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2025年12月7日

日中両国関係の悪化をどう打開するか

香港フェニックステレビ 志位議長の発言

 日本共産党の志位和夫議長が2日、香港フェニックステレビの李淼(リ・ミャオ)東京支局長から受けたインタビューに対して行った発言は次の通りです。


高市発言の一番の問題点--特定の国を名指しして戦争がありうると宣言

写真

(写真)香港フェニックステレビのインタビューに答える志位和夫議長(左)=2日、党本部

 --高市首相の「台湾有事」に関する発言をどう受け止めていますか。一番の問題点はどこにあるかをお聞かせください。

 高市首相の「台湾発言」をきっかけにして日中両国関係が悪化し、緊張が深刻化していることを、私は、強く憂慮しています。

 高市発言の何よりもの問題は、特定の国を名指しして戦争を行うことがあり得ると公言したというところにあります。戦後、そのような発言をした日本の首相というのはいない。今回が初めてのことです。

 高市首相は、台湾海峡で米中の武力衝突が起こることを想定して、そのさいには「どう考えても存立危機事態になりうる」と答弁しました。これは日本に対する武力攻撃がなくても、米軍を守るために自衛隊が中国に対して武力の行使をすることがありうるということになります。つまり日本が中国に対して戦争を行うことがありうるという宣言をしたということなのです。この発言は戦争放棄をうたった日本国憲法に真っ向から反するものです。日中両国国民に甚大な被害をもたらす危険につながりうる発言であって、絶対に許すわけにはいきません。

日中両国関係正常化の土台を壊す発言--解決には撤回しかない

 --日本政府が台湾に関してとってきた基本的立場と、高市発言の関係はどうなるでしょうか。

 高市発言は、日中両国が関係正常化以降交わしてきた一連の重要な合意にてらしても、それに反するものとなっています。いくつかのポイントでお話ししたいと思います。

 最大の問題は、何といっても1972年の日中国交正常化時の日中共同声明との関係です。共同声明では、中華人民共和国政府は、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」と表明しました。これに対して日本政府は「十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」と約束したわけです。国交正常化交渉では、いろいろな争点がありましたけれども、台湾問題をどう解決するかは最大争点の一つでした。この問題で、いまのべたことで合意したからこそ、日中国交正常化が実現したわけです。

 ところが高市首相は、台湾問題への軍事介入の可能性を公言してしまったわけです。これが、「日本政府は(中国側の立場を)十分理解し、尊重する」という共同声明の立場を乱暴に踏みにじるものであることは、誰が見ても明らかです。それは、日中両国の関係正常化の土台を壊す発言と言わなければなりません。さらに、共同声明には、ポツダム宣言第8項(台湾の中華民国への返還を明記した「カイロ宣言」の履行)が引用されていますけれども、日本がかつて台湾を半世紀にわたって植民地支配のもとにおいた歴史的事実に照らしても、72年の日中共同声明に反する発言は、きわめて重大です。

 さらにもう1点、両国の重要な首脳合意との関係について言いますと、2008年の日中首脳会談で交わされた共同声明で、「(日中)双方は互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない」という重要な合意があります。高市発言は、中国に対する軍事的威嚇の発言であって、2008年の日中共同声明に反する発言であることも明瞭です。幾重にも基本合意に反している。

 いま起こっている日中両国関係の緊張と悪化の原因は、日中の友好関係を根本から損ない、日中両国の重要な合意に根本から反する高市首相の誤った発言が引き起こしたものです。ですから、これを解決する方法、現在の対立と緊張を解決する方法は、発言の撤回しかない。それ以外に解決の方法はありません。日本共産党は、そのことを強く求めてきましたし、求め続けていきます。

小手先のごまかしで取り繕えるような生易しい問題ではない

 --先日の党首討論での高市首相の答弁について、立憲民主党の野田佳彦代表は、「実質的な撤回」だと発言しましたが、どう考えますか。

 党首討論で、高市首相は、従来の見解を繰り返しただけだった、だから「実質的撤回だ」と評価する声もありますけれども、私はそう考えません。いくら従来の見解を繰り返したとしても撤回になりません。従来の見解をも踏み越えた誤った発言をしたわけですから、それを認めて、撤回を明示的に言わなければ撤回になりません。

