選考会は白熱したといいます。第23回民主文学新人賞に冬崎桂さんの「黒へ」が決まりました。東京芸術大学美術学部卒の26歳。テーマは「美と改憲」で若々しい刺激に満ちた小説です▼写真家を目指す女性の「私」は美しい男性の「君」と出会います。「君」の腕には多くのリストカットの痕。改憲案が国会発議され、国民投票が行われる近未来。「君」をモデルにした幻想的作品に右傾化批判をこめますが、悲劇で幕を閉じます▼冬崎さんは「2年前にうつで退職した時にどん底の気分で、このままではやばいと思い、小さい頃からの夢だった小説を思い切って書き出しました」と。日本民主青年同盟で活動する中でこの新人賞を知りました▼「稲垣足穂(たるほ)や三島由紀夫などの耽美(たんび)小説が好きです。耽美作家は右翼的な人が多くて左寄りの耽美小説は見たことがない。今回はその実践です」▼文学にも造詣が深かった画家の永井潔は「今日の社会がすべての人びとにとって、何らかの行き詰まりとして意識されていることとの関係においてしか、今日のあらゆる非現実趣味は存在していないだろう」と書きました。「黒へ」も高市政権下の「行き詰まり」と直結しています▼「書いたのは総選挙前だったのに現実がフィクションを超えてきた。表現の自由など基本的人権の制限に危機感があります」と冬崎さん。受賞作は『民主文学』6月号に掲載されます。小林多喜二以来の変革の文学の伝統と、新しい感性の出会いのさらなる進化を期待したい。
2026年5月7日

