日本の平和と安全を守る外交・安全保障政策の大前提は世界情勢の正しい分析と評価です。ところが、防衛省が4日に公表した2026年版「防衛白書」は、それとはあまりにもかけ離れています。
白書は「現在の安全保障環境の特徴」として「力による一方的な現状変更やその試みは、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序に対する深刻な挑戦であり、ロシアによるウクライナ侵略は、最も苛烈な形でこれを顕在化させている」と指摘。「同様の深刻な事態が、将来、インド太平洋地域、とりわけ東アジアにおいて発生する可能性は排除されない」とし、「有事」が起こる可能性にまで言及しています。
■「思考停止」の状態
ロシアのウクライナ侵略が国連憲章に基づく国際秩序を破壊する戦争であることは間違いありません。ところが白書は、米国のトランプ政権によるイランへの先制攻撃という、国連憲章違反の戦争については事実経過の記述だけで、全く不問にしています。
その上で、白書は「日米同盟」について「民主主義、人権の尊重、法の支配、資本主義経済といった基本的な価値観や世界の平和と安全の維持に関する利益を共有し…強大な軍事力を有する米国との安全保障体制を基軸として、わが国の平和、安全や独立を確保してきた」と述べ、さらなる強化をうたっています。
ところが、今や人権の尊重や法の支配、世界の平和と安全に対する最悪の破壊者となっているのが、トランプ米政権にほかなりません。
白書は、日米安保条約に基づき日本に駐留する米軍について「(周辺地域での)不測の事態の発生に対する抑止力として機能し…いわば公共財としての役割を果たしている」と指摘します。しかし、日本の基地から出撃した米軍がイラン戦争に参加したという言及は見当たりません。
まさに、日米軍事同盟絶対の「思考停止」状態です。
■出口のない悪循環
白書は、中国について東シナ海、南シナ海などで「力または威圧による一方的な現状変更の試みを強化」したり、「台湾に対する軍事的圧力を高め」たりするなど、「法の支配に基づく国際秩序を強化するうえで、これまでにない最大の戦略的な挑戦」となっていると指摘しています。
中国は、東シナ海などでの力を背景にした現状変更の動きをやめるべきです。台湾に対して武力による威嚇や行使をすべきではありません。第三国が軍事的関与や介入をすべきでもありません。
その点で、米中が台湾海峡で軍事衝突した際、米軍を守るため自衛隊が武力行使することがあり得るという高市早苗首相の「台湾発言」(昨年11月)は極めて重大です。しかし白書は、現在の日中関係悪化の直接の原因であるこの発言にも触れていません。
白書は「抑止力・対処力の強化」を口実に、米国の軍事戦略に追従した「戦争国家づくり」の具体策を詳述しています。それは、軍事力の強化に軍事力の強化で応える、出口のない悪循環をもたらすだけです。それでは決して平和は守れません。

