「吉里吉里はちょうど胃袋のようなものだ。昔は天然自然の大要害として、守るに易しく攻めるに難い所だったろう」。井上ひさし著『吉里吉里人』の一節です▼東北の架空の村を舞台にした小説は岩手・大槌(おおつち)町に実際にある地名を使っています。キリキリはアイヌ語で白い砂浜を意味し、砂浜を歩くとキリキリと鳴ることからも名付けられたと▼その吉里吉里と小鎚(こづち)の地区で起きた山林火災は延焼が広がり、焼失面積はあわせて1100ヘクタールをこえました。東日本大震災で被災し高台に移した住宅地にも迫り、住民からは「なんでこんなに災害が続くのか」と悲痛な声も。一刻も早い鎮火がまたれます▼全国で相次ぐ大規模な山火事。降水の少なさや乾燥、強風が燃え広がる条件とされていますが、それだけではありません。落葉や下草が焼ける「地表火」が枝葉に移り高い木まで焼く「樹冠火」になると、火の粉をまき散らして燃え盛るといいます▼とくに葉っぱなどに油分を含むスギやマツ、ヒノキといった針葉樹は燃えやすく、いちど燃えあがると燃焼が強くなり大規模化の要因になっています。成長の早いスギは高度成長期に大量植林され、国民病といわれる花粉症の発生源にも▼国の施策が招いた人災ともいえる災害。高市首相をはじめ歴代の自民党政権がいくら災害に強い国づくりを唱えても、起きてしまえば脆弱(ぜいじゃく)さはあらわに。井上さんの小説は国のでたらめな政策に振り回されたことで、日本国から「吉里吉里国」が独立する話です。
2026年4月25日

