自民党と日本維新の会が今の臨時国会で成立を目指す衆院議員の定数削減法案は、議論する前からあらかじめ法律で結論を縛るという、あまりに乱暴で異常なものです。
具体的な削減方法を与野党で協議するが、期限を1年に区切り、合意できなければ、自動的に衆院議員の1割、比例20、小選挙区25を削減するとします。議会制民主主義の土台である国会の構成を決めるのに、国会を無視する前代未聞の法案です。
憲法は、国民主権のもと、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」するとします。主権者・国民の代表としての国会議員が、国民の声を正確に反映して選ばれるためにどんな選挙制度にするか―議員定数のあり方はその根幹をなします。与党が数の力で押しきることは絶対に許されません。
■政権への異論排除
直接民主主義に代わり、議会制民主主義においては国会議員が国民の声を代表して議論し政策を決めます。議員を減らすことは国民の代表を減らすことであり、国民の声を国会に届けにくくすることです。国民の多様な声の反映に逆行し、議会制民主主義を弱体化させます。
ことに、政権与党が数の力で自らに有利に選挙制度や議員定数を決めれば、政権への批判、異論を国会から排除することになります。政府を監視し、政権の暴走を止める力が弱まり、与党の思うままの独裁的な国家運営を招きます。まさにいま、自維政権がやろうとしていることです。
日本の国会議員定数は諸外国と比べて最低レベルで、人口当たりで経済開発協力機構(OECD)加盟国38カ国中、下から3番目です。
2016年の有識者による衆院選挙制度調査会の答申も「現行の衆議院議員の定数は、国際比較や過去の経緯などからすると多いとは言えず、これを削減する積極的な理由や理論的根拠は見出し難い」としています。
佐々木毅座長(元東京大学学長)は議論の内容を「大幅な定数削減は適当とは言えないというのが調査会の大体の意見になった」とし、有権者が持つ国会議員を選ぶ権利が「議席削減によって事実上弱体化する」と報告しました。
■「そんなことより」
自維政権が合意した法案には、一般的に法律の第1条におかれる「目的」がありません。何のために定数を減らすのかまともな理由がないのです。しかし狙いは明らかです。維新が定数削減を持ち出したのは、自民と連立を組むために企業・団体献金禁止を取り下げ、論点をずらして「改革」ポーズを取り繕うためです。
高市早苗首相が政治資金規正法の上限を超す寄付を企業から受けていた問題をはじめ、林芳正総務相の公職選挙法違反など「政治とカネ」の疑惑が収まらず、企業・団体献金で“身を切りたくない”自民党も、「そんなことより定数削減」と自らへの批判をそらすのに好都合です。
国会議員を減らしても「政治とカネ」問題は解決せず、「身を切る」というなら政党助成金こそ廃止すべきです。すり替えを許さず廃案にする世論を一気に広げるときです。

