「茶番だ!」「コメディー以外の何物でもない」「両者の癒着の象徴」―。かつてこれだけ批判にさらされた「平和賞」があったでしょうか。国際サッカー連盟(FIFA)が唐突に新設し、今月初めにそそくさとトランプ米大統領に授与した「FIFA平和賞」です▼来年6月開幕の北中米ワールドカップ(W杯)。その抽選会に合わせた授賞式で、トランプ氏が得意満面に「私の人生における偉大な栄誉の一つだ」と。横には愛想よく振る舞うFIFA会長の姿が▼米国、カナダ、メキシコ共催のW杯。平和賞は大会に横やりを入れさせないためか。それともトランプ氏が熱望し、受賞できなかったノーベル平和賞の代わりなのか。当然、FIFAには重い代償がのしかかり、「中立義務規定に反する」と批判の嵐が。スポーツの政治利用にすすんで手を貸す、自殺行為なのは言うまでもありません▼FIFAのすり寄りには予兆がありました。今夏、米国でのクラブW杯で、反人種差別・反差別アピールの看板を下ろしたことです。それはトランプ政権の強権的な移民排除、多様性・包摂性敵視におもねってのこと。W杯で訪れる人々の人権が心配です▼一方、FIFAは大会チケットの高額化を打ち出し、決勝の最低価格はなんと60万円超にも。さっそくファンの反撃にあい、低額チケットの販売を余儀なくされる始末です▼いったい誰のためのW杯か―。FIFAの暴走を食い止め、軌道をただすのは選手やファン、世界の健全な世論です。
2025年12月22日

