「砲弾が何度とびかわねばならないのか? 永久に禁止される前に」。こう歌うボブ・ディランの「風に吹かれて」。ベトナム戦争の時代に、反戦のメッセージソングとして広く歌われました▼抽象的な歌詞も多く、さまざまに解釈されてきた名曲です。小さな町の高校生たちが授業でこの訳に挑みました。といっても、小説の中で。本紙連載で好評だった渥美二郎著『イン・ザ・ウィンド』です▼主人公のジロー先生の直訳は「何本の道を歩めばいいのか。私たちが彼を一人の男と呼ぶ(call him a man)前に」。「当たり前すぎてわからない」とぼやく生徒たち▼グループごとに英文と格闘するうち、こんな意見が出てきます。「これは、戦争を意識した歌だと思います。人を人として認めるまで、どれだけの道を歩まなくてはならないのかという解釈です」▼渥美さんは現役の高校教師。静岡高教組の副委員長でもあります。小説は体験がもとになっています。「生徒が自分の頭で考えて、自分の言葉で語って、自分の人生の主人公になってほしい。そうでないと、だれかの人生の脇役になってしまいます」。生徒と考える授業を工夫してから、生徒の居眠りがなくなったといいます▼小説のジローは中学時代に世界に出たいと英語を勉強しましたが、結局故郷で英語を教え、実家のすし屋の修業もしています。「気づけば、世界はこの町にあった」と。狭くて広い小説です。
2026年6月9日

