(写真)パリ政治学院のペレイラ教授(左)と志位氏=14日、党本部
志位和夫議長は14日、党本部で、パリ政治学院のルイス・アワズ・ペレイラ教授の訪問を受け、会談しました。ペレイラ氏は、ブラジル出身の経済学博士で、フランスで経済学、政治学、哲学を学びました。国際決済銀行(BIS)の副総支配人、ルラ大統領政権下ではブラジル財務副大臣兼ブラジル中央銀行副総裁など、国際的な要職を歴任し、研究および経済政策策定に携わりました。現在の研究テーマは、マクロ経済学、公共政策、現代資本主義の課題――気候変動が金融システムにもたらすリスク、人工知能(AI)がマクロ経済と労働市場に与える影響、開発途上国の国際政治経済など――です。今回、ペレイラ氏が来日する中で、対談が実現しました。対談は2時間を超えるものとなりましたが、その要旨をペレイラ氏の了解をえて紹介します。志位氏の発言については、一部、加筆・修正をしています。対談の全体は『前衛』10月号に掲載する予定です。
「自由な時間」論をめぐって
「自由な時間」論--幅広いコンセンサスを生みうる、スペースの広いテーマを提起した
志位 教授をお迎えし、意見交換の機会を得たことは喜びです。
ペレイラ 議長の『自由に処分できる時間と「資本論」』(英語訳)を読んで、大変、素晴らしいと思いました。あなたの本は、たんに進歩的な人間だけではなくて、すべての人類にとって非常に大事な問題を提起されていると感じました。
志位 評価をいただき、感謝します。
ペレイラ 私は、若いころからマルクス主義の研究をすすめてきました。また国際組織でも働いてきました。公正さという言葉を探し求めて歩んできた人生だと考えています。あなたの本を読んだ感想は、この「自由な時間」というテーマは、保守の人間も少しでも進歩を願っているわけですから、幅広いコンセンサスを生みうる、非常にスペースの広いテーマを開拓されたなと思っています。
同時に、「自由な時間」の問題は、現代のマルクス主義の研究と実践にとっても重要だと考えます。今日、左翼勢力は困難な時期にあります。それを再興するうえでも非常に大事なテーマと思います。とりわけ世界において極右が闊歩(かっぽ)しているなかで、そう思います。日本共産党と世界の左翼は対話すべきだということを強く感じました。
共産主義への偏見を克服する--旧ソ連流の社会主義論の致命的弱点
志位 私たちが、この問題を提起した最大の政治的動機は、社会主義・共産主義に対する偏見を克服するということでした。レーニンに由来する旧ソ連流の社会主義論は、致命的弱点を持っていました。それは社会主義社会の特徴を物質的生産の領域だけで見ようとしたことです。それさえ豊かになれば共産主義なのだという議論です。
マルクス、エンゲルスの理論は決してそうではありません。彼らは、「各個人の完全で自由な発展」こそが社会主義・共産主義の社会の「基本原理」であり、その根本条件は万人が十分な「自由な時間」をもつことだと突き止めていきました。旧ソ連流の社会主義論は、社会主義の目標を物質的生産の領域だけに押し込めてしまい、そのうえにつくられるマルクスが「真の自由の国」と呼んだ最も輝かしい部分を人類の未来史から切り捨ててしまいました。そこに根本的誤謬(ごびゅう)がありました。
その影響は今日なお残っているように思います。あなたが言われた世界の左翼との意見交換の重要性は、その通りと思います。それは私たちの理論と実践を豊かなものにすることにもなると考えています。
ペレイラ 原則として、大きなところで意見が一致しました。これから少し議論していきたいと思います。
志位 喜んで。
物質的な富と「自由な時間」の関係、技術革新が進むなかでの懸念について
ペレイラ あなたの本を読んで思ったのは、「自由な時間」によって新しい型の人間をつくっていく、人間の解放をつくっていくという意味が示されていることでした。
そこで議論ですが、物質的な富の分配は、第三世界においては今でも非常に大きな問題です。この点であなたの本は、南の人々が理解しやすい立場を示しています。物質的な富の問題と「自由な時間」の問題とをバランスよく定義することは大事なことです。
資本主義において技術革新が進むなかで懸念があります。労働時間が短くなることは、いろいろな形で可能です。技術革新やAIによって。しかし、それらは非常に大きな「マニュピレーション」(心理的・社会的に人や状況を操作すること)をもたらすものであり、リスクにもなる。私はそのことを懸念しています。
志位 物質的な富と「自由な時間」をバランスよく定義する重要性をのべられましたが、まったく同意します。マルクスは「富とは何か」について、物質的な富、自由な時間、人間の自由な発展、そして自然と、たいへん豊かに、立体的に捉えていたと思います。
