「他の人間の物の考え方によって、自分の生きて行く予定や目的をむざむざと中断されてしまう。(略)恐ろしい事である。私は身体中がぞくぞくする程、その恐怖を肉体的に感じた」▼作家だった広津和郎(ひろつ・かずお)は、事件の衝撃を小説の中にそう記しました。90年前のきょう未明でした。陸軍の青年将校らが1500人ほどの部隊を率いて決起。岡田啓介首相ら6人の政府要人を襲撃し、3人を殺害した二・二六事件です▼日本近代史上最大といわれたクーデターの目的は天皇を中心とした軍政の樹立でした。背景には不正や汚職が相次いだ政治への不信、世界恐慌による経済危機、さらに対外関係の悪化と社会不安が重なったことがあげられています▼農村部の悲惨な貧困や大正デモクラシーも事件の種をまいたとの見方も。クーデターは「反乱」として鎮圧されましたが、日本を揺り動かすことになります。翌年、陸軍は盧溝橋事件を起こし、日中戦争へと拡大していきます▼この事件を通じて軍部の力が強まり、日本は戦争への道を突き進んでいきました。破滅の道を。社会の不安や人びとの危機感に乗じ、政治が右傾化し軍拡をあおる姿は今日にもつながります▼あの時代を覆った空気や同調圧力、一体化を現在の動きと重ねて注視していく必要があるとの指摘もあります。政治の翼賛的な動きは衆院の代表質問にも表れています。しかし、いまや戦争反対、民主主義や人権を守れの声は、社会にも街頭でもあふれています。その力は強く大きい。
2026年2月26日

