政府は、多数の自衛官が死傷する戦闘を想定し、「戦傷医療」に関する研究を大学に担わせようとしています。軍事技術に応用できる研究を支援する「安全保障技術研究推進制度」の募集テーマに今年度から「医療・医工学」を初めて追加。心的外傷後ストレス障害(PTSD)や、脳や手足に障害を負う隊員への対策の一環として、従来応募のなかった大学医学部の研究者を参加させるのが狙いとみられます。(斎藤和紀)
(写真)四肢切断を想定した訓練を行う米陸軍兵(米国防総省DVIDS)
防衛装備庁は2015年に同制度を開始。1件あたり研究費は最大20億円と破格で、研究者を軍事研究に誘導する役割を果たしています。
ウクライナ影響
同庁は、募集する研究テーマとして「鋭的および鈍的外傷、外傷性脳症」、「長期保存が可能な人工血液」、「人工臓器」、「AI(人工知能)義肢、視力回復、骨再生」、「PTSD」などを例示。重度な外傷を想定したテーマが並んでいます。
防衛省は年末に予定する安保3文書の改定に向けた資料で、「兵器の能力の向上により外傷性脳損傷や運動器の障害が増加しており、身体的なリハビリ需要も大きい」と指摘。障害を負った隊員の職場復帰や、退職を余儀なくされた隊員の社会復帰を検討課題に挙げています。
これはロシアによるウクライナ侵略で、手足を失うウクライナ兵が急増し、社会問題となっていることが背景にあるとみられます。ロイター通信によると、四肢を切断する手術を受けた兵士は数万人に上り、義肢の提供やリハビリで社会復帰させることが課題となっています。
「長期的な危機」
PTSDが研究課題として挙げられているのも、ウクライナ・ロシア戦争の影響があります。防衛省資料には「ウクライナ戦争では兵士のPTSD有病率は67・4%と報告され、退役後の薬物乱用や自殺、家庭崩壊、暴力など長期的な公衆衛生上の危機に直面するリスクがあり、政策的・医療的対応が求められる」と指摘。有事における急性ストレス障害(ASD)やPTSDの研究、有事に活動するメンタルチームの編成などを検討しています。
「医療・医工学」への応募の有無について防衛装備庁は本紙の取材に、「集計中で答えられない」と回答。例年9月に応募状況や採択した研究テーマを公表しています。

