(写真)高市早苗首相の施政方針演説が行われた衆院本会議=20日、国会内
「『重要な政策転換を、なんとしてもやり抜いていけ』。国民から力強く背中を押してもらった」―。高市早苗首相は20日の施政方針演説で、こう訴えました。しかし、国民は総選挙で、高市首相に「白紙委任」を与えたわけではありません。そればかりか、高市首相が掲げる「重要な政策転換」は、国民の暮らしと平和を壊す重大な危険が散りばめられています。国民への丁寧な説明を抜きに、数にまかせて強権を振るうことは到底、許されません。
■「責任ある積極財政」
財源示さず 投資ありき
「日々の暮らしと未来への不安を『希望』に変えていこう」―。施政方針演説で、こう訴えた高市首相。しかし、高市首相が掲げる経済政策の先に待つのは「希望」ではなく、「絶望」となる可能性が極めて高い危険な道です。
高市首相は「これまでの政策のあり方を根本的に転換していく。その本丸は、『責任ある積極財政』だ」として「長年続いてきた過度な緊縮志向、未来への投資不足の流れを断ち切る」と強調しました。しかし、その認識には重大な誤りがあります。
そもそも、歴代自民党政権は「過度な緊縮志向」どころか、大企業には大盤振る舞いの経済政策を進めてきました。にもかかわらず、経済成長しなかったのは、たとえ大企業が利益をあげても、内部留保が増えるだけで、賃金は上がらず、富の偏在が拡大するだけだったからです。この富の偏在にメスを入れない限り、いくら「財政出動」を行っても「経済の好循環」など生まれません。
高市政権は「責任ある積極財政」を「サナエノミクス」と位置づけています。それは破綻した「アベノミクス」(安倍晋三政権の経済政策)の焼き直しにすぎません。しかも、デフレ(物価下落)下だった安倍政権とは違い、現在はインフレ(物価上昇)が続いています。過度な「財政出動」はインフレを助長するため、日本経済への悪影響はさらに大きくなります。
消費税減税
一方、高市首相は演説で、消費税減税について「超党派で構成される『国民会議』において検討を進め、結論を得る」と述べました。しかし、「国民会議」は「給付付き税額控除」という新たな制度を導入し、その「つなぎ」として食料品の消費税を2年間ゼロにすることを認める議論が前提。消費税の恒久減税や廃止の議論は初めから排除しています。
重大なのは、高市首相が巨額の「財政出動」をうたいながら、その財源は何も語らないことです。米国いいなりに軍事費の拡大を行いながら、大企業へのばらまきを続け、2年間、食料品の消費税ゼロを実現する財源は一体どこから捻出するのでしょうか。
財源があいまいなまま「積極財政」を行えば、財政の信認が失われ、国債が売られて長期金利が跳ね上がります。通貨の信認も揺らぎ、円安となって物価高はさらに加速します。高市首相がバラ色のように描く「責任ある積極財政」は、財政破綻とインフレの危険と表裏一体です。
■物価高対策
苦しむ国民は置き去り
自民党が圧勝した今回の衆院選で、有権者が最も高い関心を示したのは物価高対策でした。ところが、高市首相は施政方針演説で「物価高への対応を最優先に働きました」などと述べ、ガソリン税の暫定税率の廃止や25年度補正予算などで手当てが終わったものとしています。
しかし、国民の物価高対策への要望は依然として高いままです。衆院選を受けて実施された各紙の世論調査では、高市首相に取り組んでほしい政策として「物価高対策」がどの調査でも最も多く、「読売」88%、「朝日」51%、「日経」49%です。
また、名目賃金から物価変動の影響を差し引いた実質賃金は4年連続でマイナスです。物価高を上回る賃上げは実現していません。
高市首相は、いまだ止まらない物価高に苦しむ国民を置き去りにしています。
■農業
コメ安定供給に策なし
高市首相は農業を巡り、「食料自給率の向上を実現します」と表明しましたが、具体的な政策は乏しく「農地の大区画化」や「スマート農業技術の開発・実装」など従来の規模拡大一辺倒の路線です。2025年の物価高騰の中で、コメ不足・価格高騰が、国民生活に深刻な打撃を与えたことへの反省はまったくありません。
大多数の農業者が安心して営農に励み、農村で暮らせる条件を整える価格保障と所得補償こそが、コメの安定供給に最も必要ですが、高市氏は、まったく触れませんでした。しかも、離農や高齢化が進む中で、農業を存続にかかわる後継者対策への言及もありません。「安定供給」のために「供給力を強化する」といいますが、効果的な具体策はありません。
■労働
最賃上げ目標 言及せず
「物価上昇を上回る継続的な賃上げを実現します」―。高市首相はこう断言しましたが、その方法は、中小企業や小規模事業者の「稼ぐ力」の抜本的強化により「賃上げできる環境を整える」という破綻したトリクルダウン論です。中小企業への賃上げにとって最も不可欠な直接支援は語らず、最低賃金の引き上げ目標も掲げませんでした。
昨年度の最賃の全国加重平均は時給1121円。石破政権がかろうじて掲げていた「2020年代に1500円」の目標すら引き継がない姿勢を改めて示しました。
しかも高市首相は、名目賃金から物価変動の影響を差し引いた実質賃金について、24年度の「伸びはプラス」で「明るい動き」だと言い張りました。しかし、厚生労働省の毎月勤労統計調査では、実質賃金は4年連続マイナスです。賃上げがあっても物価上昇分に追いついていないという現実を覆い隠す印象操作です。
首相は「強い経済により、賃上げの原資を生み出す」と強調しましたが、大企業では、株価をつり上げるため業績好調でも労働者を切り捨てる「黒字リストラ」が横行しています。
労働時間「緩和」