 冒頭のべたように、(高市発言は)日中両国関係の土台を壊すたいへんに深刻な発言です。だから、小手先のごまかしで取り繕えるような生易しい問題ではない。そのことを強く言いたいですね。

 --どのようなタイミングで、どのような場所、あるいはどのような形で、どのような撤回の内容になってほしいと考えますか。

 これは場所がどこであれ、どういう形であれ、首相自身の口から明確に、あの部分については撤回をすると明言することが必要です。

1972年の日中共同声明--声明の記述をそのまま理解し、守るべき

 --72年の日中共同声明の第3項(中国政府は台湾は「中華人民共和国の領土の不可分の一部」と主張し、日本政府はその立場を「十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」)の重要性を、あらためてお聞かせください。

 第3項でのべられていることはきわめて明瞭で、中国側は「台湾を不可分の領土」と主張する。その中国側の主張を日本側は「十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項を堅持する」と明記したわけですね。そのまま理解すべきだと思います。これが両国の公式の合意で、ここから関係正常化が始まったわけですから、高市発言が「十分理解し、尊重」したものかどうか、このことが端的に問われていると思います。十分に理解も、尊重もしない発言をしてしまったわけだから、それを正す必要があるということです。

 --日中共同声明の中で、台湾は中国の一部分であるということはもう明らかだということですか。

 中国政府は、台湾は中国の一部分だと表明した。日本政府はそれを「十分理解し、尊重する」と表明した。それをそのまま守る必要があるということです。

 --日本共産党は「一つの中国」について、どう見ていますか。

 中国側は「一つの中国」を主張し、台湾問題は「内政問題」だと主張しています。それをわが党は理解し、尊重します。

 --台湾問題は中国の内政問題であるということは、1972年11月8日、当時の大平正芳外相が国会で答弁しました。このスタンスというのは今でも変更すべきではないという考えでしょうか。

 72年の大平外相答弁は、当時、「武力紛争に発展する可能性がない」という認識のもとで、「基本的には、中国の国内問題」だとのべたものです。「基本的には」というのは、平時においてはそうだという言い方を日本政府としてはしていたと思います。

 --今でもそのスタンスは堅持すべきですか。

 堅持すべきだと思います。しかし、そのことを今(の政府に)問うた場合に、そう言うかどうかはわかりません。

 --日米安保条約の運用と日中関係についてどう見ていますか。

 私たちは、日米安保条約の運用において、在日米軍基地を根拠地にして、いわゆる「極東有事」で米軍を運用すること自体に反対です。私たちは安保条約そのものを国民多数の合意で廃棄するという立場ですから、当然、日本を根拠地にして米軍が「極東」で武力行使するということ自体に反対しています。

安保法制--米国の先制攻撃の戦争に自衛隊が参戦する危険

 --高市内閣が進めている防衛力の強化の危険性をどう見ていますか。

 10年前(2015年)、安倍政権によって安保法制が強行されました。「存立危機事態」というのがいま問題になっていますが、これは安保法制によって持ち込まれた概念なんです。日本政府が「存立危機事態」だと認定したら、日本に対する武力攻撃がなくても、米軍を守るために集団的自衛権を発動しうる、つまり米国の戦争に日本が参戦しうるという法律の枠組みをつくってしまいました。

 憲法9条のもとでは集団的自衛権の行使はできないというのが、戦後一貫した自民党政権の憲法解釈でした。それを一夜にして百八十度ひっくり返して、集団的自衛権の行使に道を開きました。これは立憲主義を破壊する暴挙でした。

 どういう危険があるかというご質問ですが、この枠組みの一番の現実的な危険は、米国が国連憲章に違反した先制攻撃の戦争に踏み出した場合でも、安保法制にもとづいて自衛隊がその戦争に参戦するということにあります。アメリカは戦後、数限りなく国連憲章違反の先制攻撃の戦争をやってきました。ベトナム侵略戦争、イラク侵略戦争などなどです。それに対して日本は一度も「ノー」と言ったことのない国です。ただ、これまではアメリカがそうした侵略戦争を始めても、自衛隊は参戦できなかった。集団的自衛権の行使が禁止されていたからです。ですから、戦後、自衛隊はただの一人も外国人を殺していませんし、一人の戦死者も出していない。これは憲法9条の力が働いていたと思います。安保法制によって、米軍が先制攻撃の戦争に乗り出した場合でも、日本がその戦争に加担する、参戦する、この危険が生まれているというところが、今日の一番の危険です。ですから、私たちは、安保法制自体の撤廃、廃止を強く求めています。

