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2026年10月11日

主張

ノーベル化学賞
生命の起源の謎に迫った偉業

 今年のノーベル化学賞は、生命の起源の謎に迫る研究に大きく貢献した東京理科大学の硤合憲三(そあい・けんそう)名誉教授と仏パリ南大学のアンリ・カガン名誉教授の2氏に授与されることになりました。

 ヒトを含め生物を構成している数十万種類にも及ぶたんぱく質は、わずか20種類のアミノ酸のさまざまな組み合わせでつくられています。このアミノ酸には不思議な特徴があります。自然界には化学式が同じでも立体構造が鏡に映したような「右手型」と「左手型」がありますが、生物を構成しているアミノ酸はほぼ左手型だけになっています。

■アミノ酸の不思議

 しかし、通常の化学反応でアミノ酸を合成すると、左手型と右手型がほぼ等しい量になります。生命の源としてのアミノ酸は、なぜ左手型だけなのか―1世紀に及ぶ謎に迫ったのが硤合さんでした。

 硤合さんは大学院生の頃に一方の割合を増やす実験に成功したことをきっかけに、完全に一方だけにする反応―「絶対不斉合成」―をめざします。前人未到の挑戦は「暗がりでヘッドライトをつけて足元を探求しながら進んでいく心境」だったと語っています。

 試行錯誤を繰り返す中で、生成物が触媒となって、わずかに多い方が自らを増やし、次第に多数になっていく「不斉自己触媒反応」を1995年に発見します。2003年についに「絶対不斉合成」に成功し、「ソアイ反応」と呼ばれるようになりました。

 これは、製薬などにおいて画期的な発見となりました。人工化合物では、右手型と左手型では効能が違い、薬害をうみだすことがあります。1960年前後に鎮痛薬などとして販売されたサリドマイドは、服用した妊婦から生まれた子に重い障害をもたらしました。左手型に毒性があったのです。

 生命の起源の謎に迫るという、一見有用性とは無関係な真理探究型の研究が、医療などにおける有用な成果につながる可能性を広げました。知的好奇心にもとづく研究の重要性を教えています。

■研究環境の改善を

 重大なのは、こうした知的好奇心にもとづいて、じっくり腰を据えて研究する環境が日本で急速に失われつつあることです。政府自身も「もはやノーベル賞は生まれなくなる」「長期的視点に立ち、新たな研究領域の開拓につながる基礎研究を地道に継続することが困難」(第7期科学技術・イノベーション基本計画)と認めています。

 見過ごせないのは、政府が大学や研究機関の基盤的経費を削り、競争的資金を増やすことによって、任期付き研究者が増えていることです。労働契約法18条の「無期転換ルール」の適用を逃れるための雇い止めが横行し、2023年3月末に少なくとも約2千人、その後も毎年約700人の研究者が雇い止めとなっています。こうした事態が、長期的視点に立った研究を困難にしています。

 基盤的経費を抜本的に拡充し、研究者の使い捨てをやめ、若者にとって研究職が魅力的になるように、雇用の安定化と研究環境の改善を図るべきです。