(写真)ビリオネアの富の年平均増加率は7・1%に上る。ガブリエル・ズックマン氏の「青写真」から
富裕層課税の議論は構想の段階から具体的な設計の段階へと大きな進展を見せています。その底流には何があるのでしょうか。新型コロナ後の財政状況の悪化、気候変動への対応など高まる財政需要の増大などがありますが、とりわけかつてない富の集中と極端な不平等の広がりがあります。
スイスの銀行UBSの調査によれば、今世紀初めに100兆ドル程度だった世界の富(金融資産と非金融資産の合計から負債を除いた個人資産の総額)は、2024年には500兆ドル近くへと5倍近くに膨れています。富の伸びは所得の伸びを上回るスピードで増え続けており、富が国民所得に対して占める割合は、今世紀初めの4倍から、今日では5倍以上に増えています。
極端な不平等
そのうえ、富はますます超富裕層に集中する傾向を見せています。ガブリエル・ズックマン氏の「青写真」によると、過去40年間に、超富裕者(ビリオネア)の富の年平均増加率は7・1%で、1人当たり富の平均増加率3・3%の倍以上のスピードで増えています。この間の1人当たり所得の伸びは1・3%でした。この結果、ビリオネアの富が世界の国内総生産(GDP)に占める比率は、4%程度から14%近くへと飛躍的に増えています。
富の集中の結果、富の不平等は高まっています。フランスの経済学者トマ・ピケティ氏が創立した世界不平等研究所の報告書(世界不平等報告書)によると、世界の富のうち、上位10%が76%を所有し、下位50%の保有はわずか2%という極端な富の格差が生み出されています。
日本でも近年、個人の富の集中は強まる傾向にあります。富の大きさは米国、中国に次いで世界第3位となっており、ミリオネア(資産100万ドル超)は270万人以上に上り、世界4位にランクされています。これはフランスに次いで多く、ドイツや英国よりも上位となっています。
富はなぜ増え続け、少数の富裕層に集中するのでしょうか。それは第一に、巨大企業が独占的支配力を行使して作り出した巨額の利潤が、配当や自社株買いなどの株主還元によって、大株主に流入する仕組みにあります。近年、新自由主義の考え方が支配的となる中で、企業は資本の効率化を優先し、一層その傾向を強めています。
その傾向を強めているのは巨大投資ファンド、いわゆる「物言う株主」やヘッジファンドなど投機的ファンドによる株価引き上げ圧力です。
企業の株主優遇政策は、企業利益の分配において、資本分配率を引き上げる一方、労働分配率を低下させます。その結果、資本所得は労働所得に対してますます増大する傾向をもたらしています。資本所得の多くは富として蓄積されますが、富が大きければ大きいほどその利回りも大きいので、さらに増殖し、富の集中をもたらしているのです。
税負担も低く
さらに、株の配当や売却益などの資本所得に対する税が労働所得に対する税と比べて低いことが、資本所得が多い富裕層を優遇する結果となっています。富裕層の税負担を、所有する富に対する割合でみると、さらに低くなっています。資本所得や富に対する税の優遇が富の増加と集中をあおっているのです。
新自由主義的政策が続く限り、富の増加と集中は避けられません。富の集中はある段階を超えると社会に極めて有害な影響を与えます。特権階級を生み出し、政治に影響を与え、専制政治をもたらすこともあります。それに歯止めをかける税として富裕税に期待がかけられているのです。
(つづく)