「安保3文書」と「改定」について--「専守防衛」の原則に真っ向から反する

 安保法制というのは、「戦争する国づくり」を法制面で準備するものでした。いま行われていることは、それを実践面で具体化するものになっています。それが「安保3文書」であり、その「改定」の動きです。

 そのすべてがアメリカの圧力によって行われています。ここをよく見るべきだと思います。軍事費のGDP比2%への引き上げ、そして3・5%への引き上げ、これはすべてトランプ政権からの圧力で始まった動きです。

 「安保3文書」の「改定」が、今年から来年にかけて大きな問題になります。いくつかの重大なポイントがありますが、まず軍事費のさらなる拡大、非核三原則の見直し、武器輸出の無制限の解禁、こういうメニューがすでにあがってきています。どれも日本国憲法から逸脱し、米国従属の軍事大国を目指す危険きわまりない動きであるということは明らかです。

 これに関して強調したい問題があります。日本は戦後一貫して「専守防衛」という原則を取ってきたわけです。「憲法9条のもとで専守防衛に徹する」という建前を取ってきました。今でもこの原則・建前は撤廃したとは言ってないんです。しかし(いま起こっていることは)歴代政権が掲げてきたこの原則に反する動きです。

 二つの政府答弁を紹介します。まず1959年の伊能防衛庁長官(当時)の答弁ですが、「他国に攻撃的脅威を与える兵器の保有は、憲法の趣旨ではない」と言っています。

 もう一つ、1972年の田中首相(当時)の答弁ですが、「専守防衛とは、防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、もっぱら我が国土及びその周辺において防衛を行うことだ」と、こういう規定がされています。

 「専守防衛」というのは、相手に脅威を与えるような軍事大国になっちゃいけない、相手の基地をたたけるような武器を持っちゃいけない。これが「専守防衛」なんだと何度も言ってきたわけです。

 ところが、いまやられていることというのは、射程2000キロ、3000キロという長射程ミサイルを日本列島にずらりと並べるということですから、「専守防衛」を文字通り覆すことをやっている。

 私は、日本が「専守防衛」という原則を取ってきたことは、日本が平和国家としての信頼を周辺諸国から得てきた一つの重要なファクター(要因)だと思います。これをなくしてしまっていいのかというのが、今きびしく問われているのです。

 --長射程ミサイルといった敵基地攻撃能力保有は、「攻撃的な兵器を持たない」といった原則には、完全に反しているというふうに見ていますか。

 そうです。そう見ています。

 --高市発言のすぐ後に、小泉防衛大臣も(台湾に最も近い)与那国を視察しました。こうした動きをどのように評価していますか。

 私は、2年前の予算委員会でかなり突っ込んで論戦しました。射程2000キロから3000キロの長射程ミサイルを南西諸島に配備すれば、大陸全体が射程に入ってくるということになるわけです。これはまさに「専守防衛」に反する、憲法に反する攻撃的兵器の配備じゃないかと追及しましたが、政府は正面から答弁ができませんでした。それにもかかわらず、配備を強行しています。

 このことによって地域の緊張を激化させ、日本が軍事力を強化すれば、相手もそれを加速させる、軍事対軍事の悪循環をつくり出しています。そして、万が一という時には、南西諸島が戦場となる危険がある。住民のみなさんの一番の不安なわけですね。そのさいには、(先島諸島の住民を)九州と山口県に避難させるということですが、どうやって避難ができるのか。全く現実性のないプランを住民に押し付けていることにも、住民からの強い批判が起こっています。

