものが不必要になる社会」が、「社会主義・共産主義の社会がさらに高度な発展をとげ」たときに実現する--言い換えれば、「高度な発展」に到達していない段階では国家が存在するというのは、レーニンが『国家と革命』のなかで展開し、その後、「国際的な定説」とされてきたものであって、マルクスの立場ではありません。
マルクスは、資本主義社会から共産主義社会への革命的転化の時期--過渡期には、社会主義をめざす国家権力が存在することを想定しましたが、過渡期が終わり、階級闘争などの必要がなくなれば、政治的統治の役割を担っていた機関が、政治的性格をもたない管理的な機関に変わってゆく、すなわち国家がなくなる過程がすぐに始まることを想定して、その過程を論じています。
資本主義社会から社会主義・共産主義の社会への過渡期が終わった段階で、人間による人間の搾取が廃絶されていることはもちろん、国家の役割も終わり、暴力や戦争の根も取り除かれることになるでしょう。過渡期を経て、社会主義・共産主義の社会が実現した段階で、これらのことは基本的に実現されるという展望をもつことができます。
以上をふまえて、一部改定案では、「(社会主義・共産主義の社会が)さらに高度な発展をとげ、搾取や抑圧を知らない世代が多数を占めるようになったとき」という条件を削除しました。
以上が、綱領第一六節、社会主義・共産主義の社会の基本的特徴にかかわる改定であります。一部改定案が、現綱領で未清算のままで残ったレーニンに由来する二つの「国際的な定説」--未来社会における生産力と国家権力の問題に関する旧来の理論を清算し、マルクスの本来の立場を明らかにしたことは、重要な歴史的意義をもつと考えるものであります。
資本主義社会から社会主義・共産主義の社会への過渡期について
綱領第一七節は、社会主義的変革の時期--資本主義社会から社会主義・共産主義の社会への革命的転化の時期--過渡期において、党がどういう方針でのぞむかを明らかにしている節であります。
《現綱領の内容を生かし、合理的な整理を行った》
一部改定案では、過渡期についての記述は、現綱領の内容を生かし、一部整理し、補強するという形で仕上げました。
現綱領では、日本における社会主義への道について、「多くの新しい諸問題を、日本国民の英知と創意によって解決しながら進む新たな挑戦と開拓の過程」としつつ、「次の諸点にとくに注意を向け、その立場をまもりぬく」として、第一に、生産手段の社会化は多様な形態をとりうるものだが、生産者が主役という社会主義の原則を踏み外してはならない、第二に、市場経済を通じて社会主義に進むことは、日本の条件にかなった社会主義の法則的な発展方向である--という2点を明記しています。
一部改定案では、「さまざまな思想・信条の自由、反対政党を含む政治活動の自由は厳格に保障される。『社会主義』の名のもとに、特定の政党に『指導』政党としての特権を与えたり、特定の世界観を『国定の哲学』と意義づけたりすることは、日本における社会主義の道とは無縁であり、きびしくしりぞけられる」という現綱領第一六節で表明している内容を綱領第一七節に移して、わが党が守りぬく第三の点に位置づけました。市民的・政治的自由をまもりぬくという表明は、過渡期における方針として位置づけることが適切であることにくわえて、第一の点も、第二の点も、旧ソ連の誤りを絶対に再現させてはならないという立場と一体のものとして提起されており、それに続けて右の内容を第三の点に位置づけるというのは、合理的な整理だと思います。
《支配・被支配のなごりを一掃し、真に自由で平等な人間関係をつくる変革を補強した》
一部改定案で、過渡期の任務として新たに補強したのは、次の一節であります。
「社会主義的変革の過程では、生産手段の社会化を土台にして、生産過程のなかでの人間関係から支配・被支配のなごりを一掃し、真に自由で平等な人間関係をつくりだす変革が重要となる」