AIにどう対応するか
AIがもたらす二重のリスク--社会的ルールを国際社会の協調でつくることは急務
志位 技術革新やAIについて、あなたは懸念、「マニュピレーション」ということを言われました。
マルクスは『資本論』で、資本主義のもとでの科学技術の発展、生産力の発展には、マイナスとプラスの両面があると分析しています。機械制大工業でも両面の視点からの分析がやられています。
私はAIに対してもそういう捉え方が大事だと思います。同時に、この技術は人類社会を大きく変化させる可能性をはらんでおり、独自の分析が必要です。この技術が労働時間短縮の可能性をつくるなど人類に大きな恩恵をもたらすことは明らかです。が同時に、私は二つの質的に異なる、深刻なリスクがあると考えます。
一つは、AIの資本主義的利用がもたらすリスクです。雇用破壊、労働強化、環境破壊などがすでに問題になっています。
もう一つの危険は、AIの発展そのものがもたらすリスクです。国連の7月の報告書でも、米新興AI企業「アンソロピック」の6月の報告書でも強調されているのは、AIが持つこれまでの技術との違いです。これまでの技術に比べて発達のスピードが極端に速い。こうしたなかで人間がAIを制御できなくなるリスク、人間のコントロールを離れてAIが暴走するリスクが警告されています。
AIがもたらす恩恵をすべての人々が享受するために、この二重のリスクを回避する社会的ルールを国際社会が協調してつくることが急務です。なかでも一番の急務は、AIが軍事、戦争と結びつくことを回避するルールをつくることです。
AI大企業に対する民主的規制--いま行動しなければ人類の自殺行為になる
ペレイラ あなたが指摘されたAIの二つのリスクと分析について、その通りだと思います。やはり大企業に対する規制をしなければなりません。調整を、国内的にも、地球規模でも進めることです。リスクがある以上、そのリスクをいかにコントロールするかということが強く求められているのです。
二つ目の問題点は、(人間がAIに対する)コントロールを失うという問題です。哲学的に言えば、これはAIが持っている本質に関わる事柄です。これをいかにして解決するかということについては、結局、人間がどのようにして主体性、自律性を持ち、意識をするのかということになると思います。最新技術がもたらす支配をどのようにして回避するかを議論する必要があります。
志位 バーニー・サンダース米上院議員は、32時間労働制、AI巨大企業への課税、さらに株式を国が半分以上所有することによって国民の民主的コントロールのもとに直接おくという提起をしています。理にかなった方向と思います。
AIを人類が制御できなくなるリスクをどう回避するかについて、「アンソロピック」の報告書は、技術開発を「効果的に遅らせ」「一時停止」して、その巨大な影響に人類が対処する時間を確保し、国際的規制のルールをつくることを提案しています。
そういう対応がいま必要だと私も思います。だいぶマルクスから離れましたが(笑い)、マルクスの理論には、そういう問題も射程に入っていると思います。
ペレイラ マルクスから離れるのは当然だと思います。大事なことは、マルクスの考えにもとづいて、それにどう対応するかだと思います。いまの時代において、マルクスならこう考えたという角度から見ていくことが大事だと思います。世界のインテリゲンチャ(知識人)、資本主義の立場に立つ人とも協力する必要があります。そうでなければ、全人類の自殺行為となります。
志位 その通りです。
国際的理論交流の可能性
国民的対話を広げるとともに、国際的な理論交流にとりくみたい
志位 私は、この間、あなたにお読みいただいた本のような一連の探究をやってきました。ただそれは、日本での研究の積み重ねのうえに、いわば日本で“孤立”してやってきたというのが率直なところなのです。私の前任者の不破哲三前議長は、「自由な時間」についても系統的な探究を残してくれました。また杉原四郎氏のような優れたマルクス研究者が、この問題に早い時期から注目し、先駆的研究を行ってきています。私たちがやってきたのは、そういう日本での研究の蓄積に依拠して、『資本論草稿集』と『資本論』を、マルクスの認識の発展にそって読むということでした。その作業のなかから「自由に処分できる時間」を軸にすえた未来社会論をつかみだしてきました。
ぜひ今後進めていきたいと思うのは、国民的対話を広げるとともに、国際的な理論交流です。すでにさまざまな形で始めていますが、それは私たちの認識を豊かにし、日本の社会進歩の運動の前進の力になると、私は考えています。
「自由な時間」の問題を、現実の問題と一体に考える
