日本共産党議長の志位和夫著『新しいアメリカとの出会い “平和”と“マルクス”を語り合う』(新日本出版社)が今月、刊行されました。緒方靖夫副委員長・国際委員会責任者による「出版に寄せて」を紹介します。
(写真)新日本出版社・税別1300円
志位和夫議長を団長とする日本共産党代表団は、4月下旬から約2週間、アメリカのニューヨークとシカゴ、カナダのトロントを訪問しました。本書は、その全記録です。時系列に展開される訪問の軌跡をたどることで、志位氏が現地で何を発見し、何に驚き、何に感動したのかを追体験できます。
第Ⅰ部では、核不拡散条約(NPT)再検討会議への参加、DSA(アメリカ民主的社会主義者)指導部、シカゴ支部との会談、『ジャコバン』誌編集幹部との会談、アメリカ共産党との会談、さらにイリノイ州立大学のアンドリュー・ハートマン教授との対談、カナダ・ヨーク大学でマルチェロ・ムスト教授が主催した討論企画など、資料を含めて、訪問中の政治・外交活動と科学的社会主義をめぐる理論交流の内容が詳しく紹介されています。
臨場感の魅力
第Ⅰ部は、「大学人と日本共産党のつどい」で行った講演をもとにしたものですが、「新しいアメリカとの感動的な出会いに頼もしさと希望を感じた」という参加者の感想にもあるように、現地の活動が臨場感をもって活写されています。滞在中の活動は、外交官や政党代表など、立場も性格もさまざまな人々との会談、会合が20に及んだほか、国際会議への参加、反核平和パレードへの参加など、多彩でした。
代表団の一員だった私自身、新しい発見を体験する日々を過ごし、訪問後に「これだけ多彩な活動を短期間によくもやったものだ」と思いました。“平和”と“マルクス”の二刀流で切り開き、発見したアメリカ--そこに、本書の大きな魅力があると思います。
理論交流の記録
第Ⅱ部には、理論交流の記録が収められています。歴史学者のアンドリュー・ハートマン教授とは、初対面でした。それにもかかわらず、「自由論」を軸に、アメリカのたたかいに脈々と流れるマルクスの思想、そしてそこから見えてくるアメリカの未来について、壮大でかみあった議論が展開されました。
その背景には、志位氏がハートマン氏の著書『マルクス・イン・アメリカ』(森原公敏訳、新日本出版社・5月刊)を、日本語訳刊行前に読み、そのなかの「米国でのマルクス・ブーム」を2025年5月の記者会見で紹介したことをきっかけにXを通じた交流が始まったことがあります。それぞれの理論的立場について事前に理解を深めあっていたのです(75ページ)。約1時間にわたる対話をそのまま文字に起こすと濃密な対談となりました(114~135ページ)。
ヨーク大学では、志位氏が「自由に処分できる時間と未来社会」と題して講演を行い、参加者との一問一答も全文が本書で初めて公開されています。そこには、「マルクス主義の立場からAI(人工知能)をどうとらえるか」という今日的な問いへの回答も収められています。日本共産党が提起してきた「自由に処分できる時間と未来社会」という核心の課題が、第一線の学者・研究者との間で共有され、議論が深められていくのです。その知的な対話には味わい深いものがあります。
使命感と準備
本書の「おわりに--国際的な理論交流の可能性」は、この訪問に志位氏が込めた使命感と、それの準備、今後の理論的開拓への決意を感じ取れる書き下ろしです。志位氏は、第29回党大会(24年1月)の決定実践として「人間の自由」を中心にすえた未来社会論の理論的探究を深め、そのカギはすべての人が十分な「自由に処分できる時間」を持つことにあることを突き止め、3冊の著作『Q&A共産主義と自由』(青本)、『Q&Aいま「資本論」がおもしろい』(赤本)、『自由な時間と「資本論」』(緑本)にまとめました。その英訳本を携えて訪問に臨みました。
つながり広げる
志位氏は「党の綱領路線が、今日の世界で大きな生命力を発揮している」(98~102ページ)とこの訪問の成果を、世界論、日米関係、未来社会論の角度から総括しています。
私は一言でまとめれば、蓄積の上に花を咲かせ、その後のつながりを広げている訪問と思っています。志位氏は、10年のNPT再検討会議、17年の核兵器禁止条約採択国連会議に参加した経験をいかし、今回の会議の困難性を見通しつつ、締約国のコンセンサスから「核兵器のない世界」に前進できるよう要請文を用意しました。その考え方は会議で役割を担った各国代表と共通していました。新興国、発展途上国代表の思いと努力を共にする、そこに党の野党外交の真骨頂を見ました。それにしても、国連本部会議場という最高の舞台で、世界の構造変化を目撃できたことは得難い経験でした。
