医療崩壊の危機が指摘される中で、2026年度の診療報酬の改定率などが決まりました。国民負担増の社会保障制度改悪も狙われているもとで、現状をどう見るのか、日本共産党の小池晃書記局長に聞きました。
(写真)インタビューに答える小池氏
診療報酬
医療機関に対して公的医療保険から支払われる診療報酬が12年ぶりに引き上げられ、3・09%増となります。3%を超える引き上げは30年ぶりで、医療・介護関係者や関連団体、労働組合の運動や世論、国会での日本共産党の論戦などの成果だと言えます。
ただ、これではまだまだ今の医療危機から脱することはできません。
私がお会いして「しんぶん赤旗」(10月24日付)にも登場していただいた国立大学病院長会議の大鳥精司会長(千葉大学病院長)は、30年ぶりの大幅増だと評価する一方、「危機的状況を脱したわけではない」と述べておられます。
歴代自民党政権による診療報酬の抑制が、医療経営の危機と医療従事者の労働条件の悪化をもたらしています。国庫負担の拡大とあわせて、診療報酬の抜本的な引き上げが必要です。
介護保険
今回、介護報酬も2・03%引き上げられました。介護報酬の改定は3年に1度で、次の27年度改定を待たずに臨時改定したことは、関係者や利用者の運動の成果です。
内容は、補正予算に盛り込んだ処遇改善の補助金を介護報酬に組み込んだもので、ケアマネジャーの処遇改善などが含まれます。昨年の引き下げが大問題になった訪問介護の基本報酬を元に戻すことは、今回は見送られました。
しかも、他産業とくらべて賃金が月8万3000円も低い介護従事者の低賃金の解決にはほど遠い中身です。介護報酬の抜本的な引き上げとともに、利用者の負担にならないよう、国庫負担割合の引き上げも急務です。
政府は今回、介護保険利用料の2割負担の対象拡大を先送りしましたが、引き続き狙っています。ケアプラン有料化や、要介護1、2の保険給付外しも検討課題に挙げています。
引き続き、負担増と制度改悪を許さない運動が大切です。
OTC類似薬
OTC類似薬(市販薬と同等の効能があるとされる処方薬)の問題は、日本維新の会が医療保険の対象から外す大改悪を要求していました。こんなことを認めたら、自治体が独自に実施している子ども医療費無償化の対象からも除外され、自己負担は数十倍にもなります。
さすがにこれは断念しましたが、自民と維新が密室合意でOTC類似薬の価格の4分の1の追加負担を患者に求めることを決めてしまいました。健康保険が3割負担の人の場合、追加負担が加わると5割負担に相当する大負担増になります。「追加負担の設定は、つらい症状を抱えて暮らす患者への罰則のようだ」という怒りの声が上がっています。
健康保険法改定時(02年)の付則は「将来にわたって7割の給付を維持する」とし、当時の厚生労働相も「自己負担は3割が一つの限界」だと答えています。現行法も国会答弁もないがしろにすることは、断じて許せません。
高市政権は年明けの通常国会に法案を出して、27年3月実施を狙っていますが、力を合わせて阻止しましょう。
さらに、「食品類似薬」の医療保険外しも突然盛り込みました。在宅医療の現場で、栄養状態を維持するために大きな役割を果たしているのに、保険から除外するのも大問題です。
高額療養費
医療費の自己負担額に月額上限を設ける「高額療養費制度」については、私も参加する超党派の議員連盟が求めてきた年間の負担上限の設定は評価できますが、全体として引き上げになっており、さらなる抑制が必要です。
全がん連(全国がん患者団体連合会)とJPA(日本難病・疾病団体協議会)も「月ごとの限度額については十分に抑制されていない」と表明しています。もともと患者の声を聞かずに負担増を押しつけたことに怒りの声が上がり、患者代表も入った専門委員会で議論してきたのに、そこでは具体的な引き上げ額を示さず、政府が勝手に決めたことも、反省のないやり方だと言わざるをえません。
世論で包囲
この1年、医療や介護の危機に立ち向かう世論と運動が大きく広がり、日本共産党も大学病院や医療団体との懇談を重ねました。こうした運動の中で、診療報酬の増額が実現したのは、やはり運動の成果だと思います。
このことは、社会保障予算の「自然増抑制」のため、「高齢化による伸びの範囲内に抑える」という従来の路線が破綻し、政府が手直しせざるを得なくなったという点でも重要です。
具体的には、来年度予算案では6300億円の社会保障の自然増に対して、薬価改定などで1500億円を抑制しましたが、同時に「経済・物価動向を踏まえた対応」として、2900億円を上乗せしています。
ただ現場の実態から言うと、とても危機から脱出できるような水準ではありません。社会保障に対する国庫負担を増やすことがどうしても必要ですし、そのためには、大軍拡から軍縮に転じるとともに、富裕層や大企業に応分の負担を求めなければなりません。
破綻が明瞭となった社会保障削減路線にしがみつく高市自維政権を世論と運動でさらに包囲することが求められます。

