両親はパレスチナからヨルダンに逃れた難民。電気も水道もない狭い家で多くの家族と家畜と一緒に育ちました。10代で単身渡米し働きながら学業に励み、やがて研究者の道に▼北川進さんとともにノーベル化学賞に選ばれた米カリフォルニア大バークリー校のオマー・ヤギー教授の半生です。授賞式にのぞんだ2人は肩を組み、金属有機構造体(MOF)の研究成果を訴えました▼分子サイズの無数の穴に気体を貯蔵・分離できるMOFは、砂漠の空気中から水を集めたり、二酸化炭素を回収したり。排ガスや有毒ガス、PFASの除去にも役立てるといいます。実際、インドネシアでは次世代型のガスボンベの実用化に向けられているそうです▼「限りある資源を再利用する循環型の社会をめざせる」。北川さんは、くらしを豊かにするMOFの可能性をそう語ります。それは一見役に立たないものも重要だという「無用の用」や、自在にデザインしてつくれる科学なんだと▼ヤギー氏をはじめ、今年のノーベル賞の自然科学3賞に選出された米国所属の6人のうち半数は移民だといいます。米国の科学力を下支えしてきた移民の存在。しかしトランプ大統領は学業や研究への支援をきりすてようとしています▼米国だけでなく、世界をとりまく排他的な流れに危機感を抱いているヤギー氏。自身の生い立ちにもふれながら、「多様性こそが革新を生む」と強調します。さまざまな人びとや価値観を受け入れる社会が人類の未来へつながるように。
2025年12月14日

