夜中に兵隊体験の夢で突然起き出し、寝ている子どもたちを「この野郎」と柱に投げつけた父。片や、雨や風音に「兵の足音が聞こえる」とおびえた父▼戦争トラウマ=PTSDになった父親を持つ子どもたちに密着した映画「父と家族とわたしのこと」の一コマです。侵略戦争の実像と絶対服従の軍隊生活が、暴力の連鎖として次世代も苦しめることを告発しています▼藤岡美千代さんの父親、古本石松さんは「お国のため」と20歳で召集され、激戦地・千島列島の松輪島で9カ月もソ連との戦闘に加わります。敗戦でソ連軍の捕虜となり、3年間のシベリア抑留をへて帰国。敵国だった米国が、日本を占領・支配していました▼映画は、敗残兵扱いされた怒りのはけ口が家庭に持ち込まれた悲劇や、虐待する父が自殺した時の喜びの独白も紹介されます。故郷・鳥取や極寒のシベリアを訪ねる藤岡さん。戦争に行く前の優しい、本当の父に涙します▼「アメリカが主体となったイラク戦争を現地で取材したのが映画制作のきっかけでした」。監督の島田陽磨さんは、陥落したバグダッドに入ってきた米軍兵士を見て驚きました。20歳前後のひ弱そうな若者ばかりでした。しかも、戦闘で死んだ人より帰還後に自殺した人が何倍も…▼「戦争という国家事業の中で犠牲になり無かったことにされた当事者たちのことをテーマにした」と島田さん。新しい戦前といわれるいま、「国家のため」と為政者が勇ましい言葉を言い出したことの危険を改めて。
2026年3月20日

