「漁獲量が大幅な超過となったことは大変遺憾であります」。出漁停止命令が出ている沿岸小型船のスルメイカ漁に関し鈴木憲和農水相は、小型船が漁獲枠を超えて取りすぎたと非難しました。
そもそも、スルメイカが久々の豊漁だと報道されていますが、実際は違います。過去に50万トン以上あったスルメイカの漁獲量は昨年1万8千トンと過去最低になりました。今年、東北の八戸沖周辺に局所的な漁場が形成されていますが、資源の危機的状況は続いています。
資源の保全のために漁獲枠が設けられ、小型船については、すでに枠を超えたとして出漁停止となっています。しかし、「取りすぎたおまえたちが悪い」と言わんばかりに小型船に責任を押し付けるのは公平を欠きます。
■大型船が優遇され
北海道だけは特例措置で停止が解除されましたが、他の地域では出漁できない状況が続き、年末を控えて収入源が絶たれ、漁業者から悲痛な声があがっています。
混乱の原因は政府の不公平な漁獲枠設定にあります。政府は今年、直近3年の漁獲実績に基づいて、20隻余しかない大臣許可の大型船に7400トンを配分、3千隻もいる小型船に4900トンしか配分しませんでした。実績に基づけば大型船に有利になります。
11月末、国会での抗議集会に集まった小型イカ釣り漁業者は、「ずっと八戸沖でイカ釣りをしてきたが大型船が来るようになって資源がみるみる減った。彼らの『漁獲実績』は海を殺した実績だ。資源を守れと訴えてきた俺たちが禁漁になり、資源を壊した大型船は今も操業している。不条理だ」と憤りました。
鈴木農水相は予算委員会で「特定の地域による先取りなど、地域間の不公平が生じている」と答弁し、東北で取りすぎたなどと地域間の問題に矮小(わいしょう)化しています。
しかし、各船の漁業者が全体の漁獲量や漁獲枠に達したかどうかを把握できるわけがありません。鈴木農水相は県漁連・全漁連の責任を問いますが、資金も人員も限られる両団体に迅速な集計の責任を負わせることはできません。体制整備と集計の責任を負うべきなのは国です。
■緊急の融通措置を
問題は強力な漁獲圧を持つ大型船の規制のあり方です。
国際的には、資源回復に最も効果的な大規模漁業の漁獲を、まず規制するのが常識です。EUが地中海クロマグロの大幅な漁獲規制をした際、大型船の枠は9割減となりました。ノルウェーではタラが減った時、最初に大型船の漁獲枠を大きく減らし、資源量が戻ったら段階的に戻す制度を採用しています。
経営体が多く、地域に根ざす小規模漁業者の生活を保障することが地域経済の振興につながります。国連の「責任ある漁業のための行動規範」でも小規模漁業保護がうたわれています。
小型船の経営維持を優先する緊急の漁獲枠の融通が必要です。同時に、次期管理年度の漁獲枠設定では、地域の小型船を優先もしくは漁獲量管理から外すことが検討されるべきです。