 軍事対軍事で構えるのではなく、いかにして外交の力で日中関係を前向きに打開していくかに知恵を絞るべきだと思います。

高市発言によって、次元の違う深刻な問題が生まれた

 --安保法制は特定の国をターゲットにしたものではないと日本政府は説明していますが、ターゲットはやはり中国になるのでしょうか。

 この問題は非常に重要な問題です。安保法制を強行したさいにも、政府は特定の国に対するものではないと説明しました。つい最近まで、政府は、この間の軍事力の増強について、特定の国に対するものではない、「安全保障環境が全体として悪いから、日本はそれに対応して抑止力を強化する」と説明してやってきたんです。

 ところが高市政権になって政府の答弁ぶりを見てみますと、もうはっきりと“中国がやっているんだから、こっちもやって当たり前じゃないか”と、いうようなことを防衛大臣が答弁する。あからさまに中国を“仮想敵”と見立てて軍事力の強化を進める。こういうことはかつてないことです。特定の国を敵視して軍事力の強化をやるのは、一番危険な軍事対軍事のジレンマをもたらすと思います。

 --台湾を国会答弁で出して、台湾有事ということを言ったということは、高市政権が発足してから新たな段階に入ったということでしょうか。

 これまでとは質的に違う重大な発言です。冒頭申し上げたように、日本国憲法に反し、72年の日中共同声明に反することが、一番深刻な問題です。日本を危険な道に導くものであって、新しい問題が起こりました。これまでも日中間でいろいろな紛争・対立がありましたが、次元の違う深刻な問題が生まれたと思います。

 冒頭、今回の高市発言によって「日中国交正常化の土台が壊された」と述べました。まさに土台となったのが、日中は再び戦争しないということです。また、台湾の問題については、中国の主張を理解し尊重するということです。この土台を壊してしまったら、その後のさまざまな日中間の大事な合意も、その信頼性がなくなってしまうわけです。そういう深刻な事態に今、日中関係は逢着(ほうちゃく)している。ですから、これはきっぱり(発言を)撤回をして、そして(両国関係を)再構築していくということがどうしても必要になってくると思います。

 --日中がさらに衝突し、戦争になる可能性もあると危惧していますか。

 こういうエスカレーションというのは、双方が望まなくても、何らかのきっかけで、偶発的な問題、あるいは誤算などによって、思いもかけない事態が起こるということが絶対ないとは言えません。そういうことは絶対にあってはいけないと思います。

中国側への提起(1)--ごく一部の右翼的潮流と日本国民を区別した対応を

 --高市発言によって日中関係が悪化して、観光や留学生の交流など、いろいろな影響を受けています。これからの日中関係のあり方について、どのように見ていますか。どう打開し、改善すべきですか。

 中国政府が、高市発言を、両国の基本的合意にてらして批判し、撤回を求めるのは当然のことだと考えます。

 同時に、中国政府が次の諸点を踏まえて対応することが、この問題の理性的解決にとって重要だということを、率直に指摘し、求めます。3点ほど申しあげます。

 第1は、高市発言に現れたごく一部の右翼的潮流と日本国民を区別した対応が重要だということです。中国は、これまで、歴史問題に対しても、日本軍国主義を推進した勢力と日本国民を区別した対応を取ってきました。日本国民も軍国主義の被害者なんだという立場を取ってきました。これは理性的な立場だったと思います。今回も、そうした対応が必要です。日本国民の多くは、日中の友好関係の発展を願っており、戦争ではなく平和を願っています。中国側が、そうした日本国民の理解と共感を得る対応を行うことをまず求めたいと思います。

中国側への提起(2)--人的交流、文化交流、経済関係にリンクさせない

 第2は、この問題を、両国の人的な交流、文化的な交流、さらに貿易や投資など経済関係にリンクさせないということです。政治的な対立はあくまでも政治問題として解決をはかるべきだというのが私たちの主張です。

 人的交流や経済関係をリンクさせるということになりますと、両国の国民が苦しむことになるわけです。日本国民も苦しむし、中国の国民も苦しむ。そして両国の経済の双方が打撃をこうむることになるわけです。そういうことになりますと、両国国民間の対立と亀裂をいっそう深刻なものにしてしまうことにもなります。ですから、そういう対応は避けるべきだということが2点目です。

