世代を超えて長く伝わってきた名言があります。「この一球は絶対無二の一球なり」。日本のテニス界に大きな影響を与えた福田雅之助の言葉です▼戦前から選手、指導者、記者としてテニスに携わり、第1回全日本庭球選手権の優勝者だった福田。後輩に贈った「庭球規」の書き出しにこれを記し、のちにテニス界全体に広がりました▼軟式経験者らが世界の強豪と伍(ご)した戦前に比べ、戦後の日本テニスは長く低迷しました。とくに男子は国内で完結する選手がほとんど。ミスを恐れて守りに徹する教えも目立ちました。それを打ち破ったのが錦織圭選手でした▼ジュニアの頃から日本をとびだし、18歳でツアー優勝を達成。全米オープンで世界1位のジョコビッチを破り、アジア男子として初めて四大大会の決勝に進むなど第一線で輝き続けました▼成績もさることながら、日本はもちろん世界に衝撃を与えたのは卓越した技術に裏付けられた攻撃的なテニス。「遊び」さえ感じさせる変幻自在なプレーも。テニス解説者の松岡修造さんは当たり前だと思っていた常識や、いわゆる根性論的な要素が彼には見当たらなかったといいます▼現役最後の公式戦を日本のファンの前で終えた錦織選手に、しのぎを削った世界中のライバルたちが惜別のエールを送っています。テニスを楽しみ、何ものにも縛られず自由にプレーし、頂に挑み続ける。今後は、スポーツ本来の魅力を後進に伝えてほしい。
2026年10月4日