さらに、首相は、労働時間の規制緩和となる「裁量労働制の見直し」を明言しました。「働く方々のお声を踏まえ」た見直しだと主張しましたが、これは労働者の声ではなく、財界・大企業の念願です。
経団連は「より働きたい、成長したい労働者のニーズを抑制している」などと労働時間の規制緩和を求めてきました。しかし、全労連などの調査では、労働時間を「減らしたい」が57%で、「増やしたい」は11%。「増やしたい」と回答した人の8割が「今の収入では生活が苦しい」を理由に挙げています。
労働者の声を踏まえると言うなら、労働時間の規制強化、賃上げと一体の労働時間短縮こそ打ち出すべきです。
■原発
推進固執 財界言いなり
「原子力規制委員会により安全性が確認された原子炉の再稼働加速に向け、官民を挙げて取り組みます」。高市氏は原発固執の立場を表明しました。昨年の臨時国会での所信表明演説では、原発政策は「重要」と述べただけだったのに比べ、原発再稼働に前のめりの姿勢が強まっています。
廃炉が決定した原発を持つ電力会社に対し、「原子力発電所のサイト内での建て替えに向け、次世代革新炉の開発・設置についても具体化を進める」とも表明。財界が声をそろえて主張している原子炉の建て替え(リプレース)にまで言及しました。
■国家主義的発想
国民・人権の目線なし
「日本と日本人の底力を生かし、力強い経済政策と力強い外交・安全保障政策を推し進めるべく、広範な政策を本格的に起動させる」│。高市首相は施政方針演説の冒頭でこう宣言し、数の力を背景に自らの政策を強力に推進する姿勢を示しました。その上で「国力を徹底的に強くしていく」と主張しました。
一方、演説には国民の苦難や社会的弱者によりそった発言は見られません。他方、首相は国民を「国力」の重要な要素である「人材力」としてとらえています。そこには「国民が主人公」という発想はまるでなく、「国家を支える国民」という発想がにじみ出ています。
演説内で「人権」にほとんど触れられていないことも大きな特徴です。
高市首相は、国民の願いである選択的夫婦別姓には一切触れなかったにもかかわらず、情報機関「国家情報局」の設置など国民の人権侵害につながる危険性の高い政策を推し進めようとしています。
外国人政策でも「外国人との秩序ある共生社会」を掲げていますが、「秩序ある共生」の内実は「不法滞在者ゼロプラン」をはじめ基本的人権を無視した「外国人管理」政策です。「わが国が排外主義に陥らないようにする」とうたっていますが、排外主義を主張する政党の台頭やクルド人へのヘイトといった具体的な問題への対策は示せていません。
また、「わが国の伝統や歴史の重みをかみしめ」た上での皇室典範の「改正」にも触れています。自民党は衆院選公約で、養子を迎えて皇統に属する男系の男子を皇族とする案を掲げ、「男系」に固執しています。皇位継承の男系男子への限定規定は、国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)から是正勧告を受けた、ジェンダー平等の流れに逆行する時代錯誤の方針です。
■外交・安全保障
思考停止の米言いなり
「必要なことはわが国が自ら考えてハンドルを握り、長期的目線を持ってどこに向かうか決めることだ」―。高市首相は外交・安全保障政策についてこう宣言しましたが、実態は思考停止のアメリカいいなり、安倍政権路線の焼き直しです。
「自由で開かれた安定的な国際秩序はいま、大きく揺らいでいる」。高市首相はこう切り出し、中国やロシア、北朝鮮を名指しし軍事行動への懸念を表明。その上で、日米同盟を基軸に「自由、民主主義、人権、法の支配」といった原則を共有する国と連携する考えを示しました。
しかし、ベネズエラを武力侵攻し、「私に国際法は必要ない」と述べて「法の支配」を公然と否定するトランプ米大統領を一言も批判できませんでした。それどころか、来月に開かれる日米首脳会談で「トランプ大統領との信頼関係を一層強固にする」と宣言しました。破綻があらわになっているにもかかわらず、沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設を改めて表明。県民の民意より日米合意を上におく姿勢を明確にしました。
高市首相は安保3文書を前倒しで改定し、「主体的に防衛力を抜本的に強化する」と強調。「主体的」と言いますが、米国の要求に応じるのが実態です。トランプ政権はすべての同盟国に国内総生産(GDP)比5%以上(30兆円以上)への増額を要求。これに応じれば、増税や社会保障削減につながるのは必至です。
また、高市首相は「責任ある日本外交」を掲げましたが、その中身は安倍晋三元首相が提唱した、米国を中心としたインド太平洋地域による同盟国・同志国による中国包囲網=「自由で開かれたインド太平洋構想」(FOIP)の焼き直しです。今さらFOIPを持ち出してきた背景にあるのは、トランプ氏が米中の貿易交渉を優先して、中国との融和的な姿勢を強めていることから「はしごを外される」のを恐れているからです。「主体的」と言いながら、日米同盟一辺倒で中国に対峙(たいじ)する外交しか持ち合わせていないのです。
武器輸出拡大
さらに、武器輸出を非戦闘目的に限る「5類型」の見直しに向け「検討を加速させる」と明言。政府・与党は今春に、武器輸出のルール「防衛装備移転三原則」の運用指針を改定し、戦闘機や護衛艦など殺傷兵器の輸出全面解禁を狙っています。高市首相はその目的として「同盟国・同志国の抑止力・対処力の強化」、「防衛生産基盤の強化」を列挙。中国抑止のために日本の武器を他国に売り、軍需産業をもうけさせる「死の商人」国家にすることを狙っています。