中国側への提起(3)--事実にもとづかない言動、対立をことさらあおる言動はつつしむ

 第3に、事実にもとづかない言動、あるいは対立をことさらにあおる言動はつつしむべきだということです。そのような言動によって日中両国の緊張と対立がエスカレートすることは、この問題の道理ある解決の妨げになるだけだということを率直に指摘したい。冷静で理性的な対応を求めたいと思います。

 今日お話しした内容、すなわち日本共産党としての高市発言に対する基本的な批判点、3点での中国側に対する要請は、すでに、中国の政府と党にしかるべき形でお伝えしたということも明らかにしておきたいと思います。

 --中国側は、議長の主張をどう受け止めていますか。

 これは外交上のやりとりですので、具体的にここで言うのは控えたいと思いますが、真剣に受け止めていただいたと思います。同時に、中国側の立場の説明もありました。

 --日中関係が今非常に悪化している中で、今後この関係の現状を打開するのに、高市首相が撤回しない限り、どのようなことを最優先に取り組むべきでしょうか。

 撤回しなければ、ことは前に進みません。

 --撤回しないと、この悪化というのは長引いてしまうことになる。

 撤回しない限り、問題の解決は不可能だと思います。ですから、この問題の解決には、高市発言を高市首相自身が撤回する、それが最優先です。これなくしては、先に進む土台そのものがないのが現状です。

日本国内の世論、排外主義の流れをどうみるか

 --高市内閣は高い支持率を維持し、日経新聞の調査では、50%以上が、高市発言を支持するという結果もありました。日本国内の世論をどう見るべきですか。

 世論調査というのは、いろいろな要因で上がったり下がったりしますので、なかなかその要因は簡単に言えません。ただ、高市発言に対する評価については、やはり国民のみなさんの多くには、まだ事の真相が伝わってないと思います。たとえば「存立危機事態」と言われても、なんのことか分からないという方も多いと思います。ややこしい概念ですし。中国に対して戦争をやることもありうる発言であり、戦争の危険につながる発言だということが本当に理解されれば、私は変わってくると思います。

 --日本の排外主義の流れについて、どう見ていますか。

 排外主義的な潮流の伸長、排外主義的な風潮が広がることを、私はたいへんに憂慮しています。ただ、なぜそれが生まれているか、ここをよく見極める必要があります。

 端的に言いますと、長年にわたって自民党政権のもとで、弱肉強食と自己責任を押し付ける新自由主義的な経済政策が取られてきた。そのために貧富の格差がどんどん広がり、生活が苦しい。そういう状況に対する不満や批判、これをすくい上げる形で排外主義が伸びてきた。その流れに迎合することで高市首相は権力を握った。欧米でも同じような状況があります。資本主義の行き詰まりのもとで生まれているということなのです。

 私たちはこういう流れに対して、国民がいだいている批判や不満は当然ですよと、怒りを共有する。そして、なぜ生活が苦しいか。それは外国人のせいじゃなくて、自民党の経済政策が間違っているからだ、もっと言えば資本主義の矛盾だと伝えていく。そして希望を語っていく。そのことによって、この流れを克服することは十分にできると思っています。

 --高市政権は経済対策を十分にできていますか。

 経済対策について言えば、補正予算案が提起されていますが、国民の暮らしに役立つ内容は一つもありません。軍事費がたくさん入っていますが、ああいう多額の軍事費を補正予算に計上するというのは、かつてないことです。だいたい、補正予算というのは、災害対応など緊急に必要な予算なのです。緊要性ということからもまったく説明がつかない。そういう形で一気に軍事費を増やしてしまうやり方は断固反対です。

 そして肝心の暮らしを良くするという点では中身がない。たとえば、国民が一番望んでいるのは消費税減税です。医療や介護の危機を打開してほしい。賃金を上げてほしい。労働時間を短くしてほしい。こういうことですが、それに資するような内容がない。私は今の政権が国民の期待に応える内容を何一つもっていないということが、早晩明らかになってくると思います。

過去の侵略戦争と植民地支配に対する反省について

 --過去の戦争の反省について、どう考えますか。

 日本共産党は、かつての侵略戦争に反対して、命がけで闘ってきた歴史があります。植民地支配に反対し、植民地解放の闘いに連帯して闘ってきたという歴史を持っています。そういう党として、かつての侵略戦争の誤りをきちんと日本側が反省する必要があると、繰り返し提起してきました。