次に、24年の欧州の訪問があって、北米訪問が成り立ったということです。会談のベースには、言外にも欧州の経験がありました。ニューヨークのマムダニ市長が選挙戦で掲げた“Tax the Rich(富裕層に課税を)”は、欧州左翼との交流から得たスローガンであるように、DSAと欧州左翼諸党との交流は頻繁で学び合っています。また、ベルリンのローザ・ルクセンブルク財団での「共産主義と自由」「自由な時間」についての理論交流、昨年末のムスト教授との対談「いまこそマルクス」を経たからこそ、今回本格的な国際理論交流に到達したのです。その流れを見ることで、今後の発展が見通されます。
さらに、出会いとつながりの大事さです。ヨーク大学の討論会に参加したアメリカ共産党機関紙「ピープルズ・ワールド」のアトキンス編集長は、自ら質問し取材記事(同紙5月6日号電子版)を書きました(172~179ページ)。政治学博士でもある同氏による労働時間と自由をめぐる理論的問題を日本の現実である「過労死」と結びつけて論じた秀逸な論評でした。この記事はオーストラリア共産党機関紙「ガーディアン」(5月18日付)にも転載され、そこに諸党間の連携の強さを見ました。
8月、キューバで会ったアメリカ共産党代表(オハイオ大学名誉教授)は、アトキンス氏を「優秀な同志、スマートな(頭のいい)研究者」と称賛し、私は「その通り」と強く相づちを打ちながら、彼と知り合った喜びをかみしめました。また、7月のフランス共産党大会では、DSAとアメリカ共産党代表と共に談笑しながら、5月の出会いからわずかにして日米左翼の3者が親しく話している光景に縁を感じました。出会いがつながりを広げる、ならば、もっと世界に目を向けようと思ったのでした。
DSAの綱領に
DSAとの会談は、その時点の重要性は当然ですが、終わってからの交流の発展、綱領の改定でいっそう強く確認できます。
ニューヨークでのDSAとの会談の冒頭、先方から提起されたのは「沖縄の新基地建設反対」「アメリカ帝国主義をやめさせる」でした。日本とアメリカ、それぞれの社会変革の戦略課題の共通性に、太平洋をまたいで太い連帯の橋がかけられた―そんな感慨を覚えた場面でした。「帝国の本拠地」の左翼・進歩勢力との連帯は、日本変革の事業にとって特別の重要性があります。その後、DSA代表が党本部を訪問し志位氏、田村智子委員長と交流し、原水爆禁止世界大会の参加にもつながりました。
この7月、DSAは、新しい綱領を発表しました。そこでは、「資本主義のない一日」を描く生活の描写から始まり、最初の「私たちが闘うもの」の第一に「人間が豊かに花開くための自由」を掲げています。レクリエーション、学習、社交、週32時間労働、有給休暇、最低賃金の引き上げ、教育の無償化、さらに、「すべての人に医療を」「すべての人に住居を」と続きます。
綱領起草グループのブランガン共同議長は、自由を冒頭にもってきた理由として、社会主義の目標を単に「生活費を下げること」とするのではなく、「人々に『時間』を取り戻させ、自分の時間を自由に使えるようにする」ことを強調しています。新綱領は、DSAが「何を信条としているのか」を明確にし、私たちが人生に求めるものを前面に押し出したと説明しています。メディアは、DSAの最近の選挙での前進の背景として、社会主義ではなく、「アフォーダビリティ(生活費負担の軽減)」という身近な問題に集中しているからだと指摘します。しかし、この綱領改定では、社会主義と「自由な時間」を明確に打ち出しました。
これは、ニューヨークでの『ジャコバン』誌編集幹部と志位氏の会談で最も強調されていたポイントでした。「自由な時間」の拡大は、未来社会だけでなく、国民の要求だと語り合い、「ディスポーザブル・タイム(自由に処分できる時間)に乾杯」と互いに意気投合しました(65ページ)。この課題が単なる未来社会の構想ではなく、現実の社会変革に直結する課題だとニューヨークで語り合ったことと鮮やかに響き合う内容が、DSAの新綱領に盛り込まれたことに感動を覚えます。
希望と展望
本書を通じてこのように、注目されているDSAの動向の背景を知ることができます。同時に、力の支配によるトランプ政権とたたかう希望と展望あるアメリカを見いだすことができます。“平和”と“マルクス”という二つの窓から、新しいアメリカとの「出会い」を切り開いた本書を、ぜひ手に取って味わっていただきたいと思います。
(おがた・やすお)

