高市早苗内閣が7月中にも決定する予定の「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太の方針)の原案(6月30日発表)では、「成長戦略」と称して、「AI・半導体」や「防衛産業」(=軍需産業)など17分野、62項目の「主要な製品・技術等」に、2040年度までの15年間で官民合わせて370兆円を超える投資を行うとしています。
異次元のバラマキ
官民の投資額の内訳は示されていませんが、民間企業は採算が見込めなければ投資しませんから、政府が多額の負担をすることになるでしょう。まさに前代未聞のバラマキ計画です。
自民党政治では、これまでも大企業へのバラマキが行われてきました。しかし、高市政権の「成長戦略」は、過去のバラマキに比べて量的にも質的にも異次元の内容です。
量的にみると、安倍政権以降、昨年秋の高市政権の補正予算まで、13年間に行われた政府の「経済対策」は累計550兆円、財政支出分(地方や財投を含む)だけでも290兆円にのぼります。
しかし、内訳はコロナ対策関連が150兆円程度(財政支出80兆円程度)、物価高騰対策などの家計や中小企業・農業支援関連(コロナ以外)が130兆円以上(同70兆円程度)、災害復興・防災関連50兆円程度(ほとんどが財政支出)などが多くを占めています。大企業の投資促進などに充てられたのは、まだ使われていない基金分を含めても100兆円前後でしょう。高市「成長戦略」は、その数倍の規模といえます。
なお、これまでの政府の大企業支援は、歳出より減税が中心でした。安倍政権以降の減税効果の累計は、優に100兆円を超えています。高市政権は、減税は温存したまま歳出面でもバラマキを強めようというのです。
質的にも大きな違いがあります。第一に、これまでは、「コロナ対策」や「物価高騰対策」を掲げた「経済対策」に大企業支援策を紛れ込ませる手法でしたが、高市政権は大企業支援に特化した計画を打ち出していることです。
第二に、これまでは、大企業支援をする場合でも、「新しい資本主義」(岸田政権)、「全ての世代の現在・将来の賃金・所得を増やす」(石破政権)などと、これまでの大企業優先の政治を多少は反省したかのようなポーズを示していましたが、高市政権は「強い経済の実現」を掲げ、大企業を強くすることを優先する方向への回帰が明確になっています。
もう一つの大きな違いは、戦後初めて、「軍事経済化」にかじを切ろうとしていることです。
高市政権は、今年中に「安保3文書」を改定して、いっそうの大軍拡を進めようとしていますが、高市「成長戦略」は、大軍拡に呼応して、経済政策を「戦争国家づくり」の方向に大転換するものです。
「成長戦略」では、「成長投資」とともに「危機管理投資」を強調していますが、この場合の「危機」とは災害などにとどまらず、戦争などの「有事」を意味します。有事にも耐え、長期間の戦争継続を支えられる「強い経済」をつくろうというのです。17の「戦略分野」でも、軍需産業をはじめ、エネルギー安全保障や重要鉱物など、戦争国家を支える産業分野が重視されています。
このように、高市政権の「成長戦略」は、同政権が進める大軍拡計画と表裏一体で、「戦争国家」を支える「強い軍事と強い経済」をめざすものです。軍需産業の分野では、戦前のような国営軍事工場の復活まで検討されているようですから、文字通り「現代版の富国強兵政策」と呼ぶべきかもしれません。
高市政権の「成長戦略」には、「重点分野が17もあって総花的だ」「金だけ出しても人材確保などの保証がなく、実現困難」「過去に失敗した『官民ファンド』の焼き直し」「経済効果や成長率の見込みが過大だ」などの批判があがっています。どれももっともな批判です。しかし、より重大なのは、「15年後に成功するかどうか」という将来の話ではなく、高市「成長戦略」を実際に始めたら、財政や経済にたちまち悪影響が生ずるということです。
机上の収支黒字化
370兆円の官民投資のうち、かりに半分を官が支出したとしても、毎年10兆円以上の財政支出の増加になります。高市政権は、これまでの政府が掲げてきた「基礎的財政収支の黒字化」という目標を、「債務残高の対GDP(国内総生産)比の低下」に変更することで、毎年10兆円以上の国債増発が可能になるという試算を示しています。しかし、これは机上の計算にすぎません。財政の目標を緩めて国債を増発しても、その結果として国債金利が上昇すれば、国債増発分は利払いで消えてしまい、「成長戦略」の財源は確保できません。政府の試算には、将来の金利の見通しは示されていません。
大軍拡にも巨額の財源が必要です。トランプ政権が求める「GDP比3・5%」を5年間で実現するためには、軍事費を現在の9兆円から24兆円まで、毎年3兆円増やす必要があります。その後は24兆円に据え置いたとしても、今後15年間の軍事費は合計300兆円を上回ります。この財源のめどはまったくありません。
大軍拡と「成長戦略」という二つのバラマキを実行すれば、財政の急激な悪化は必至です。市場では、それを見越して国債が売られ、国債価格の低下(=長期金利の上昇)が起きています。長期金利は3%に迫る、30年ぶりの水準となっています。財政への不安は通貨である「円」にも及び、1ドル=162円という40年ぶりの異常な円安となっています。金融市場ではすでに「赤信号」がともっているのです。高市政権が二つのバラマキを強行するのであれば、それはまさに、信号無視の暴走にほかなりません。このままでは大事故が必至です。被害を受けるのは運転している高市首相ではなく、乗客の国民です。今こそ「暴走ストップ」の声を高めましょう。
(日本共産党政策委員 垣内 亮)

