(写真)介護改悪に反対する署名を厚労省に提出したあと記者会見に臨む、認知症の人と家族の会の和田誠代表理事(左から2人目)ら=12日、厚生労働省
介護保険利用料の2割負担の対象拡大など介護改悪をめぐる議論が、厚生労働省の審議会で大詰めを迎えています。厚労省は2割負担の拡大やケアプランの一部有料化などを提示、強行の構えです。経団連をはじめ財界・大企業の委員が賛成する一方、公益社団法人認知症の人と家族の会、NPO法人高齢社会をよくする女性の会、「連合」、UAゼンセン日本介護クラフトユニオンの委員が強く反対しています。(内藤真己子)
22日に開かれる同審議会が焦点です。オンラインを含め600人近くが集った院内集会(5日)で改悪反対を決議したケア社会をつくる会は、「改悪反対の意見を厚労省にメールで送ろう」と呼びかけています。
厚労省が社会保障審議会介護保険部会で示している2割負担の拡大案は、利用料2割負担の所得基準=年金収入とその他の所得の合計額=を、現行の単身世帯280万円(夫婦346万円)から、下位の230万円~260万円(夫婦296万円~326万円)まで広げるもの。最大約35万人が負担増になります。「当面の間」負担増に月7000円の上限を設けます。
宮城県多賀城市のケアステーションつくし(全日本民医連加盟)で所長を務める渋佐瑞穂さんは11月末、仲間と上京し、改悪反対の署名を国会議員に届けました。「いまでもギリギリで2割負担に引っかかっちゃった方は『すごくつらい』って言ってます。サービスを増やそうとしても『ちょっとどうしようかな。うち2割なんだよね』っていうお話が出ます。この幅を広げたら、必要なサービスが入れない方が圧倒的に増えます」
預貯金狙う
いまでも利用料が払えず滞納し、本人が亡くなってから家族が分割払いしている例が複数あります。
厚労省は高齢者に預貯金残高を申告させ負担割合の判定に組み込もうとしています。貯金通帳の提出と資産調査への同意を求めます。「あきれてものが言えません」と渋佐さん。「だって預貯金って、その方が生活を切り詰めて貯めたものではないですか。年金が足りず貯金を取り崩しているし、残った分は孫にお年玉あげることや、生きる希望や楽しみになっている。それを奪うことになる」と憤ります。
審議会で反対意見が続出しています。認知症の人と家族の会の和田誠代表理事は15日の介護保険部会でも負担増に強く反対しました。厚労省は2割負担拡大を狙う所得層の、モデル家計収支を審議会に提出しています。家計収支は赤字でした。赤字額は、年収286万円の夫婦世帯で年4万円、年収306万円の同世帯で年12万円に上ります。
和田氏は「物価高騰前の数字でも赤字で貯金を取り崩している。負担が2倍になるとこの世帯は夫婦どちらかが認知症グループホームなどを利用した場合、残された者が在宅サービスすら利用できなくなる」と告発しました。同会は1カ月で3万3259人分の改悪反対署名を集め厚労相に提出しています。
逆転の現象
高齢社会をよくする女性の会副理事長の石田路子さんは65歳以上が払う1号保険料の「負担構造に逆転現象がある」と指摘しました。所得段階が一番高い人は年収の1%前後なのに対し、2割負担の拡大が狙われている年収200万円台層は年収の4~5%に及んでいるとし、2割負担の対象拡大による中低所得者への負担増に反対しました。
また石田さんは、住宅型有料老人ホームのケアプラン有料化にも反対。日本医師会の江澤和彦常任理事も反対しました。
訪問介護事業所が空白や残り1つの自治体が全国の2割以上に上り「介護崩壊」が進んでいることが本紙の調査報道で判明しています。厚労省は、人口減少地域の訪問介護事業所などの人員基準を緩和する新類型サービスを提案。認知症の人と家族の会の和田委員は、「新類型で介護職員が定着するか大きな懸念がある。事業所の確保を目的とするのなら制度改定ではなく、特別対策として手当てするのが適当だ」とのべ、反対意見を述べています。