マルクスは、1871年のパリ・コミューンの経験を総括して執筆した『フランスにおける内乱・第一草稿』(1871年)のなかで、過渡期の任務として、「現在の組織された労働という形での生産の社会的諸形態(現在の工業によって生み出された)を、奴隷制のかせから、その現在の階級的性格から救いだす(解放する)」ことを強調しました。ここでマルクスが「奴隷制のかせ」と呼んだのは何か。
マルクスは、『資本論』で、工場における監督および指揮の労働が、二重の性質をもっていることを明らかにしています。
第一の側面は、多数の個人の多様な労働を、「一つの司令的な意思」をもって、その作業場の目的にかなった全体の活動に統一していく機能です。マルクスは、監督・指揮労働のこの側面を典型的に表す実例として、オーケストラの指揮者の役割をあげています。オーケストラの指揮者は、オーケストラに参加する演奏者たちを支配しているわけではありません。オーケストラという分業体制のなかで、指揮という機能を分担しているという関係であって、そこには支配・被支配の関係はありません。
しかし、資本主義社会では、監督・指揮の機能は、第二の側面--階級的な敵対関係にもとづく、資本家による労働者の支配という機能と不可分に結びついています。マルクスは、ここに「奴隷制のかせ」があると指摘し、そこからの解放が不可欠だと主張しました。
すなわち、「生産手段の社会化」が実現したとしても、それだけでは、階級支配が存在していた時代につくりだされた生産過程における支配・被支配の関係--「奴隷制のかせ」はなくならない。未来社会における生産の社会的な形態が、自由な意思で結びついた生産者たちが協力しあう新しい結合体に変わるためには、生産現場に新しい社会にふさわしい真に自由で平等な人間関係--いっさいの支配・被支配のなごりを一掃した新しい人間関係をつくりだすことが必要だ。そうしてこそ、生産者が主人公、人間が主人公という、社会主義本来の原則を実現することができる。そして、この大仕事を行うことこそが過渡期の最も重要な任務になることを、マルクスは強調しています。右にのべた一部改定案の補強は、マルクスのこうした指摘を踏まえてのものであります。
綱領第一七節の最後は、つぎの一文で締めくくりました。
「社会主義・共産主義の日本では、人間がほんとうの意味で、社会の主人公となり、『国民が主人公』という民主主義の理念は、政治・経済・文化・社会の全体にわたって、社会的な現実になる」
この一文は、現綱領の第一六節から移動したものですが、それは過渡期の仕事をやり抜いて、社会主義・共産主義の社会が実現した段階を表現するものとして、過渡期を論じた第一七節の締めくくりの言葉にすえるのがふさわしいと考えます。
発達した資本主義国での社会主義的変革について
綱領第一八節は、発達した資本主義国での社会主義的変革のもつ意義と、その壮大な可能性について明らかにしています。
この節は、2020年の第28回党大会で行った綱領一部改定で新たに設けた節であり、党綱領の最後の節としてそのまま生かしました。補強箇所は、つぎの一点だけです。この事業が、「特別の困難性をもつとともに、人間の自由が飛躍的に拡大する壮大な可能性をもった事業」であるということを強調しました。発達した資本主義の国から社会主義・共産主義をめざす社会変革の道は、人類にとって文字通り未踏の道であります。この道は、「人間の自由」という点でも、はかりしれない豊かな可能性をもつものとなるでしょう。
綱領第一八節との関係で強調したいのは、わが党が、綱領のこの新たな規定を踏まえて、この間、欧州や北米の左翼・進歩勢力との交流と連帯のとりくみを開始し、そのことが国際連帯の事業にとっても、わが党自身の認識と活動の新たな発展にとっても大きな力となりつつあることです。理論交流も含めて、この間、開始してきた発達した資本主義国の左翼・進歩勢力との交流と連帯をさらに大きく発展させていきたいと思います。
以上が綱領第五章にかんする修正・補強の提案であります。