 その一つの到達点として私たちが重視しているのは、1990年代に出された三つの重要文書です。一つは1995年の村山談話です。国策の誤りとして「植民地支配と侵略」を行ったことへの反省がのべられました。二つ目は93年の河野談話です。これは、日本軍「慰安婦」問題について、軍の関与と強制性を認めて反省を表明したものです。三つ目は98年の「日韓パートナーシップ共同宣言」です。韓国に対する植民地支配を反省したものです。この三つの基本文書の核心的命題を今日生かすことが必要だというのが私たちの立場です。

 ところが戦後70年に発出された安倍談話は、韓国の植民地支配をすすめた日露戦争を美化し、歴史問題を解決ずみのものとみなすなど、重大な逆行を特徴とするものとなりました。この逆行は清算をする必要がある。そして、1990年代の三つの重要文書の核心的命題を今日に引き継いで発展させていくという努力が必要だと思います。

 --高市政権は安倍談話を継承しますが、村山談話や河野談話を言及したくないというのが現状だと思いますが。

 その点を聞けば、歴代の政権の談話を引き継ぐと言うでしょう。しかし心の中では、安倍談話を継承したい、そして村山談話、河野談話はできるだけ忘れたいというのが今の政権中枢の本音だと私は理解しています。

 --若い人たちは戦争を経験していません。戦争の記憶が風化してしまう恐れはあると考えますか。

 (記憶を)継承する努力をしなければ風化する危険があります。たとえば広島、長崎の問題でも、被爆者のみなさんが、どんなに悲惨な事態だったか、これを語り部になって伝えてきた。この功績というのはたいへん大きいと思いますが、これらの努力を引き継いでいくことが必要ですし、日本が過去の侵略戦争と植民地支配においてアジアの人たちにどういう犠牲を強いてきたのか、そして日本国民もどういう犠牲を強いられたのか、この事実を、しっかりと次の世代に伝えていく必要があると思います。

 --非核三原則を見直す動きが出ています。これはどう見るべきですか。

 絶対に反対です。非核三原則というのは、たんに一政府の方針で決められる問題ではない。国会決議にもなっている「国是」なんです。軽々に変えられるようなものではない。とくに核の持ち込みの部分を曖昧にするということですが、そういうことになりましたら、「核兵器のない世界」を目指すという立場が根底から問われることになります。私たちは、なすべきは非核三原則の見直しではなくて、核兵器禁止条約への参加だということを強く訴えています。

 --日本政府は、原子力潜水艦の導入も前向きな姿勢を示されています。

 日本には原子力の平和利用という大原則があります。原潜(導入)というのはそれに反するものですから、これも私たちは絶対にやってはならないと考えます。

最優先で撤回を、一連の重要な合意を再確認し、友好関係の再構築を

 --中国とこれからつき合っていくなかで、どのようなことを重要視されるのか、日中関係はどうあるべきなのか、最後にお聞かせください。

 今後の日中関係をどう立て直すか、非常に難しい問題になってきたと思います。まず最優先されるべきは、何度も言いますが、高市発言の撤回です。これなくしては前に進めません。

 そのうえで、1972年の国交正常化以来の50年余りに双方が交わしてきた一連の重要な合意を再確認する必要があります。というのは、高市発言によって、そうした重要な合意の信頼性が疑われる状況になっている。ですから、撤回だけではすまない。撤回したうえで、一連の重要な合意の再確認が必要です。その土台の上に、友好関係を再構築する努力が必要です。

 それを進めるうえで、日本共産党が2023年3月に発表した「日中両国関係の前向きな打開のための提言」、24年4月に発表した「東アジア平和提言」、私たちはこの二つの提言にもとづいて努力をしていきたいと思います。

 いま日中関係の再構築が必要だと言いましたけど、その再構築の上で、次のような努力が必要になってきます。

 まず大前提の問題として、1972年の日中共同声明における合意を日本側が厳格に順守する、このことを明確にすることが前提になります。

「三つの共通の土台」を重視し、両国関係の前向きの打開を

 そのうえで、私は、日中両国政府間に存在する三つの点での「共通の土台」を重視し、それを生かして、平和と友好を確かなものにしていく努力が必要だと思います。

 第一は、日中双方は、「互いに協力のパートナーであって、互いに脅威とならない」という2008年の日中共同声明を生かして、双方が緊張と対立を悪化させる行動を自制するということです。日本について言えば、軍事的対応の強化--敵基地攻撃能力の強化や大軍拡を止める。中国について言えば、東シナ海などで行っているような力による現状変更の動きを止める。双方が自制する。

