生まれたときからの姓を大切にしたい―。この声にシンプルにこたえるのが選択的夫婦別姓制度です。これに対し高市早苗首相は、夫婦同姓を維持したまま、旧姓を公的書類に単独で記載できるようにする「旧姓単記」の法制化をうちだしました。選択的夫婦別姓とは似て非なるものです。
■根本問題解決せず
結婚で姓を変えた人のためとして、政府は住民票やマイナンバーカード、パスポート、運転免許証などの公的証明書に旧姓と戸籍姓の併記ができるようにしました。旧姓の法制化はこれを法的に認めるものです。結婚で姓が変わった人の不利益軽減が目的です。
しかし、希望しない改姓によってアイデンティティーを喪失したと感じる人の問題は何も解決しません。
自己のアイデンティティーを守るために姓を変えず事実婚を選んでいるカップルは、配偶者控除や相続税など税法上で不利益を受けています。
市民団体と研究者の合同調査によると、事実婚の人の約半数が、選択的夫婦別姓が導入されたら婚姻届を出すと答えています。姓か結婚かの二者択一を迫る現行制度を改正し、選択的夫婦別姓制度を導入することこそ必要です。
現在、旧姓の併記はできますが、旧姓のみの記載は認められていません。旧姓単記を法制化する場合、どの公的書類まで認めるのかが焦点の一つです。
高市内閣は、「厳格な本人確認に用いる書類は、旧姓単記の対象外」との認識を示しています。であれば、限定的な書類にしか認められず、国際的な場面で起きるトラブルなどの解決はおぼつかないと言わざるをえません。
旧姓単記の法制化は現状をほとんど改善せず、かえって混乱を招く恐れがあります。一人の人間に法的氏名が二つあることは犯罪の温床になると指摘されています。
高市内閣は第6次男女共同参画基本計画の策定過程で、選択的夫婦別姓を記述しない一方で、旧姓法制化を初めて盛り込み、さらに首相の意向で「旧姓単記」の法制化まで強引に書き込みました。
そうまでして法制化を急ぐのは、選択的夫婦別姓制度を阻止するためです。背景に、戦前の家制度への執着があります。男性優位の家制度に固執する勢力の支持を取り付ける思惑も透けます。
■世論の広がり恐れ
同時に、選択的夫婦別姓を求める世論の広がりに警戒心を募らせているのです。衆院の解散で廃案になったものの、28年ぶりに選択的夫婦別姓法案が国会で審議されたことは制度実現の可能性を示しました。これを恐れた高市首相は、選択的夫婦別姓制度と表面上は似た「旧姓単記」の法制化へと迷走したのです。
結婚改姓する9割以上が女性です。カップルが十分な協議ができないまま、女性が改姓するものとする慣習も根強く残ります。「旧姓単記」の法制化は、このジェンダー不平等の固定化を狙うものであり、さまざまな矛盾を引き起こします。
高市首相のもくろみを打ち破り、いまこそ、選択的夫婦別姓制度の実現へ力をあわせるときです。