一部改定案によって、マルクス本来の未来社会論の輝き、魅力が、わが党綱領に全面的に反映されることになりました。私たちがめざす共産主義・社会主義の社会と、「人間の自由」の全面的開花は、一体不可分のものであるということが綱領上も明確になりました。それは「共産主義には自由がない」といった攻撃や偏見・誤解を根本から克服する決定的な力ともなると、確信するものであります。
全国のみなさん。綱領一部改定案で明らかにされた日本共産党が目指す未来社会の姿、その魅力を、広い国民のなかに大いに語り広げようではありませんか。
「自由な時間」--「自由に処分できる時間」論の今日的意義について
報告の最後に、党がこの間の一連のとりくみで、「自由な時間」--「自由に処分できる時間」論を軸に未来社会論を探究してきたことは、遠い将来の問題--未来社会の問題にとどまるものではない、いま私たちがとりくんでいる社会変革の事業を進めるうえでの熱い今日的意義をもつものであることをのべておきたいと思います。
現代の労働者・青年の切実な願いにこたえ、民主的結集を進める力に
第一は、現代の労働者・青年の切実な要求にこたえ、その民主的結集を進める力となっていることであります。
この間、私たちが、資本主義的搾取によって奪われているのは、「モノ」や「カネ」だけではない、「自由な時間」--あなたの人間が発達するための時間が奪われていることを明らかにし、それを取り戻すたたかいこそ「人間の自由」を取り戻し、「自由で全面的な発展」をかちとるカギであることを明らかにしてきたことは、過労死の不安におびえ、長時間労働に苦しみ、「自分の時間がほしい」という現代の労働者・青年の願いに、ぴったりとマッチした解明となり、共感を広げています。
それはまた、「人間にとってどういう生き方が、ほんとうに自由な生き方、ほんとうに人間らしい生き方といえるのか」など、人間の生き方を問うものとして人々の胸に響き、この点でも共感を広げていることも、うれしいことであります。
労働時間短縮を求める現代のたたかいは、未来社会に「地つづき」でつながっている
第二は、現代のたたかいが、未来社会に「地つづき」でつながっていることを明らかにしたということであります。
この間、わが党は、『資本論』や『資本論草稿』を踏まえ、いま「自由な時間」を増やすことは、(1)労働者の健康と命を守るために絶対に必要であり、(2)労働者の成長と発達にとって必要不可欠であり、(3)労働者の解放にとっての「先決条件」となることを明らかにし、この課題を現代の労働運動の中心課題の一つにすえることの重要性を訴えてきました。
このことは、大幅賃上げと一体に労働時間短縮を求める現代の労働運動を前進させるうえでの貢献になりうるとともに、このたたかいが、いくつかの発展段階を経ながら、未来社会に「地つづき」でつながっていることを示し、未来社会の魅力あるイメージを、多くの人々にとって分かりやすいものとしていると思います。
「自由な時間」論は、21世紀のさまざまな課題を解決するキー・コンセプトに
第三は、「自由な時間」の拡大と、それによる人間の発達は、日常の生活と労働にとっての身近な問題であるとともに、21世紀に人類が直面しているさまざまな焦眉の課題--気候危機、AI(人工知能)、ジェンダー、ケア労働などの課題を根本的に解決するうえでの鍵となる概念(キー・コンセプト)となっているということであります。
たとえば、AIの恩恵を人類全体のものとするためには、その深刻なリスクを抑える国際的な規制をつくることが急務となっていますが、より根本的にこの問題の解決の道を考えるならば、すべての人間が十分な「自由な時間」をもち、自分自身の知的・精神的な潜在力を豊かにのばして、自由で全面的な発展ができるようになる社会に進むことが、重要となってくるでしょう。それは人類が、AIの暴走を抑え、AIを賢く使いこなせるようになる最大の保障となるでしょう。