 第二は、尖閣諸島の問題ですが、これは2014年の日中合意があります。「尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていること」について、日中が「異なる見解を有している」と認識し、「対話と協議」を通じて問題を解決していくことが確認されています。この合意の具体化が必要です。すなわち、「危機管理メカニズム」を強化するとともに、ASEANと中国が結んでいる「南シナ海行動宣言」(DOC)のような、紛争を激化させ、平和と安定に影響を与えるような行動をお互いに自制するルールを日中間でもつくっていくということを私たちは提案しています。

 第三は、日中双方が参加するこの地域の多国間の枠組みはいかにあるべきか。これが非常に重要な問題です。私は、ASEANが提唱している「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)に対して、日中両国政府はどちらも支持している、そうであるならば、両国が協力してAOIPを成功させる。そして地域のすべての国が参加する包摂的な枠組みをつくることを追求すべきだと思います。

北東アジアでのブロック対立を回避し、包摂的な平和の枠組みの構築を

 ここで強調したいのは、北東アジアで二つのブロックによる対立をつくってはならないということです。いま、一方で日米韓のブロック、他方で中ロ朝のブロックがつくられて、その対立がエスカレートする危険があります。これはお互いに避けなければならない。ブロック対立というのは、いったんつくられて固定化していきますと、対立がエスカレートして戦争につながっていく(危険がある)。そうした危険はヨーロッパで証明されました。

 北東アジアでは、ブロック対立を回避して、包摂的(インクルーシブ)な平和の枠組みを構築する必要がある。その点では、日本、中国、アメリカも含めて、北東アジアに関連する全ての国が参加し、ASEANが中心になって進めている東アジアサミット(EAS)を発展させ、そしてAOIPを成功させて、(地域の)すべての国を包摂する平和の枠組みを、東アジアに構築していく努力が必要だし、そういう平和体制をつくるためにこそ、日中両国が協力していくということが必要ではないかと考えています。

 --日本共産党の提言について、日中双方からどういった受け止めがありましたか。

 私は当時の岸田総理に「提言」をお届けして会談しました。中国側にもお届けして1カ月ほどして返事が返ってきました。双方から肯定的な受け止めがありました。この3点については当然だということになるわけです。

 今年4月に、私は、日中友好議連の一員として訪中しまして、全人代の委員長、中国共産党中央対外連絡部部長、人民対外友好協会会長と、相次いで会談しました。そのさいに、「互いに脅威とならない」という原則の重視、あるいは、日本共産党の「日中提言」、「東アジア平和提言」について話しました。同時に、東シナ海における力による現状変更はよくない。台湾問題については、私たちはあくまでも平和的解決を求める。中国による武力の行使に反対するし、日米が軍事的に関与・介入することにも反対だということも率直に話しました。この部分では議論になってくるわけですけども、「互いに脅威とならない」という方向性は、「志位議長の提案を重視する」と肯定的な受け止めが語られました。

 こういう形で、外交で知恵を絞って、両国関係を良くして、日中の本当の平和と友好の関係をつくって、北東アジアにブロック対立をつくるのではなくて、北東アジアのすべての国が包摂される形での平和の枠組みを構築していく。そこでこそ日中が協力するべきだということを強調したいと思います。

志位議長が日中関係について引用した三つの文書

(外務省公式サイトから。いずれも抜粋)

●日中国交正常化に伴う日中共同声明(1972年9月29日)

 「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」

●「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明(2008年5月7日)

 「双方は、互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならないことを確認した。双方は、互いの平和的な発展を支持することを改めて表明し、平和的な発展を堅持する日本と中国が、アジアや世界に大きなチャンスと利益をもたらすとの確信を共有した」

●日中関係の改善に向けた話し合いについて(2014年11月7日)

 「双方は、尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」