傲慢(ごうまん)さで知られた故石原慎太郎氏が多くの面前で頭を下げたことがあります。半世紀ほど前の環境庁長官だったときです。「国を代表して皆さんに迷惑をかけたことをおわびします」と▼水俣病の患者に閣僚が初めて公式謝罪した場面。しかし現地での話し合いの席で石原長官は体育館の壇上に。「長官、なにが一段たっかとこすわっか!」と一喝され、あわてて床に降りました▼さらに胎児性患者たちから手渡された抗議文にふれ、「いま会った患者さんたちも、かなりIQというか知能指数が低いわけですね」と差別発言を。当事者はもちろん、怒りと抗議がわき起こりました。その醜態がよみがえっています▼水俣病公式確認70年の追悼式に政府を代表し訪れていた石原宏高環境相。水俣市に介護支援を求めている胎児性患者と面会した際に「私から市長にお話しさせていただく」と前向きな発言をしながら態度を一変。「本人が目の前にいたのでそう発言したが、難しい問題」などと早々に撤回し、患者らを深く傷つけました▼いまもなお苦しんでいる被害者に思いを寄せて、過去の父親の失態について少しでも胸を痛めていれば、こんな不誠実なふるまいはできないはず。抗議を受けても当然です▼差別や偏見、線引きや未認定。長く虐げられてきた患者や家族らの救済を切望する声は現在も。それに冷たく背を向ける環境相のような政権の姿には、ひとの命や安全よりも企業の利益を優先させる公害の過ちをくり返す危うさを感じさせます。
2026年5月9日

