12日に発表された、政府の第6次男女共同参画基本計画に対する答申案に、通称使用の法制化の検討が突然盛り込まれました。同計画策定の基本的な考え方を検討してきた専門調査会では議論されていなかったもので、「内閣府の独断」「高市首相への忖度(そんたく)だ」との声が上がるのは当然です。高市早苗首相への、この日の答申は見送られましたが、民主主義を踏みにじるやり方であり、許されません。
通称使用の法制化は高市首相の持論で、首相は9日、来年の通常国会への法案提出を検討する考えを表明していました。夫婦同姓の強制を維持した上で住民票などに旧姓を記載できると法律で定め、国・自治体・事業者が広く通称使用を可能にするよう努めることも盛り込むと見られます。
■法制審の案を葬る
選択的夫婦別姓については、今年の通常国会で28年ぶりに立憲民主党案と国民民主党案の二つと、維新の会の通称使用拡大案の審議が始まり、継続審議になっています。
参考人質疑では、改姓によって実績や信用が中断するなどの不利益はもとより、自分が自分であることを証明し続けてきた氏名を消す悔しさ、アイデンティティー喪失に苦しんだ当事者の切実な声が紹介され、いかに選択的夫婦別姓が求められているかが明らかになりました。
法相の諮問機関である法制審議会は、1996年に選択的夫婦別姓の導入を答申しています。これを棚ざらしにしてきたあげく、政府がまったく違う法案を出すのは、「法制審答申を上書きし、闇に葬ることになる」(日本共産党の田村智子委員長、4日の会見)ものです。家父長的な家制度に固執し、選択的夫婦別姓をつぶすのが狙いです。
■退けられ決着ずみ
通称使用拡大は、選択的夫婦別姓への機運が盛り上がるたびに持ち出されてきました。しかし、法制審議会で退けられ決着済みです。96年の法務省発行の冊子も、旧姓の併用を認めると「社会から見てその人が誰かということが分からなくなり、混乱を招くおそれ」があるとしています。
▽アイデンティティーの喪失や改姓の94%が女性だという不平等など人権問題が解決できない▽法的な二つの姓が生じ、海外ではマネーロンダリング(資金洗浄)など犯罪の温床になりうるとされ完全に旧姓で生活できるわけではない▽民間事業者も含めて二つの名前を正確に紐(ひも)づけるには膨大なコストがかかる―など通称使用の法制化は根本的な解決になるどころか新たな問題を生じさせるものです。
そもそも通称使用は、別姓を選択できない中で苦肉の策として広がってきました。社会のさまざまな場面で通称が使えることは否定されるものではありませんが、それを選択的夫婦別姓阻止の手段にするなど、許されません。
「それぞれの名前で生きていきたい」というカップルも、「一つの姓で生きていこう」というカップルも結婚できる法改正を―これは一人ひとりの生き方、多様な家族のあり方を認めあう社会への一歩です。世界唯一となった「同姓強制の国」を脱するため声をあげましょう。

