高市政権は15日、再審法改定案を閣議決定しました。自民党内の審査を経て修正されたことが注目を集めましたが、その内容は極めて不十分です。日本共産党など3党は同日、再審決定への検察による不服申し立て(抗告)の全面禁止などを明記した改正案を衆院に提出しました。再審法改正の意義と政府改定案の問題点を日本共産党の仁比聡平参院議員に聞きました。(若林明)
(写真)仁比聡平参院議員
袴田事件が象徴的ですが、この間いくつもの再審無罪判決が出され、再審法の改定が国民的な課題になってきたと思います。例えば、再審法改正についての元裁判官の声明(2025年12月)は「現在の再審制度では冤罪(えんざい)救済という再審の目的を実効的に実現できないことが広く社会に認識された」と指摘しています。さらに、地方議会では全国の872の自治体で、「再審法改正を求める意見書」が採択されています(26年4月現在)。7府県では、すべての市町村で採択されています。自民党による修正は国民的な課題になったことの反映です。
これまで戦後の数々の冤罪事件は、袴田事件が58年間たたかわれたように、長期間にわたる国民的な救援活動によって支えられ、再審無罪判決を勝ち取っています。国民的な認識を前に進めてきた原動力は、救援運動・市民運動です。
国民的に課題となった再審法改定に対して、政府の修正案は、これまでの再審制度の重大な問題点を変えるものではありませんでした。あまりにもひどいので、自民党内でも異論が出たのです。
抗告全面禁止を
(写真)無罪判決の旗出しで笑顔を見せる姉、袴田ひで子さん(左から2人目)と弁護団ら=2024年9月26日、静岡市葵区
再審法の改正点で特に重要なのは、再審決定に、検察官が不服申し立てをする「抗告」を全面禁止することと、検察官や警察が持っている証拠の全面開示の問題です。政府案は、2点ともまったく不十分です。
裁判所が、新しい、そして明白な無罪とする証拠があり、再審開始を決定したにもかかわらず、検察が決定を不当だとして申し立てるのが「抗告」です。袴田事件で、何度か再審決定がされながら、抗告で決定が覆され、冤罪が晴らされるまで58年かかりました。
政府案は「原則として禁止」としながらも、例外的に不服申し立てを認めています。非常に危険な要素が入っています。検察として意見があるのなら、再審の法廷の中で、公開の場で、主張すればいいはずです。無実の人の非常救済手段という再審制度の位置づけから言えば、本来、「抗告」は全面禁止とするべきです。
証拠開示の問題では、「再審請求に関連すると認められる証拠」と限定しています。しかし、袴田事件をはじめ警察・検察は証拠の捏造(ねつぞう)まで行っているのです。すべての証拠の開示を義務づけるべきです。
「公益の代表者」
検察や政府が、なぜ「抗告」にこだわるのか。国会で法務省に質問しました。政府は「不当な裁判を是正する機会を確保するため」と言い、「通常審でも再審開始決定に対するものでも同じだ」と言うわけです。ここが大きな間違いです。
ある事件で一審、二審、三審の裁判が確定する中で、有罪判決が確定する。しかし、明白に、無罪とすべき新たな証拠が出てきたという場合に再審開始決定がだされます。再審開始決定は間違った確定判決を覆す非常救済手段です。
裁判所は自ら職権を行使して、真実を究明し、無実の人の救済を図ります。検察は、その審理に「公益の代表者」として審理に協力すべき立場です。「抗告」の全面禁止も、証拠の全面開示も、「公益の代表者」として協力する立場だから当然なのです。
再審制度は、確定判決を覆してでも無実の人を救済するための非常救済手段です。「裁判所がどう言おうと有罪だ」と検察が阻んでは本来ならないのです。その認識が、政府案には決定的に欠如しています。
憲法をいかして
日本国憲法は、他の国にはない詳細で豊かな人権保障の規定を刑事裁判について定めています。これは、戦前の日本が暗黒社会だったからです。治安維持法をはじめとした国家による人権侵害が次々行われました。だから、戦後の民主主義の出発の時に、刑事裁判における人権保障の規定が豊かに置かれたのです。
80年余りがたちますが、自白偏重など根っこが変わっていないのが、日本の刑事司法のありさまであり、そして再審法です。今回の改正の動きは、冤罪を晴らし、刑事司法の抜本的転換を求めてきた救援運動・市民運動の努力と支援によってつくり出された大きな局面です。憲法の豊かな人権規定を現実にいかし、本当に平和な世の中をつくっていくために、再審法改正をぜひ実現するべきです。