また、ケア労働は、今後、社会的にその比重を増し、その役割はいよいよ重要になってくると考えられますが、ケア労働の現状を打開していくうえでも、「時間」の拡大が必要であります。すなわちケア労働者が、人間の生命・発達・尊厳を保障するという本来の役割を果たすためにも、ケアの対象と向き合うための十分な時間、たっぷりとした時間をかちとるとともに、ケア労働者自身の「自由な時間」を拡大し、ケア労働者一人ひとりの健康と生命のための時間、発達のための時間を獲得するという、二重の意味での「時間」をかちとっていくたたかいが重要になっているといえるのではないでしょうか。
マルクスは「時間は人間の発達の場である」(『賃金、価格および利潤』〈1865年〉)という名言を残しました。「自由な時間」とは、言い換えれば、そうした時間を使った「人間の発達」ということにほかなりません。21世紀の現代が直面するさまざまな課題において、「自由な時間」の獲得と、それを使っての人間の自由な発展こそが、根本的解決の道となっていることを強調したいと思います。
旧ソ連流の社会主義論を根底から克服するうえで大きな力
第四は、旧ソ連流の社会主義論を根底から克服する大きな力になることであります。
旧ソ連などでは、「自由な時間」の拡大--「真の自由の国」の拡大と、「各個人の完全で自由な発展」という、マルクスの肝心の思想が、未来社会論からまったく消し去られ、封印され、踏みにじられてきました。
その理論的誤謬(ごびゅう)は、共産主義社会の目標を、「必要におうじてうけとる」という、生産物の分配のあり方においたことだけに、とどまるものではありません。マルクスの未来社会論を、もっぱら「物質的生産の領域」--「必然性の国」だけでとらえ、物質的な富があふれるように拡大することを最大の目標とする議論に落ち込んだことに、根本的な理論的誤謬がありました。レーニンが執筆した『国家と革命』に由来し、スターリンによって固定化されたこの理論的誤謬は、人類の未来史からそのもっとも輝かしい部分--「真の自由の国」を切り捨てる、きわめて大きな誤りでした。そしてそれは、旧ソ連において社会主義とは無縁の人間抑圧の体制がつくられ、崩壊にいたったことと決して無縁ではありません。社会主義の目的が、人間の自由であるとするならば、どうしてあのような社会がつくれるのでしょうか。ありえないことであります。
一部改定案は、マルクスの未来社会論の一番の輝き--「人間の自由」、「各個人の完全で自由な発展」、「自由な時間」を、綱領の未来社会論の中心にすえるとともに、旧ソ連流の社会主義論--社会主義にかかわる一連の「国際的な定説」を、全面的に清算し、それと根本的に決別する、歴史的意義をもつものとなりました。それは、旧ソ連社会のような「人間の自由」の否定のうえに築かれた専制政治を、わが党がきっぱり否定するうえでも確かな理論的土台となるでしょう。
日本共産党が、今日、こうした未来社会論の発展をかちとることができたのは、相手がどんな大国であれ、無法な干渉を断固として許さず、日本の運動の進路は自分自身で決めるという自主独立の路線を貫き、この路線のうえに、科学的社会主義の理論の刷新と発展のために力をつくしてきた私たちの先人たちの苦闘と努力、先駆的探究の積み重ねがあったということを、私は敬意と感謝を込めて強調したいと思うのであります。
改定綱領を力に、日本を変え、世界に働きかけ、強く大きな党をつくろう
私は、報告の冒頭で、今回の綱領の一部改定案について、綱領第五章・未来社会論を全体的に改定するとともに、その他の章についても必要不可欠な問題について改定を行い、綱領の全体を現時点で考え得る最良の記述のものに発展させることを目的として作業を行ったとのべましたが、幹部会として、この目的に基本的にこたえる一部改定案を提案することができたと考えます。
綱領一部改定案を、この中央委員会総会の積極的な討論をつうじて練り上げ、さらに全党討論で、全党の英知を結集して練り上げ、日本共産党の進路を照らす羅針盤として立派に仕上げることを、心から訴えるものであります。
全国のみなさん。改定綱領案を力に、日本を変え、世界に働きかけ、強く大きな党をつくるたたかいに、新たな決意でたちあがろうではありませんか。
そのことを強く呼びかけまして、綱領一部改定案の提案報告を終わります。

