国旗損壊処罰法案の審議が続く中で、法整備の根拠となる「立法事実」が大きな論点となっています。法案提出者側は、「国旗を大切に思う国民感情の保護」や「外国国章損壊罪のみが存在する不均衡の是正」を掲げていますが、審議を重ねるほどに、その根拠の乏しさが露呈しています。
前提成り立たず
自民党の法案提出者は、1987~2008年にかけての国旗損壊事例として、「焼損」や「引きずり降ろし」など4件を挙げ、「立法事実」の裏付けと説明しています。しかし、これらはいずれも現行の器物損壊罪や暴行罪などで立件された事案であり、新たな刑罰法規の創設を正当化する根拠にはなり得ません。しかも、本法案の独自性が問われる自己所有の国旗の損壊事例については、「承知していない」との答弁に終始しており、立法の前提そのものが成り立っていません。
もう一つの論拠とされているのが、外国国章損壊罪との「バランス」です。「外国国旗を損壊したら処罰されるのに、日本国旗は処罰されないのはおかしい」という単純な対比が強調されていますが、外国国章損壊罪が保護するのは、日本と外国との円滑な外交関係という法益です。その対象は外国の国家機関が公的に掲揚する国旗などであり、外国政府の告訴がなければ起訴できない親告罪です。
これに対し、本法案は「国民感情の保護」を目的とし、その対象は自己所有の国旗にまで及びます。特定の被害者の存在も要件としていません。その結果、外国国章損壊罪とは法益も構造も大きく異なるにもかかわらず、より広範な行為を処罰対象とすることとなり、むしろ制度全体の「バランス」を損なう内容となっています。
核心に「愛国心」
そもそも刑罰とは、国家が個人の自由や権利を制約する最も強力な手段です。導入には、「それでなければ対処できない」という厳格な必要性が不可欠です。しかし、法案提出者は「将来に向けた抑止の必要性」までを立法事実に含めると説明し、さらには「予防的立法事実」といった概念まで持ち出しています。
さらに、日本維新の会の提出者からは、法案の成立によって国旗を大切にする気持ちや愛国心が「醸成される」との答弁まで飛び出しました。結局のところ、本法案の核心にあるのは、具体的な被害の防止ではなく、国旗に対する態度や感情を国家が一定の方向へと導こうとする意思にほかなりません。
国旗損壊処罰法案の「立法事実」
自民党が掲げた国旗損壊の事例
1987年 沖縄県で開かれた国体の競技会場で掲揚されていた国旗が引きずり降ろされ、ライターで火をつけられ焼損
91年 大学生が大学正門に掲揚されていた国旗を引きずり降ろした
96年 旧海軍殉職者記念碑近くに掲揚されていた国旗が焼かれた
2008年 靖国神社の境内で参拝客が所持していた国旗が踏みつけられ、さおが折られた
→いずれも器物損壊罪などで立件
外国国章損壊罪との不均等
「外国国旗を損壊したら処罰されるのに、日本国旗は処罰されないのはおかしい」
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・外国国章損壊罪は外交関係を保護するための法律
・公的に掲揚された外国国旗などが対象
・起訴には外国政府の告訴が必要(親告罪)
→法律の趣旨・目的が異なる