ペレイラ さまざまな形で国際的交流が可能ではないかと思います。マルクスが「自由な時間」について何を語っていたかを考えながら、同時に、現実の問題と一体に考えるということがよいのではないかと思います。実際の労働者、パート労働者を含めて、またアマゾンの配達員などを含めて、二つや三つの仕事を掛け持ちして「自由な時間」がまったくない人、とくに女性の現状、そういう人たちを取り上げることによって、共産党は、このテーマによって、最も大胆に、人々の生活自体をテーマにするわけですから、もっと大きな位置に復帰することが可能になるのではないかと思います。
技術革新、ロボット化が行われて、そこで働いている人たちが非常に危機感をもっています。そういう人たちの問題を取り上げることも大事だと思います。通勤時間が長いということも日本では感じます。その時間を奪われている問題なども含めて、理論に基づきつつ、現場で何が起こっているのかについて着目したうえでの問題提起というのがあるのかなと思います。
「自由な時間」は、現代のさまざまな課題を解決するキーコンセプト
志位 指摘されたことの重要性は、まったく同感です。いまあなたが言われたことは、おもに労働の面でのさまざまな問題だったと思います。労働時間の短縮は、もちろん直接的には労働に関係します。同時に、「自由な時間」の拡大は、今日における環境問題、ジェンダー平等、教育、技術革新とAIなど、すべてに関わってきます。「自由な時間」論は、現代社会の諸問題を理解し、解決するキーコンセプト(カギとなる概念)になるといえるのではないでしょうか。このことを自覚的に明らかにしていくことが大切です。そのことがいまの社会を変えるカギとなり、未来社会につながるカギにもなると思います。
マクロ経済的にみても説得力のある政策を
ペレイラ 私の仕事はマクロエコノミストです。そこで私が感じるのは、左翼はマクロ経済の分野で政策を持ったり、問題を提起することが重要だということです。マクロ的な経済観を持たないで、これはダメ、あれはダメという政策を出す傾向があります。
左翼として、私が必要だと思うのは、長期的に見て社会をどうしていくのかということを、マクロ経済的にも提示することだと思います。つまり、社会をどのようにして管理し、社会的公正を拡大し、エコロジーの社会をつくり、そのなかで「自由な時間」を確保するのかという、広い立場で問題を提起することが求められていることを痛感します。
よくあるのは、ビジネス界から、政策を示した途端に、アイデアはいいけれども、「無理」「不可能」と言われてしまうことが多いということです。可能なことをどのように示していくのか、そのビジョンを示していくことが大事だと思います。
志位 その通りだと思います。私たちも経済政策の体系をつくりあげるときに、ケインズ主義に始まるマクロ経済学の手法をとりいれる努力を、1970年代から進めてきました。ビジネス界から、すぐに「無理」と言われないような(笑い)、実現可能な方策をどう出していくかは、とても大切な課題と思います。
ペレイラ 難しいけれども、可能です。
グローバルサウスの可能性
ペレイラ もう一つ、グローバルサウスの問題があります。いかに、アメリカの帝国主義と、中国の拡張主義との間でバランスが取れた政策を用いるのかということが大きな課題です。世界の危機のもとで、人道主義者、進歩主義者、平和主義者の三つが、本当に協力しなくてはなりません。
志位 グローバルサウスという点で、私たちはASEAN(東南アジア諸国連合)に注目してきました。徹底した対話の積み重ねで、あの地域を平和の共同体に変えました。ASEAN本部を訪ねて印象的だったのは、「ASEANは、域外の大国の関与を歓迎する。しかし、アメリカの側にも立たないし、中国の側にも立たない。自主、独立、中立――ASEANの中心性を堅持する」と言っていたことでした。まったく正しい方向だと思います。ブラジルのルラ政権がやっていること、南アフリカの政権がやっていることも、ASEANの立場と共通性があるのではないでしょうか。
ペレイラ その通りです。やはり基本は、非同盟と独立です。これらの地域は、発展するうえで、社会的アジェンダ(検討課題)を明確にして、共に協力していくという方向を大切にしています。そのなかで「自由な時間」ということも提起されていく必要があると思います。
志位 ブラジルでは、マルクスの「自由な時間」論に対する注目は、政党あるいは研究者の間ではあるのでしょうか。
ペレイラ はっきり言えることは、ヨーロッパでもまた同様ですが、ブラジルでもこういう議論がこれから始まることは予兆できます。
志位 ありがとうございました。またお会いすることを楽しみにしています。
ペレイラ 私もです。ありがとうございました。

